古事記~哭女(なきめ) 原文対訳

還矢の本 古事記
上巻 第四部
国譲りの物語
哭女(なきめ)
神度剣
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)

天若日子之妻。
 かれ
天若日子が妻め
それで
天若日子の妻、
下照比賣之哭聲。 下照したてる比賣ひめの哭なく聲、 下照したてる姫のお泣きになる聲が
與風響到天。 風のむた響きて天に到りき。 風のまにまに響いて天に聞えました。
     
於是在天。 ここに天なる そこで天にいた
天若日子之父。 天若日子が父 天若日子の父の
天津國玉神。 天津國玉
あまつくにたまの神、
アマツクニダマの神、
及其妻子聞而。 またその妻子めこども聞きて、 また天若日子のもとの妻子たちが聞いて、
降來哭悲。 降り來て哭き悲みて、 下りて來て泣き悲しんで、
乃於其處作喪屋而。 其處に喪屋もやを作りて、 そこに葬式の家を作つて、
河雁爲
岐佐理持。
〈自岐下三字以音〉
河鴈を
岐佐理持
きさりもちとし、
ガンを
死人の食物を持つ役とし、
鷺爲
掃持。
鷺さぎを
掃持ははきもちとし、
サギを
箒ほうきを持つ役とし、
翠鳥爲
御食人。
翠鳥そにどりを
御食人みけびととし、
カワセミを
御料理人とし、
雀爲
碓女。
雀を
碓女うすめとし、
スズメを
碓うすを舂つく女とし、
雉爲
哭女。
雉子を
哭女なきめとし、
キジを
泣く役の女として、
如此行定而。 かく行ひ定めて、 かように定めて
日八日夜八夜遊也。 日八日やか夜八夜やよを遊びたりき。 八日八夜というもの遊んでさわぎました。
還矢の本 古事記
上巻 第四部
国譲りの物語
哭女
神度剣

解説

 
 
 悲しい展開から、突如最後に遊び続ける話になるが、これが天若日子の話の総括。
 八日遊び続けることを想像してほしい。それで神度剣でなぎ払われる。
 

 天から悲しんで天の家族が下に降ってきたとは、これまで同様、受肉のことを言っている。
 それで受肉しこれまでのことを忘れて流された。それで遊び続けている。
 

 そこで出てくる鳥達の説明も、全てそれに沿っている。
 ガンは死に至る病。岐佐理持(死人の食物をもつ役)とは金。モチ(餅)は勿論金の例え。
 サギは詐欺。
 カワセミでカワとかかるウソ、碓女(うすめ)もウソとかけている。
 

 キジを泣く役の女(雉爲哭女)にしているのは、殺されたキジの鳴女にかけて(雉名鳴女)。
 前の鳴女では、使いとして鳴いた雉が亡き女になった(天若日子に射殺された)。天の使なので金は関係ない。
 哭女(なきめ)は、古典を知る人なら、知らない人はいない葬式で泣く商売女。
 商売で泣いている。
 

 つまり、ここでの文脈はこうである。
 天若日子は、天命を受けて地に降りたらすぐ地に染まり、世のためではなく、自分のためだけの生活をしていた(天からみれば延々遊んで騒いでいた)。