万葉集 第十五巻:一覧と配置

第十四巻
東歌・防人歌
万葉集
第十五巻
第十六巻
有由縁并雜歌

 
 万葉集第十五巻、その一覧と配置(歌の内容はリンク先を参照)。
 ここでは個別の歌の検討というより、全体の配置に示される万葉の構造を見る。
 

 15巻では、7巻後半のような構成で厚い古集から始まり、しかし同時に左注で人麻呂歌集と対比させ、冒頭の最後を人麻呂と認定する端的な歌でしめくくる。
 端的な人麻呂認定は、4巻より後はほとんどないので、これが連続することは、特別な配慮というか終わりを暗示させる。末尾に具体名も出現し始める。
 

 冒頭にある古歌にはさまれた「秦間満(はたのはしたまろ)」は、まず人麻呂の別名称。
 太安万侶と端的にリンクしている。安万侶こそ人麻呂の本名。万侶=人麻呂(形)。卑官、歌物語、相応の影響力、没723と724。
 

 中核の無名部分に、大使・大判官という知性を感じさせる役職が散発することが特徴。日記的なものからとったのかもしれない。人麻呂の。
 帝に近い卑官なら高度の教養があるだろう。だから卑官なのに宮中の嗜みの代名詞である歌が上手いとされているのである。
 貴族の誰より上手くないとそう言われる理由が何一つない。むしろ貴族達にとって目障りな存在。だからこそ家持の狼藉があるし、頭がゆるいのになぜか和歌が上手いという業平主人公説がまかりとっている。歌を元より知らないと伊勢物語が他人目線で評しているにもかかわらず(伊勢101段)。
 

第十五巻 目次と配置(3578~3785:208首)
              3578
古歌
3579
古歌
3580
古歌
3581
古歌
3582
古歌
3583
古歌
3584
古歌
3585
古歌
3586
古歌
3587
古歌
3588
古歌
3589
秦間満
3590
古歌
3591
古歌
3592
古歌
3593
古歌
3594
古歌
3595
古歌
3596
古歌
3597
古歌
3598
古歌
3599
古歌
3600
古歌
 
 
3601
古歌
3602
古歌
3603
古歌
3604
古歌
3605
古歌
3606
古歌:(柿★)
3607
古歌:(柿★)
3608
古歌:(柿★)
3609
古歌:(柿★)
3610
古歌:(柿★)
3611
七夕:柿★
3612
大判官
3613
3614
3615
3616
3617
大石蓑麻呂
3618
3619
3620
3621
3622
3623
3624
3625
丹比大夫
3626
丹比大夫
3627
3628
3629
3630
3631
3632
3633
3634
3635
3636
3637
3638
田邊秋庭
3639
3640
羽栗
3641
3642
3643
3644
雪宅麻呂
3645
3646
3647
3648
3649
3650
3651
3652
3653
3654
3655
3656
大使
3657
3658
3659
大使之第二男
3660
土師稲足
3661
3662
3663
3664
3665
3666
3667
3668
大使
3669
大判官
3670
3671
3672
3673
3674
大判官
3675
大判官
3676
3677
3678
3679
3680
3681
秦田麻呂
3682
娘子
3683
3684
3685
3686
3687
3688
3689
3690
3691
葛井連子老
3692
葛井連子老
3693
葛井連子老
3694
六鯖
3695
六鯖
3696
六鯖
3697
3698
3699
3700
大使
 
