徒然草98段 尊きひじりの:原文

その物につき 徒然草
第三部
98段
尊きひじり
堀川相国

 
 尊きひじりの言ひ置きける事を書き付けて、一言芳談とかや名づけたる草子を見侍りしに、心に合ひて覚えし事ども、
 
 一 しやせまし、せずやあらましと思ふ事は、おほやうは、せぬはよきなり。
 

 一 後世を思はむ者は、糂汰瓶一つも持つまじきことなり。持経。本尊にいたるまで、よき物を持つ、よしなき事なり。
 

 一 遁世者は、無きに事欠けぬやうをはからひて過ぐる、最上のやうにてあるなり。
 

 一 上藹は下藹になり、智者は愚者になり、徳人は貧になり、能ある人は無能になるべきなり。
 

 一 仏道を願ふといふは、別の事なし。いとまある身になりて、世の事を心にかけぬを第一とする。
 

 この外もありし事ども、おぼえず。