万葉集 第六巻:一覧と配置

第五巻 万葉集
第六巻
第七巻

 
 万葉集第六巻、その一覧と配置。
 ここでは個別の歌の検討というより、全体の配置に示される万葉の構造を見る。
 

 6巻で赤人の厚い配置が初めて表れる。
 冒頭三者(笠金村・車持千年・赤人)が入り乱れるが、その中でも赤人のみ10首連続であること、要所での配置、万葉全体の流れからして、何らかのパワーバランス(忖度)や関与はあったにせよ、この巻から赤人主体と見れる。末尾の家持が付け足しであることは当然の配置。直前の5巻がそうなっていないのは、憶良が勝手に大伴を立てたからとも言える。ここではまだ赤人の影響は確かなものではないが、以降の流れで確実に決まる。
 

第六巻 目次と配置(907~1067:161首)
雑歌(161首)
            907
笠金村
908
笠金村
909
笠金村
910
笠金村
911
笠金村 
912
車持千年
913
車持千年
914
車持千年
915
車持千年
916
車持千年
917
赤☆
918
赤☆
919
赤☆
920
笠金村
921
笠金村
922
笠金村
923
赤☆
924
赤☆
925
赤☆
926
赤☆
927
赤☆
928
笠金村
929
笠金村
930
笠金村
931
車持千年
932
車持千年
933
赤☆
934
赤☆
935
笠金村
936
笠金村
937
笠金村
938
赤☆
939
赤☆
940
赤☆
941
赤☆
942
赤☆
943
赤☆
944
赤☆
945
赤☆
946
赤☆
947
赤☆
948
949
950
笠金?
千年?
951
笠金?
千年?
952
笠金?
千年?
953
笠金?
千年?
954
膳王
955
石川足人
956
帥大伴卿
957
帥大伴卿
958
大貳小野老
959
宇努首男人
960
帥大伴卿
961
帥大伴卿
962
葛井廣成
963
大伴坂上郎女
964
大伴坂上郎女
965
児島遊行女婦
966
児島遊行女婦
967
大納言大伴卿
968
大納言大伴卿
969
大納言大伴卿
970
大納言大伴卿
971
高橋蟲麻呂
972
高橋蟲麻呂
973
◇:聖武
974
◇:聖武
975
安倍廣庭
976
神社忌寸老麻呂
977
神社忌寸老麻呂
978
山上憶良
979
大伴坂上郎女
980
安倍蟲麻呂
981
大伴坂上郎女
982
大伴坂上郎女
983
大伴坂上郎女
984
豊前國娘子
985
湯原王
986
湯原王
987
藤原八束
988
市原王
989
湯原王
990
紀鹿人
991
紀鹿人
992
大伴坂上郎女
993
大伴坂上郎女
994
995
大伴坂上郎女
996
海犬養岡麻呂
997
998
船王
999
守部王
1000
守部王
 
 
1001
赤☆
1002
安倍豊継
1003
葛井大成
1004
按作益人
1005
赤☆
1006
赤☆
1007
市原王
1008
忌部黒麻呂
1009
◇:聖武
1010
橘奈良麻呂
1011
古曲
1012
古曲
1013
門部王
1014
橘文成
1015
榎井王
1016
宴歌
1017
大伴坂上郎女
1018
元興寺之僧
1019
石上乙麻呂
1020
石上乙麻呂
1021
石上乙麻呂
1022
石上乙麻呂
1023
石上乙麻呂
1024
巨曽倍對馬
1025
右大臣橘
1026
豊嶋采女

1027
豊嶋采女

1028
大伴坂上郎女
1029
1030
◇:聖武
1031
丹比屋主真人
1032
1033
1034
大伴東人
1035
1036
1037
1038
高丘河内
1039
高丘河内
1040
1041
安倍蟲麻呂
1042
市原王
1043
1044
1045
1046
1047
田邊福麻呂集
1048
田邊福麻呂集
1049
田邊福麻呂集
1050
田邊福麻呂集
1051
田邊福麻呂集
1052
田邊福麻呂集
1053
田邊福麻呂集
1054
田邊福麻呂集
1055
田邊福麻呂集
1056
田邊福麻呂集
1057
田邊福麻呂集
1058
田邊福麻呂集
1059
田邊福麻呂集
1060
田邊福麻呂集
1061
田邊福麻呂集
1062
田邊福麻呂集
1063
田邊福麻呂集
1064
田邊福麻呂集
1065
田邊福麻呂集
1066
田邊福麻呂集
1067
田邊福麻呂集
     
 

第六巻

   
 

雜歌

   
   06/0907
題詞 雜歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
題訓 雑歌くさぐさのうた  養老やうらう七年ななとせといふとし癸亥みづのとゐ夏五月さつき、芳野の離宮とつみやに幸いでませる時、笠朝臣金村がよめる歌一首ひとつ、また短歌みじかうた
原文 瀧上之 御舟乃山尓 水枝指 四時尓<生>有 刀我乃樹能 弥継嗣尓 萬代 如是二<二>知三 三芳野之 蜻蛉乃宮者 神柄香 貴将有 國柄鹿 見欲将有 山川乎 清々 諾之神代従 定家良思母
訓読 瀧の上の 三船の山に 瑞枝さし 繁に生ひたる 栂の木の いや継ぎ継ぎに 万代に かくし知らさむ み吉野の 秋津の宮は 神からか 貴くあるらむ 国からか 見が欲しからむ 山川を 清みさやけみ うべし神代ゆ 定めけらしも
仮名 たきのうへの みふねのやまに みづえさし しじにおひたる とがのきの いやつぎつぎに よろづよに かくししらさむ みよしのの あきづのみやは かむからか たふとくあるらむ くにからか みがほしくあらむ やまかはを きよみさやけみ うべしかむよゆ さだめけらしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 作歌 [西] 作謌 [西(訂正)] 作歌 / 主→生 [元][類][紀] / 三→二 [元][類][古]
事項 雑歌 作者:笠金村 吉野 地名 行幸 従駕 宮廷讃美 離宮 養老7年5月 年紀 植物 枕詞
訓異 みづえさし;みつえさし, しじにおひたる;ししにおひたる, とがのきの;とかのきの, いやつぎつぎに;いやつきつきに, よろづよに;よろつよに, かくししらさむ;かくににしらみ, あきづのみやは;あきつのみやは, かむからか;かみからか, たふとくあるらむ;たふとかるらむ, みがほしくあらむ;みまほしからむ, きよみさやけみ;さやけくすめり, うべしかむよゆ;うへしかみよゆ, さだめけらしも;さためけらしも, 
   
  06/0908
題詞 (雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反かへし歌二首
原文 毎年 如是裳見<壮>鹿 三吉野乃 清河内之 多藝津白浪
訓読 年のはにかくも見てしかみ吉野の清き河内のたぎつ白波
仮名 としのはに かくもみてしか みよしのの きよきかふちの たぎつしらなみ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 牡→壮 [元][金][類]
事項 雑歌 作者:笠金村 吉野 行幸 従駕 宮廷讃美 離宮 養老7年5月 年紀 地名
訓異 きよきかふちの;きよきかうちの, たぎつしらなみ;たきつしらなみ, 
   
  06/0909
題詞 ((雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 山高三 白木綿花 落多藝追 瀧之河内者 雖見不飽香聞
訓読 山高み白木綿花におちたぎつ瀧の河内は見れど飽かぬかも
仮名 やまたかみ しらゆふばなに おちたぎつ たきのかふちは みれどあかぬかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:笠金村 吉野 行幸 従駕 宮廷讃美 離宮 養老7年5月 年紀
訓異 しらゆふばなに;しらゆふはなに, おちたぎつ;おちたきつ, たきのかふちは;たきのかわちは, みれどあかぬかも;みれとあかぬかも, 
   
  06/0910
題詞 (雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])或本反<歌>曰
題訓 或ル本ノ反シ歌ニ曰ク、
原文 神柄加 見欲賀藍 三吉野乃 瀧<乃>河内者 雖見不飽鴨
訓読 神からか見が欲しからむみ吉野の滝の河内は見れど飽かぬかも
仮名 かむからか みがほしからむ みよしのの たきのかふちは みれどあかぬかも
左注 なし
校異 謌歌→歌 [西(訂正)] / <>→乃 [元][金][類][紀]
事項 雑歌 作者:笠金村 吉野 行幸 従駕 宮廷讃美 離宮 養老7年5月 年紀 或本歌 異伝 地名
訓異 かむからか;かみからか, みがほしからむ;みまほしからむ, たきのかふちは;たきつかうちは, みれどあかぬかも;みれとあかぬかも, 
   
  06/0911
題詞 ((雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])或本反<歌>曰)
原文 三芳野之 秋津乃川之 万世尓 断事無 又還将見
訓読 み吉野の秋津の川の万代に絶ゆることなくまたかへり見む
仮名 みよしのの あきづのかはの よろづよに たゆることなく またかへりみむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:笠金村 吉野 行幸 従駕 宮廷讃美 離宮 養老7年5月 年紀 或本歌 異伝 地名
訓異 あきづのかはの;あきつのかはの, よろづよに;よろつよに, 
   
  06/0912
題詞 ((雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])或本反<歌>曰)
原文 泊瀬女 造木綿花 三吉野 瀧乃水沫 開来受屋
訓読 泊瀬女の造る木綿花み吉野の滝の水沫に咲きにけらずや
仮名 はつせめの つくるゆふばな みよしのの たきのみなわに さきにけらずや
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:笠金村 吉野 行幸 従駕 宮廷讃美 離宮 養老7年5月 年紀 或本歌 異伝 地名
訓異 つくるゆふばな;つくるゆふはな, たきのみなわに;たきのみなはに, さきにけらずや;さききたらすや, 
   
  06/0913
題詞 車持朝臣千年作歌一首[并短歌]
題訓 車持朝臣千年くらもちのあそみちとせがよめる歌一首、また短歌
原文 味凍 綾丹乏敷 鳴神乃 音耳聞師 三芳野之 真木立山湯 見降者 川之瀬毎 開来者 朝霧立 夕去者 川津鳴奈<拝> 紐不解 客尓之有者 吾耳為而 清川原乎 見良久之惜蒙
訓読 味凝り あやにともしく 鳴る神の 音のみ聞きし み吉野の 真木立つ山ゆ 見下ろせば 川の瀬ごとに 明け来れば 朝霧立ち 夕されば かはづ鳴くなへ 紐解かぬ 旅にしあれば 我のみして 清き川原を 見らくし惜しも
仮名 うまこり あやにともしく なるかみの おとのみききし みよしのの まきたつやまゆ みおろせば かはのせごとに あけくれば あさぎりたち ゆふされば かはづなくなへ ひもとかぬ たびにしあれば わのみして きよきかはらを みらくしをしも
左注 (右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 辨詳→拝 [元][類][紀] [古](楓) 利
事項 雑歌 作者:車持千年 吉野 行幸 従駕 宮廷讃美 羈旅 養老7年5月 年紀 動物 地名 枕詞
訓異 うまこり;あちこりの, みおろせば;みくたせは, かはのせごとに;かはのせことに, あけくれば;あけくれは, あさぎりたち;あさきりたちて, ゆふされば;ゆふされは, かはづなくなへ;かはつなきなへ, ひもとかぬ;ひもとかす, たびにしあれば;たひにしあるは, わのみして;われにして, 
   
  06/0914
題詞 (車持朝臣千年作歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 瀧上乃 三船之山者 雖<畏> 思忘 時毛日毛無
訓読 滝の上の三船の山は畏けど思ひ忘るる時も日もなし
仮名 たきのうへの みふねのやまは かしこけど おもひわするる ときもひもなし
左注 (右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→畏 [西(右書)][元][金][類]
事項 雑歌 作者:車持千年 吉野 行幸 従駕 宮廷讃美 羈旅 養老7年5月 年紀 地名
訓異 かしこけど;かしこけと, 
   
  06/0915
題詞 (車持朝臣千年作歌一首[并短歌])或本反歌曰
題訓 或ル本ノ反シ歌ニ曰ク、
原文 千鳥鳴 三吉野川之 <川音> 止時梨二 所思<公>
訓読 千鳥泣くみ吉野川の川音のやむ時なしに思ほゆる君
仮名 ちどりなく みよしのかはの かはおとの やむときなしに おもほゆるきみ
左注 (右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 音成→川音 [金][紀] / 君→公 [元][金][類]
事項 雑歌 作者:車持千年 吉野 行幸 従駕 宮廷讃美 羈旅 養老7年5月 年紀 或本歌 異伝 枕詞 動物 序詞
訓異 ちどりなく;ちとりなく, かはおとの;おとしなみ, 
   
  06/0916
題詞 ((車持朝臣千年作歌一首[并短歌])或本反歌曰)
原文 茜刺 日不並二 吾戀 吉野之河乃 霧丹立乍
訓読 あかねさす日並べなくに我が恋は吉野の川の霧に立ちつつ
仮名 あかねさす ひならべなくに あがこひは よしののかはの きりにたちつつ
左注 右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作
左注訓 右、年月審ツマビラカナラズ。但歌類ヲ以テ此ノ次ニ載ス。或ル本ニ云ク、養老七年五月、芳野 離宮ニ幸セル時ニ作ム。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 五 [元][金][紀] 正
事項 雑歌 作者:車持千年 吉野 行幸 従駕 讃美 羈旅 養老7年5月 年紀 或本歌 異伝 枕詞 恋情 地名
訓異 ひならべなくに;ひをもへなくに, あがこひは;わかこふる, 
   
  06/0917
題詞 神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
題訓 神亀じむき元年はじめのとし甲子きのえね冬十月かみなつき五日いつかのひ、紀伊国に幸せる時、山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌
原文 安見知之 和期大王之 常宮等 仕奉流 左日鹿野由 背<匕>尓所見 奥嶋 清波瀲尓 風吹者 白浪左和伎 潮干者 玉藻苅管 神代従 然曽尊吉 玉津嶋夜麻
訓読 やすみしし 我ご大君の 常宮と 仕へ奉れる 雑賀野ゆ そがひに見ゆる 沖つ島 清き渚に 風吹けば 白波騒き 潮干れば 玉藻刈りつつ 神代より しかぞ貴き 玉津島山
仮名 やすみしし わごおほきみの とこみやと つかへまつれる さひかのゆ そがひにみゆる おきつしま きよきなぎさに かぜふけば しらなみさわき しほふれば たまもかりつつ かむよより しかぞたふとき たまつしまやま
左注 (右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 上→匕 [西(右貼紙)][元][金]
事項 雑歌 作者:山部赤人 紀州 和歌山 行幸 神亀1年10月5日 年紀 土地讃美 羈旅 地名 枕詞
訓異 わごおほきみの;わかおほきみの, そがひにみゆる;そかひにみゆる, きよきなぎさに;きよきなきさに, かぜふけば;かせふけは, しほふれば;しほひれは, かむよより;かみよより, しかぞたふとき;しかそたふとき, 
   
  06/0918
題詞 (神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 奥嶋 荒礒之玉藻 潮干満 伊隠去者 所念武香聞
訓読 沖つ島荒礒の玉藻潮干満ちい隠りゆかば思ほえむかも
仮名 おきつしま ありそのたまも しほひみち いかくりゆかば おもほえむかも
左注 (右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:山部赤人 紀州 和歌山 行幸 神亀1年10月5日 年紀 土地讃美 羈旅 地名
訓異 ありそのたまも;あらいそのたまも, しほひみち;しほみちて, いかくりゆかば;いかくれゆかは, おもほえむかも;おもほへむかも, 
   
  06/0919
題詞 ((神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 若浦尓 塩満来者 滷乎無美 葦邊乎指天 多頭鳴渡
訓読 若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る
仮名 わかのうらに しほみちくれば かたをなみ あしへをさして たづなきわたる
左注 右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉
左注訓 右、年月記サズ。但称ハク玉津島ニ従駕セリキト。因リテ今行幸ノ年月ヲ検注シ、以テ載ス。
校異 なし
事項 雑歌 作者:山部赤人 紀州 和歌山 行幸 土地讃美 羈旅 地名 動物 神亀1年10月5日 年紀
訓異 しほみちくれば;しほみちくれは, たづなきわたる;たつなきわたる, 
   
  06/0920
題詞 神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
題訓 二年ふたとせといふとし乙丑きのとのうし夏五月さつき、芳野の離宮に幸せる時、笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌
原文 足引之 御山毛清 落多藝都 芳野<河>之 河瀬乃 浄乎見者 上邊者 千鳥數鳴 下邊者 河津都麻喚 百礒城乃 大宮人毛 越乞尓 思自仁思有者 毎見 文丹乏 玉葛 絶事無 萬代尓 如是霜願跡 天地之 神乎曽祷 恐有等毛
訓読 あしひきの み山もさやに 落ちたぎつ 吉野の川の 川の瀬の 清きを見れば 上辺には 千鳥しば鳴く 下辺には かはづ妻呼ぶ ももしきの 大宮人も をちこちに 繁にしあれば 見るごとに あやに乏しみ 玉葛 絶ゆることなく 万代に かくしもがもと 天地の 神をぞ祈る 畏くあれども
仮名 あしひきの みやまもさやに おちたぎつ よしののかはの かはのせの きよきをみれば かみへには ちどりしばなく しもべには かはづつまよぶ ももしきの おほみやひとも をちこちに しじにしあれば みるごとに あやにともしみ たまかづら たゆることなく よろづよに かくしもがもと あめつちの かみをぞいのる かしこくあれども
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 川→河 [金][元][類]
事項 雑歌 作者:笠金村 吉野 行幸 宮廷讃美 神亀2年5月 年紀 枕詞 動物 地名
訓異 おちたぎつ;おちたきつ, きよきをみれば;きよきをみれは, ちどりしばなく;ちとりしはなき, しもべには;しもへには, かはづつまよぶ;かはつつまよふ, しじにしあれば;ししにしあれは, みるごとに;ことみもに, あやにともしみ;ともしみ, たまかづら;たまかつら, よろづよに;よろつよに, かくしもがもと;かくしもかなと, かみをぞいのる;かみをそいのる, かしこくあれども;かしこけれとも, 
   
  06/0921
題詞 (神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 萬代 見友将飽八 三芳野乃 多藝都河内乃 大宮所
訓読 万代に見とも飽かめやみ吉野のたぎつ河内の大宮所
仮名 よろづよに みともあかめや みよしのの たぎつかふちの おほみやところ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:笠金村 吉野 行幸 宮廷讃美 神亀2年5月 年紀 地名
訓異 よろづよに;よろつよに, たぎつかふちの;たきつかうちの, 
   
  06/0922
題詞 ((神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 人皆乃 壽毛吾母 三<吉>野乃 多吉能床磐乃 常有沼鴨
訓読 皆人の命も我れもみ吉野の滝の常磐の常ならぬかも
仮名 みなひとの いのちもわれも みよしのの たきのときはの つねならぬかも
左注 なし
校異 人皆 [元][類] 皆人 / 芳→吉 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:笠金村 吉野 行幸 宮廷讃美 神亀2年5月 年紀 地名 序詞
訓異 みなひとの;ひとみなの, たきのときはの;たきのとこいはの, 
   
