古事記~大きな嘆き 原文対訳

海神の国
三年滞在
古事記
上巻 第五部
ホデリとホオリの物語
大きいな嘆き
(大胆)
鯛の喉
居タイ
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是
火遠理命。
 ここに
火遠理の命、
 ここに
ホヲリの命は
思其初事而。 その初めの事を思ほして、 初めの事をお思いになつて
大一歎。 大きなる歎なげき一つしたまひき。 大きな溜息をなさいました。
     
故豐玉毘賣命。 かれ豐玉とよたま毘賣の命、 そこでトヨタマ姫が
聞其歎以。 その歎を聞かして、 これをお聞きになつて
白其父言。 その父に白して言はく、 その父に申しますには、
三年雖住。 「三年住みたまへども、 「あの方は
三年お住みになつていますが、

無歎。
恆は
歎かすことも無かりしに、
いつも
お歎きになることもありませんですのに、
今夜
爲大一歎。
今夜こよひ
大きなる歎一つしたまひつるは、
今夜
大きな溜息を一つなさいましたのは
若有何由故。 けだしいかなる由かあらむ」
とまをしき。
何か仔細がありましようか」
と申しましたから、
     
其父大神。 かれ、その父の大神、 その父の神樣が
問其聟夫曰。 その聟の夫に問ひて曰はく、 聟の君に問われるには、
今旦聞
我女之語。
「今旦けさ
我が女の語るを聞けば、
「今朝
わたくしの女の語るのを聞けば、
云三年雖坐。 三年坐しませども、 三年おいでになるけれども
恆無歎。 恆は歎かすことも無かりしに、 いつもお歎きになることも無かつたのに、
今夜爲大歎 今夜大きなる歎したまひつ
とまをす。
今夜大きな溜息を一つなさいました
と申しました。
若有由哉。 けだし故ありや。 何かわけがありますか。
亦到
此間之
由奈何。
また此間ここに來ませる
由はいかに」
と問ひまつりき。
また此處においでになつた
仔細はどういう事ですか」
とお尋ね申しました。
     
爾語其大神。 ここにその大神に語りて、 依つてその大神に
備如其兄
失鉤之状
つぶさにその兄の失せにし
鉤を徴はたれる状の如語りたまひき。
詳しく、兄が無くなつた
鉤はりを請求する有樣を語りました。

 

海神の国
三年滞在
古事記
上巻 第五部
ホデリとホオリの物語
大きいな嘆き
(大胆)
鯛の喉
居タイ

解説

 
 
 冒頭「火遠理命」とあるのは、放り投げていたことを思い出した。
 「大嘆(大きな嘆き)」は、大きなため息。嘆息。
 

 豊玉が父伝えに聞いているのは、夜のことだから。
 今までにはなかったというから、自分の問題ではないことを確認(確定)してほしい。
 父がホオリにそのままつまびらかに伝えているのは、空気を読めないから(ホオリ同様)。
 

 ホオリが最後語る内容の訳が錯綜しているが、このままだと兄に罰せられるから嘆いてる。
 しかし訳に罰という文字がない。
 こういうブレが出る部分は、訳者が著者と違う文脈を設定している。