古事記~カエサジ=返佐知 原文対訳

幸かえ
佐知かえ
サシカエ
古事記
上巻 第五部
ホデリとホオリの物語
カエサジ
鹽椎神
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是其兄火照命。 ここにその兄いろせ火照の命 ここにその兄のホデリの命が
乞其鉤曰。 その鉤を乞ひて、 その鉤を乞うて、
山佐知母。己之佐知佐知。 「山幸もおのが幸幸。 「山幸やまさちも自分の幸さちだ。
海佐知母。之佐知佐知。 海幸もおのが幸幸。 海幸うみさちも自分の幸さちだ。
今各謂返佐知之時。
〈佐知二字以音〉
今はおのもおのも幸返さむ」
といふ時に、
やはりお互に幸さちを返そう」
と言う時に、
     
其弟
火遠理命答曰。
その弟いろと
火遠理の命答へて曰はく、
弟の
ホヲリの命が仰せられるには、
汝鉤者。 「汝みましの鉤は、 「あなたの鉤は
釣魚
不得一魚。
魚釣りしに
一つの魚だに得ずて、
魚を釣りましたが、
一つも得られないで
遂失海。 遂に海に失ひつ」
とまをしたまへども、
遂に海でなくしてしまいました」
と仰せられますけれども、
然其兄
強乞徴。
その兄
強あながちに
乞ひ徴はたりき。
なおしいて
乞い徴はたりました。
     
故其弟 かれその弟、 そこで弟が
破御佩之十拳劔。 御佩しの十拳の劒を破りて、 お佩びになつている長い劒を破つて、
作五百鉤。 五百鉤いほはりを作りて、 五百の鉤を作つて
雖償不取。 償つぐのひたまへども、取らず、 償つぐなわれるけれども取りません。
亦作一千鉤。 また一千鉤ちはりを作りて、 また千の鉤を作つて
雖償不受。 償ひたまへども、受けずして、 償われるけれども受けないで、

「猶欲得其正本鉤」
「なほその本の鉤を得む」
といひき。
「やはりもとの鉤をよこせ」
と言いました。

 

幸かえ
佐知かえ
サシカエ
古事記
上巻 第五部
ホデリとホオリの物語
カエサジ
鹽椎神

解説

 
 山佐知母。之佐知佐知。
 海佐知母。之佐知佐知。
 
 このように佐知佐知と2×2で繰り返していることが、サシをサジと濁点で読むことの根拠。繰り返し記号(〃)で濁点。
 そして「返佐知」をサチを返せと、返さじと掛ける。
 
 は違うことに注意。
 後者は已然形でお馴染みの漢字。すでに・とっくにの意味。もうおれのもの。
 
 訳者がこれをどうみたのかは不明。
 文脈に従い無視したか、参照した書物ではそうなっていなかったか。
 訳し方からして前者のような気もするが、気づいたとしてもこう訳すしかないのかもしれない。
 しかし気づいていれば注釈するだろう。