源氏物語 薄雲:巻別和歌10首・逐語分析

松風 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
19帖 薄雲
朝顔

 
 源氏物語・薄雲(うすぐも)巻の和歌10首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:5(源氏)、3(明石)、1×2(乳母=宣旨の娘:明石姫君乳母、紫上)※最初最後
 

薄雲・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 8首  40字未満
応答 0  40~100字未満
対応 0  ~400~1000字+対応関係文言
単体 2首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
299
深み
の道は
晴れずとも
なほ文かよへ
跡絶え
ずして
〔明石〕雪が深いので
奥深い山里への道は
通れなくなろうとも
どうか手紙だけはください、
跡の絶えないように
300
間なき
吉野の
訪ねても
心のかよふ
跡絶え
めやは
〔乳母=宣旨の娘:明石姫君乳母〕
雪の消える間もない
吉野の山奥であろうとも
必ず訪ねて行って
心の通う
手紙を絶やすことは決してしません
301
末遠き
二葉の松に
引き別れ
いつか木高き
かげを見るべき
〔明石〕幼い
姫君に
お別れして
いつになったら立派に成長した
姿を見ることができるのでしょう
302
生ひそめし
根も深ければ
武隈の
松に小松の
千代をならべむ
〔源氏〕生まれてきた
因縁も深いのだから
 
いづれ一緒に暮らせるようになりましょう
303
舟とむる
遠方人
なくはこそ
明日帰り来む
夫と待ち見め
〔紫上〕あなたをお引き止めする
あちらの方が
いらっしゃらないのなら
明日帰ってくる
あなたと思ってお待ちいたしましょうが
304
行きて見て
明日もさね来む
なかなかに
遠方人
心置くとも
〔源氏〕ちょっと行ってみて
明日にはすぐに帰ってこよう
かえって
あちらが
機嫌を悪くしようとも
305
入り日さす
峰にたなびく
薄雲
もの思ふ袖に
色やまがへる
〔源氏〕入日が射している
峰の上にたなびいている
薄雲は
悲しんでいるわたしの喪服の袖の
色に似せたのだろうか
306
贈:
君もさは
あはれを交はせ
人知れず
わが身にしむる
秋の夕風
〔源氏→斎宮〕あなたもそれでは
情趣を交わしてください、
誰にも知られず
自分ひとりでしみじみと身にしみて感じている
秋の夕風ですから
307
漁りせし
忘られぬ
篝火
身の浮舟や
ひ来にけむ
〔明石〕あの明石の浦の漁り
火が
思い出されますのは
わが身の憂さを
追ってここまでやって来たのでしょうか
308
浅からぬ
したの思ひを
知らねばや
なほ篝火
は騒げる
〔源氏〕わたしの深い
気持ちを
御存知ないからでしょうか
今でも篝火のようにゆらゆらと
心が揺れ動くのでしょう