徒然草71段 名を聞くよりやがて面影は:原文

元応の清暑堂 徒然草
第二部
71段
名を聞くより
賎しげなる

 
 名を聞くより、やがて面影は推しはからるる心地するを、見るときは、また、かねて思ひつるままの顔したる人こそなけれ。
昔物語を聞きても、このごろの人の家の、そこほどにてぞありけんと覚え、人も、今見る人の中に思ひよそへらるるは、たれもかく覚ゆるにや。
 

 また、いかなるをりぞ、ただいま人の言ふことも、目に見ゆるものも、わが心のうちも、かかることのいつぞやありしかと覚えて、いつとは思ひいでねども、まさしくありし心地のするは、我ばかりかく思ふにや。