徒然草42段 唐橋中将といふ人の子に:原文

五月五日 徒然草
第二部
42段
唐橋中将
春の暮れつ方

 
 唐橋中将といふ人の子に、行雅僧都とて教相の人の師する僧ありけり。
気の上る病ありて、年のやうやうたくるほどに、鼻の中ふたがりて、息も出でがたかりければ、さまざまにつくろひけれど、わづらはしくなりて、目、眉、額などもはれまどひて、うちおほひければ、物も見えず、二の舞の面のやうに見えけるが、ただおそろしく、鬼の顔になりて、目は頂の方につき、額のほど鼻になりなどして、後は坊のうちの人にも見えずこもりゐて、年久しくありて、なほわづらはしくなりて死ににけり。
 

 かかる病もあることにこそありけれ。