徒然草157段 筆を取れば物書かれ:原文

大臣の大饗 徒然草
第四部
157段
筆を取れば
盃の底

 
 筆を取れば物書かれ、楽器を取れば音を立てんと思ふ。
盃を取れば攤打たん事を思ふ。
心は、必ず、事に触れて来る。
仮にも、不善の戯れをなすべからず。
 

 あからさまに聖教の一句を見れば、何となく、前後の文も見ゆ。
卒爾にして多年の非を改むる事もあり。
仮に、今、この文を披げざらましかば、この事を知らんや。
これすなはち、触るる所の益なり。
心さらに起こらずとも、仏前にありて、数珠を取り、経を取らば、怠るうちにも善業自ら修せられ、散乱の心ながらも縄床に座せば、覚えずして禅定成るべし。
 

 事、理もとより二つならず。
外相もし背かざれば、内証必ず熟す。
強ひてこれを尊むべし。