  06/0923
題詞 山部宿祢赤人作歌二首[并短歌]
題訓 山部宿禰赤人がよめる歌二首、また短歌
原文 八隅知之 和期大王乃 高知為 芳野宮者 立名附 青垣隠 河次乃 清河内曽 春部者 花咲乎遠里 秋去者 霧立渡 其山之 弥益々尓 此河之 絶事無 百石木能 大宮人者 常将通
訓読 やすみしし 我ご大君の 高知らす 吉野の宮は たたなづく 青垣隠り 川なみの 清き河内ぞ 春へは 花咲きををり 秋されば 霧立ちわたる その山の いやしくしくに この川の 絶ゆることなく ももしきの 大宮人は 常に通はむ
仮名 やすみしし わごおほきみの たかしらす よしののみやは たたなづく あをかきごもり かはなみの きよきかふちぞ はるへは はなさきををり あきされば きりたちわたる そのやまの いやしくしくに このかはの たゆることなく ももしきの おほみやひとは つねにかよはむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 去 [元][細] 部
事項 雑歌 作者:山部赤人 吉野 行幸 宮廷讃美 地名 枕詞
訓異 わごおほきみの;わかおほきみの, たたなづく;たたなつく, あをかきごもり;あをかきこもり, きよきかふちぞ;きよきかちそ, はるへは;はるへには, あきされば;あきされは, きりたちわたる;きりたちわたり, いやしくしくに;いやますますに, ももしきの;ものしきの, 
   
  06/0924
題詞 (山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 三吉野乃 象山際乃 木末尓波 幾許毛散和口 鳥之聲可聞
訓読 み吉野の象山の際の木末にはここだも騒く鳥の声かも
仮名 みよしのの きさやまのまの こぬれには ここだもさわく とりのこゑかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:山部赤人 吉野 行幸 宮廷讃美 地名
訓異 きさやまのまの;きさやまきはの, こぬれには;こすゑには, ここだもさわく;ここたもさわく, 
   
  06/0925
題詞 ((山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])反歌二首)
原文 烏玉之 夜之深去者 久木生留 清河原尓 知鳥數鳴
訓読 ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く
仮名 ぬばたまの よのふけゆけば ひさぎおふる きよきかはらに ちどりしばなく
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:山部赤人 吉野 行幸 宮廷讃美 地名 植物 動物 叙景
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, よのふけゆけば;よのふけゆけは, ひさぎおふる;ひさきおふる, ちどりしばなく;ちとりしはなく, 
   
  06/0926
題詞 (山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])
原文 安見知之 和期大王波 見吉野乃 飽津之小野笶 野上者 跡見居置而 御山者 射目立渡 朝猟尓 十六履起之 夕狩尓 十里蹋立 馬並而 御<猟>曽立為 春之茂野尓
訓読 やすみしし 我ご大君は み吉野の 秋津の小野の 野の上には 跡見据ゑ置きて み山には 射目立て渡し 朝狩に 獣踏み起し 夕狩に 鳥踏み立て 馬並めて 御狩ぞ立たす 春の茂野に
仮名 やすみしし わごおほきみは みよしのの あきづのをのの ののへには とみすゑおきて みやまには いめたてわたし あさがりに ししふみおこし ゆふがりに とりふみたて うまなめて みかりぞたたす はるのしげのに
左注 (右不審先後 但以便故載於此<次>)
校異 狩→猟 [元][紀][細]
事項 雑歌 作者:山部赤人 吉野 行幸 宮廷讃美 地名 枕詞 動物
訓異 わごおほきみは;わかおほきみは, あきづのをのの;あきつのをのの, ののへには;のかみには, とみすゑおきて;あとみすゑおきて, いめたてわたし;せこたちわたり, あさがりに;あさかりに, ゆふがりに;ゆふかりに, とりふみたて;とりふみたてて, みかりぞたたす;みかりそたてし, はるのしげのに;はるのしけのに, 
   
  06/0927
題詞 (山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 足引之 山毛野毛 御<猟>人 得物矢手<挟> 散動而有所見
訓読 あしひきの山にも野にも御狩人さつ矢手挾み騒きてあり見ゆ
仮名 あしひきの やまにものにも みかりひと さつやたばさみ さわきてありみゆ
左注 右不審先後 但以便故載於此<次>
左注訓 右、先後ヲ審ラカニセズ。但便ヲ以テノ故ニ此次ニ載ス。
校異 狩→猟 [元][類][細] / 狭→挟 [元][古][紀] / 歟→次 [西(右書訂正)][元][古][紀]
事項 雑歌 作者:山部赤人 吉野 行幸 宮廷讃美 狩猟 地名
訓異 さつやたばさみ;ともやたはさみ, さわきてありみゆ;みたれたるみゆ, 
   
  06/0928
題詞 冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
題訓 冬十月かみなづき、難波の宮に幸せる時、笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌
原文 忍照 難波乃國者 葦垣乃 古郷跡 人皆之 念息而 都礼母無 有之間尓 續麻成 長柄之宮尓 真木柱 太高敷而 食國乎 治賜者 奥鳥 味經乃原尓 物部乃 八十伴雄者 廬為而 都成有 旅者安礼十方
訓読 おしてる 難波の国は 葦垣の 古りにし里と 人皆の 思ひやすみて つれもなく ありし間に 続麻なす 長柄の宮に 真木柱 太高敷きて 食す国を 治めたまへば 沖つ鳥 味経の原に もののふの 八十伴の男は 廬りして 都成したり 旅にはあれども
仮名 おしてる なにはのくには あしかきの ふりにしさとと ひとみなの おもひやすみて つれもなく ありしあひだに うみをなす ながらのみやに まきはしら ふとたかしきて をすくにを をさめたまへば おきつとり あぢふのはらに もののふの やそとものをは いほりして みやこなしたり たびにはあれども
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
事項 雑歌 作者:笠金村 難波 大阪 離宮 宮廷讃美 羈旅 枕詞 地名 神亀2年10月 年紀
訓異 おしてる;おしてるや, ありしあひだに;ありしあひたに, ながらのみやに;なからのみやに, をすくにを;をしくにを, をさめたまへば;おさめたまへは, あぢふのはらに;あちふのはらに, みやこなしたり;みやことなせり, たびにはあれども;たひにはあれとも, 
   
  06/0929
題詞 (冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 荒野等丹 里者雖有 大王之 敷座時者 京師跡成宿
訓読 荒野らに里はあれども大君の敷きます時は都となりぬ
仮名 あらのらに さとはあれども おほきみの しきますときは みやことなりぬ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:笠金村 難波 大阪 離宮 宮廷讃美 羈旅 地名 神亀2年10月 年紀
訓異 さとはあれども;さとはあれとも, 
   
  06/0930
題詞 ((冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 海末通女 棚無小舟 榜出良之 客乃屋取尓 梶音所聞
訓読 海人娘女棚なし小舟漕ぎ出らし旅の宿りに楫の音聞こゆ
仮名 あまをとめ たななしをぶね こぎづらし たびのやどりに かぢのおときこゆ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:笠金村 難波 大阪 離宮 宮廷讃美 羈旅 地名 神亀2年10月 年紀
訓異 たななしをぶね;たななしをふね, こぎづらし;こきいつらし, たびのやどりに;たひのやとりに, かぢのおときこゆ;かちをときこゆ, 
   
  06/0931
題詞 車持朝臣千年作歌一首[并短歌]
題訓 車持朝臣千年がよめる歌一首、また短歌
原文 鯨魚取 濱邊乎清三 打靡 生玉藻尓 朝名寸二 千重浪縁 夕菜寸二 五百重<波>因 邊津浪之 益敷布尓 月二異二 日日雖見 今耳二 秋足目八方 四良名美乃 五十開廻有 住吉能濱
訓読 鯨魚取り 浜辺を清み うち靡き 生ふる玉藻に 朝なぎに 千重波寄せ 夕なぎに 五百重波寄す 辺つ波の いやしくしくに 月に異に 日に日に見とも 今のみに 飽き足らめやも 白波の い咲き廻れる 住吉の浜
仮名 いさなとり はまへをきよみ うちなびき おふるたまもに あさなぎに ちへなみよせ ゆふなぎに いほへなみよす へつなみの いやしくしくに つきにけに ひにひにみとも いまのみに あきだらめやも しらなみの いさきめぐれる すみのえのはま
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 浪→波 [元][紀][細] / 日 [元][温][矢] 々
事項 雑歌 作者:車持千年 難波 大阪 住吉 離宮 宮廷讃美 羈旅 地名 枕詞
訓異 うちなびき;うちなひき, あさなぎに;あさなきに, ちへなみよせ;ちへになみよせ, ゆふなぎに;ゆふなきに, いほへなみよす;いほへなみよる, いやしくしくに;ますしくしくに, ひにひにみとも;ひひにみれとも, あきだらめやも;あきたらめやも, いさきめぐれる;いさきめくれる, 
   
  06/0932
題詞 (車持朝臣千年作歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 白浪之 千重来縁流 住吉能 岸乃黄土粉 二寶比天由香名
訓読 白波の千重に来寄する住吉の岸の埴生ににほひて行かな
仮名 しらなみの ちへにきよする すみのえの きしのはにふに にほひてゆかな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:車持千年 難波 大阪 住吉 離宮 宮廷讃美 羈旅 地名
訓異  
   
  06/0933
題詞 山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
題訓 山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌
原文 天地之 遠我如 日月之 長我如 臨照 難波乃宮尓 和期大王 國所知良之 御食都國 日之御調等 淡路乃 野嶋之海子乃 海底 奥津伊久利二 鰒珠 左盤尓潜出 船並而 仕奉之 貴見礼者
訓読 天地の 遠きがごとく 日月の 長きがごとく おしてる 難波の宮に 我ご大君 国知らすらし 御食つ国 日の御調と 淡路の 野島の海人の 海の底 沖つ海石に 鰒玉 さはに潜き出 舟並めて 仕へ奉るし 貴し見れば
仮名 あめつちの とほきがごとく ひつきの ながきがごとく おしてる なにはのみやに わごおほきみ くにしらすらし みけつくに ひのみつきと あはぢの のしまのあまの わたのそこ おきついくりに あはびたま さはにかづきで ふねなめて つかへまつるし たふとしみれば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
事項 雑歌 作者:山部赤人 難波 大阪 離宮 宮廷讃美 羈旅 地名 枕詞
訓異 とほきがごとく;とほきかことく, ながきがごとく;なかきかことく, おしてる;をしてるや, わごおほきみ;わかきみの, ひのみつきと;ひひのみつきと, あはぢの;あはみちの, あはびたま;あはひたま, さはにかづきで;さはにかつきて, つかへまつるし;つかへまつし, たふとしみれば;かしこみみれは, 
   
  06/0934
題詞 (山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 朝名寸二 梶音所聞 三食津國 野嶋乃海子乃 船二四有良信
訓読 朝なぎに楫の音聞こゆ御食つ国野島の海人の舟にしあるらし
仮名 あさなぎに かぢのおときこゆ みけつくに のしまのあまの ふねにしあるらし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:山部赤人 難波 大阪 離宮 宮廷讃美 羈旅 地名 枕詞
訓異 あさなぎに;あさなきに, かぢのおときこゆ;かちのおときこゆ, のしまのあまの;のしまのあまこの, 
   
  06/0935
題詞 三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
題訓 三年みとせといふとし丙寅ひのえとら秋九月ながつき十五日とをかまりいつかのひ、播磨国印南野いなみぬに幸いでませる時、笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌
原文 名寸隅乃 船瀬従所見 淡路嶋 松<帆>乃浦尓 朝名藝尓 玉藻苅管 暮菜寸二 藻塩焼乍 海末通女 有跡者雖聞 見尓将去 餘四能無者 大夫之 情者梨荷 手弱女乃 念多和美手 俳徊 吾者衣戀流 船梶雄名三
訓読 名寸隅の 舟瀬ゆ見ゆる 淡路島 松帆の浦に 朝なぎに 玉藻刈りつつ 夕なぎに 藻塩焼きつつ 海人娘女 ありとは聞けど 見に行かむ よしのなければ ますらをの 心はなしに 手弱女の 思ひたわみて たもとほり 我れはぞ恋ふる 舟楫をなみ
仮名 なきすみの ふなせゆみゆる あはぢしま まつほのうらに あさなぎに たまもかりつつ ゆふなぎに もしほやきつつ あまをとめ ありとはきけど みにゆかむ よしのなければ ますらをの こころはなしに たわやめの おもひたわみて たもとほり あれはぞこふる ふなかぢをなみ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 机→帆 [元][細][京]
事項 雑歌 作者:笠金村 播磨 兵庫 羈旅 恋情 神亀3年9月15日 年紀 地名 枕詞 植物
訓異 ふなせゆみゆる;ふなせにみゆる, あはぢしま;あはちしま, あさなぎに;あさなきに, ゆふなぎに;ゆふなきに, ありとはきけど;ありとはきけと, よしのなければ;よしのなけれは, たもとほり;たちとまり, あれはぞこふる;あれはそこふる, ふなかぢをなみ;ふなかちをなみ, 
   
  06/0936
題詞 (三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 玉藻苅 海未通女等 見尓将去 船梶毛欲得 浪高友
訓読 玉藻刈る海人娘子ども見に行かむ舟楫もがも波高くとも
仮名 たまもかる あまをとめども みにゆかむ ふなかぢもがも なみたかくとも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:笠金村 播磨 兵庫 羈旅 恋情 神亀3年9月15日 年紀 植物 地名
訓異 あまをとめども;あまをとめらを, ふなかぢもがも;ふなかちもかな, 
   
  06/0937
題詞 ((三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 徃廻 雖見将飽八 名寸隅乃 船瀬之濱尓 四寸流思良名美
訓読 行き廻り見とも飽かめや名寸隅の舟瀬の浜にしきる白波
仮名 ゆきめぐり みともあかめや なきすみの ふなせのはまに しきるしらなみ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:笠金村 播磨 兵庫 羈旅 恋情 神亀3年9月15日 地名
訓異 ゆきめぐり;ゆきかへり, 
   
  06/0938
題詞 山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
題訓 山部宿禰赤人がよめる歌一首 、また短歌
原文 八隅知之 吾大王乃 神随 高所知流 稲見野能 大海乃原笶 荒妙 藤井乃浦尓 鮪釣等 海人船散動 塩焼等 人曽左波尓有 浦乎吉美 宇倍毛釣者為 濱乎吉美 諾毛塩焼 蟻徃来 御覧母知師 清白濱
訓読 やすみしし 我が大君の 神ながら 高知らせる 印南野の 大海の原の 荒栲の 藤井の浦に 鮪釣ると 海人舟騒き 塩焼くと 人ぞさはにある 浦をよみ うべも釣りはす 浜をよみ うべも塩焼く あり通ひ 見さくもしるし 清き白浜
仮名 やすみしし わがおほきみの かむながら たかしらせる いなみのの おふみのはらの あらたへの ふぢゐのうらに しびつると あまぶねさわき しほやくと ひとぞさはにある うらをよみ うべもつりはす はまをよみ うべもしほやく ありがよひ みさくもしるし きよきしらはま
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 流 [元][紀] 須
事項 雑歌 作者:山部赤人 播磨 兵庫 羈旅 土地讃美 枕詞 地名
訓異 わがおほきみの;わかおほきみの, かむながら;かみのまに, たかしらせる;たかくしらせる, おふみのはらの;おほうみのはらの, ふぢゐのうらに;ふちゐのうらに, しびつると;しひつると, あまぶねさわき;あまふねとよみ, ひとぞさはにある;ひとそさはにある, うべもつりはす;うへもつりはす, うべもしほやく;うへもしほやく, ありがよひ;ありかよひ, みさくもしるし;みらむもしるし, 
   
  06/0939
題詞 (山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首
題訓 反し歌三首
原文 奥浪 邊波安美 射去為登 藤江乃浦尓 船曽動流
訓読 沖つ波辺波静けみ漁りすと藤江の浦に舟ぞ騒ける
仮名 おきつなみ へなみしづけみ いざりすと ふぢえのうらに ふねぞさわける
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:山部赤人 播磨 兵庫 羈旅 土地讃美 地名
訓異 へなみしづけみ;へなみしつけみ, いざりすと;いさりすと, ふぢえのうらに;ふちゑのうらに, ふねぞさわける;ふねそとよめる, 
   
  06/0940
題詞 ((山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
原文 不欲見野乃 淺茅押靡 左宿夜之 氣長<在>者 家之小篠生
訓読 印南野の浅茅押しなべさ寝る夜の日長くしあれば家し偲はゆ
仮名 いなみのの あさぢおしなべ さぬるよの けながくしあれば いへししのはゆ
左注 なし
校異 有→在 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:山部赤人 播磨 兵庫 羈旅 望郷 地名
訓異 あさぢおしなべ;あさちおしなみ, けながくしあれば;けなかくあれは, いへししのはゆ;いへししのふる, 
   
  06/0941
題詞 ((山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
原文 明方 潮干乃道乎 従明日者 下咲異六 家近附者
訓読 明石潟潮干の道を明日よりは下笑ましけむ家近づけば
仮名 あかしがた しほひのみちを あすよりは したゑましけむ いへちかづけば
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:山部赤人 播磨 兵庫 羈旅 望郷 地名
訓異 あかしがた;あかしかた, したゑましけむ;したうれしけむ, いへちかづけば;いへちかつけは, 
   
  06/0942
題詞 過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
題訓 辛荷からにの島を過ぐる時、山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌
原文 味澤相 妹目不數見而 敷細乃 枕毛不巻 櫻皮纒 作流舟二 真梶貫 吾榜来者 淡路乃 野嶋毛過 伊奈美嬬 辛荷乃嶋之 嶋際従 吾宅乎見者 青山乃 曽許十方不見 白雲毛 千重尓成来沼 許伎多武流 浦乃盡 徃隠 嶋乃埼々 隈毛不置 憶曽吾来 客乃氣長弥
訓読 あぢさはふ 妹が目離れて 敷栲の 枕もまかず 桜皮巻き 作れる船に 真楫貫き 我が漕ぎ来れば 淡路の 野島も過ぎ 印南嬬 辛荷の島の 島の際ゆ 我家を見れば 青山の そことも見えず 白雲も 千重になり来ぬ 漕ぎ廻むる 浦のことごと 行き隠る 島の崎々 隈も置かず 思ひぞ我が来る 旅の日長み
仮名 あぢさはふ いもがめかれて しきたへの まくらもまかず かにはまき つくれるふねに まかぢぬき わがこぎくれば あはぢの のしまもすぎ いなみつま からにのしまの しまのまゆ わぎへをみれば あをやまの そこともみえず しらくもも ちへになりきぬ こぎたむる うらのことごと ゆきかくる しまのさきざき くまもおかず おもひぞわがくる たびのけながみ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
事項 雑歌 作者:山部赤人 羈旅 望郷 兵庫 枕詞 地名
訓異 あぢさはふ;あちさはふ, いもがめかれて;いもかめしはみすて, まくらもまかず;まくらもまかす, まかぢぬき;まかちぬき, わがこぎくれば;わかこきくれは, あはぢの;あはみちの, のしまもすぎ;のしまもすきぬ, いなみつま;いなひつま, しまのまゆ;しままより, わぎへをみれば;わかやとをみれは, そこともみえず;そこともみえす, こぎたむる;こきたむる, うらのことごと;うらのはてまて, ゆきかくる;ゆきかくれ, しまのさきざき;しまのさきさき, くまもおかず;くまもおかす, おもひぞわがくる;おもひそわかこし, たびのけながみ;たひのけなかみ, 
   
