紫式部集 第四部:夫の死

詳解
定家本
和歌 人物
36 折りて見ば 近まさりせよ の花
 思ひ隈なき 惜しまじ
紫式部
37 といふ 名もあるものを 時の間に
 にも 思ひ落とさじ
38 花といはば
 いづれか匂ひ なしと見む
 り交ふ色の 異ならなくに
紫式部
39 いづかたの 路と聞かば 訪ねまし
 列離れけむ 雁がゆくへを
紫式部
40 の上も もの思ふ春は 墨染めに
 む空さへ あはれなるかな
41 なにかこの
 ほどなき袖を 濡らすらむ
 の衣 なべて着る世に
紫式部
42 夕霧に み島隠れし 鴛鴦の子の
 跡を見る見る 惑はるるかな
亡くなりし人の女
43 散る花を 嘆きし人は 木のもとの
 寂しきことや かねて知りけむ
紫式部
44 亡き人に
 かごとはかけて わづらふも
 おのが心の にやはあらぬ
紫式部
45 ことわりや 君が心の 闇なれば
 の影とは しるく見ゆらむ
46 春の夜の 闇の惑ひに 色ならぬ
 心に花の 香をぞ染めつる
紫式部
47 さ雄鹿の しか慣らはせる 萩なれや
 立ちよるからに おのれ折れ伏す
紫式部
48 見し人の 煙となりし 夕べより
 名ぞ睦ましき 塩釜の浦
紫式部