源氏物語 早蕨:巻別和歌15首・逐語分析

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 源氏物語・早蕨(さわらび)巻の和歌15首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:5(=柏木の子)、4(中の君=八宮次女)、2(弁=老尼=柏木乳母子)、1×4(阿闍梨、匂宮、大輔君=女房、いま一人=女房)※最初最後
 

早蕨・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 6首  40字未満
応答 2首  40~100字未満
対応 4首  ~400~1000字+対応関係文言
単体 3首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。

 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
684
君にとて
あまたの
みしかば
常を忘れぬ
なり
〔阿闍梨〕わが君にと思って
毎年毎年の春に
摘みましたので
今年も例年どおりの
初蕨です
685
この
誰れにか見せむ
亡き人の
かたみにめる
峰の早蕨
〔中の君〕今年の春は
誰にお見せしましょうか
亡きお方の
形見として摘んだ
峰の早蕨を
686
折る人の
心にかよふ
なれや
色には出でず
下に匂へる
〔匂宮:今上三宮〕折る人の
心に通っている
花なのだろうか
表には現さないで
内に匂いを含んでいる
687
見る人に
かこと寄せける
の枝を
心してこそ
折るべかりけれ
〔薫〕見る人に
言いがかりをつけられる
花の枝は
注意して
折るべきでした
688
贈:
はかなしや
霞の衣
裁ちしまに
のひもとく
も来にけり
〔薫→中の君〕早いものですね、
霞の衣を
作ったばかりなのに
もう花が綻ぶ
季節となりました
689
見る人も
あらしにまよふ
山里に
昔おぼゆる
花の香
ぞする
〔中の君〕花を見る人も
いなくなってしまいましょうに、
嵐に吹き乱れる山里に
昔を思い出させる
花の香が匂って来ます
690
袖ふれ
梅は変はらぬ
匂ひにて
根ごめ移ろふ
宿やことなる
〔薫〕昔賞美された
梅は今も変わらぬ
匂いですが
根ごと移ってしまう
邸は他人の所なのでしょうか
691
さきに立つ
涙の川に
身を投げ

人におくれぬ
命ならまし
〔弁:老尼・柏木の乳母子〕先に立つ
涙の川に
身を投げたら
死に後れ
しなかったでしょうに
692
身を投げ
涙の川に
沈みても
恋しき瀬々に
忘れしもせじ
〔薫:柏木の子〕身を投げるという
涙の川に
沈んでも
恋しい折々を
忘れることはできまい
693
人はみな
いそぎたつめる
の浦に
一人藻
垂るる海人かな
〔弁〕人びとは皆
準備に忙しく
繕い物をしているようですが
一人藻塩を
垂れて涙に暮れている尼の私です
694
塩垂るる
海人
の衣に
異なれや
浮きたる波に
濡るるわが
〔中の君〕藻塩を垂れて
涙に暮れる
あなたと同じです
浮いた波に
涙を流しているわたしは
695
ありふれば
うれしき瀬にも
逢ひけるを
身を宇治川に
投げてましかば
〔大輔君:中の君方女房〕生きていたので
嬉しい事に
出合いました
身を厭いて宇治川に
投げてしまいましたら
696
過ぎにしが
恋しきことも
忘れねど
今日はたまづも
ゆく心かな
〔いま一人:女房〕亡くなった方を
恋しく思う気持ちは
忘れませんが
今日は何をさしおいてもまず
嬉しく存じられます
697
眺むれば
より出でて
行く月も
世に住みわびて
にこそ入れ
〔中の君〕考えると
山から出て昇って
行く月も
この世が住みにくくて
山に帰って行くのだろう
698
しなてるや
鳰の湖に
漕ぐ舟の
まほならねども
あひ見しものを
〔薫〕しなてる
琵琶湖の湖に
漕ぐ舟のように
まともではないが
一夜会ったこともあったのに