宇治拾遺物語:季直少将、歌の事

穀断聖 宇治拾遺物語
巻第十二
12-10 (146)
季直少将
樵夫の小童

 
 今は昔、季直少将といふ人ありけり。病つきて後、すこしをこたりて、内に参りたりけり。公忠弁の、掃部助にて蔵人なりけるこの事なり。
 「乱り心地、まだよくもをこたり侍らねども、心元なくて参り侍りつる。後は知らねども、かくまで侍れば、あさてばかりに、また参り侍らん。よきに申させ給へ」とてまかり出でぬ。
 三日ばかりありて、少将のもとより、
 

♪14
 くやしくぞ 後にあはんと 契りける
 今日を限りと いはましものを

 
 さて、その日失せにけり。あはれなる事のさまなり。