  06/0943
題詞 (過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首
題訓 反し歌三首
原文 玉藻苅 辛荷乃嶋尓 嶋廻為流 水烏二四毛有哉 家不念有六
訓読 玉藻刈る唐荷の島に島廻する鵜にしもあれや家思はずあらむ
仮名 たまもかる からにのしまに しまみする うにしもあれや いへおもはずあらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:山部赤人 羈旅 望郷 兵庫 地名 植物
訓異 しまみする;あさりする, いへおもはずあらむ;いへおもはさらむ, 
   
  06/0944
題詞 ((過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
原文 嶋隠 吾榜来者 乏毳 倭邊上 真熊野之船
訓読 島隠り我が漕ぎ来れば羨しかも大和へ上るま熊野の船
仮名 しまがくり わがこぎくれば ともしかも やまとへのぼる まくまののふね
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:山部赤人 羈旅 望郷 兵庫 地名
訓異 しまがくり;しまかくれ, わがこぎくれば;わかこきくれは, やまとへのぼる;やまとへのほる, まくまののふね;みくまののふね, 
   
  06/0945
題詞 ((過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
原文 風吹者 浪可将立跡 伺候尓 都太乃細江尓 浦隠居
訓読 風吹けば波か立たむとさもらひに都太の細江に浦隠り居り
仮名 かぜふけば なみかたたむと さもらひに つだのほそえに うらがくりをり
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:山部赤人 羈旅 兵庫 地名
訓異 かぜふけば;かせふけは, さもらひに;まつほとに, つだのほそえに;つたのほそえに, うらがくりをり;うらかくれゐす, 
   
  06/0946
題詞 過<敏馬>浦時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
題訓 敏馬みぬめの浦を過ぐる時、山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌
原文 御食向 淡路乃嶋二 直向 三犬女乃浦能 奥部庭 深海松採 浦廻庭 名告藻苅 深見流乃 見巻欲跡 莫告藻之 己名惜三 間使裳 不遣而吾者 生友奈重二
訓読 御食向ふ 淡路の島に 直向ふ 敏馬の浦の 沖辺には 深海松採り 浦廻には なのりそ刈る 深海松の 見まく欲しけど なのりその おのが名惜しみ 間使も 遣らずて我れは 生けりともなし
仮名 みけむかふ あはぢのしまに ただむかふ みぬめのうらの おきへには ふかみるとり うらみには なのりそかる ふかみるの みまくほしけど なのりその おのがなをしみ まつかひも やらずてわれは いけりともなし
左注 (右作歌年月未詳也 但以類故載於此<次>)
校異 驚→敏馬 [西(右書訂正)][元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
事項 雑歌 作者:山部赤人 羈旅 兵庫 望郷 枕詞 地名 植物
訓異 あはぢのしまに;あはちのしまに, ただむかふ;たたむかふ, ふかみるとり;ふかみるつみ, うらみには;うらわには, なのりそかる;なのりそをかり, みまくほしけど;みまくほしみと, おのがなをしみ;おのかなをしみ, やらずてわれは;やらすてわれは, いけりともなし;いけりともなへに, 
   
  06/0947
題詞 (過<敏馬>浦時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 為間乃海人之 塩焼衣乃 奈礼名者香 一日母君乎 忘而将念
訓読 須磨の海女の塩焼き衣の慣れなばか一日も君を忘れて思はむ
仮名 すまのあまの しほやききぬの なれなばか ひとひもきみを わすれておもはむ
左注 右作歌年月未詳也 但以類故載於此<次>
左注訓 右ノ作歌、年月詳ラカナラズ。但類ヲ以テノ故ニ此ノ次ニ載ス。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歟→次 [西(右書訂正)][元][紀][細]
事項 雑歌 作者:山部赤人 羈旅 兵庫 望郷 地名
訓異 しほやききぬの;しおやくきぬの, なれなばか;なれなはか, 
   
  06/0948
題詞 四年丁卯春正月勅諸王諸臣子等散禁於授刀寮時作歌一首[并短歌]
題訓 四年よとせといふとし丁卯ひのとのう春正月むつき、諸王おほきみたち諸臣子等おみたちに勅みことのりして、授刀寮に散禁はなちいましめたまへる時によめる歌一首、また短歌
原文 真葛延 春日之山者 打靡 春去徃跡 山上丹 霞田名引 高圓尓 鴬鳴沼 物部乃 八十友能<壮>者 折<木>四哭之 来継<比日 如>此續 常丹有脊者 友名目而 遊物尾 馬名目而 徃益里乎 待難丹 吾為春乎 决巻毛 綾尓恐 言巻毛 湯々敷有跡 豫 兼而知者 千鳥鳴 其佐保川丹 石二生 菅根取而 之努布草 解除而益乎 徃水丹 潔而益乎 天皇之 御命恐 百礒城之 大宮人之 玉桙之 道毛不出 戀比日
訓読 ま葛延ふ 春日の山は うち靡く 春さりゆくと 山の上に 霞たなびく 高円に 鴬鳴きぬ もののふの 八十伴の男は 雁が音の 来継ぐこの頃 かく継ぎて 常にありせば 友並めて 遊ばむものを 馬並めて 行かまし里を 待ちかてに 我がする春を かけまくも あやに畏し 言はまくも ゆゆしくあらむと あらかじめ かねて知りせば 千鳥鳴く その佐保川に 岩に生ふる 菅の根採りて 偲ふ草 祓へてましを 行く水に みそぎてましを 大君の 命畏み ももしきの 大宮人の 玉桙の 道にも出でず 恋ふるこの頃
仮名 まくずはふ かすがのやまは うちなびく はるさりゆくと やまのへに かすみたなびく たかまとに うぐひすなきぬ もののふの やそとものをは かりがねの きつぐこのころ かくつぎて つねにありせば ともなめて あそばむものを うまなめて ゆかましさとを まちかてに わがせしはるを かけまくも あやにかしこし いはまくも ゆゆしくあらむと あらかじめ かねてしりせば ちどりなく そのさほがはに いはにおふる すがのねとりて しのふくさ はらへてましを ゆくみづに みそぎてましを おほきみの みことかしこみ ももしきの おほみやひとの たまほこの みちにもいでず こふるこのころ
左注 (右神龜四年正月 數王子<及>諸臣子等 集於春日野而作打毬之樂 其日忽天陰 雨雷電 此時宮中無侍従及侍衛 勅行刑罰皆散禁於授刀寮而妄不得出道路 于時悒憤即作斯歌 [作者未詳])
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 上 [元](塙) 匕 / 牡→壮 [元][紀][矢] / 不→木 [元] / 皆石→比日如 [万葉集略解]
事項 雑歌 奈良 神亀4年 大夫 枕詞 地名 神亀4年1月 年紀
訓異 まくずはふ;まくすはふ, かすがのやまは;かすかのやまは, うちなびく;うちなひき, かすみたなびく;かすみたなひき, うぐひすなきぬ;うくひすなきぬ, かりがねの;をりふしもし, きつぐこのころ;きつきみなし, かくつぎて;ここにつき, つねにありせば;つねにありせは, あそばむものを;たわれむものを, わがせしはるを;わかするはるを, あやにかしこし;あやにかしこく, ゆゆしくあらむと;ゆゆしくあらはと, あらかじめ;あらかしめ, かねてしりせば;かねてしらせは, ちどりなく;ちとりなく, そのさほがはに;そのさほかはに, いはにおふる;いそにおふる, すがのねとりて;すかのねとりて, ゆくみづに;ゆくみつに, みそぎてましを;みそきてましを, おほきみの;すめろきの, みちにもいでず;みちにもいてす, 
   
  06/0949
題詞 (四年丁卯春正月勅諸王諸臣子等散禁於授刀寮時作歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 梅柳 過良久惜 佐保乃内尓 遊事乎 宮動々尓
訓読 梅柳過ぐらく惜しみ佐保の内に遊びしことを宮もとどろに
仮名 うめやなぎ すぐらくをしみ さほのうちに あそびしことを みやもとどろに
左注 右神龜四年正月 數王子<及>諸臣子等 集於春日野而作打毬之樂 其日忽天陰 雨雷電 此時宮中無侍従及侍衛 勅行刑罰皆散禁於授刀寮而妄不得出道路 于時悒憤即作斯歌 [作者未詳]
左注訓 右、神亀四年正月、数王子マタ諸臣子等、春日野ニ 集ヒ、打毬ノ楽ヲ作ス。其ノ日、忽チニ天陰リ、雨 フリ雷カミナリ電イナビカリス。此ノ時宮中ニ侍従マタ侍衛無 シ。勅シテ刑罰ニ行ヒ、皆授刀寮ニ散禁シテ、妄リ ニ道路ニ出ヅルコトヲ得ザラシメタマフ。時ニ悒憤 シテ、即チ斯ノ歌ヲ作ム。作者ハ詳ラカナラズ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃→及 [元][類][古] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 奈良 神亀4年 大夫 地名 神亀4年1月 年紀
訓異 うめやなぎ;うめやなき, すぐらくをしみ;すくらくをしみ, あそびしことを;あそひしことを, みやもとどろに;みやもととろに, 
   
  06/0950
題詞 五年戊辰幸于難波宮時作歌四首
題訓 五年いつとせといふとし戊辰つちのえたつ、難波の宮に幸せる時よめる歌四首
原文 大王之 界賜跡 山守居 守云山尓 不入者不止
訓読 大君の境ひたまふと山守据ゑ守るといふ山に入らずはやまじ
仮名 おほきみの さかひたまふと やまもりすゑ もるといふやまに いらずはやまじ
左注 (右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:笠金村歌集 車持千年 作者異伝 難波 大阪 比喩 恋愛 神亀5年 年紀 掛醎合媿 地名
訓異 いらずはやまじ;いらすはやまし, 
   
  06/0951
題詞 (五年戊辰幸于難波宮時作歌四首)
原文 見渡者 近物可良 石隠 加我欲布珠乎 不取不巳
訓読 見わたせば近きものから岩隠りかがよふ玉を取らずはやまじ
仮名 みわたせば ちかきものから いはがくり かがよふたまを とらずはやまじ
左注 (右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也)
校異 なし
事項 雑歌 作者:笠金村歌集 車持千年 作者異伝 難波 大阪 比喩 恋愛 神亀5年 年紀 掛醎合媿 地名
訓異 みわたせば;みわたせは, いはがくり;いそかくれ, かがよふたまを;かかよふたまを, とらずはやまじ;とらすはやまし, 
   
  06/0952
題詞 (五年戊辰幸于難波宮時作歌四首)
原文 韓衣 服楢乃里之 嶋待尓 玉乎師付牟 好人欲得食
訓読 韓衣着奈良の里の嶋松に玉をし付けむよき人もがも
仮名 からころも きならのさとの しままつに たまをしつけむ よきひともがも
左注 (右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也)
校異 嶋 (塙)(楓) 嬬
事項 雑歌 作者:笠金村歌集 車持千年 作者異伝 難波 大阪 比喩 恋愛 神亀5年 年紀 女歌 掛醎合媿 枕詞 地名
訓異 よきひともがも;よきひともかな, 
   
  06/0953
題詞 (五年戊辰幸于難波宮時作歌四首)
原文 竿<壮>鹿之 鳴奈流山乎 越将去 日谷八君 當不相将有
訓読 さを鹿の鳴くなる山を越え行かむ日だにや君がはた逢はざらむ
仮名 さをしかの なくなるやまを こえゆかむ ひだにやきみが はたあはざらむ
左注 右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也
左注訓 右、笠朝臣金村ガ歌ノ中ニ出ヅ。或ハ云ク、車持朝臣千年作ムト。
校異 牡→壮 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→之 [元][紀][細]
事項 雑歌 作者:笠金村歌集 車持千年 作者異伝 難波 大阪 比喩 恋愛 神亀5年 年紀 望郷 女歌 掛醎合媿 動物 地名
訓異 こえゆかむ;こえてゆかむ, ひだにやきみが;ひたにやきみ, はたあはざらむ;はたあはさらむ, 
   
  06/0954
題詞 膳王歌一首
題訓 膳王かしはでのおほきみの歌一首
原文 朝波 海邊尓安左里為 暮去者 倭部越 鴈四乏母
訓読 朝は海辺にあさりし夕されば大和へ越ゆる雁し羨しも
仮名 あしたは うみへにあさりし ゆふされば やまとへこゆる かりしともしも
左注 右作歌之年不審<也> 但以歌類便載此次
左注訓 右ノ作歌ノ年ハ審ラカナラズ。但歌類ヲ以テ便チ此ノ次ニ載ス。
校異 歌 [西] 謌 [西(別筆訂正)] 歌 / 越 [元][紀](塙) 超 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→也 [元][紀][細] / 以歌 [西] 以謌 [西(訂正)] 以歌
事項 雑歌 作者:膳王 羈旅 望郷 動物
訓異 あしたは;あしたには, うみへにあさりし;うなひにあさりし, ゆふされば;こふされは, やまとへこゆる;やまとひこゆる, かりしともしも;
   
  06/0955
題詞 <大>宰少貳石<川>朝臣足人歌一首
題訓 太宰少弐おほみこともちのすなきすけ石川朝臣足人たりひとが歌一首
原文 刺竹之 大宮人乃 家跡住 佐保能山乎者 思哉毛君
訓読 さす竹の大宮人の家と住む佐保の山をば思ふやも君
仮名 さすたけの おほみやひとの いへとすむ さほのやまをば おもふやもきみ
左注 なし
校異 太→大 [元][紀][細] / 河→川 [元][紀][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:石川足人 望郷 太宰府 福岡 地名 枕詞
訓異 さほのやまをば;さほのやまをは, 
   
  06/0956
題詞 帥大伴卿和歌一首
題訓 帥かみ大伴卿おほとものまへつきみが和こたふる歌一首
原文 八隅知之 吾大王乃 御食國者 日本毛此間毛 同登曽念
訓読 やすみしし我が大君の食す国は大和もここも同じとぞ思ふ
仮名 やすみしし わがおほきみの をすくには やまともここも おやじとぞおもふ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:大伴旅人 太宰府 福岡 大夫 王権 枕詞 地名
訓異 わがおほきみの;わかおほきみの, をすくには;みけくには, おやじとぞおもふ;おやしとそおもふ, 
   
  06/0957
題詞 冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述作懐歌 / 帥大伴卿歌一首
題訓 冬十一月しもつき、太宰の官人つかさひと等、香椎の廟を拝をろがみ奉り、訖をへて退帰まかれる時、馬を香椎の浦に駐とどめて、各おのもおのも懐おもひを述べてよめる歌 帥かみ大伴の卿まへつきみの歌一首
原文 去来兒等 香椎乃滷尓 白妙之 袖左倍所沾而 朝菜採手六
訓読 いざ子ども香椎の潟に白栲の袖さへ濡れて朝菜摘みてむ
仮名 いざこども かしひのかたに しろたへの そでさへぬれて あさなつみてむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:大伴旅人 福岡 香椎 太宰府 地名 神亀5年11月 年紀
訓異 いざこども;いさやこら, そでさへぬれて;そてさへぬれて, 
   
  06/0958
題詞 (冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述作懐歌)大貳小野老朝臣歌一首
題訓 大弐おほきすけ小野老朝臣が歌一首
原文 時風 應吹成奴 香椎滷 潮干汭尓 玉藻苅而名
訓読 時つ風吹くべくなりぬ香椎潟潮干の浦に玉藻刈りてな
仮名 ときつかぜ ふくべくなりぬ かしひがた しほひのうらに たまもかりてな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:小野老 福岡 香椎 太宰府 地名 植物 神亀5年11月 年紀
訓異 ときつかぜ;ときつかせ, ふくべくなりぬ;ふくへくなりぬ, かしひがた;かしひかた, しほひのうらに;しほひのきはに, 
   
  06/0959
題詞 (冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述作懐歌)豊前守宇努首男人歌一首
題訓 豊前守とよくにのみちのくちのかみ宇努首男人うぬのおびとをひとが歌一首
原文 徃還 常尓我見之 香椎滷 従明日後尓波 見縁母奈思
訓読 行き帰り常に我が見し香椎潟明日ゆ後には見むよしもなし
仮名 ゆきかへり つねにわがみし かしひがた あすゆのちには みむよしもなし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:宇努男人 福岡 香椎 太宰府 地名 神亀5年11月 年紀
訓異 つねにわがみし;つねにわかみし, かしひがた;かしひかた, あすゆのちには;あすよりのちには, 
   
  06/0960
題詞 帥大伴卿遥思芳野離宮作歌一首
題訓 帥大伴の卿の芳野の離宮とつみやを遥思しぬひてよみたまへる歌一首
原文 隼人乃 湍門乃磐母 年魚走 芳野之瀧<尓> 尚不及家里
訓読 隼人の瀬戸の巌も鮎走る吉野の瀧になほしかずけり
仮名 はやひとの せとのいはほも あゆはしる よしののたきに なほしかずけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃→尓 [西(訂正)][元][類][紀]
事項 雑歌 作者:大伴旅人 吉野 比較 鹿児島 黒瀬戸 山口 関門海峡 地名
訓異 なほしかずけり;なをしかすけり, 
   
  06/0961
題詞 帥大伴卿宿次田温泉聞鶴喧作歌一首
題訓 帥大伴の卿の、次田すきたの温泉ゆに宿りて、鶴たづが喧ねを聞きてよみたまへる歌一首
原文 湯原尓 鳴蘆多頭者 如吾 妹尓戀哉 時不定鳴
訓読 湯の原に鳴く葦鶴は我がごとく妹に恋ふれや時わかず鳴く
仮名 ゆのはらに なくあしたづは あがごとく いもにこふれや ときわかずなく
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:大伴旅人 太宰府 福岡 二日市温泉 妻 地名 動物 恋情
訓異 なくあしたづは;なくあしたつは, あがごとく;わかことく, ときわかずなく;ときわかすなく, 
   
  06/0962
題詞 天平二年庚午勅遣<擢>駿馬使大伴道足宿祢時歌一首
題訓 天平てむひやう二年庚午かのえうま、勅みことのりして駿馬ときうまを擢えらぶ使大伴道足みちたり宿禰を遣はせる時の歌一首
原文 奥山之 磐尓蘿生 恐毛 問賜鴨 念不堪國
訓読 奥山の岩に苔生し畏くも問ひたまふかも思ひあへなくに
仮名 おくやまの いはにこけむし かしこくも とひたまふかも おもひあへなくに
左注 右 勅使大伴道足宿祢饗于帥家 此日會集衆諸相誘驛使葛井連廣成言須作歌詞 登時廣成應聲即吟此歌
左注訓 右、勅使みかどつかひ大伴道足宿禰を帥の家に饗あへす。此の日 衆諸を会集へ、駅使はゆまづかひ葛井連廣成を相誘ひ、歌詞 を作むべしと言ふ。登時すなはち廣成声に応へて、此の歌 を吟うたへりき。
校異 推→擢 [元][古][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 此歌 [西] 此謌 [西(訂正)] 此歌
事項 雑歌 作者:葛井広成 大伴道足 太宰府 福岡 宴席 地名 序詞 天平2年 年紀
訓異 いはにこけむし;こけむして, かしこくも;かしこみも, おもひあへなくに;おもひたへなくに, 
   
