宇治拾遺物語:樵夫の小童、隠し題の歌詠む事

季直少将 宇治拾遺物語
巻第十二
12-11 (147)
樵夫の小童
高忠侍

 
 今は昔、隠し題をいみじく興ぜさせ給ひける帝の、篳篥を詠ませられけるに、人々わろく詠みたりけるに、木こる童の、暁、山へ行くとていひける、「このごろ、篳篥を詠ませさせ給ふなるを、人のえ詠み給はざなる、童こそ詠みたれ」と言ひければ、具して行く童部、「あな、おほけな。かかる事な言ひそ。さまにも似ず、いまいまし」と言ひければ、「などか、必ずさまに似る事か」とて
 

♪15
 めぐりくる 春々ごとに 桜花
 いくたびちりき 人に問はばや

 
 と言ひたりける。様にもにず、思ひかけずぞ。