源氏物語 松風:巻別和歌16首・逐語分析

絵合 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
18帖 松風
薄雲

 
 源氏物語・松風(まつかぜ)巻の和歌16首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:4×3(明石尼君、明石、源氏)、1×4(明石入道、冷泉帝、※頭中将=全集では注釈せず本巻一首のみ別人扱い、左大弁=年配の脇役)※最初最後
 

松風・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 11首  40字未満
応答 3首  40~100字未満
対応 2首  ~400~1000字+対応関係文言
単体 0 単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
283
行く先を
はるかに祈る
別れ路に
堪へぬは老いの
涙なりけり
〔明石入道〕姫君の将来が
ご幸福であれと祈る
別れに際して
堪えきれないのは老人の
涙であるよ
284
もろともに
都は出で来
このたびや
ひとり野中の
道に惑はむ
〔明石尼君〕ご一緒に
都を出て来ましたが、
今度の旅は
一人で都へ帰る野中の
道で迷うことでしょう
285
いきてまた
あひ見むことを
いつとてか
限りも知らぬ
世をば頼まむ
〔明石〕京へ行って生きて再び
お会いできることを
いつと思って
限りも分からない
寿命を頼りにできましょうか
286
かの岸に
心寄りにし
海人舟の
背きし方に
漕ぎ帰るかな
〔明石尼君〕彼岸の浄土に
思いを寄せていた
尼のわたしが
捨てた都の世界に
帰って行くのだわ
287
いくかへり
行きかふ秋を
過ぐしつつ
浮木に乗りて
われ帰るらむ
〔明石〕何年も
秋を過ごし
過ごしして来たが
頼りない舟に乗って
都に帰って行くのでしょう
288
身を変へて
一人帰れる
里に
聞きしに似たる
松風ぞ吹く
〔明石尼君〕尼姿となって
一人帰ってきた
山里に
昔聞いたことがあるような
松風が吹いている
289
里に
見し世の友を
恋ひわびて
さへづることを
誰れか分くらむ
〔明石〕故里で
昔親しんだ人を
恋い慕って
弾く田舎びた琴の音を
誰が分かってくれようか
290
住み馴れし
人は帰り
たどれども
清水は宿の
主人顔なる
〔明石尼君〕かつて住み慣れていた
わたしは帰って来て、
昔のことを思い出そうとするが
遣水はこの家の
主人のような昔ながらの音を立てています
291
いさらゐは
はやくのことも
忘れじを
もとの主人
面変はりせる
〔源氏〕小さな遣水は
昔のことも
忘れないのに
もとの主人は
姿を変えてしまったからであろうか
292
契りし
変はらぬ琴の
調べにて
絶えぬ心の
ほどは知りきや
〔源氏〕約束したとおり、
琴の
調べのように
変わらないわたしの心を
お分かりいただけましたか
293
変はらじと
契りしことを
頼みにて
の響きに
音を添へしかな
〔明石〕変わらないと
約束なさったことを
頼みとして
松風の音に
泣く声を添えて待っていました
294
月のすむ
川のをちなる
なれば
桂の影は
のどけかるらむ
〔冷泉帝〕月が澄んで見える
桂川の向こうの
里なので
月の光を
ゆっくりと眺められることであろう
295
久方の
光に近き
名のみして
朝夕霧も
晴れぬ山
〔源氏〕桂の里といえば
月に近いように思われますが
それは名ばかりで
朝夕霧も
晴れない山里です
296
めぐり来て
手に取るばかり
さやけきや
路の島の
あはと見し
〔源氏〕都に帰って来て
手に取るばかり
近くに見える月は
あの淡路島を臨んで
遥か遠くに眺めた月と同じ月なのだろうか
297

しばしまがひし
月影
すみはつる
のどけかるべき
〔頭中将=認定内訳注意※〕浮雲に
少しの間隠れていた
月の光【しばし見紛えた月影】も
今は澄みきっているように
いつまでものどかでありましょう
298
の上の
すみかを捨てて
半の
いづれの谷に
かげ隠しけむ
〔左大弁〕まだまだご健在であるはずの故院は

どこの谷間に
お姿をお隠しあそばしてしまわれたのだろう