伊勢物語 36段:玉葛 あらすじ・原文・現代語訳

第35段
玉の緒を
伊勢物語
第二部
第36段
玉葛
第37段
下紐

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
 

あらすじ

 
 
 この段は、前段・玉の緒とかけられた玉葛。
 

 むかし、忘れてしまったかと聞いてきた女がいたので、玉葛(つる草)の長さにかけて、もの思う。
 相手がそう聞いてきているから、関係は切れていないと思わなくもない、という内容。
 

 そして、この歌は万葉に即しており、玉とかけ定石のやりとりと見る。
 加えて、玉かずらのつる草で、きろうとしてもきれない(触手が伸びる)と解く。
 
 その心は、もうかんべんして。
 (前段と同じ。だから返してない)
 

 谷狭み 峰に延ひたる 玉葛 絶えむのこころ 我が思はなくに万葉集14/3507

 谷狭み 峯まではへる 玉葛 絶えむと人に  わが思はなくに(伊勢)

 谷狭み 嶺辺に延へる 玉葛 延へてしあらば 年に来ずとも万葉集12/3067
 
 
 
 

原文

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第36段 玉葛(玉かづら)
   
   むかし、  むかし、  昔
  忘れぬるなめりと わすれぬるなめりと、 忘ぬなめりと。
問ひ事しける女のもとに、 ゝひごとしける女のもとに、 とひごとしける女のもとに。
       

70
 谷せばみ
 峯まではへる玉かづら
 たにせばみ
 ゝねまではへるたまかづら
 谷せはみ
 峯まてはへる玉かつら
  絶えむと人に
  わが思はなくに
  たえむと人に
  わがおもはなくに
  絕んと人を
  わか思はなくに
       
       女かへし。
       
     僞と
 思ふ物から今さらに
      たかまことをか
  我はたのまん
   

現代語訳

 
 

むかし、忘れぬるなめりと問ひ事しける女のもとに、
 
谷せばみ 峯まではへる 玉かづら
 絶えむと人に わが思はなくに

 
 
むかし、
 むかし
 

忘れぬるなめりと
 私のことをもう忘れたようだねと
 

 なめり
 :~のようだ。
 

問ひ事しける女のもとに、
 聞いてきた女のもとに
 
(ただし、返しとは書いてない)
 
 

谷せばみ
 谷狭く
 

峯まではへる 玉かづら
 上までのびる 玉かずら
(そちらに行くしかない定め。)
 

 玉葛:つる草。
 やたら長いだけで、全然実をむすばない例え。
 なお、ここでは女の恋の要素としては用いない。多面的に見る歌の事例研究。
 

絶えむと人に
 その長さが途絶えたかと聞く人に
 

わが思はなくに
 私はそう思わないと
(そう聞いてきているから。
 その心は、やはり実を結ばないのか、やっと実を結ぶフラグか。いいや、)
 

 思わなくに:万葉原語は「我不思」
 玉葛は実を結びようがないのである。
 つまり前段における、沫に緒を結べばという例えと同じ。
 最初から不能。あたわず。よってアワず。返さず。返すことあたわず。