  06/0963
題詞 冬十一月大伴坂上郎女發帥家上道超筑前國宗形郡名兒山之時作歌一首
題訓 冬十一月しもつき、大伴坂上郎女が帥の家より上道みちだちして、筑前国宗形郡名兒山を超ゆる時よめる歌一首
原文 大汝 小彦名能 神社者 名著始鷄目 名耳乎 名兒山跡負而 吾戀之 干重之一重裳 奈具<佐>米七國
訓読 大汝 少彦名の 神こそば 名付けそめけめ 名のみを 名児山と負ひて 我が恋の 千重の一重も 慰めなくに
仮名 おほなむち すくなひこなの かみこそば なづけそめけめ なのみを なごやまとおひて あがこひの ちへのひとへも なぐさめなくに
左注 なし
校異 名 [元][紀][細] 名々 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 作→佐 [元][紀][細]
事項 雑歌 作者:坂上郎女 羈旅 福岡 望郷 恋情 天平2年11月 年紀 地名
訓異 かみこそば;かみこそは, なづけそめけめ;なつけそめけめ, なのみを;なにのみを, なごやまとおひて;なこやまとおひて, あがこひの;わかこひの, ちへのひとへも;なぐさめなくに;なくさめなくに, 
   
  06/0964
題詞 同坂上郎女向京海路見濱<貝>作歌一首
題訓 同おやじ坂上郎女が京みやこに向のぼる海路うみつぢにて浜の貝を見てよめる歌一首
原文 吾背子尓 戀者苦 暇有者 拾而将去 戀忘貝
訓読 我が背子に恋ふれば苦し暇あらば拾ひて行かむ恋忘貝
仮名 わがせこに こふればくるし いとまあらば ひりひてゆかむ こひわすれがひ
左注 なし
校異 貝 [西(上書訂正)][紀] [寛永]
事項 雑歌 作者:坂上郎女 羈旅 福岡 恋情 天平2年11月 年紀 地名 動物
訓異 わがせこに;わかせこに, こふればくるし;こふるはくるし, いとまあらば;いとまあらは, ひりひてゆかむ;ひろひてゆかむ, こひわすれがひ;こひわすれかひ, 
   
  06/0965
題詞 冬十二月<大>宰帥大伴卿上京<時>娘子作歌二首
題訓 冬十二月しはす、太宰帥おほみこともちのかみ大伴の卿の京に上りたまふ時、娘子をとめがよめる歌二首
原文 凡有者 左毛右毛将為乎 恐跡 振痛袖乎 忍而有香聞
訓読 おほならばかもかもせむを畏みと振りたき袖を忍びてあるかも
仮名 おほならば かもかもせむを かしこみと ふりたきそでを しのびてあるかも
左注 (右大宰帥<大>伴卿兼任大納言向京上道 此日馬駐水城顧望府家 于時送卿府吏之中有遊行女婦 其字曰兒嶋也 於是娘子傷此易別嘆彼難會 拭涕自吟振袖之歌)
校異 太→大 [元][類][紀] / <>→時 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:児島 遊行女婦 太宰府 大伴旅人 別離 恋情 福岡 天平2年12月 年紀 地名 餞別 宴席
訓異 おほならば;おほならは, かもかもせむを;さもtもせむを, かしこみと;かしこしと, ふりたきそでを;ふりたきそてを, しのびてあるかも;しのひてあるかも, 
   
  06/0966
題詞 (冬十二月<大>宰帥大伴卿上京<時>娘子作歌二首)
原文 倭道者 雲隠有 雖然 余振袖乎 無礼登母布奈
訓読 大和道は雲隠りたりしかれども我が振る袖をなめしと思ふな
仮名 やまとぢは くもがくりたり しかれども わがふるそでを なめしともふな
左注 右大宰帥<大>伴卿兼任大納言向京上道 此日馬駐水城顧望府家 于時送卿府吏之中有遊行女婦 其字曰兒嶋也 於是娘子傷此易別嘆彼難會 拭涕自吟振袖之歌
左注訓 右、太宰帥大伴の卿の大納言に兼任めされ、京に向のぼらむ として上道みちだちしたまふ。此の日水城に馬駐め、府家を顧 み望む。時に卿を送る府吏つかさひとの中に遊行女婦うかれめあり。其の 字なを兒島こしまと曰ふ。是に娘子、此の別れ易きを傷み、彼の 会ひ難きを嘆き、涕を拭ひて自ら袖を振る歌を吟うたふ。
校異 太→大 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:児島 遊行女婦 太宰府 大伴旅人 別離 恋情 福岡 天平2年11月 年紀 餞別 宴席 地名
訓異 やまとぢは;やまとちは, くもがくりたり;くもかくれたり, しかれども;しかれとも, わがふるそでを;わかふるそてを, なめしともふな;なけれともふな, 
   
  06/0967
題詞 大納言大伴卿和歌二首
題訓 大納言おほきものまをすつかさ大伴の卿の和へたまへる歌二首
原文 日本道乃 吉備乃兒嶋乎 過而行者 筑紫乃子嶋 所念香聞
訓読 大和道の吉備の児島を過ぎて行かば筑紫の児島思ほえむかも
仮名 やまとぢの きびのこしまを すぎてゆかば つくしのこしま おもほえむかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 聞 [元][紀][温](塙) 裳
事項 雑歌 作者:大伴旅人 児島 太宰府 福岡 別離 恋情 遊行女婦 天平2年11月 餞別 宴席 地名
訓異 やまとぢの;やまとちの, きびのこしまを;きひのこしまを, すぎてゆかば;すきてゆかは, 
   
  06/0968
題詞 (大納言大伴卿和歌二首)
原文 大夫跡 念在吾哉 水莖之 水城之上尓 泣将拭
訓読 ますらをと思へる我れや水茎の水城の上に涙拭はむ
仮名 ますらをと おもへるわれや みづくきの みづきのうへに なみたのごはむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:大伴旅人 児島 太宰府 福岡 別離 恋情 遊行女婦 天平2年11月 餞別 宴席 地名
訓異 みづくきの;みつくきの, みづきのうへに;みつきのうへに, なみたのごはむ;なみたのこはむ, 
   
  06/0969
題詞 三年辛未大納言大伴卿在寧樂家思故郷歌二首
題訓 三年辛未かのとひつじ、大納言大伴の卿の、寧樂の家に在りて故郷ふるさとを思しぬひてよみたまへる歌二首
原文 須臾 去而見<壮>鹿 神名火乃 淵者淺而 瀬二香成良武
訓読 しましくも行きて見てしか神なびの淵はあせにて瀬にかなるらむ
仮名 しましくも ゆきてみてしか かむなびの ふちはあせにて せにかなるらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 牡→壮 [元][類][古][紀]
事項 雑歌 作者:大伴旅人 望郷 奈良 天平3年 年紀 飛鳥 恋慕 地名
訓異 しましくも;たたしはし, ゆきてみてしか;ゆきてみてれか, かむなびの;かひなひの, ふちはあせにて;ふちはあさひて, 
   
  06/0970
題詞 (三年辛未大納言大伴卿在寧樂家思故郷歌二首)
原文 指進乃 粟栖乃小野之 芽花 将落時尓之 行而手向六
訓読 指進の栗栖の小野の萩の花散らむ時にし行きて手向けむ
仮名 ****の くるすのをのの はぎのはな ちらむときにし ゆきてたむけむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:大伴旅人 望郷 亡妻 恋慕 天平3年 年紀 飛鳥 地名 植物
訓異 ****の;さしすきの, はぎのはな;はきのはな, 
   
  06/0971
題詞 四年壬申藤原宇合卿遣西海道節度使之時高橋連蟲麻呂作歌一首[并短歌]
題訓 四年壬申みづのえさる、藤原宇合の卿の西海道にしのうみつぢの節度使に遣はさるる時、高橋連蟲麻呂がよめる歌一首、また短歌
原文 白雲乃 龍田山乃 露霜尓 色附時丹 打超而 客行<公>者 五百隔山 伊去割見 賊守 筑紫尓至 山乃曽伎 野之衣寸見世常 伴部乎 班遣之 山彦乃 将應極 谷潜乃 狭渡極 國方乎 見之賜而 冬<木>成 春去行者 飛鳥乃 早御来 龍田道之 岳邊乃路尓 丹管土乃 将薫時能 櫻花 将開時尓 山多頭能 迎参出六 <公>之来益者
訓読 白雲の 龍田の山の 露霜に 色づく時に うち越えて 旅行く君は 五百重山 い行きさくみ 敵守る 筑紫に至り 山のそき 野のそき見よと 伴の部を 班ち遣はし 山彦の 答へむ極み たにぐくの さ渡る極み 国形を 見したまひて 冬こもり 春さりゆかば 飛ぶ鳥の 早く来まさね 龍田道の 岡辺の道に 丹つつじの にほはむ時の 桜花 咲きなむ時に 山たづの 迎へ参ゐ出む 君が来まさば
仮名 しらくもの たつたのやまの つゆしもに いろづくときに うちこえて たびゆくきみは いほへやま いゆきさくみ あたまもる つくしにいたり やまのそき ののそきみよと とものへを あかちつかはし やまびこの こたへむきはみ たにぐくの さわたるきはみ くにかたを めしたまひて ふゆこもり はるさりゆかば とぶとりの はやくきまさね たつたぢの をかへのみちに につつじの にほはむときの さくらばな さきなむときに やまたづの むかへまゐでむ きみがきまさば
左注 (右檢補任文八月十七日任東山々陰西海節度使)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 君→公 [元][類][紀] / <>→木 [元][類][紀] / 君→公 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂 藤原宇合 羈旅 送別 大夫 天平4年8月17日 年紀 枕詞 植物 地名
訓異 いろづくときに;いろつくときに, たびゆくきみは;たひゆくきみは, いゆきさくみ;いゆきさくみて, あかちつかはし;わかちつかはし, やまびこの;やまひこの, たにぐくの;たにくくの, さわたるきはみ;さわたるきわみ, めしたまひて;みせしたまひて, ふゆこもり;ふゆこなり, はるさりゆかば;はるさりゆけは, とぶとりの;とふとりの, はやくきまさね;はやみきたりて, たつたぢの;たつたちの, につつじの;につつしの, さくらばな;さくらはな, やまたづの;やまたつの, むかへまゐでむ;むかへまゐてむ, きみがきまさば;きみかきませは, 
   
  06/0972
題詞 (四年壬申藤原宇合卿遣西海道節度使之時高橋連蟲麻呂作歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 千萬乃 軍奈利友 言擧不為 取而可来 男常曽念
訓読 千万の軍なりとも言挙げせず取りて来ぬべき男とぞ思ふ
仮名 ちよろづの いくさなりとも ことあげせず とりてきぬべき をのことぞおもふ
左注 右檢補任文八月十七日任東山々陰西海節度使
左注訓
校異 なし
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂 藤原宇合 羈旅 送別 大夫 天平4年8月17日 年紀
訓異 ちよろづの;そこはくの, ことあげせず;ことあけなす, とりてきぬべき;とりてきぬへき, をのことぞおもふ;たけをとそおもふ, 
   
  06/0973
題詞 天皇賜酒節度使卿等御歌一首[并短歌]
題訓 天皇すめらみことの節度使の卿等まへつきみたちに酒おほみき賜へる御歌おほみうた一首、また短歌
原文 食國 遠乃御朝庭尓 汝等之 如是退去者 平久 吾者将遊 手抱而 我者将御在 天皇朕 宇頭乃御手以 掻撫曽 祢宜賜 打撫曽 祢宜賜 将還来日 相飲酒曽 此豊御酒者
訓読 食す国の 遠の朝廷に 汝らが かく罷りなば 平けく 我れは遊ばむ 手抱きて 我れはいまさむ 天皇我れ うづの御手もち かき撫でぞ ねぎたまふ うち撫でぞ ねぎたまふ 帰り来む日 相飲まむ酒ぞ この豊御酒は
仮名 をすくにの とほのみかどに いましらが かくまかりなば たひらけく われはあそばむ たむだきて われはいまさむ すめらわれ うづのみてもち かきなでぞ ねぎたまふ うちなでぞ ねぎたまふ かへりこむひ あひのまむきぞ このとよみきは
左注 (右御歌者或云太上天皇御製也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌
事項 雑歌 作者:聖武天皇 作者異伝 送別 大夫 天平4年 年紀 枕詞 餞別 宴席
訓異 をすくにの;をしくにの, とほのみかどに;とほのみかとに, いましらが;なれかかく, かくまかりなば;いててしゆけは, われはあそばむ;われはあそはむ, たむだきて;たにきりて, すめらわれ;きみのわか, うづのみてもち;うつのみてもて, かきなでぞ;かきなてそ, ねぎたまふ;ねきたまひ, うちなでぞ;うちなてそ, ねぎたまふ;ねきたまひ, あひのまむきぞ;あひのまむさけそ, 
   
  06/0974
題詞 (天皇賜酒節度使卿等御歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 大夫之 去跡云道曽 凡可尓 念而行勿 大夫之伴
訓読 大夫の行くといふ道ぞおほろかに思ひて行くな大夫の伴
仮名 ますらをの ゆくといふみちぞ おほろかに おもひてゆくな ますらをのとも
左注 右御歌者或云太上天皇御製也
左注訓 右ノ御歌ハ、或ハ云ク、太上天皇ノ御製ナリト。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:聖武天皇 作者異伝 送別 大夫 天平4年 餞別 宴席
訓異 ゆくといふみちぞ;ゆくといふみちそ, 
   
  06/0975
題詞 中納言安倍廣庭卿歌一首
題訓 中納言なかのものまをすつかさ安倍廣庭の卿の歌一首
原文 如是為管 在久乎好叙 霊剋 短命乎 長欲為流
訓読 かくしつつあらくをよみぞたまきはる短き命を長く欲りする
仮名 かくしつつ あらくをよみぞ たまきはる みじかきいのちを ながくほりする
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:安倍広庭 宴席 大夫 枕詞
訓異 あらくをよみぞ;あらくをよしそ, みじかきいのちを;みしかきいのちを, ながくほりする;なかくほりする, 
   
  06/0976
題詞 五年癸酉超草香山時神社忌寸老麻呂作歌二首
題訓 五年癸酉みづのととり、草香山を超ゆる時、神社忌寸老麿かみこそのいみきおゆまろがよめる歌二首
原文 難波方 潮干乃奈凝 委曲見 在家妹之 待将問多米
訓読 難波潟潮干のなごりよく見てむ家なる妹が待ち問はむため
仮名 なにはがた しほひのなごり よくみてむ いへなるいもが まちとはむため
左注 なし
校異 歌 [西] 哥 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:神社老麻呂 難波 大阪 望郷 羈旅 土地讃美 天平5年 年紀 地名
訓異 なにはがた;なにはかた, しほひのなごり;しほひのなこり, よくみてむ;まくはしみ, いへなるいもが;いへなるいもか, 
   
  06/0977
題詞 (五年癸酉超草香山時神社忌寸老麻呂作歌二首)
原文 直超乃 此徑尓<弖師> 押照哉 難波乃<海>跡 名附家良思<蒙>
訓読 直越のこの道にしておしてるや難波の海と名付けけらしも
仮名 ただこえの このみちにして おしてるや なにはのうみと なづけけらしも
左注 なし
校異 師弖→弖師 [元][紀][細] / <>→海 [西(右書)][元][類] / 裳→蒙 [元][細]
事項 雑歌 作者:神社老麻呂 難波 大阪 土地讃美 羈旅 天平5年 年紀 枕詞 地名
訓異 ただこえの;たたこえの, なづけけらしも;なつけけらしも, 
   
  06/0978
題詞 山上臣憶良沈痾之時歌一首
題訓 山上臣憶良が沈痾やみこやれる時の歌一首
原文 士也母 空應有 萬代尓 語續可 名者不立之而
訓読 士やも空しくあるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして
仮名 をのこやも むなしくあるべき よろづよに かたりつぐべき なはたてずして
左注 右一首山上憶良臣沈痾之時 藤原<朝>臣八束使河邊朝臣東人 令問所疾之状 於是憶良臣報語已畢 有須拭涕悲嘆口吟此歌
左注訓 右ノ一首ハ、山上憶良臣ガ沈痾ル時、藤原朝臣八束、 河邊朝臣東人ヲシテ、疾メル状ヲ問ハシム。是ニ憶良 臣、報フル語已ニ畢リ、須ク有リテ涕ヲ拭ヒ、悲シミ 嘆キテ此ノ歌ヲ口吟ウタヒキ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→朝 [元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:山上憶良 辞世 大夫 天平5年 年紀
訓異 をのこやも;ひとなれは, むなしくあるべき;むなしかるへし, かたりつぐべき;かたりつくへき, なはたてずして;なはたたすして, 
   
  06/0979
題詞 大伴坂上郎女<与>姪家持従佐保還歸西宅歌一首
題訓 大伴坂上郎女が、姪をひ家持が佐保より西の宅いへに還帰かへるときに与おくれる歌一首
原文 吾背子我 著衣薄 佐保風者 疾莫吹 及<家>左右
訓読 我が背子が着る衣薄し佐保風はいたくな吹きそ家に至るまで
仮名 わがせこが けるきぬうすし さほかぜは いたくなふきそ いへにいたるまで
左注 なし
校異 輿→与 [元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 宅→家 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:坂上郎女 大伴家持 佐保 恋情 相聞的 地名 贈答
訓異 わがせこが;わかせこか, けるきぬうすし;きたるきぬうすし, さほかぜは;さほかせは, いへにいたるまで;いへにいたるまて, 
   
  06/0980
題詞 安倍朝臣蟲麻呂月歌一首
題訓 安倍朝臣蟲麻呂が月の歌一首
原文 雨隠 三笠乃山乎 高御香裳 月乃不出来 夜者更降管
訓読 雨隠り御笠の山を高みかも月の出で来ぬ夜はくたちつつ
仮名 あまごもり みかさのやまを たかみかも つきのいでこぬ よはくたちつつ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:安倍虫麻呂 題詠 地名 奈良
訓異 あまごもり;あまこもり, つきのいでこぬ;つきのいてこぬ, よはくたちつつ;よはふけにつつ, 
   
  06/0981
題詞 大伴坂上郎女月歌三首
題訓 大伴坂上郎女が月の歌三首
原文 猟高乃 高圓山乎 高弥鴨 出来月乃 遅将光
訓読 狩高の高円山を高みかも出で来る月の遅く照るらむ
仮名 かりたかの たかまとやまを たかみかも いでくるつきの おそくてるらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:坂上郎女 題詠 奈良 地名
訓異 かりたかの;かるたかの, いでくるつきの;いてくるつきの, 
   
  06/0982
題詞 (大伴坂上郎女月歌三首)
原文 烏玉乃 夜霧立而 不清 照有月夜乃 見者悲沙
訓読 ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく照れる月夜の見れば悲しさ
仮名 ぬばたまの よぎりのたちて おほほしく てれるつくよの みればかなしさ
左注 なし
校異 玉乃 [類][紀](塙) 玉
事項 雑歌 作者:坂上郎女 題詠 枕詞
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, よぎりのたちて;よきりのたちて, おほほしく;すまさるに, てれるつくよの;てれるつきよの, みればかなしさ;みれはかなしさ, 
   
  06/0983
題詞 (大伴坂上郎女月歌三首)
原文 山葉 左佐良榎<壮>子 天原 門度光 見良久之好藻
訓読 山の端のささら愛壮士天の原門渡る光見らくしよしも
仮名 やまのはの ささらえをとこ あまのはら とわたるひかり みらくしよしも
左注 右一首歌或云 月別名曰佐散良衣壮<士>也 縁此辞作此歌
左注訓
校異 牡→壮 [紀][温][矢] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 哥 / 此歌 [西] 此謌 / <>→士 [類][紀][細]
事項 雑歌 作者:坂上郎女 題詠 月
訓異  
   
