枕草子177段 六位の蔵人などは

女は 枕草子
中巻中
177段
六位の蔵人
女のひとり

(旧)大系:177段
新大系:170段、新編全集:170段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:176段
(六位の蔵人、思ひかくべき事にもあらず)
 


 
 六位の蔵人などは、思ひかくべきことにもあらず。
 かうぶり得て何の権の守、大夫などいふ人の、板屋などの狭き家持たりて、また、小檜垣などいふもの新しくして、車やドに車引き立て、前近く一尺ばかりなる木生ほして、牛つなぎて草など飼はするこそいとにくけれ。
 

 庭いときよげに掃き、紫革して伊予簾かけわたし、布障子はらせて住まひたる。
 夜は「門強くさせ」など、ことおこなひたる、いみじう生ひ先なう、心づきなし。
 

 親の家、舅はさらなり、をぢ、兄などの住まぬ家、そのさべき人なからむは、おのづから、むつまじくうち知りたらむ受領の国へいきていたづらならむ、さらずは、院、宮ばらの屋あまたあるに、住みなどして、司待ち出でてのち、いつしかよき所たづねとりて住みたるこそよけれ。
 
 

女は 枕草子
中巻中
177段
六位の蔵人
女のひとり