古事記~黄泉①後追い 原文対訳

カグツチ 古事記
上巻 第一部
イザナギとイザナミ
黄泉①後追
黄泉②
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是
欲相見
其妹
伊邪那美命。
 ここに
その妹
伊耶那美の命を
相見まくおもほして、
 イザナギの命は
お隱れになつた
女神めがみに
もう一度會いたいと思われて、
追往
黃泉國。
黄泉國
よもつくにに
追ひ往いでましき。
後あとを追つて
黄泉よみの國に
行かれました。

自殿騰戶。
ここに
殿とのの縢くみ戸より
そこで女神が
御殿の組んである戸から出て
出向之時。 出で向へたまふ時に、 お出迎えになつた時に、
伊邪那岐命。 伊耶那岐の命 イザナギの命みことは、
語。 語らひて詔りたまひしく、  
詔之
愛我那邇妹命。
「愛うつくしき
我あが汝妹なにもの命、
「最愛の
わたしの妻よ、
吾與汝
所作之國。
吾と汝と
作れる國、
あなたと
共に作つた國は
未作竟。 いまだ作り竟をへずあれば、 まだ作り終らないから
故可還。 還りまさね」
と詔りたまひき。
還つていらつしやい」
と仰せられました。
     

伊邪那美命
答白。
ここに
伊耶那美の命の
答へたまはく、
しかるに
イザナミの命みことが
お答えになるには、
悔哉。 「悔くやしかも、 「それは殘念なことを致しました。
不速來。 速とく來まさず。 早くいらつしやらないので
吾者爲
黃泉戶喫。
吾は
黄泉戸喫
よもつへぐひしつ。
わたくしは
黄泉よみの國の
食物を食たべてしまいました。

愛我那勢命。
〈那勢二字
以音下效此〉
然れども
愛しき我が汝
兄なせの命、
しかし
あなた樣さまが
入來坐之事
恐故。
入り來ませること
恐かしこし。
わざわざ
おいで下さつたのですから、
欲還。 かれ還りなむを。 何なんとかして
還りたいと思います。
且與
黃泉神
相論。
しまらく
黄泉神よもつかみと
論あげつらはむ。
黄泉よみの國の神樣に
相談をして參りましよう。

視我。
我を
な視たまひそ」と、
その間
わたくしを御覽になつては
いけません」
如此白而
還入
其殿内之間。
かく白して、
その殿内とのぬちに
還り入りませるほど、
とお答えになつて、
御殿ごてんのうちに
お入りになりましたが、
甚久
難待。
いと久しくて
待ちかねたまひき。
なかなか
出ておいでになりません。
カグツチ 古事記
上巻 第一部
イザナギとイザナミ
黄泉①後追
黄泉②