  06/0984
題詞 豊前<國>娘子月歌一首 [娘子字曰大宅姓氏未詳也]
題訓 豊前国とよくにのみちのくちの娘子が月の歌一首 娘子字ヲ大宅ト曰フ。姓氏詳ラカナラズ。
原文 雲隠 去方乎無跡 吾戀 月哉君之 欲見為流
訓読 雲隠り去方をなみと我が恋ふる月をや君が見まく欲りする
仮名 くもがくり ゆくへをなみと あがこふる つきをやきみが みまくほりする
左注 なし
校異 <>→國 [西(右書)][紀][細][温] / 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:豊前国娘子 大宅 題詠 恋情 相聞
訓異 くもがくり;くもかくれ, ゆくへをなみと;ゆくへをなしと, あがこふる;わかこふる, つきをやきみが;つきやきみかし, 
   
  06/0985
題詞 湯原王月歌二首
題訓 湯原王の月の歌二首
原文 天尓座 月讀<壮>子 幣者将為 今夜乃長者 五百夜継許増
訓読 天にます月読壮士賄はせむ今夜の長さ五百夜継ぎこそ
仮名 あめにます つくよみをとこ まひはせむ こよひのながさ いほよつぎこそ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 哥 / 牡→壮 [紀][温][矢]
事項 雑歌 作者:湯原王 題詠 相聞
訓異 つくよみをとこ;つきよみをとこ, こよひのながさ;こよひのなかさ, いほよつぎこそ;いほよつきこそ, 
   
  06/0986
題詞 (湯原王月歌二首)
原文 愛也思 不遠里乃 君来跡 大能備尓鴨 月之照有
訓読 はしきやし間近き里の君来むとおほのびにかも月の照りたる
仮名 はしきやし まちかきさとの きみこむと おほのびにかも つきのてりたる
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:湯原王 題詠 恋情 相聞
訓異 はしきやし;よしえやし, きみこむと;きみくやと, おほのびにかも;おほのひにかも, つきのてりたる;つきのてらせる, 
   
  06/0987
題詞 藤原八束朝臣月歌一首
題訓 藤原八束朝臣が月の歌一首
原文 待難尓 余為月者 妹之著 三笠山尓 隠而有来
訓読 待ちかてに我がする月は妹が着る御笠の山に隠りてありけり
仮名 まちかてに わがするつきは いもがきる みかさのやまに こもりてありけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:藤原八束 題詠 恋情 相聞 比喩 奈良 地名 枕詞
訓異 わがするつきは;わかするつきは, いもがきる;いもかきる, こもりてありけり;かくれてありけり, 
   
  06/0988
題詞 市原王宴祷父安貴王歌一首
題訓 市原王の宴に父安貴王を祷ほきませる歌一首
原文 春草者 後<波>落易 巌成 常磐尓座 貴吾君
訓読 春草は後はうつろふ巌なす常盤にいませ貴き我が君
仮名 はるくさは のちはうつろふ いはほなす ときはにいませ たふときあがきみ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 者→波 [類][紀][古]
事項 雑歌 作者:市原王 安貴王 寿歌 父 儒教 永遠 植物
訓異 のちはうつろふ;のちはかれやすし, たふときあがきみ;かしこきわかきみ, 
   
  06/0989
題詞 湯原王打酒歌一首
題訓 湯原王の打酒さかほかひの歌一首
原文 焼刀之 加度打放 大夫之 祷豊御酒尓 吾酔尓家里
訓読 焼太刀のかど打ち放ち大夫の寿く豊御酒に我れ酔ひにけり
仮名 やきたちの かどうちはなち ますらをの ほくとよみきに われゑひにけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:湯原王 謝酒 宴席
訓異 かどうちはなち;かとうちはなつ, ほくとよみきに;つくとよみきに, われゑひにけり;われゑいにけり, 
   
  06/0990
題詞 紀朝臣鹿人<跡>見茂岡之松樹歌一首
題訓 紀朝臣鹿人かひとが跡見とみの茂岡しげをかの松の樹の歌一首
原文 茂岡尓 神佐備立而 榮有 千代松樹乃 歳之不知久
訓読 茂岡に神さび立ちて栄えたる千代松の木の年の知らなく
仮名 しげをかに かむさびたちて さかえたる ちよまつのきの としのしらなく
左注 なし
校異 <>→跡 [紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:紀鹿人 桜井 奈良 土地讃美 大伴荘園 植物 地名
訓異 しげをかに;しけをかに, かむさびたちて;かみさひたちて, さかえたる;さかへたる, 
   
  06/0991
題詞 同鹿人至泊瀬河邊作歌一首
題訓 同じ鹿人が泊瀬河の辺ほとりに至りてよめる歌一首
原文 石走 多藝千流留 泊瀬河 絶事無 亦毛来而将見
訓読 石走りたぎち流るる泊瀬川絶ゆることなくまたも来て見む
仮名 いはばしり たぎちながるる はつせがは たゆることなく またもきてみむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:紀鹿人 桜井 奈良 土地讃美 大伴荘園 地名
訓異 いはばしり;いしはしる, たぎちながるる;たきちなかるる, はつせがは;はつせかは, 
   
  06/0992
題詞 大伴坂上郎女詠元興寺之里歌一首
題訓 大伴坂上郎女が元興寺の里を詠める歌一首
原文 古郷之 飛鳥者雖有 青丹吉 平城之明日香乎 見樂思好裳
訓読 故郷の飛鳥はあれどあをによし奈良の明日香を見らくしよしも
仮名 ふるさとの あすかはあれど あをによし ならのあすかを みらくしよしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:坂上郎女 飛鳥 奈良 土地讃美 望郷 地名
訓異 あすかはあれど;あすかはあれと, 
   
  06/0993
題詞 同坂上郎女初月歌一首
題訓 同じ坂上郎女が初月みかつきの歌一首
原文 月立而 直三日月之 眉根掻 氣長戀之 君尓相有鴨
訓読 月立ちてただ三日月の眉根掻き日長く恋ひし君に逢へるかも
仮名 つきたちて ただみかづきの まよねかき けながくこひし きみにあへるかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:坂上郎女 相聞
訓異 ただみかづきの;たたみかつきの, まよねかき;まゆねかき, けながくこひし;けなかくこひし, 
   
  06/0994
題詞 大伴宿祢家持初月歌一首
題訓 大伴宿禰家持が初月の歌一首
原文 振仰而 若月見者 一目見之 人乃眉引 所念可聞
訓読 振り放けて三日月見れば一目見し人の眉引き思ほゆるかも
仮名 ふりさけて みかづきみれば ひとめみし ひとのまよびき おもほゆるかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:大伴家持 恋情 相聞 題詠 練習
訓異 みかづきみれば;みかつきみれは, ひとのまよびき;ひとのまよひき, 
   
  06/0995
題詞 大伴坂上郎女宴親族歌一首
題訓 大伴坂上郎女が親族うがらと宴せる歌一首
原文 如是為乍 遊飲與 草木尚 春者生管 秋者落去
訓読 かくしつつ遊び飲みこそ草木すら春は咲きつつ秋は散りゆく
仮名 かくしつつ あそびのみこそ くさきすら はるはさきつつ あきはちりゆく
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:坂上郎女 宴席 植物
訓異 あそびのみこそ;あそひのむとも, はるはさきつつ;はるはもえつつ, 
   
  06/0996
題詞 六年甲戌海犬養宿祢岡麻呂應詔歌一首
題訓 六年むとせといふとし甲戌きのえいぬ、海犬養宿禰あまのいぬかひのすくね岡麿が詔みことのりを応うけたまはりてよめる歌一首
原文 御民吾 生有驗在 天地之 榮時尓 相樂念者
訓読 御民我れ生ける験あり天地の栄ゆる時にあへらく思へば
仮名 みたみわれ いけるしるしあり あめつちの さかゆるときに あへらくおもへば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:海犬養岡麻呂 応詔 天平6年 年紀
訓異 みたみわれ;みたからの, いけるしるしあり;わかいけるしるしあり, あへらくおもへば;あふらくおもへは, 
   
  06/0997
題詞 春三月幸于難波宮之時歌六首
題訓 春三月やよひ、難波の宮に幸せる時の歌六首
原文 住吉乃 粉濱之四時美 開藻不見 隠耳哉 戀度南
訓読 住吉の粉浜のしじみ開けもみず隠りてのみや恋ひわたりなむ
仮名 すみのえの こはまのしじみ あけもみず こもりてのみや こひわたりなむ
左注 右一首作者未詳
左注訓 右の一首ひとうたは、作者よみひと未詳しらず。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 行幸 羈旅 望郷 恋情 難波 大阪 天平6年3月 年紀 地名 動物
訓異 こはまのしじみ;こはまのししみ, あけもみず;あけもみす, こもりてのみや;しのひてのみや, 
   
  06/0998
題詞 (春三月幸于難波宮之時歌六首)
原文 如眉 雲居尓所見 阿波乃山 懸而榜舟 泊不知毛
訓読 眉のごと雲居に見ゆる阿波の山懸けて漕ぐ舟泊り知らずも
仮名 まよのごと くもゐにみゆる あはのやま かけてこぐふね とまりしらずも
左注 右一首船王作
左注訓 右の一首は、船王ふねのおほきみのよみたまへる。
校異 なし
事項 雑歌 作者:船王 行幸 羈旅 大阪 難波 黒人 不安 恋情 天平6年3月 年紀 地名
訓異 まよのごと;まゆのこと, かけてこぐふね;かけてこくふね, とまりしらずも;とまりしらすも, 
   
  06/0999
題詞 (春三月幸于難波宮之時歌六首)
原文 従千<沼>廻 雨曽零来 四八津之白水郎 <綱手>乾有 沾将堪香聞
訓読 茅渟廻より雨ぞ降り来る四極の海人綱手干したり濡れもあへむかも
仮名 ちぬみより あめぞふりくる しはつのあま つなでほしたり ぬれもあへむかも
左注 右一首遊覧住吉濱還宮之時道上守部王應詔作歌
左注訓 右の一首は、住吉の浜に遊覧あそびて、宮に還りたまへる時 の道にて、守部王もりべのおほきみの詔を応うけたまはりてよみたまへる歌。
校異 紹→沼 [元][類][紀] / 網手綱→綱手 [万葉集古義] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:守部王 行幸 羈旅 長意吉麻呂 大阪 天平6年3月 年紀 地名 応詔
訓異 ちぬみより;ちぬわより, あめぞふりくる;あめそふりくる, つなでほしたり;あみてなはほせり, ぬれもあへむかも;ぬれてたへむかも, 
   
  06/1000
題詞 (春三月幸于難波宮之時歌六首)
原文 兒等之有者 二人将聞乎 奥渚尓 鳴成多頭乃 暁之聲
訓読 子らしあらばふたり聞かむを沖つ洲に鳴くなる鶴の暁の声
仮名 こらしあらば ふたりきかむを おきつすに なくなるたづの あかときのこゑ
左注 右一首守部王作
左注訓 右の一首は、守部王のよみたまへる。
校異 なし
事項 雑歌 作者:守部王 行幸 大阪 恋情 望郷 天平6年3月 年紀 地名
訓異 こらしあらば;こらかあらは, なくなるたづの;なくなるたつの, あかときのこゑ;あかつきのこゑ
   
  06/1001
題詞 (春三月幸于難波宮之時歌六首)
原文 大夫者 御<猟>尓立之 未通女等者 赤裳須素引 清濱備乎
訓読 大夫は御狩に立たし娘子らは赤裳裾引く清き浜びを
仮名 ますらをは みかりにたたし をとめらは あかもすそひく きよきはまびを
左注 右一首山部宿祢赤人作
左注訓 右の一首は、山部宿禰赤人がよめる。
校異 臈→猟 [西(左貼紙)][元][類][紀]
事項 雑歌 作者:山部赤人 行幸 大阪 難波 従駕 宮廷歌人 天平6年3月 年紀 地名
訓異 あかもすそひく;あかもすそひき, きよきはまびを;きよきはまへを, 
   
  06/1002
題詞 (春三月幸于難波宮之時歌六首)
原文 馬之歩 押止駐余 住吉之 岸乃黄土 尓保比而将去
訓読 馬の歩み抑へ留めよ住吉の岸の埴生ににほひて行かむ
仮名 うまのあゆみ おさへとどめよ すみのえの きしのはにふに にほひてゆかむ
左注 右一首安<倍>朝臣豊継作
左注訓 右の一首は、安倍朝臣豊継がよめる。
校異 部→倍 [元][細]
事項 雑歌 作者:安倍豊継 行幸 羈旅 土地讃美 大阪 難波 天平6年3月 地名
訓異 おさへとどめよ;をしてととめよ, 
   
  06/1003
題詞 筑後守外従五位下葛井連大成遥見海人釣船作歌一首
題訓 筑後守つくしのみちのしりのかみ外従五位とのひろきいつつのくらゐ下しもつしな葛井連大成が海人の釣船を遥見みさけてよめる歌一首
題訓 筑後守つくしのみちのしりのかみ外従五位とのひろきいつつのくらゐ下しもつしな葛井連大成が海人の釣船を遥見みさけてよめる歌一首
原文 海D嬬 玉求良之 奥浪 恐海尓 船出為利所見
訓読 海女娘子玉求むらし沖つ波畏き海に舟出せり見ゆ
仮名 あまをとめ たまもとむらし おきつなみ かしこきうみに ふなでせりみゆ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:葛井大成 羈旅 佐賀 土地 叙景 漁夫 地名 属目
訓異 ふなでせりみゆ;ふなてせりみゆ, 
   
  06/1004
題詞 按作村主益人歌一首
題訓 按作村主益人くらつくりのすくりますひとが歌一首
原文 不所念 来座君乎 <佐>保<川>乃 河蝦不令聞 還都流香聞
訓読 思ほえず来ましし君を佐保川のかはづ聞かせず帰しつるかも
仮名 おもほえず きまししきみを さほがはの かはづきかせず かへしつるかも
左注 右内<匠>大属按作村主益人聊設<飲饌>以饗長官佐為王 未及日斜王既還歸 於時益人怜惜不猒之歸仍作此歌
左注訓 右、内匠大属按作村主益人、聊カ飲饌ヲ設ケ、以テ長官 佐為王ヲ饗ス。未ダ日斜クタツニ及バズシテ王既ク還帰カヘル。 時ニ益人、厭アカズシテ帰ルコトヲ怜惜ヲシミテ、仍チ此ノ歌 ヲ作ム。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 左→佐 [元][類][紀] / 河→川 [元][類][紀] / 匠寮→匠 [元][紀] / 饌飲→飲饌 [元][紀] / 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:按作益人 宴席 主人 も賸渧賖 佐為王 別悞 哀惜 地名 奈良
訓異 おもほえず;おもほえす, きまししきみを;きませるきみを, さほがはの;さほかはの, かはづきかせず;かはつきかせて, かへしつるかも;かへりつるかも, 
   
  06/1005
題詞 八年丙子夏六月幸于芳野離宮之時山<邊>宿祢赤人應詔作歌一首[并短歌]
題訓 八年やとせといふとし丙子ひのえね夏六月みなつき、芳野の離宮とつみやに幸いでませる時、山部宿禰赤人が詔を応うけたまはりてよめる歌一首、また短歌
原文 八隅知之 我大王之 見給 芳野宮者 山高 雲曽軽引 河速弥 湍之聲曽清寸 神佐備而 見者貴久 宜名倍 見者清之 此山<乃> 盡者耳社 此河乃 絶者耳社 百師紀能 大宮所 止時裳有目
訓読 やすみしし 我が大君の 見したまふ 吉野の宮は 山高み 雲ぞたなびく 川早み 瀬の音ぞ清き 神さびて 見れば貴く よろしなへ 見ればさやけし この山の 尽きばのみこそ この川の 絶えばのみこそ ももしきの 大宮所 やむ時もあらめ
仮名 やすみしし わがおほきみの めしたまふ よしののみやは やまたかみ くもぞたなびく かははやみ せのおとぞきよき かむさびて みればたふとき よろしなへ みればさやけし このやまの つきばのみこそ このかはの たえばのみこそ ももしきの おほみやところ やむときもあらめ
左注 なし
校異 部→邊 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短哥 / 久 (楓) 之 / 之→乃 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:山部赤人 行幸 従駕 応詔 吉野 離宮 宮廷讃美 天平8年6月 年紀 地名
訓異 わがおほきみの;わかおおきみの, めしたまふ;みせたまふ, くもぞたなびく;くもそたなひく, せのおとぞきよき;せのおとそきよき, かむさびて;かみさひて, みればたふとき;みれはたふとく, みればさやけし;みれはさやけし, つきばのみこそ;つきはのみこそ, たえばのみこそ;たえはのみこそ, 
   
  06/1006
題詞 (八年丙子夏六月幸于芳野離宮之時山<邊>宿祢赤人應詔作歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 自神代 芳野宮尓 蟻通 高所知者 山河乎吉三
訓読 神代より吉野の宮にあり通ひ高知らせるは山川をよみ
仮名 かむよより よしののみやに ありがよひ たかしらせるは やまかはをよみ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:山部赤人 行幸 従駕 応詔 吉野 離宮 讃美 天平8年6月 年紀 地名
訓異 かむよより;かみよより, ありがよひ;ありかよひ, たかしらせるは;たかくしれるは, 
   
  06/1007
題詞 市原王悲獨子歌一首
題訓 市原王の独り子を悲しみたまへる歌一首
原文 言不問 木尚妹與兄 有云乎 直獨子尓 有之苦者
訓読 言問はぬ木すら妹と兄とありといふをただ独り子にあるが苦しさ
仮名 こととはぬ きすらいもとせと ありといふを ただひとりこに あるがくるしさ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:市原王 独り 悲哀
訓異 きすらいもとせと;きすらいもとせ, ただひとりこに;たたひとりこに, あるがくるしさ;あるかくるしさ, 
   
  06/1008
題詞 忌部首黒麻呂恨友賖来歌一首
題訓 忌部首黒麿いみべのおびとくろまろが友の来ること遅きを恨むる歌一首
原文 山之葉尓 不知世經月乃 将出香常 我待君之 夜者更降管
訓読 山の端にいさよふ月の出でむかと我が待つ君が夜はくたちつつ
仮名 やまのはに いさよふつきの いでむかと わがまつきみが よはくたちつつ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:忌部黒麻呂 怨恨 待攦 宴席
訓異 いでむかと;いてむかと, わがまつきみが;わかまつきみか, よはくたちつつ;よはふけにつつ, 
   
