徒然草105段 北の屋かげに:原文

荒れたる宿 徒然草
第三部
105段
北の屋かげ
高野の証空

 
 北の屋かげに消え残りたる雪の、いたう凍りたるに、さし寄せたる車の轅も、霜いたくきらめきて、有明の月さやかなれども、くまなくはあらぬに、人離れなる御堂の廊に、なみなみにはあらずと見ゆる男、女と長押に尻かけて物語するさまこそ、何ごとにかあらむ、尽きすまじけれ。
かぶしかたちなど、いとよしと見えて、えもいはぬ匂ひの、さと薫りたるこそ、をかしけれ。
けはひなど、はつれはつれ聞こえたるもゆかし。