奥の細道 草加:原文対照



『おくのほそ道』
素龍清書原本 校訂
『新釈奥の細道』
   ことし元禄二年にや、 ことし元禄にとせにや
  奧羽長途の行脚ただかりそめに思ひたちて、 奧羽長途の行脚たゝかりそめに思立ちて
  呉天に白髪の恨みを重ぬといへども、 吳天に白髮の恨を重ぬといへども
  耳にふれていまだ目に見ぬ境、 耳にふれてはいまた目にみぬさかひ
  もし生きて帰らばと、定めなき頼みの末をかけ、 若生きてかへらばと定めなきたのみの末をかけ
  その日やうやう草加といふ宿にたどり着きにけり。 其日漸く早加といふ宿にたどり着にけり
  痩骨の肩にかかれる物、まづ苦しむ。 瘦骨の肩にかゝれる物先くるしむ
     
  ただ身すがらにと出で立ち侍るを、 たゝ身すからにと出立侍るを
  紙子一衣は夜の防ぎ、 紙子一重は夜のふせぎ
  浴衣、雨具、墨、筆のたぐひ、 ゆかた雨具墨筆のたぐひ
  あるはさりがたき餞などしたるは、 あるはさりがたき餞などしたるは
  さすがにうち捨てがたくて、 さすがに打捨がたくて
  路次の煩ひとなれるこそわりなけれ。 路次のはづらひとなれるこそわりなけれ