伊勢物語 13段:武蔵鐙 あらすじ・原文・現代語訳

第12段
武蔵野
伊勢物語
第一部
第13段
武蔵鐙
(むさしあぶみ)
第14段
陸奥の国

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文対照
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
 

あらすじ

 
 
 むかしむさしなる男が、武蔵鐙にかけて、京女に歌を詠む(鐙:爪先をかける馬具)。
 しかし何を言いたいかわからない(聞ゆれば恥し、聞ねば苦し)。
 他方で女は高圧的(問はぬもつらし、問ふもうるさし)。
 

 その心は、妻先で足蹴にされ、尻にしかれる男(道具)です。
 言わんとわからん? ナニ? ナニしたい? うっさいなあって。
 
 うわあ。これまじ。真剣と書いてマジ。だって、16段で片手で足りたと書いてある。
 武蔵も切り捨てる、それが女流の強さです。
 彼の妻は藤原の大臣の娘でした。つまり最京の女。
 
 武蔵なる男は、関東辺りに赴任した紀有常のこと(下野国。867年)。
 16段で彼は妻に捨てられた。ショボいから尼になるといわれ、出て行かれた。彼の剣がナマクラだったのだろうか…。
 それで「堪へがたき心地」で死にそうなっている、のかもしれない。
 
 彼は16段で「あてはかなる(高貴だが儚い)」と形容され、伊勢の「あてなる男」は有常のこと。「昔男」が著者であるように。
 さらに41段で「かのあてなる男」の男気あふれる行いが「武蔵野の心なるべし」と表現される。
 となると、漢(オトコ)のように武蔵(オトコ)と読んでもいいのではないか。むかしオトコなる男。
 
 このように男が露骨にないがしろにされる関係は、この有常(あてなる男)の文脈でしか出てこない。
 昔男もそうだが、もう少し控えめ。
 
 

原文対照

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第13段 武蔵鐙(あぶみ)
   
 むかし、武蔵なる男、  昔、武蔵なるおとこ、  昔。武藏なる男。
  京なる女のもとに、 京なる女のもとに、 京なる女のもとに。
  聞ゆれば、恥し、
聞ねば苦し、と書きて、
きこゆればゝづかし、
きこえねばくるし、とかきて、
きこゆればはづ・[か]し。
きこ・[え]ねばくるしとかきて。
  上書に武蔵鐙と書きて、
おこせてのち、
うはがきにむさしあぶみとかきて、
をこせてのち、
うはがきにむさしあぶみとのみ書て。
のち
  おともせずなりにければ、 をともせずなりにければ、 をともせずなりにければ。
  京より女、 京より女、 京より女。
       

18
 武蔵鐙を
 さすがにかけて頼むには
 むさしあぶみ
 さすがにかけてたのむには
 武藏鐙
 流石に懸て思ふには
  問はぬもつらし
  問ふもうるさし
  とはぬもつらし
  とふもうるさし
  とはぬもつらし
  とふもうるさし
       
  とあるを見てなむ、 とあるを見てなむ、 とあるを見てなん。
  堪へがたき心地しける。 たへがたき心地しける。 たへがたきこゝちしけり。
       

19
 問へば言ふ
 問はねば恨む武蔵鐙
 とへばいふ
 とはねばうらむゝさしあぶみ
 とへはいふ
 とはねは恨む武藏鐙
  かゝる折にや
  人は死ぬらむ
  かゝるおりにや
  人はしぬらむ
  かゝる折にや
  人はしぬらん
   

現代語訳

 
 

むかし、武蔵なる男、京なる女のもとに、
「聞ゆれば、恥し、聞ねば苦し」と書きて、
上書に「武蔵鐙(むさしあぶみ)」と書きて、
おこせてのち、おともせずなりにければ、

 
 
むかし、武蔵なる男、
 むかし、むさしとかいう男が、
 

京なる女のもとに、
 京(とかいう)女のもとに
※京都。京女。察せよ。しかして、
 

聞ゆれば、恥し、
 (何やら)聞こえてくるのも恥ずかしい
 

聞ねば苦しと書きて、
 (しかし)聞かないのも心苦しいと書いて、
 

上書に武蔵鐙と書きて、
 差出人(題名?)にむさしあぶみと書いて、
 

おこせてのち、
 (書き)起こしてから、
 

おともせずなりにければ、
 音もせずになれば、
(音信不通。つまり送ったかも、これだけでは不明で、意味も不明。
 その「心」は何か? う~んなんやろ。もうこの時点でめんどくささ漂う)
 

京より女、
 
武蔵鐙を さすがにかけて 頼むには
問はぬもつらし 問ふもうるさし

 
 
京より女、
 京より女(が返事をして)
(あ、みてくれた!)
 

武蔵鐙(▲を)
 むさしトウ。
 

さすがにかけて 頼むには
 刺すがにかけて 頼むには
※さすが:刺鉄の金具。
 →禁句じゃない?
 

問はぬもつらし
 切り捨てるのも辛い(御免だが)
 

問ふもうるさし
 トウのもうっさい(面倒な男だ)
 

とあるを見てなむ、堪へがたき心地しける。
 
 問へば言ふ 問はねば恨む 武蔵鐙
 かゝる折にや 人は死ぬらむ

 
 
とあるを見てなむ、
 とあるのを、男が見て、
 

堪へがたき心地しける。
 耐え難い心地がした。
 

問へば言ふ
 聞けば言う。
(いや用があるなら自分で言いなさい)
 

問はねば恨む 武蔵鐙
 聞かねば恨む(というから) 武蔵トウ(問う)
(うわうぜーのう)
 

かゝる折にや
 そんな折に(そんなことしたらば)、
 

人は死ぬらむ
 オレ刺されてしんじゃう。
 折=若死。うわよわ! じゃあ聞くなって。
 
 その心は、そのまま詠んだらまずいって。誰とナニしてる? なんて言えないよ~♪(業ちがいや!) 聞くとあぶみ(ない)。
 

 尻にしかれて足蹴にされる、それが鐙(あぶみ)やねん。もっといえば、爪先にかけて、妻が先やねん。うまいっしょ?
 

 いや妻なのかも不明だが、一応(優しく)返事を返しているのだから、そうだったのかもしれない。でなければ無視でしょ。
 

 鐙:鞍(くら)の両わきにさげて足を踏みかけるもの。あしでふむで、あぶみ。あー不通ね。なんで「音もせずなりにけれ」。
 

 一応、郷ひ○とか業ひらとか、全く関係ない冗談なので。属性はほぼ同じかもしれんけど。あ~これが因縁? 「宿世」?(65段)