徒然草74段 蟻のごとくに集まりて:原文

世に語り 徒然草
第二部
74段
蟻のごとく
つれづれわぶ

 
 蟻のごとくに集まりて、東西に急ぎ、南北に走る。
高きあり、賎しきあり。
老いたるあり、若きあり。
行く所あり、帰る家あり。
夕に寝ねて朝に起く。
いとなむ所何事ぞや。
生を貪り、利を求めてやむ時なし。
 

 身を養ひて何事をか待つ。
期する処、ただ老と死とにあり。
その来る事すみやかにして、念々の間にとどまらず。
是を待つ間、何の楽しびかあらん。
まどへる者はこれを恐れず。
名利におぼれて先途の近きことを顧みねばなり。
愚かなる人は、なたこれを悲しぶ。
常住ならんことを思ひて、変化の理を知らねばなり。