  06/1009
題詞 冬十一月左大辨葛城王等賜姓橘氏之時御製歌一首
題訓 冬十一月しもつき、左大弁ひだりのおほきおほともひ葛城王かづらきのおほきみ等たちに、橘の氏うぢを賜姓たまへる時、みよみませる御製歌おほみうた一首
原文 橘者 實左倍花左倍 其葉左倍 枝尓霜雖降 益常葉之<樹>
訓読 橘は実さへ花さへその葉さへ枝に霜降れどいや常葉の木
仮名 たちばなは みさへはなさへ そのはさへ えにしもふれど いやとこはのき
左注 右冬十一月九日 従三位葛城王従四位上佐為王等 辞皇族之高名 賜外家之橘姓已訖 於時太上天皇々后共在于皇后宮 以為肆宴而即御製賀橘之歌 并賜御酒宿祢等也 或云 此歌一首太上天皇御歌 但天皇々后御歌各有一首者 其歌遺落未得<探>求焉 今檢案内 八年十一月九日葛城王等願橘宿祢之姓上表 以十七日依表乞賜橘宿祢
左注訓 右、冬十一月九日、従三位葛城王、従四位上佐為王等、 皇族ノ高名ヲ辞シ、外家ノ橘姓ヲ賜フコト已ニ訖リヌ。 時ニ太上天皇、皇后、共ニ皇后宮ニ在シテ、肆宴ヲ為シ、 即チ橘ヲ賀ホク歌ヲ御製シ、マタ御酒ヲ宿禰等ニ賜フ。 或ハ云ク、此ノ歌一首、太上天皇ノ御歌ナリ。但シ天皇 皇后ノ御歌ハ各一首有リ。其ノ歌遺落シテ探リ求ムルコ トヲ得ズ。今案内ヲ検フルニ、八年十一月九日、葛城王 等橘宿禰ノ姓ヲ願ヒ表ヲ上ル。十七日ヲ以テ表ニ依リ乞 ヒ橘宿禰ヲ賜フト。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 樹 [西(上書訂正)][元][類] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 此歌 [西] 此謌 [西(訂正)] 此歌 / 御歌 [西] 御哥 [西(訂正)] 御歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 其歌 [西] 其謌 [西(訂正)] 其歌 / 採→探 [元][紀]
事項 雑歌 作者:聖武天皇 元正天皇 作者異伝 讃美 宴席 寿歌 祝媿 天平8年11月 植物
訓異 たちばなは;たちはなは, えにしもふれど;えたにしもおけと, いやとこはのき;ましとこはのき, 
   
  06/1010
題詞 橘宿祢奈良麻呂應詔歌一首
題訓 橘宿禰奈良麿が詔を応りてよめる歌一首
原文 奥山之 真木葉凌 零雪乃 零者雖益 地尓落目八方
訓読 奥山の真木の葉しのぎ降る雪の降りは増すとも地に落ちめやも
仮名 おくやまの まきのはしのぎ ふるゆきの ふりはますとも つちにおちめやも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:橘奈良麻呂 応詔 寿歌 祝媿 天平8年11月 植物
訓異 まきのはしのぎ;まきのはしのき, 
   
  06/1011
題詞 冬十二月十二日歌儛所之諸王臣子等集葛井連廣成家宴歌二首 / 比来古儛盛興 古歳漸晩 理宜共盡古情同唱<古>歌 故擬此趣<輙>獻古曲二節 風流意氣之士儻有此集之中 争發念心々和古體
題訓 冬十二月しはすの十二日とをまりふつかのひ、歌舞所うたまひどころの諸王臣子等おほきみまへつきみたち、葛井連廣成が家に集ひて宴せる歌二首
比来古舞盛ニ興リテ、古歳漸ヤヤク晩クレヌ。理、共ニ古情ヲ尽シテ、同ニ此ノ歌ヲ唄フベシ。故ニ此ノ趣ニ擬ヘテ、輙スナハチ古曲二節ヲ献ル。風流意気ノ士、儻モシ此ノ集ノ中ニ在ラバ、発念ヲ争ヒ、心々ニ古体ニ和ヘヨ。
原文 我屋戸之 梅咲有跡 告遣者 来云似有 散去十方吉
訓読 我が宿の梅咲きたりと告げ遣らば来と言ふに似たり散りぬともよし
仮名 わがやどの うめさきたりと つげやらば こといふににたり ちりぬともよし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 宴歌 [西] 宴謌 [西(訂正)] 宴歌 / 此→古 [元(赭)] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→輙 [西(右書)][類][紀]
事項 雑歌 古歌 唱和 伝誦 葛井広成 風流 天平8年12月12日 年紀 植物
訓異 わがやどの;わかやとの, つげやらば;つけやらは, こといふににたり;こてふににたり, 
   
  06/1012
題詞 (冬十二月十二日歌儛所之諸王臣子等集葛井連廣成家宴歌二首 / 比来古儛盛興 古歳漸晩 理宜共盡古情同唱<古>歌 故擬此趣<輙>獻古曲二節 風流意氣之士儻有此集之中 争發念心々和古體)
原文 春去者 乎呼理尓乎呼里 鴬<之 鳴>吾嶋曽 不息通為
訓読 春さればををりにををり鴬の鳴く我が山斎ぞやまず通はせ
仮名 はるされば ををりにををり うぐひすの なくわがしまぞ やまずかよはせ
左注 なし
校異 <>→之鳴 [西(左書)][元][類][紀]
事項 雑歌 古歌 唱和 伝誦 葛井広成 風流 天平8年12月12日 年紀 動物
訓異 はるされば;はるされは, うぐひすの;うくひすの, なくわがしまぞ;なくわかしまそ, やまずかよはせ;やますかよはせ, 
   
  06/1013
題詞 九年丁丑春正月橘少卿并諸大夫等集弾正尹門部王家宴歌二首
題訓 九年ここのとせといふとし丁丑ひのとうし春正月むつき、橘少卿たちばなのおとまへつきみ、また諸大夫等まへつきみたちの、弾正尹ただすつかさのかみ門部王の家に集ひて宴せる歌二首
原文 豫 公来座武跡 知麻世婆 門尓屋戸尓毛 珠敷益乎
訓読 あらかじめ君来まさむと知らませば門に宿にも玉敷かましを
仮名 あらかじめ きみきまさむと しらませば かどにやどにも たましかましを
左注 右一首主人門部王 [後賜姓大原真人氏也]
左注訓 右の一首は、主人あろじ門部王 後、大原真人氏ヲ賜姓フ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:門部王 宴席 歓迎 天平9年1月 年紀
訓異 あらかじめ;かねてより, しらませば;しらませは, かどにやどにも;かとにやとにも, 
   
  06/1014
題詞 (九年丁丑春正月橘少卿并諸大夫等集弾正尹門部王家宴歌二首)
原文 前日毛 昨日毛<今>日毛 雖見 明日左倍見巻 欲寸君香聞
訓読 一昨日も昨日も今日も見つれども明日さへ見まく欲しき君かも
仮名 をとつひも きのふもけふも みつれども あすさへみまく ほしききみかも
左注 右一首橘宿祢文成 [即少卿之子也]
左注訓 右の一首は、橘宿禰文成あやなり 少卿ノ子ナリ。
校異 尓→今 [西(貼紙)][元][類][紀]
事項 雑歌 作者:橘文成 宴席 主人讃美 天平9年
訓異 をとつひも;さきつひも, みつれども;みつれとも, 
   
  06/1015
題詞 榎井王後追和歌一首 [志貴親王之子也]
題訓 榎井王の後に追ひて和へたまへる歌一首
原文 玉敷而 待益欲利者 多鷄蘇香仁 来有今夜四 樂所念
訓読 玉敷きて待たましよりはたけそかに来る今夜し楽しく思ほゆ
仮名 たましきて またましよりは たけそかに きたるこよひし たのしくおもほゆ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:榎井王 追和 門部王 宴席
訓異 たのしくおもほゆ;たのくおもほゆ, 
   
  06/1016
題詞 春二月諸大夫等集左少辨巨勢宿奈麻呂朝臣家宴歌一首
題訓 春二月きさらき、諸大夫等、左少弁ひだりのすなきおほともひ巨勢宿奈麻呂朝臣の家に集ひて宴せる歌一首
原文 海原之 遠渡乎 遊士之 遊乎将見登 莫津左比曽来之
訓読 海原の遠き渡りを風流士の遊ぶを見むとなづさひぞ来し
仮名 うなはらの とほきわたりを みやびをの あそぶをみむと なづさひぞこし
左注 右一首書白紙懸著屋壁也 題云 蓬莱仙媛所<化>嚢蘰 為風流秀才之士矣 斯凡客不所望見哉
左注訓 右ノ一首ハ、白紙ニ書キテ屋ノ壁ニ懸ケ著ケタリ。 題シテ云ク、蓬莱ノ仙媛ノ作メル。謾ニ風流秀才ノ 士ノ為ナリ。斯凡客ノ望ミ見ル所ニアラズカト。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→化 [元][類][紀]
事項 雑歌 巨勢宿奈麻呂 宴席 風流 神仙 遊び 天平9年2月
訓異 みやびをの;たわれをの, あそぶをみむと;あそふをみむと, なづさひぞこし;なつさひそこし, 
   
  06/1017
題詞 夏四月大伴坂上郎女奉拝賀茂神社之時便超相坂山望見近江海而晩頭還来作歌一首
題訓 夏四月うつき、大伴坂上郎女が賀茂の神社かみのやしろを拝をろがみ奉る時、相坂山を超え、近江の海を望見みさけて、晩頭ゆふへに還り来たるときよめる歌一首
原文 木綿疊 手向乃山乎 今日<越>而 何野邊尓 廬将為<吾>等
訓読 木綿畳手向けの山を今日越えていづれの野辺に廬りせむ我れ
仮名 ゆふたたみ たむけのやまを けふこえて いづれののへに いほりせむわれ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 超→越 [元][類] / 子→吾 [元][類][紀][細]
事項 雑歌 作者:坂上郎女 京都 羈旅 黒人 旅愁 天平9年4月
訓異 いづれののへに;いつれののへに, いほりせむわれ;いほりせむこら, 
   
  06/1018
題詞 十年戊寅元興寺之僧自嘆歌一首
題訓 十年ととせといふとし戊寅つちのえとら、元興寺ぐわむこうじの僧ほうしが自ら嘆く歌一首
原文 白珠者 人尓不所知 不知友縦 雖不知 吾之知有者 不知友任意
訓読 白玉は人に知らえず知らずともよし知らずとも我れし知れらば知らずともよし
仮名 しらたまは ひとにしらえず しらずともよし しらずとも われししれらば しらずともよし
左注 右一首<或云> 元興寺之僧獨覺多智 未有顯聞 衆諸<狎>侮 因此僧作此歌 自嘆身才也
左注訓 右ノ一首ハ、或ハ云ク、元興寺ノ僧、独リ覚リテ智多ケレドモ、 顕聞スルトコロ有ラズ、衆諸狎侮アナヅリキ。此ニ因リテ僧此ノ歌ヲ 作ヨミ、自ラ身ノ才ヲ嘆ク。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→或云 [元][細] / 押→狎 [代匠記精撰本] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:元興寺僧 孤高 天平10年 年紀
訓異 ひとにしらえず;ひとにしられす, しらずともよし;しらすともよし, しらずとも;しらすとも, われししれらば;われししれらは, しらずともよし;しらすともよし, 
   
  06/1019
題詞 石上乙麻呂卿配土左國之時歌三首[并短歌]
題訓 石上乙麿いそのかみのおとまろの卿まへつきみの、土佐の国に配はなたえし時の歌三首、また短歌
原文 石上 振乃尊者 弱女乃 或尓縁而 馬自物 縄取附 肉自物 弓笶圍而 王 命恐 天離 夷部尓退 古衣 又打山従 還来奴香聞
訓読 石上 布留の命は 手弱女の 惑ひによりて 馬じもの 縄取り付け 獣じもの 弓矢囲みて 大君の 命畏み 天離る 鄙辺に罷る 古衣 真土の山ゆ 帰り来ぬかも
仮名 いそのかみ ふるのみことは たわやめの まどひによりて うまじもの なはとりつけ ししじもの ゆみやかくみて おほきみの みことかしこみ あまざかる ひなへにまかる ふるころも まつちのやまゆ かへりこぬかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌
事項 雑歌 石上乙麻呂 流罪 久米若賣 密通 天平11年 年紀 土佐 高知 同情 歌語り
訓異 まどひによりて;まとひによりて, うまじもの;むましもの, なはとりつけ;なはとりつけて, ししじもの;しししもの, ゆみやかくみて;ゆみやかこみて, あまざかる;あまさかる, ひなへにまかる;ひなへにまかり, まつちのやまゆ;まつちやまより, 
   
  06/1020
題詞 (石上乙麻呂卿配土佐國之時歌三首[并短歌])
原文 王 命恐見 刺<並> 國尓出座 <愛>耶 吾背乃公<矣>
訓読 大君の 命畏み さし並ぶ 国に出でます はしきやし 我が背の君を
仮名 おほきみの みことかしこみ さしならぶ くににいでます はしきやし わがせのきみを
   
  06/1021
原文 繋巻裳 湯々石恐石 住吉乃 荒人神 <船>舳尓 牛吐賜 付賜将 嶋之<埼>前 依賜将 礒乃埼前 荒浪 風尓不<令>遇 <莫>管見 身疾不有 急 令變賜根 本國部尓
訓読 かけまくも ゆゆし畏し 住吉の 現人神 船舳に うしはきたまひ 着きたまはむ 島の崎々 寄りたまはむ 磯の崎々 荒き波 風にあはせず 障みなく 病あらせず 速けく 帰したまはね もとの国辺に
仮名 かけまくも ゆゆしかしこし すみのえの あらひとがみ ふなのへに うしはきたまひ つきたまはむ しまのさきざき よりたまはむ いそのさきざき あらきなみ かぜにあはせず つつみなく やまひあらせず すむやけく かへしたまはね もとのくにへに
左注 なし
左注訓 右の二首は、石上の卿の妻めがよめる。
校異 並之→並 [元][紀][細] / <>→愛 [万葉集注釈] / 矣 [西(上書訂正)][元][紀][細] / 舡→船 [元][紀][細] / 崎→埼 [元][細] / 合→令 [元][紀][細] / 草→莫 [玉勝間]
事項 雑歌 石上乙麻呂 流罪 久米若賣 密通 天平11年 年紀 土佐 高知 同情 歌語り
訓異 さしならぶ;さしなみし, くににいでます;くににいてますや, はしきやし, わがせのきみを;わかせのきみを, あらひとがみ;あらひとかみの, しまのさきざき;しまのさきさき, いそのさきざき;いそのさきさき, あらきなみ;あらなみの, かぜにあはせず;かせにあはせす, つつみなく;くさつつみ, やまひあらせず;やまひあらせす, すむやけく;すみやかに, かへしたまはね;かはりたまはね, 
   
  06/1022
題詞 (石上乙麻呂卿配土佐國之時歌三首[并短歌])
原文 父公尓 吾者真名子叙 妣刀自尓 吾者愛兒叙 参昇 八十氏人乃 手向<為> 恐乃坂尓 <幣>奉 吾者叙追 遠杵土左道矣
訓読 父君に 我れは愛子ぞ 母刀自に 我れは愛子ぞ 参ゐ上る 八十氏人の 手向けする 畏の坂に 幣奉り 我れはぞ追へる 遠き土佐道を
仮名 ちちぎみに われはまなごぞ ははとじに われはまなごぞ まゐのぼる やそうぢひとの たむけする かしこのさかに ぬさまつり われはぞおへる とほきとさぢを
左注 なし
校異 為等→為 [元][細] / 弊→幣 [元][細]
事項 雑歌 石上乙麻呂 流罪 久米若賣 密通 天平11年 土佐 高知 同情 歌語り
訓異 ちちぎみに;ちちきみに, われはまなごぞ;われはまなこそ, ははとじに;ははとしに, われはまなごぞ;われはまなこそ, まゐのぼる;まうのほり, やそうぢひとの;やそうちひとの, たむけする;たむけすと, われはぞおへる;われはそおへる, とほきとさぢを;とほきとさちを, 
   
  06/1023
題詞 (石上乙麻呂卿配土佐國之時歌三首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 大埼乃 神之小濱者 雖小 百船<純>毛 過迹云莫國
訓読 大崎の神の小浜は狭けども百舟人も過ぐと言はなくに
仮名 おほさきの かみのをばまは せばけども ももふなびとも すぐといはなくに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 能→純 [元][類][紀]
事項 雑歌 石上乙麻呂 流罪 久米若賣 密通 天平11年 年紀 土佐 高知 同情 歌語り
訓異 かみのをばまは;かみのをはまは, せばけども;せはけれと, ももふなびとも;ももふなひとも, すぐといはなくに;すくといはなくに, 
   
  06/1024
題詞 秋八月廿日宴右大臣橘家歌四首
題訓 秋八月はつき二十日はつかのひ、右大臣みぎのおほまへつきみ橘の家に宴せる歌四首
原文 長門有 奥津借嶋 奥真經而 吾念君者 千歳尓母我毛
訓読 長門なる沖つ借島奥まへて我が思ふ君は千年にもがも
仮名 ながとなる おきつかりしま おくまへて あがもふきみは ちとせにもがも
左注 右一首長門守巨曽倍對馬朝臣
左注訓 右の一歌は、長門守巨曽倍對馬こそべのつしま朝臣。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:巨曽倍對馬 橘諸兄 天平11年8月20日 年紀 主人讃美 宴席 山口 長門 長寿 地名
訓異 ながとなる;なかとなる, おくまへて;おきまへて, あがもふきみは;わかおもふきみは, ちとせにもがも;ちとせにもかも, 
   
  06/1025
題詞 (秋八月廿日宴右大臣橘家歌四首)
原文 奥真經而 吾乎念流 吾背子者 千<年>五百歳 有巨勢奴香聞
訓読 奥まへて我れを思へる我が背子は千年五百年ありこせぬかも
仮名 おくまへて われをおもへる わがせこは ちとせいほとせ ありこせぬかも
左注 右一首右大臣和歌
左注訓 右の一歌は、右大臣の和へたまへる歌。
校異 歳→年 [元][類][紀] / 歌 [西] 哥 [西(訂正)] 謌
事項 雑歌 作者:橘諸兄 天平11年8月20日 年紀 宴席 長寿
訓異 おくまへて;おきまへて, わがせこは;わかせこは, 
   
  06/1026
題詞 (秋八月廿日宴右大臣橘家歌四首)
原文 百礒城乃 大宮人者 今日毛鴨 暇<无>跡 里尓不<出>将有
訓読 ももしきの大宮人は今日もかも暇をなみと里に出でずあらむ
仮名 ももしきの おほみやひとは けふもかも いとまをなみと さとにいでずあらむ
左注 右一首右大臣傳云 故豊嶋采女歌
左注訓 右の一首は、右大臣の伝へ云のりたまはく、 故もとの豊島采女てしまのうねべが歌。
校異 無→无 [元][類] / 去→出 [類][古] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:豊島采女 伝誦 橘諸兄 宴席 天平11年8月20日 年紀
訓異 いとまをなみと;いとまなけれと, さとにいでずあらむ;さとにゆかさらむ, 
   
  06/1027
題詞 (秋八月廿日宴右大臣橘家歌四首)
原文 橘 本尓道履 八衢尓 物乎曽念 人尓不所知
訓読 橘の本に道踏む八衢に物をぞ思ふ人に知らえず
仮名 たちばなの もとにみちふむ やちまたに ものをぞおもふ ひとにしらえず
左注 右一首右大辨高<橋>安麻呂卿語云 故豊嶋采女之作也 但或本云三方沙弥戀妻苑臣作歌也 然則豊嶋采女當時當所口吟此歌歟
左注訓 右の一歌は、右大弁みぎのおほきおほともひ高橋安麿の卿語りけらく、故の豊島采女がよめるなり。
但シ或ル本ニ云ク、三方沙彌、妻ノ苑臣ヲ恋ヒテ作メル歌ナリト。
然ラバ則チ、豊島采女、当時当所ニ此ノ歌ヲ口吟ウタヘルカ。
校異 橘→橋 [西(訂正)][元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 此歌 [西] 此謌 [西(訂正)] 此歌
事項 雑歌 作者:豊島采女 三方沙弥 伝誦 高橋安麻呂 宴席 古歌 植物 鬱屈 天平11年8月20日 年紀
訓異 たちばなの;たちはなの, ものをぞおもふ;ものをりおもふ, ひとにしらえず;ひとにしられぬ, 
   
