徒然草43段 春の暮れつ方:原文

唐橋中将 徒然草
第二部
43段
春の暮れつ方
あやしの竹

 
 春の暮れつ方、のどやかに艶なる空に、いやしからぬ家の、奥深く、木立ものふりて、庭に散りしをれたる花、見過ぐしがたきを、さし入りて見れば、南面の格子、皆おろしてさびしげなるに、東にむきて妻戸のよきほどにあきたる、御簾のやぶれより見れば、かたちきよげなる男の、年二十ばかりにて、うちとけたれど、心にくくのどやかなるさまして、机のうへに文をくりひろげて見ゐたり。
 

 いかなる人なりけむ、尋ね聞かまほし。