枕草子75段 ありがたきもの

懸想人 枕草子
上巻中
75段
ありがたき
内裏の局

(旧)大系:75段
新大系:72段、新編全集:72段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:77段
 


 
 ありがたきもの 舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。毛のよく抜くしろがねの毛抜き。主そしらぬ従者。
 

 つゆの癖なき。かたち・心・ありさますぐれ、世に経るほど、いささかのきずなき。同じ所に住む人の、かたみに恥ぢかはし、いささかのひまなく用意したりと思ふが、つひに見えぬこそ難けれ。
 

 物語・集など書き写すに、本に墨つけぬ。よき草子などは、いみじう心して、書けど、必ずこそきたなげになるめれ。
 

 男・女をばいはじ、女とぢも、契り深くて語らふ人の、末まで仲よき人難し。