枕草子130段 九月ばかり夜一夜降り明かしつる雨の

関白殿 枕草子
上巻下
130段
九月ばかり
七日の日の

(旧)大系:130段
新大系:124段、新編全集:125段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:133段
 


 
 九月ばかり、夜一夜降り明かしつる雨の、今朝はやみて、朝日いとけざやかにさし出でたるに、前栽の露こぼるばかりぬれかかりたるも、いとをかし。
 透垣の羅文、軒の上に、かいたる蜘蛛の巣のこぼれ残りたるに、雨のかかりたるが、白き玉を貫きたるやうなるこそ、いみじうあはれにをかしけれ。
 

 すこし日たけぬれば、萩などのいと重げなるに、露の落つるに枝のうち動きて、人も手ふれぬに、ふと上ざまへあがりたるも、いみじうをかし、と言ひたることどもの、人の心にはつゆをかしからじと思ふこそ、またをかしけれ。