枕草子266段 いみじうしたてて婿とりたるに

たのもしき 枕草子
下巻中
266段
いみじうしたて
世の中に

(旧)大系:266段
新大系:247段、新編全集:248段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後は最も索引性に優れ三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:253段
 


 
 いみじうしたてて婿とりたるに、ほどもなく人の婿になりて、ただ一月ばかりも、はかばかしう来でやみにしかば、すべていみじういひさわぎ、乳母などやうの者は、まがまがしきことなどいふもあるに、そのかへる正月に蔵人になりぬ。
 「『あさましう、かかるならひには、いかで』とこそ人は思ひたれ」など、いひあつかふは聞くらむかし。
 

 六月に人の八講し給ふ所に、人々あつまりて聞きしに、蔵人になれる婿の、れうの表の袴、黒半臂などいみじうあざやかにて、忘れにし人の車の鴟の尾といふものに、半臂の緒をひきかけつばかりにてゐたりしを、いかに見るらむと、車の人々も知りたるかぎりはいとほしがりしを、こと人々も、「つれなくゐたりしものかな」など、後にもいひき。
 

 なほ、男は、もののいとほしさ、人の思はむことは知らぬなめり。
 
 

たのもしき 枕草子
下巻中
266段
いみじうしたたて
世の中に