枕草子220段 賀茂の臨時の祭

見ものは 枕草子
中巻下
220段
賀茂の
行幸に

(旧)大系:220段
新大系:205段-2、新編全集:206段-2
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後最も索引性に優れる三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:203段1-3
 


 
 賀茂の臨時の祭、空の曇りさむげなるに、雪すこしうち散りて、かざしの花、青摺などにかかりたる、えもいはずをかし。

 太刀の鞘のきはやかに、黒うまだらにて、しろう見えたるに、半臂の緒のやうしたるやうにかかりたる、地摺の袴のなかより、氷かとおどろくばかりなる打目など、すべていとめでたし。

 いますこしおほくわたらせまほしきに、使は必ずよき人ならず、受領などなるは目もとまらずにくげなるも、藤の花にかくれたるほどはをかし。

 

 なほ過ぎぬる方を見送るに、陪従のしなおくれたる、柳にかざしの山吹わりなく見ゆれど、泥障いとたかううち鳴らして、「賀茂の社のゆふだすき」とうたひたるは、いとをかし。
 
 

見ものは 枕草子
中巻下
220段
賀茂の
行幸に