  06/1028
題詞 十一年己卯 天皇遊猟高圓野之時小獣<泄>走<都>里之中 於是適値勇士生而見獲即以此獣獻上御在所<副>歌一首 [獣名俗曰牟射佐妣]
題訓 十一年ととせまりひととせといふとし己卯つちのとう、天皇すめらみこと高圓の野に遊猟みかりしたまへる時、小さき獣けだもの堵里さとの中うちに泄いで走る。是に勇士ますらをに適値あひて生きながら獲えらえぬ。即ち此の獣を御在所みもとに献上るとき副ふる歌一首 獣ノ名ハ俗ニ牟射佐妣ムササビト曰フ
原文 大夫之 高圓山尓 迫有者 里尓下来流 牟射佐i曽此
訓読 ますらをの高円山に迫めたれば里に下り来るむざさびぞこれ
仮名 ますらをの たかまとやまに せめたれば さとにおりける むざさびぞこれ
左注 右一首大伴坂上郎女作之也 但未逕奏而小獣死斃 因此獻歌停之
左注訓 右の一歌は、大伴坂上郎女がよめる。
但シ奏ヲ逕ズシテ小獣死シ斃レヌ。此ニ因リテ献歌停ム。
校異 泄 [西(上書訂正)][紀][細] / 堵→都 [元][紀] / 製→副 [西(訂正右書)][元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 之也 [元][紀](塙) 之 / 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:坂上郎女 聖武天皇 遊猟 不奏 天平11年 年紀 動物 奈良 地名
訓異 せめたれば;せめたれは, さとにおりける;さとにおりくる, むざさびぞこれ;むささひそこれ, 
   
  06/1029
題詞 十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時河口行宮内舎人大伴宿祢家持作歌一首
題訓 十二年ととせまりふたとせといふとし庚辰かのえたつ冬十月かみなつき、太宰少弐おほみこともちのすなきすけ藤原朝臣廣嗣が反謀みかどかたぶけむとして軍いくさを発おこせるに、伊勢国に幸いでませる時、河口の行宮かりみやにて内舎人うちとねり大伴宿禰家持がよめる歌一首
原文 河口之 野邊尓廬而 夜乃歴者 妹之手本師 所念鴨
訓読 河口の野辺に廬りて夜の経れば妹が手本し思ほゆるかも
仮名 かはぐちの のへにいほりて よのふれば いもがたもとし おもほゆるかも
左注 なし
校異 太→大 [紀][細][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:大伴家持 羈旅 行幸従駕 聖武天皇 伊勢 三重 天平12年10月 年紀 望郷 三重県 地名
訓異 かはぐちの;かはくちの, よのふれば;よのふれは, いもがたもとし;いもかたもとし, 
   
  06/1030
題詞 (十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)天皇御製歌一首
題訓 天皇のみよみませる御製歌おほみうた一首
原文 妹尓戀 吾乃松原 見渡者 潮干乃滷尓 多頭鳴渡
訓読 妹に恋ひ吾の松原見わたせば潮干の潟に鶴鳴き渡る
仮名 いもにこひ あがのまつばら みわたせば しほひのかたに たづなきわたる
左注 右一首今案 吾松原在三重郡 相去河口行宮遠矣 若疑御在朝明行宮之時 所製御歌 傳者誤之歟
左注訓
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:聖武天皇 望郷 行幸 羈旅 三重 天平12年10月 年紀 叙景 三重県 地名
訓異 あがのまつばら;わかのまつはら, みわたせば;みわたせは, たづなきわたる;たつなきわたる, 
   
  06/1031
題詞 (十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)丹比屋主真人歌一首
題訓 丹比屋主真人たぢひのいへぬしのまひとが歌一首
原文 後尓之 <人>乎思久 四泥能埼 木綿取之泥而 <好>住跡其念
訓読 後れにし人を思はく思泥の崎木綿取り垂でて幸くとぞ思ふ
仮名 おくれにし ひとをおもはく しでのさき ゆふとりしでて さきくとぞおもふ
左注 右案此歌者不有此<行>之作乎 所以然言 勅大夫従河口行宮還京勿令従駕焉 何有詠思泥埼作歌哉
左注訓
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→人 [西(右書)][元][類][紀] / 將→好 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 行宮→行 [元][類][紀][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:丹比屋主 行幸従駕 望郷 羈旅 三重 天平12年10月 年紀 家主 地名
訓異 しでのさき;してのさき, ゆふとりしでて;ゆふとりしてて, さきくとぞおもふ;すまむとそおもふ, 
   
  06/1032
題詞 (十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)狭殘<行宮>大伴宿祢家持作歌二首
題訓 独り行宮に残おくれゐて大伴宿禰家持がよめる歌二首
原文 天皇之 行幸之随 吾妹子之 手枕不巻 月曽歴去家留
訓読 大君の行幸のまにま我妹子が手枕まかず月ぞ経にける
仮名 おほきみの みゆきのまにま わぎもこが たまくらまかず つきぞへにける
左注 なし
校異 <>→大宮 [西(右書)][元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:大伴家持 行幸従駕 望郷 羈旅 三重 天平12年10月 年紀 地名
訓異 おほきみの;すめろきの, みゆきのまにま;みゆきのままに, わぎもこが;わきもこか, たまくらまかず;たまくらまかす, つきぞへにける;つきそへにける, 
   
  06/1033
題詞 ((十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)狭殘<行宮>大伴宿祢家持作歌二首)
原文 御食國 志麻乃海部有之 真熊野之 小船尓乗而 奥部榜所見
訓読 御食つ国志摩の海人ならしま熊野の小舟に乗りて沖へ漕ぐ見ゆ
仮名 みけつくに しまのあまならし まくまのの をぶねにのりて おきへこぐみゆ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:大伴家持 叙景 羈旅 天平12年10月 年紀 三重 属目 地名
訓異 しまのあまならし;しまのあすならし, まくまのの;みくまのの, をぶねにのりて;をふねにのりて, おきへこぐみゆ;おきへこくみゆ, 
   
  06/1034
題詞 (十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)美濃國多藝行宮大伴宿祢東人作歌一首
題訓 美濃国多藝たぎの行宮にて、大伴宿禰東人がよめる歌一首
原文 従古 人之言来流 老人之 <變>若云水曽 名尓負瀧之瀬
訓読 いにしへゆ人の言ひ来る老人の変若つといふ水ぞ名に負ふ瀧の瀬
仮名 いにしへゆ ひとのいひける おいひとの をつといふみづぞ なにおふたきのせ
左注 なし
校異 戀→變 [西(訂正左書)][元][類][紀]
事項 雑歌 作者:大伴東人 岐阜 羈旅 土地讃美 天平12年10月 年紀 養老瀧 地名
訓異 いにしへゆ;むかしより, ひとのいひける;ひとのいひくる, をつといふみづぞ;わかゆてふみつそ, 
   
  06/1035
題詞 (十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)大伴宿祢家持作歌一首
題訓 大伴宿禰家持がよめる歌一首
原文 田跡河之 瀧乎清美香 従古 <官>仕兼 多藝乃野之上尓
訓読 田跡川の瀧を清みかいにしへゆ宮仕へけむ多芸の野の上に
仮名 たどかはの たきをきよみか いにしへゆ みやつかへけむ たぎのののへに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 宮→官 [元][類][古][細]
事項 雑歌 作者:大伴家持 岐阜 羈旅 宮廷讃美 大夫 天平12年10月 年紀 養老瀧 地名
訓異 たどかはの;たとかはの, いにしへゆ;むかしより, たぎのののへに;たきのののうへに, 
   
  06/1036
題詞 (十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)不破行宮大伴宿祢家持作歌一首
題訓 不破の行宮にて、大伴宿禰家持がよめる歌一首
原文 關無者 還尓谷藻 打行而 妹之手枕 巻手宿益乎
訓読 関なくは帰りにだにもうち行きて妹が手枕まきて寝ましを
仮名 せきなくは かへりにだにも うちゆきて いもがたまくら まきてねましを
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:大伴家持 羈旅 行幸従駕 望郷 天平12年10月 年紀 岐阜 地名
訓異 かへりにだにも;かへりにたにも, いもがたまくら;いもかたまくら, 
   
  06/1037
題詞 十五年癸未秋八月十六日内舎人大伴宿祢家持讃久邇京作歌一首
題訓 十五年ととせまりいつとせといふとし癸未みづのとひつじ秋八月はつきの十六日とをかまりむかのひ、内舎人大伴宿禰家持が久邇くにの京を讃へてよめる歌一首
原文 今造 久<邇>乃王都者 山河之 清見者 宇倍所知良之
訓読 今造る久迩の都は山川のさやけき見ればうべ知らすらし
仮名 いまつくる くにのみやこは やまかはの さやけきみれば うべしらすらし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 尓→邇 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:大伴家持 宮廷讃美 京都 天平15年8月16日 地名
訓異 さやけきみれば;きよくみゆれは, うべしらすらし;うへしらるらし, 
   
  06/1038
題詞 高丘河内連歌二首
題訓 高丘河内連たかをかのかふちのむらじが歌二首
原文 故郷者 遠毛不有 一重山 越我可良尓 念曽吾世思
訓読 故郷は遠くもあらず一重山越ゆるがからに思ひぞ我がせし
仮名 ふるさとは とほくもあらず ひとへやま こゆるがからに おもひぞわがせし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:高丘河内 望郷 京都 地名
訓異 とほくもあらず;とほくもあらす, こゆるがからに;こゆるわれからに, おもひぞわがせし;おもひそわかせし, 
   
  06/1039
題詞 (高丘河内連歌二首)
原文 吾背子與 二人之居者 山高 里尓者月波 不曜十方余思
訓読 我が背子とふたりし居らば山高み里には月は照らずともよし
仮名 わがせこと ふたりしをらば やまたかみ さとにはつきは てらずともよし
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:高丘河内 恋情 相聞 京都 地名
訓異 わがせこと;わかせこと, ふたりしをらば;ふたりしをれは, てらずともよし;てらすともよし, 
   
  06/1040
題詞 安積親王宴左少辨藤原八束朝臣家之日内舎人大伴宿祢家持作歌一首
題訓 安積親王の左少弁ひだりのすなきおほともひ藤原八束朝臣が家に宴したまふ日、内舎人大伴宿禰家持がよめる歌一首
原文 久堅乃 雨者零敷 念子之 屋戸尓今夜者 明而将去
訓読 ひさかたの雨は降りしけ思ふ子がやどに今夜は明かして行かむ
仮名 ひさかたの あめはふりしけ おもふこが やどにこよひは あかしてゆかむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:大伴家持 安積皇子 藤原八束 宴席 京都 地名 久邇京
訓異 あめはふりしけ;あめはふりしく, おもふこが;おもふこの, やどにこよひは;やとにこよひは, 
   
  06/1041
題詞 十六年甲申春正月五日諸卿大夫集安倍蟲麻呂朝臣家宴歌一首 [作者不審]
題訓 十六年ととせまりむとせといふとし甲申きのえさる、春正月むつきの五日いつかのひ、諸卿大夫まへつきみたち安倍蟲麻呂朝臣が家に集ひて宴せる歌一首
原文 吾屋戸乃 君松樹尓 零雪<乃> 行者不去 待西将待
訓読 我がやどの君松の木に降る雪の行きには行かじ待にし待たむ
仮名 わがやどの きみまつのきに ふるゆきの ゆきにはゆかじ まちにしまたむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 之→乃 [元][類][紀]
事項 雑歌 安倍虫麻呂 宴席 京都 久邇京 地名 天平16年1月5日 年紀
訓異 わがやどの;わかやとの, ゆきにはゆかじ;ゆききはゆかし, 
   
  06/1042
題詞 同月十一日登活道岡集一株松下飲歌二首
題訓 同じ月十一日とをかまりひとひ、活道いくぢの岡に登り、一株松ひとつまつの下もとに集ひて飲うたげせる歌二首
原文 一松 幾代可歴流 吹風乃 聲之清者 年深香聞
訓読 一つ松幾代か経ぬる吹く風の音の清きは年深みかも
仮名 ひとつまつ いくよかへぬる ふくかぜの おとのきよきは としふかみかも
左注 右一首市原王作
左注訓 右の一首は、市原王のよみたまへる。
校異 歌 [西] 哥 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:市原王 宴席 天平16年1月11日 年紀 寿 京都 久邇京 地名
訓異 ふくかぜの;ふくかせの, おとのきよきは;こゑのすめるは, としふかみかも;としふかきかも, 
   
  06/1043
題詞 (同月十一日登活道岡集一株松下飲歌二首)
原文 霊剋 壽者不知 松之枝 結情者 長等曽念
訓読 たまきはる命は知らず松が枝を結ぶ心は長くとぞ思ふ
仮名 たまきはる いのちはしらず まつがえを むすぶこころは ながくとぞおもふ
左注 右一首大伴宿祢家持作
左注訓 右の一首は、大伴宿禰家持がよめる。
校異 なし
事項 雑歌 作者:大伴家持 宴席 天平16年1月11日 年紀 永遠 寿 京都 久邇京 地名
訓異 いのちはしらず;いのちはしらす, まつがえを;まつのえを, むすぶこころは;むすふこころは, ながくとぞおもふ;なかくとそおもふ, 
   
  06/1044
題詞 傷惜寧樂京荒墟作歌三首 [作者不審]
題訓 寧樂ならの京みやこの荒墟あれたるを傷惜をしみてよめる歌三首 作者不審
原文 紅尓 深染西 情可母 寧樂乃京師尓 年之歴去倍吉
訓読 紅に深く染みにし心かも奈良の都に年の経ぬべき
仮名 くれなゐに ふかくしみにし こころかも ならのみやこに としのへぬべき
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 哀惜 平城京 荒都歌 奈良 地名
訓異 ふかくしみにし;ふかくそみにし, としのへぬべき;としのへぬへき, [左注]
   
  06/1045
題詞 (傷惜寧樂京荒墟作歌三首 [作者不審])
原文 世間乎 常無物跡 今曽知 平城京師之 移徙見者
訓読 世間を常なきものと今ぞ知る奈良の都のうつろふ見れば
仮名 よのなかを つねなきものと いまぞしる ならのみやこの うつろふみれば
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 哀惜 平城京 荒都歌 無常 奈良 地名
訓異 いまぞしる;いまそしる, うつろふみれば;うつろふみれは, 
   
  06/1046
題詞 (傷惜寧樂京荒墟作歌三首 [作者不審])
原文 石綱乃 又變若反 青丹吉 奈良乃都乎 又将見鴨
訓読 岩綱のまた変若ちかへりあをによし奈良の都をまたも見むかも
仮名 いはつなの またをちかへり あをによし ならのみやこを またもみむかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 哀惜 平城京 荒都歌 奈良 京都
訓異 またをちかへり;またわかかへり, 
   
  06/1047
題詞 悲寧樂故郷作歌一首[并短歌]
題訓 寧樂の京の故郷あれたるを悲しみよめる歌一首、また短歌
原文 八隅知之 吾大王乃 高敷為 日本國者 皇祖乃 神之御代自 敷座流 國尓之有者 阿礼将座 御子之嗣継 天下 所知座跡 八百萬 千年矣兼而 定家牟 平城京師者 炎乃 春尓之成者 春日山 御笠之野邊尓 櫻花 木晩牢 皃鳥者 間無數鳴 露霜乃 秋去来者 射駒山 飛火賀<す>丹 芽乃枝乎 石辛見散之 狭男<壮>鹿者 妻呼令動 山見者 山裳見皃石 里見者 里裳住吉 物負之 八十伴緒乃 打經而 思<煎>敷者 天地乃 依會限 萬世丹 榮将徃迹 思煎石 大宮尚矣 恃有之 名良乃京矣 新世乃 事尓之有者 皇之 引乃真尓真荷 春花乃 遷日易 村鳥乃 旦立徃者 刺竹之 大宮人能 踏平之 通之道者 馬裳不行 人裳徃莫者 荒尓異類香聞
訓読 やすみしし 我が大君の 高敷かす 大和の国は すめろきの 神の御代より 敷きませる 国にしあれば 生れまさむ 御子の継ぎ継ぎ 天の下 知らしまさむと 八百万 千年を兼ねて 定めけむ 奈良の都は かぎろひの 春にしなれば 春日山 御笠の野辺に 桜花 木の暗隠り 貌鳥は 間なくしば鳴く 露霜の 秋さり来れば 生駒山 飛火が岳に 萩の枝を しがらみ散らし さを鹿は 妻呼び響む 山見れば 山も見が欲し 里見れば 里も住みよし もののふの 八十伴の男の うちはへて 思へりしくは 天地の 寄り合ひの極み 万代に 栄えゆかむと 思へりし 大宮すらを 頼めりし 奈良の都を 新代の ことにしあれば 大君の 引きのまにまに 春花の うつろひ変り 群鳥の 朝立ち行けば さす竹の 大宮人の 踏み平し 通ひし道は 馬も行かず 人も行かねば 荒れにけるかも
仮名 やすみしし わがおほきみの たかしかす やまとのくには すめろきの かみのみよより しきませる くににしあれば あれまさむ みこのつぎつぎ あめのした しらしまさむと やほよろづ ちとせをかねて さだめけむ ならのみやこは かぎろひの はるにしなれば かすがやま みかさののへに さくらばな このくれがくり かほどりは まなくしばなく つゆしもの あきさりくれば いこまやま とぶひがたけに はぎのえを しがらみちらし さをしかは つまよびとよむ やまみれば やまもみがほし さとみれば さともすみよし もののふの やそとものをの うちはへて おもへりしくは あめつちの よりあひのきはみ よろづよに さかえゆかむと おもへりし おほみやすらを たのめりし ならのみやこを あらたよの ことにしあれば おほきみの ひきのまにまに はるはなの うつろひかはり むらとりの あさだちゆけば さすたけの おほみやひとの ふみならし かよひしみちは うまもゆかず ひともゆかねば あれにけるかも
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 塊→す [元][細] / 牡→壮 [元][紀][細][温] / 並→煎 [定本]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 哀惜 平城京 荒都歌 動物 植物 奈良 地名
訓異 わがおほきみの;わかおほきみの, たかしかす;たかしきし, くににしあれば;くににしあれは, みこのつぎつぎ;みこのつきつき, しらしまさむと;しらしめませと, やほよろづ;やほよろつ, ちとせをかねて;ちともをかねて, さだめけむ;さためけむ, かぎろひの;かけろふの, はるにしなれば;はるにしなれは, かすがやま;かすかやま, さくらばな;さくらはな, このくれがくり;このくれかくれ, かほどりは;かほとりは, まなくしばなく;まなくしはなく, あきさりくれば;あきさりくれは, とぶひがたけに;とふひかくれに, はぎのえを;はきのえを, しがらみちらし;しからみちらし, つまよびとよむ;つまよひとよめ, やまみれば;やまみれは, やまもみがほし;やまもみかほし, さとみれば;さとみれは, やそとものをの;やそともをの, おもへりしくは;おもひなみしけは, よりあひのきはみ;よりあはむかきり, よろづよに;よろつよに, おもへりし;おもひにし, あらたよの;あたらよの, ことにしあれば;ことにしあれは, おほきみの;すめろきの, うつろひかはり;うつろひやすく, あさだちゆけば;あさたちゆけは, うまもゆかず;うまもゆかす, ひともゆかねば;ひともゆかねは, 
   
