源氏物語 若菜下:巻別和歌18首・逐語分析

若菜上 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
35帖 若菜下
柏木

 
 源氏物語・若菜下(わかな・げ)巻の和歌18首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:4×2(柏木、源氏)、2×3(明石尼君、紫上、女三宮)、1×4(明石姫君、中務君=紫付女房、六条御息所の死霊in紫上、朧月夜)※最初最後
 

若菜下・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 6首  40字未満
応答 4首  40~100字未満
対応 4首  ~400~1000字+対応関係文言
単体 4首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

→【PC向け表示
 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。

 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
483
恋ひわぶる
人のかたみと
手ならせば
なれよ何とて
鳴く音なるらむ
〔柏木〕恋いわびている
人のよすがと
思ってかわいがっていると
どういうつもりでそんな
鳴き声を立てるのか
484
誰れかまた
心を知りて
住吉の
代を経たる
にこと問ふ
〔源氏〕わたしの外に誰がまた
昔の事情を知って
住吉の
神代からの
松に話しかけたりしましょうか
485
住の江
いけるかひある
渚とは
年経る尼も
今日や知るらむ
〔明石尼君〕住吉の浜を
生きていた甲斐がある
渚だと
年とった尼も
今日知ることでしょう
486
昔こそ
まづ忘られね
住吉の
神のしるし

見るにつけても
〔明石尼君〕昔の事が
何よりも忘れられない
住吉の
神の霊験を
目の当たりにするにつけても
487
住の江
松に夜深く
置く霜は
掛けたる
木綿鬘かも
〔紫上〕住吉の浜の
松に夜深く
置く霜は
神様が掛けた
木綿鬘でしょうか
488
人の
手に取りもたる
榊葉に
木綿かけ添ふる
深き夜
〔明石姫君〕神主が
手に持った
榊の葉に
木綿を掛け添えた
深い夜の霜ですこと
489
祝子が
木綿うちまがひ
置く霜は
げにいちじるき
神のしるし
〔中務君:紫付女房〕神に仕える人々の
木綿鬘と見間違えるほどに
置く霜は
仰せのとおり
神の御霊験の証でございましょう
490
起きてゆく
も知られぬ
明けぐれ
いづくの露の
かかる袖なり
〔柏木〕起きて帰って行く
先も分からない
明けぐれに
どこから露が
かかって袖が濡れるのでしょう
491
明けぐれ
に憂き身は
消えななむ
夢なりけりと
見てもやむべく
〔女三宮〕明けぐれの
空にこの身は
消えてしまいたいものです
夢であったと
思って済まされるように
492
悔しくぞ
摘み犯しける
葵草
の許せる
かざしならぬに
〔柏木〕悔しい事に
罪を犯してしまったことよ

神が許した
仲ではないのに
493
もろかづら
落葉を何に
拾ひけむ
名は睦ましき
かざしなれども
〔柏木〕劣った
落葉のような方を
どうして娶ったのだろう
同じ院のご姉妹
ではあるが
494
贈:
わが身こそ
あらぬさまなれ
それながら
そらおぼれする
なり
〔六条御息所の死霊in紫上→源氏〕わたしは
こんな変わりはてた
身の上となってしまったが
知らないふりをする
あなたは昔のままですね
495
消え止まる
ほどやは経べき
たまさかに

かかるばかりを
〔紫上〕露が消え残っている
間だけでも生きられましょうか
たまたま
蓮の露が
こうしてあるほどの命ですから
496
契り置かむ
この世ならでも
葉に
ゐる
心隔つな
〔源氏〕お約束して置きましょう、
この世ばかりでなく来世に
蓮の葉の上に
玉と置く露のように
いささかも心の隔てを置きなさいますな
497
夕露に
袖濡らせとや
ひぐらし
鳴くを聞く聞く
起きて行くらむ
〔女三宮〕夕露に
袖を濡らせというつもりで、
ひぐらしが
鳴くのを聞きながら
起きて行かれるのでしょうか
498
待つ里も
いかが聞くらむ
方がたに
心騒がす
ひぐらしの声
〔源氏〕わたしを待っているほうでも
どのように聞いているでしょうか
それぞれに
心を騒がす
ひぐらしの声ですね
499
海人の世を
よそに聞かめや
須磨の浦に
藻塩垂れしも
誰れならなくに
〔源氏〕出家されたことを
他人事して聞き流していられましょうか
わたしが須磨の浦で
涙に沈んでいたのは
誰ならぬあなたのせいなのですから
500
海人舟に
いかがは思ひ
おくれけむ
明石の浦に
いさりせし君
〔朧月夜〕尼になったわたしに
どうして
遅れをおとりになったのでしょう
明石の浦に
海人のようなお暮らしをなさっていたあなたが