古事記~八千矛の歌  原文対訳

ヤガミ姫の恐れ 古事記
上巻 第三部
大国主の物語
八千矛の歌
ヌナカハ姫の歌
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
此八千矛神。  この八千矛やちほこの神、  このヤチホコの神(大國主の命)が、
將婚高志國之
沼河比賣
幸行之時。
高志こしの國の
沼河比賣ぬなかはひめを
婚よばはむとして幸いでます時に、
越の國のヌナカハ姫と
結婚しようとしておいでになりました時に、
到其沼河比賣之家。 その沼河比賣の家に到りて そのヌナカハ姫の家に行いつて
歌曰。 歌よみしたまひしく、 お詠みになりました歌は、
     
夜知富許能 迦微能美許登波  八千矛やちほこの 神の命は ヤチホコの 神樣は
夜斯麻久爾 都麻麻岐迦泥弖 八島國 妻求まぎかねて 方々の國で 妻を求めかねて
登富登富斯 故志能久邇邇 遠遠し 高志こしの國に 遠い遠い 越こしの國に
佐加志賣遠 阿理登岐加志弖 賢さかし女めを ありと聞かして 賢かしこい女がいると聞き
久波志賣遠 阿理登伎許志弖 麗くはし女めを ありと聞きこして 美しい女がいると聞いて
佐用婆比邇 阿理多多斯 さ婚よばひに あり立たし 結婚にお出でましになり
 用婆比邇 阿理迦用婆勢 婚ひに あり通はせ、 結婚にお通かよいになり、
多知賀遠母 伊麻陀登加受弖 大刀が緒も いまだ解かずて、 大刀たちの緒おもまだ解かず
淤須比遠母 伊麻陀登加泥婆 襲おすひをも いまだ解かね、 羽織はおりをもまだ脱ぬがずに、
 遠登賣能 那須夜伊多斗遠 孃子をとめの 寢なすや板戸を 娘さんの眠つておられる板戸を
淤曾夫良比 和何多多勢禮婆 押おそぶらひ 吾わが立たせれば、 押しゆすぶり立つていると
比許豆良比 和何多多勢禮婆 引こづらひ 吾わが立たせれば、 引き試みて立つていると、
阿遠夜麻邇 奴延波那伎奴。 青山に ぬえは鳴きぬ。 青い山ではヌエが鳴いている。
佐怒都登理 岐藝斯波登與牟 さ野のつ鳥 雉子きぎしは響とよむ。 野の鳥の雉きじは叫んでいる。
爾波都登理 迦祁波那久 庭つ鳥 鷄かけは鳴く。 庭先でニワトリも鳴いている。
宇禮多久母 那久那留登理加 うれたくも 鳴くなる鳥か。 腹が立つさまに鳴く鳥だな
許能登理母 宇知夜米許世泥 この鳥も うち止やめこせね。 こんな鳥はやつつけてしまえ。
伊斯多布夜 阿麻波勢豆加比 いしたふや 天馳使あまはせづかひ、 下におります走り使をする者の
許登能加多理其登母 許遠婆 事の語りごとも こをば。 事ことの語かたり傳つたえはかようでございます。
ヤガミ姫の恐れ 古事記
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ヌナカハ姫の歌