徒然草122段 人の才能:原文

養ひ飼ふもの 徒然草
第四部
122段
人の才能
無益のこと

 
 人の才能は、文あきらかにして、聖の教を知れるを第一とす。
次には手書く事、むねとする事はなくとも、これを習ふべし。
学問に便あらむためなり。
次に医術を習ふべし。
身を養ひ、人を助け、忠孝のつとめも、医にあらずはあるべからず。
次に弓射、馬に乗る事、六芸に出だせり。
必ずこれをうかがふべし。
文、武、医の道、誠に欠けてはあるべからず。
これを学ばむをば、いたづらなる人といふべからず。
次に、食は人の天なり。
よく味を調へ知れる人、大きなる徳とすべし。
次に細工、よろづに要多し。
 

 この外の事ども、多能は君子の恥づるところなり。
詩歌に巧みに、糸竹に妙なるは、幽玄の道、君臣これを重くすといへども、今の世にはこれをもちて世を治むること、漸く愚かなるに似たり。
金はすぐれたれども、鉄の益多きにしかざるがごとし。