伊勢物語 49段:若草 あらすじ・原文・現代語訳

第48段
人待たむ里
伊勢物語
第二部
第49段
若草
第50段
あだくらべ

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文対照
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
 ♂いとをかしげ 
 
 ♀めづらしき言の葉 
 
 
 

あらすじ

 
 
 むかし、男が女のおかしな寝姿を見て、「うら若いのに、若草っぽいな」と「聞こえけり」(?)
 それに女が返し、「初草のように、珍しい言葉だこと、裏がないといいのだけれど」、と言った。
 

 男の「若草」はばかくさとかけ、「聞こえけり」は言い訳でボケと解く。その心は、
 アホっぽいけど可愛いじゃん。という声が、どこからか聞こえてきたんだ(俺じゃありますん)
 

 女の「初草」は初耳のツッコミとかけ、「裏なくものを思ひ」はボケ且つツッコミと解く。その心は、
 「その心の声、聞こえてるよ」
 
 
 

原文対照

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第49段 若草
   
 むかし、男、  むかし、おとこ、  昔男。
  妹の いもうとの いもうとの
  いとをかしげなりけるを見をりて、 いとおかしげなりけるを見をりて、 おかしげなるを見て。
       

90
 うら若み
 寝よげに見ゆる若草を
 うらわかみ
 ねよげに見ゆるわかくさを
 うらわかみ
 ねよげにみゆる若艸を
  人の結ばむ
  ことをしぞ思ふ
  人のむすばむ
  ことをしぞ思
  人の結はぬ
  ことをしそ思ふ
       
  と聞えけり。返し、 ときこえけり。返し、  ときこえければ。返し。
       

91
 初草の
 などめづらしき言の葉ぞ
 はつくさの
 などめづらしきことのはぞ
 初草の
 なとめつらしきことのはそ
  うらなくものを
  思ひけるかな
  うらなくものを
  おもひけるかな
  うらなく物を
  思ひける哉
   

現代語訳

 
 

いとをかしげ

 

むかし、男、
妹のいとをかしげなりけるを見をりて、
 
うら若み 寝よげに見ゆる 若草を
 人の結ばむ ことをしぞ思ふ
 
と聞えけり。

 
 
むかし男
 むかし男が
 

妹の
 彼女の
 

 いも 【妹】
 妻。恋人。姉妹。男性から女性を親しんで呼ぶ語。女の子。
 兄(せ)とセットの言葉だから、ここでは彼女。
 文字通り「妹」という意味は、続く「寝」「結」の文字からまずない。
 

いとをかしげなりけるを見をりて
 とてもおかしな様子を見て
 

 をかし
 こっけい。おかしい。
 これを風情がある、美しいなどの文脈で用いてもそれは京風の文脈(その証拠に、万葉にこの意味の言葉はない)。
 「おかし」はお菓子にかけて、(楽しく子供のように)笑えるというのが、その言葉の本質。
 
 

うら若み
 うら若い
 

 うら若
 あらあらこんな若々しい
 

寝よげに見ゆる 若草を
 よー寝てる寝姿に見る 若草に
 
 寝よげに:寝よる+寝よげ+げに
 

 若草
 バカクサと掛けて、幼そうなあほくさい寝姿(参照:竹取「大臣これを見給ひて、 御顔は草の葉の色して居給へり」。つまり著者は同一。)
 ここでは多分、口をあけて寝ていた。
 

人の結ばむ
 人が一緒になる
 

ことをしぞ思ふ
 コトをしようと思う(か?)
 

と聞えけり
 と聞こえてきた(??)
 

 その心は、いや、おれじゃないもん。仮におれの秘められた心の声でも、愛情表現だから。愛情を強調しているだけだもの。人間だもの。
 
 

めづらしき言の葉

 

返し、
 
初草の などめづらしき 言の葉ぞ
 うらなくものを 思ひけるかな

 
返し
 ムニャムニャ起きて言うには、
 
 

初草の
 若草って初草のこと?
 

などめづらしき 言の葉ぞ
 何とも珍しい 言葉だね
 

うらなくものを
 裏がないとは
 

思ひけるかな
 思うけど
 
 

 「めづらしき」とは当てつけ。若草は珍しくもなんともなく、初草だけが珍しい。
 (というか初草という言葉はない。万葉には一つもない。恐らく伊勢のこの部分を参照して、源氏で用いられたようだが)
 

 つまり裏をわかっているけど、男に合わせてボケて返している(つまり賢い)。
 

 「昔人は、 かくいちはやきみやびをなむしける」(初段)