紫式部集99 多かりし:原文対訳・逐語分析

98心ゆく 紫式部集
第九部
宮中と女房

99多かりし
異本90
100三笠山
原文
実践女子大本
(定家本系筆頭)
現代語訳
(渋谷栄一)
注釈
【渋谷栄一】
侍従宰相の  侍従の宰相(藤原実成)が奉った 【侍従宰相】-宰相(参議)で侍従職を兼ねた藤原実成。「ちしう」は平安の仮名遣い。
五節の局、 五節の舞姫の部屋は、  
宮の御前いとけ近きに、 中宮(彰子)の御前にたいそう近いのに、 【宮の御前】-中宮彰子。
弘徽殿の右京が、 弘徽殿女御の右京が、

【弘徽殿】-一条天皇の女御、内大臣藤原公季の娘、実成の姉。

【右京】-女房名。

一夜しるきさまにて 先夜はっきり目立った様子で  
ありしことなど、 いたことなどを、  
人びと言ひ立てて、 女房たちが言い立てて、  
日蔭をやる。 日蔭の鬘を贈る。  
さし紛らはすべき 顔を隠すための  
扇など添へて、 扇などを添えて、  
     
多かりし 大勢の  
豊の宮人 豊の明りの節会に参集した宮人の  
さしわきて 中から取り分けて  
しるき日蔭を はっきりと日蔭の鬘を着けた  
あはれとぞ見し あなたをしみじみと見ました  
     

参考異本=本人日記歌+後世の二次資料

*「おほかりしとよの宮人さしわきてしるきひかげをあはれとぞみし」(黒川本「紫日記」一三)
 
*「中納言実成さいさうにて五節たてまつりけるにいもうとの弘徽殿女御のもとにはべりける人かしづきにいでたりけるを、中宮の御かたの人人ほのかにききてみならしけむももしきをかしづきにてみるらんほどもあはれにおもふらんといひて、はこのふたにしろがねのあふぎにほうらいの山つくりなどしてさしぐしにひかげのかづらをむすびつけてたきものをたてぶみにこめて、かの女御のかたにはべりける人のもとよりとおぼしうて左京のきみのもとにといはせてはての日さしおかせける  よみ人しらず
おほかりしとよのみや人さしわけてしるきひかげをあはれとぞみし」(書陵部本「後拾遺集」雑五 一一二一)
*「中宮の御方の人
おほかりしとよのみやびとさしおきてしるきひかげをあはれとはみし」(神宮文庫本「難後拾遺抄」九一)
*「多かりし豊の宮人さし分けてしるき日蔭をあはれとぞ見し」(梅沢本「栄華物語」六一)
*「多かりし豊の宮人さし分けてしるき日影を哀とぞみし」(「宝物集」六三)