宇治拾遺物語:伴大納言の事

鬼に瘤取らるる 宇治拾遺物語
巻第一
1-4
伴大納言の事
随求陀羅尼

 
 これも今は昔、伴大納言善男は佐渡国郡司が従者なり。
 かの国にて、善男夢に見るやう、西大寺と東大寺とを胯げて立ちたりと見て、妻の女にこの由を語る。
 妻のいはく「そこの股こそ裂かれんずらめ」と合はするに、善男驚きて、「よしなき事を語りてけるかな」と恐れ思ひて、主の郡司が家へ行き向ふ所に、郡司きはめたる相人なりけるが、日ごろはさもせぬに、ことの外に饗応して円座取り出で、向ひて召しのぼせければ、善男あやしみをなして、「我をすかしのぼせて、妻の言ひつるやうに股など裂かんずるやらん」と恐れ思ふほどに、郡司がいはく、「汝やんごとなき高相の夢見てけり。それに、よしなき人に語りてけり。必ず大位にはいたるとも、事出で来て罪を蒙らんぞ」と言ふ。
 

 然る間、善男縁につきて京上りして、大納言にいたる。されどもなほ罪を蒙る。郡司が言葉に違はず。
 

鬼に瘤取らるる 宇治拾遺物語
巻第一
1-4
伴大納言の事
随求陀羅尼