枕草子97段 あさましきもの

かたはらいたき 枕草子
上巻下
97段
あさましき
くちをしき

(旧)大系:97段
新大系:93段、新編全集:93段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:102段
 


 
 あさましきもの 刺櫛すりて磨くほどに、ものにつきさへて折りたる心地。車のうちかへりたる。さるおほのかなるものは、所せくやあらむと思ひしに、ただ夢の心地して、あさましうあへなし。
 

 人のためにはづかしうあしきことを、つつみもなくいひゐたる。かならず来なむと思ふ人を、夜一夜起きあかし待ちて、暁がたにうち忘れて寝入りにけるに、烏のいとちかく「かか」と鳴くに、うち見上げたれば、昼になりにける、いみじうあさまし。
 

 見すまじき人に、外へ持ていく文見せたる。むげに知らず、見ぬことを、人のさしむかひて、あらがはすべくもあらずいひたる。物うちこぼしたる心地、いとあさまし。