  06/1048
題詞 (悲寧樂故郷作歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 立易 古京跡 成者 道之志婆草 長生尓異<煎>
訓読 たち変り古き都となりぬれば道の芝草長く生ひにけり
仮名 たちかはり ふるきみやこと なりぬれば みちのしばくさ ながくおひにけり
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 利→煎 [類][紀][細]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 哀惜 平城京 荒都歌 植物 奈良 地名
訓異 なりぬれば;なりぬれは, みちのしばくさ;みちのしはくさ, ながくおひにけり;なかくおひにけり, 
   
  06/1049
題詞 ((悲寧樂故郷作歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 名付西 奈良乃京之 荒行者 出立毎尓 嘆思益
訓読 なつきにし奈良の都の荒れゆけば出で立つごとに嘆きし増さる
仮名 なつきにし ならのみやこの あれゆけば いでたつごとに なげきしまさる
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 なし
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 哀惜 平城京 荒都歌 奈良 地名
訓異 なつきにし;なつけにし, あれゆけば;あれゆけは, いでたつごとに;いてたつことに, なげきしまさる;なけきしますも, 
   
  06/1050
題詞 讃久邇新京歌二首[并短歌]
題訓 久邇くにの新京にひみやこを讃ふる歌二首、また短歌
原文 明津神 吾皇之 天下 八嶋之中尓 國者霜 多雖有 里者霜 澤尓雖有 山並之 宜國跡 川次之 立合郷跡 山代乃 鹿脊山際尓 宮柱 太敷奉 高知為 布當乃宮者 河近見 湍音叙清 山近見 鳥賀鳴慟 秋去者 山裳動響尓 左男鹿者 妻呼令響 春去者 岡邊裳繁尓 巌者 花開乎呼理 痛A怜 布當乃原 甚貴 大宮處 諾己曽 吾大王者 君之随 所聞賜而 刺竹乃 大宮此跡 定異等霜
訓読 現つ神 我が大君の 天の下 八島の内に 国はしも さはにあれども 里はしも さはにあれども 山なみの よろしき国と 川なみの たち合ふ里と 山背の 鹿背山の際に 宮柱 太敷きまつり 高知らす 布当の宮は 川近み 瀬の音ぞ清き 山近み 鳥が音響む 秋されば 山もとどろに さを鹿は 妻呼び響め 春されば 岡辺も繁に 巌には 花咲きををり あなあはれ 布当の原 いと貴 大宮所 うべしこそ 吾が大君は 君ながら 聞かしたまひて さす竹の 大宮ここと 定めけらしも
仮名 あきつかみ わがおほきみの あめのした やしまのうちに くにはしも さはにあれども さとはしも さはにあれども やまなみの よろしきくにと かはなみの たちあふさとと やましろの かせやまのまに みやばしら ふとしきまつり たかしらす ふたぎのみやは かはちかみ せのおとぞきよき やまちかみ とりがねとよむ あきされば やまもとどろに さをしかは つまよびとよめ はるされば をかへもしじに いはほには はなさきををり あなあはれ ふたぎのはら いとたふと おほみやところ うべしこそ わがおほきみは きみながら きかしたまひて さすたけの おほみやここと さだめけらしも
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 久邇京 新都讃美 動物 植物 京都 地名
訓異 わがおほきみの;わかすめろきの, やしまのうちに;やしまのなかに, さはにあれども;おほくあれとも, さはにあれども;さはにあれとも, みやばしら;みやはしら, ふとしきまつり;ふとしきたてて, ふたぎのみやは;ふたいのみやは, せのおとぞきよき;せおとそきよき, とりがねとよむ;とりかねいたむ, あきされば;あきされは, やまもとどろに;やまもととろに, つまよびとよめ;つまよひとよめ, はるされば;はるされは, をかへもしじに;をかへもししに, あなあはれ;いとあはれ, ふたぎのはら;ふたいのはらに, いとたふと;いとたかき, うべしこそ;うへしこそ, わがおほきみは;わかおほきみは, きみながら;きみかまに, さだめけらしも;さためけらしも, 
   
  06/1051
題詞 (讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 三日原 布當乃野邊 清見社 大宮處 [一云 此跡標刺] 定異等霜
訓読 三香の原布当の野辺を清みこそ大宮所 [一云 ここと標刺し] 定めけらしも
仮名 みかのはら ふたぎののへを きよみこそ おほみやところ [こことしめさし] さだめけらしも
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 久邇京 新都讃美 京都 地名
訓異 ふたぎののへを;ふたいののへを, [こことしめさし], さだめけらしも;さためけらしも, 
   
  06/1052
題詞 ((讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌二首)
原文 <山>高来 川乃湍清石 百世左右 神之味将<徃> 大宮所
訓読 山高く川の瀬清し百代まで神しみゆかむ大宮所
仮名 やまたかく かはのせきよし ももよまで かむしみゆかむ おほみやところ
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 弓→山 [万葉考] / <>→徃 [西(右書)][元][古][紀]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 久邇京 新都讃美 京都 地名
訓異 ももよまで;ももよまて, かむしみゆかむ;かみのみゆかむ, 
   
  06/1053
題詞 (讃久邇新京歌二首[并短歌])
原文 吾皇 神乃命乃 高所知 布當乃宮者 百樹成 山者木高之 落多藝都 湍音毛清之 鴬乃 来鳴春部者 巌者 山下耀 錦成 花咲乎呼里 左<壮>鹿乃 妻呼秋者 天霧合 之具礼乎疾 狭丹頬歴 黄葉散乍 八千年尓 安礼衝之乍 天下 所知食跡 百代尓母 不可易 大宮處
訓読 吾が大君 神の命の 高知らす 布当の宮は 百木盛り 山は木高し 落ちたぎつ 瀬の音も清し 鴬の 来鳴く春へは 巌には 山下光り 錦なす 花咲きををり さを鹿の 妻呼ぶ秋は 天霧らふ しぐれをいたみ さ丹つらふ 黄葉散りつつ 八千年に 生れ付かしつつ 天の下 知らしめさむと 百代にも 変るましじき 大宮所
仮名 わがおほきみ かみのみことの たかしらす ふたぎのみやは ももきもり やまはこだかし おちたぎつ せのおともきよし うぐひすの きなくはるへは いはほには やましたひかり にしきなす はなさきををり さをしかの つまよぶあきは あまぎらふ しぐれをいたみ さにつらふ もみちちりつつ やちとせに あれつかしつつ あめのした しらしめさむと ももよにも かはるましじき おほみやところ
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 牡→壮 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 久邇京 新都讃美 京都 地名
訓異 わがおほきみ;わかきみの, ふたぎのみやは;ふたいのみやは, ももきもり;ももきなす, やまはこだかし;やまはこたかし, おちたぎつ;おちたきつ, せのおともきよし;せおともきよし, うぐひすの;うくひすの, つまよぶあきは;つまよふあきは, あまぎらふ;あまきりあふ, しぐれをいたみ;しくれをはやみ, あれつかしつつ;あれつきしつつ, かはるましじき;かはるへからぬ, 
   
  06/1054
題詞 (讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌五首
題訓 反し歌五首
原文 泉<川> 徃瀬乃水之 絶者許曽 大宮地 遷徃目
訓読 泉川行く瀬の水の絶えばこそ大宮所移ろひ行かめ
仮名 いづみがは ゆくせのみづの たえばこそ おほみやところ うつろひゆかめ
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 河→川 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 久邇京 新都讃美 京都 地名
訓異 いづみがは;いつみかは, ゆくせのみづの;ゆくせのみつの, たえばこそ;たえはこそ, うつろひゆかめ;うつりもゆかめ, 
   
  06/1055
題詞 ((讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌五首)
原文 布當山 山並見者 百代尓毛 不可易 大宮處
訓読 布当山山なみ見れば百代にも変るましじき大宮所
仮名 ふたぎやま やまなみみれば ももよにも かはるましじき おほみやところ
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 なし
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 久邇京 新都讃美 京都 地名
訓異 ふたぎやま;ふたいやま, やまなみみれば;やまなみみれは, かはるましじき;かはるへからす, 
   
  06/1056
題詞 ((讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌五首)
原文 D嬬等之 續麻繁云 鹿脊之山 時之徃<者> 京師跡成宿
訓読 娘子らが続麻懸くといふ鹿背の山時しゆければ都となりぬ
仮名 をとめらが うみをかくといふ かせのやま ときしゆければ みやことなりぬ
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 去→者 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 久邇京 新都讃美 京都 地名
訓異 をとめらが;をとめらか, ときしゆければ;ときのゆけれは, 
   
  06/1057
題詞 ((讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌五首)
原文 鹿脊之山 樹立矣繁三 朝不去 寸鳴響為 鴬之音
訓読 鹿背の山木立を茂み朝さらず来鳴き響もす鴬の声
仮名 かせのやま こだちをしげみ あささらず きなきとよもす うぐひすのこゑ
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 なし
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 久邇京 新都讃美 京都 地名
訓異 こだちをしげみ;こたちをしけみ, あささらず;あささらす, きなきとよもす;きなきとよます, うぐひすのこゑ;うくひすのこゑ
   
  06/1058
題詞 ((讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌五首)
原文 狛山尓 鳴霍公鳥 泉河 渡乎遠見 此間尓不通 [一云 渡遠哉 不通<有>武]
訓読 狛山に鳴く霍公鳥泉川渡りを遠みここに通はず [一云 渡り遠みか通はずあるらむ]
仮名 こまやまに なくほととぎす いづみがは わたりをとほみ ここにかよはず [わたりとほみか かよはずあるらむ]
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 者→有 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 久邇京 新都讃美 京都 地名
訓異 なくほととぎす;なくほとときす, いづみがは;いつみかは, ここにかよはず;ここにかよはす, [わたりとほみか, かよはずあるらむ]
   
  06/1059
題詞 春日悲傷三香原荒墟作歌一首[并短歌]
題訓 春日はるのころ、三香原みかのはらの都の荒墟あれたるを悲傷かなしみよめる歌一首、また短歌
原文 三香原 久邇乃京師者 山高 河之瀬清 在吉迹 人者雖云 在吉跡 吾者雖念 故去之 里尓四有者 國見跡 人毛不通 里見者 家裳荒有 波之異耶 如此在家留可 三諸著 鹿脊山際尓 開花之 色目列敷 百鳥之 音名束敷 在<杲>石 住吉里乃 荒樂苦惜哭
訓読 三香の原 久迩の都は 山高み 川の瀬清み 住みよしと 人は言へども ありよしと 我れは思へど 古りにし 里にしあれば 国見れど 人も通はず 里見れば 家も荒れたり はしけやし かくありけるか みもろつく 鹿背山の際に 咲く花の 色めづらしく 百鳥の 声なつかしく ありが欲し 住みよき里の 荒るらく惜しも
仮名 みかのはら くにのみやこは やまたかみ かはのせきよみ すみよしと ひとはいへども ありよしと われはおもへど ふりにし さとにしあれば くにみれど ひともかよはず さとみれば いへもあれたり はしけやし かくありけるか みもろつく かせやまのまに さくはなの いろめづらしく ももとりの こゑなつかしく ありがほし すみよきさとの あるらくをしも
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 在 [類](塙) 住 / 耶 (塙[全釈捄よる]) 耶思 / 果→杲 [細][矢][京]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 荒都歌 久邇京 京都 地名
訓異 かはのせきよみ;かはのせきよし, すみよしと;ありよしと, ひとはいへども;ひとはいへとも, われはおもへど;われはおもへと, ふりにし;ふるされし, さとにしあれば;さとにしあれは, くにみれど;くにみれと, ひともかよはず;ひともかよはす, さとみれば;さとみれは, いろめづらしく;いろめつらしく, ありがほし;ありかほし, すみよきさとの;すみよしさとの, あるらくをしも;あれらくをしも, 
   
  06/1060
題詞 (春日悲傷三香原荒墟作歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 三香原 久邇乃京者 荒去家里 大宮人乃 遷去礼者
訓読 三香の原久迩の都は荒れにけり大宮人のうつろひぬれば
仮名 みかのはら くにのみやこは あれにけり おほみやひとの うつろひぬれば
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 荒都歌 久邇京 京都 地名
訓異 うつろひぬれば;うつりいぬれは, 
   
  06/1061
題詞 ((春日悲傷三香原荒墟作歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 咲花乃 色者不易 百石城乃 大宮人叙 立易<奚>流
訓読 咲く花の色は変らずももしきの大宮人ぞたち変りける
仮名 さくはなの いろはかはらず ももしきの おほみやひとぞ たちかはりける
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 去→奚 [元][紀]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 荒都歌 久邇京 京都 地名
訓異 いろはかはらず;いろはかはらす, おほみやひとぞ;おほみやひとそ, たちかはりける;たちかはりぬる, 
   
  06/1062
題詞 難波宮作歌一首[并短歌]
題訓 難波の宮にてよめる歌一首、また短歌
原文 安見知之 吾大王乃 在通 名庭乃宮者 不知魚取 海片就而 玉拾 濱邊乎近見 朝羽振 浪之聲糝 夕薙丹 櫂合之聲所聆 暁之 寐覺尓聞者 海石之 塩干乃共 <汭>渚尓波 千鳥妻呼 葭部尓波 鶴鳴動 視人乃 語丹為者 聞人之 視巻欲為 御食向 味原宮者 雖見不飽香聞
訓読 やすみしし 我が大君の あり通ふ 難波の宮は 鯨魚取り 海片付きて 玉拾ふ 浜辺を清み 朝羽振る 波の音騒き 夕なぎに 楫の音聞こゆ 暁の 寝覚に聞けば 海石の 潮干の共 浦洲には 千鳥妻呼び 葦辺には 鶴が音響む 見る人の 語りにすれば 聞く人の 見まく欲りする 御食向ふ 味経の宮は 見れど飽かぬかも
仮名 やすみしし わがおほきみの ありがよふ なにはのみやは いさなとり うみかたづきて たまひりふ はまへをきよみ あさはふる なみのおとさわく ゆふなぎに かぢのおときこゆ あかときの ねざめにきけば いくりの しほひのむた うらすには ちどりつまよび あしへには たづがねとよむ みるひとの かたりにすれば きくひとの みまくほりする みけむかふ あぢふのみやは みれどあかぬかも
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(別筆訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌 / 納→汭 [万葉集略解]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 難波 大阪 新都讃美 地名
訓異 わがおほきみの;わかおほきみの, ありがよふ;ありかよふ, うみかたづきて;うみかたつきて, たまひりふ;たまひろふ, はまへをきよみ;はまへをちかみ, なみのおとさわく;なみのおとさわき, ゆふなぎに;ゆふなきに, かぢのおときこゆ;かかひのおときこゆ, あかときの;あかつきの, ねざめにきけば;ねさめにきけは, いくりの;あまいしの, しほひのむた;しほひのむたに, うらすには;いりすには, ちどりつまよび;ちとりつまよひ, たづがねとよむ;たつかねとよみ, かたりにすれば;かたりにすれは, みまくほりする;みまくほりして, あぢふのみやは;あちふのみやは, みれどあかぬかも;みれとあかぬかも, 
   
  06/1063
題詞 (難波宮作歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 有通 難波乃宮者 海近見 <漁>童女等之 乗船所見
訓読 あり通ふ難波の宮は海近み海人娘子らが乗れる舟見ゆ
仮名 ありがよふ なにはのみやは うみちかみ あまをとめらが のれるふねみゆ
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→漁 [西(右書)] 海 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 難波 大阪 新都讃美 地名
訓異 ありがよふ;ありかよふ, あまをとめらが;あまをとめらか, 
   
  06/1064
題詞 ((難波宮作歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 塩干者 葦邊尓糝 白鶴乃 妻呼音者 宮毛動響二
訓読 潮干れば葦辺に騒く白鶴の妻呼ぶ声は宮もとどろに
仮名 しほふれば あしへにさわく しらたづの つまよぶこゑは みやもとどろに
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 なし
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 難波 大阪 新都讃美 地名
訓異 しほふれば;しほひれは, しらたづの;あしたつの, つまよぶこゑは;つまよふこゑは, みやもとどろに;みやもととろに, 
   
  06/1065
題詞 過敏馬浦時作歌一首[并短歌]
題訓 敏馬みぬめの浦を過ぐる時よめる歌一首、また短歌
原文 八千桙之 神乃御世自 百船之 泊停跡 八嶋國 百船純乃 定而師 三犬女乃浦者 朝風尓 浦浪左和寸 夕浪尓 玉藻者来依 白沙 清濱部者 去還 雖見不飽 諾石社 見人毎尓 語嗣 偲家良思吉 百世歴而 所偲将徃 清白濱
訓読 八千桙の 神の御代より 百舟の 泊つる泊りと 八島国 百舟人の 定めてし 敏馬の浦は 朝風に 浦波騒き 夕波に 玉藻は来寄る 白真砂 清き浜辺は 行き帰り 見れども飽かず うべしこそ 見る人ごとに 語り継ぎ 偲ひけらしき 百代経て 偲はえゆかむ 清き白浜
仮名 やちほこの かみのみよより ももふねの はつるとまりと やしまくに ももふなびとの さだめてし みぬめのうらは あさかぜに うらなみさわき ゆふなみに たまもはきよる しらまなご きよきはまへは ゆきかへり みれどもあかず うべしこそ みるひとごとに かたりつぎ しのひけらしき ももよへて しのはえゆかむ きよきしらはま
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 羈旅 土地讃美 兵庫 地名
訓異 ももふなびとの;ももふなひとの, さだめてし;さためてし, あさかぜに;あさかせに, しらまなご;しらまなこ, みれどもあかず;みれともあかす, うべしこそ;うへしこそ, みるひとごとに;みるひとことに, かたりつぎ;かたりつき, しのはえゆかむ;しのはれゆかむ, 
   
  06/1066
題詞 (過敏馬浦時作歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 真十鏡 見宿女乃浦者 百船 過而可徃 濱有<七>國
訓読 まそ鏡敏馬の浦は百舟の過ぎて行くべき浜ならなくに
仮名 まそかがみ みぬめのうらは ももふねの すぎてゆくべき はまならなくに
左注 (右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 七 [西(上書訂正)][元][類][紀]
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 羈旅 土地讃美 兵庫 地名
訓異 まそかがみ;まそかかみ, すぎてゆくべき;すきてゆくへき, 
   
  06/1067
題詞 ((過敏馬浦時作歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 濱清 浦愛見 神世自 千船湊 大和太乃濱
訓読 浜清み浦うるはしみ神代より千舟の泊つる大和太の浜
仮名 はまきよみ うらうるはしみ かむよより ちふねのはつる おほわだのはま
左注 右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也
左注訓 右ノ二十一首ハ、田邊福麻呂ガ歌集ノ中ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:田辺福麻呂歌集 羈旅 土地讃美 兵庫 地名
訓異 うらうるはしみ;うらなつかしみ, かむよより;かみよより, ちふねのはつる;ちふねのとまる, おほわだのはま;おほわたのはま,