古事記 矢河枝比賣(ヤカワエヒメ)~原文対訳

葛野歌 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
愛の歌物語
2 矢河枝比賣
ワニのカニの歌
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
故到坐
木幡村之時。
 かれ木幡こはたの村に
到ります時に、
 かくて木幡こばたの村に
おいでになつた時に、
麗美孃子。
遇其道衢。
その道衢ちまたに、
顏美よき孃子遇へり。
その道で
美しい孃子にお遇いになりました。
     
爾天皇問
其孃子曰。
ここに天皇、
その孃子に問ひたまはく、
そこで天皇が
その孃子に、
汝者誰子。 「汝いましは誰が子ぞ」
と問はしければ、
「あなたは誰の子か」
とお尋ねになりましたから、
答白。 答へて白さく、 お答え申し上げるには、
丸邇之
比布禮能
意富美之女。

宮主矢河枝比賣。
「丸邇わにの
比布禮ひふれの
意富美おほみが女、
名は宮主矢河枝
みやぬしやかはえ比賣」とまをしき。
「ワニノ
ヒフレの
オホミの女の
ミヤヌシヤガハエ姫でございます」
と申しました。
     
天皇即詔其孃子。 天皇すなはちその孃子に詔りたまはく、 天皇がその孃子に
吾明日還幸之時。 「吾明日あすのひ還りまさむ時、 「わたしが明日還る時に
入坐汝家。 汝いましの家に入りまさむ」
と詔りたまひき。
あなたの家にはいりましよう」
と仰せられました。
     
故矢河枝比賣。
委曲語其父。
かれ矢河枝比賣、
委曲つぶさにその父に語りき。
そこでヤガハエ姫が
その父に詳しくお話しました。
     
於是父答曰。 ここに父答へて曰はく、 依つて父の言いますには、
是者
天皇坐那理。
〈此二字以音〉
「こは
大君にますなり。
「これは
天皇陛下でおいでになります。
恐之。 恐かしこし、 恐れ多いことですから、
我子仕奉。 我あが子仕へまつれ」 わが子よ、お仕え申し上げなさい」
云而。 といひて、 と言つて、
嚴餝其家
候待者。
その家を嚴飾かざりて、
候さもらひ待ちしかば、
その家をりつぱに飾り立て、
待つておりましたところ、
明日入坐。 明日あすのひ入りましき。 あくる日においでになりました。
葛野歌 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
愛の歌物語
2 矢河枝比賣
ワニのカニの歌