 
3701
副使
3702
大判官
3703
小判官
3704
對馬娘子玉槻
3705
對馬娘子玉槻
3706
大使
3707
副使
3708
大使
3709
3710
3711
3712
3713
3714
3715
3716
3717
3718
3719
3720
3721
3722
3723
狭野弟上娘子
3724
狭野弟上娘子
3725
狭野弟上娘子
3726
狭野弟上娘子
3727
中臣宅守
3728
中臣宅守
3729
中臣宅守
3730
中臣宅守
3731
中臣宅守
3732
中臣宅守
3733
中臣宅守
3734
中臣宅守
3735
中臣宅守
3736
中臣宅守
3737
中臣宅守
3738
中臣宅守
3739
中臣宅守
3740
中臣宅守
3741
中臣宅守
3742
中臣宅守
3743
中臣宅守
3744
中臣宅守
3745
狭野弟上娘子
3746
狭野弟上娘子
3747
狭野弟上娘子
3748
狭野弟上娘子
3749
狭野弟上娘子
3750
狭野弟上娘子
3751
狭野弟上娘子
3752
狭野弟上娘子
3753
狭野弟上娘子
3754
中臣宅守
3755
中臣宅守
3756
中臣宅守
3757
中臣宅守
3758
中臣宅守
3759
中臣宅守
3760
中臣宅守
3761
中臣宅守
3762
中臣宅守
3763
中臣宅守
3764
中臣宅守
3765
中臣宅守
3766
中臣宅守
3767
狭野弟上娘子
3768
狭野弟上娘子
3769
狭野弟上娘子
3770
狭野弟上娘子
3771
狭野弟上娘子
3772
狭野弟上娘子
3773
狭野弟上娘子
3774
狭野弟上娘子
3775
中臣宅守
3776
中臣宅守
3777
狭野弟上娘子
3778
狭野弟上娘子
3779
中臣宅守
3780
中臣宅守
3781
中臣宅守
3782
中臣宅守
3783
中臣宅守
3784
中臣宅守
3785
中臣宅守
         
 

第十五巻

   
   15/3578
題詞 遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌
題訓 天平てむひやう八年やとせといふとし丙子ひのえね夏六月みなつき、新羅しらきの国に遣ひ使はさるる時、使人つかひ等、各おのもおのも別れを悲しみ贈り答へ、また海路うみつぢにて情こころを慟かなしみ思ひを陳のべてよめる歌、また所につきて誦詠うたへる古き歌、一百四十五首ももちまりよそいつつ
原文 武庫能浦乃 伊里江能渚鳥 羽具久毛流 伎美乎波奈礼弖 古非尓之奴倍之
訓読 武庫の浦の入江の洲鳥羽ぐくもる君を離れて恋に死ぬべし
仮名 むこのうらの いりえのすどり はぐくもる きみをはなれて こひにしぬべし
左注 (右十一首贈答)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 地名 兵庫県 武庫川 動物 女歌 悲別 序詞 恋情 羈旅 出発 難波 大阪
訓異 いりえのすどり;いりえのすとり, はぐくもる;はくくもる, こひにしぬべし;こひにしぬへし,
   
  15/3579
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 大船尓 伊母能流母能尓 安良麻勢<婆> 羽具久美母知弖 由可麻之母能乎
訓読 大船に妹乗るものにあらませば羽ぐくみ持ちて行かましものを
仮名 おほぶねに いものるものに あらませば はぐくみもちて ゆかましものを
左注 (右十一首贈答)
校異 波→婆 [類]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 恋情 悲別 出発 羈旅 難波 大阪
訓異 おほぶねに;おほふねに, あらませば;あらませは, はぐくみもちて;はくくみもちて,
   
  15/3580
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 君之由久 海邊乃夜杼尓 奇里多々婆 安我多知奈氣久 伊伎等之理麻勢
訓読 君が行く海辺の宿に霧立たば我が立ち嘆く息と知りませ
仮名 きみがゆく うみへのやどに きりたたば あがたちなげく いきとしりませ
左注 (右十一首贈答)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 女歌 羈旅 出発 悲別 恋情 難波 大阪
訓異 きみがゆく;きみかゆく, うみへのやどに;うみへのやとに, きりたたば;きりたたは, あがたちなげく;あかたちなけく,
   
  15/3581
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 秋佐良婆 安比見牟毛能乎 奈尓之可母 奇里尓多都倍久 奈氣伎之麻佐牟
訓読 秋さらば相見むものを何しかも霧に立つべく嘆きしまさむ
仮名 あきさらば あひみむものを なにしかも きりにたつべく なげきしまさむ
左注 (右十一首贈答)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 悲別 羈旅 出発 慰撫 恋愛 難波 大阪
訓異 あきさらば;あきさらは, きりにたつべく;きりにたつへく, なげきしまさむ;なけきしまさむ,
   
  15/3582
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 大船乎 安流美尓伊太之 伊麻須君 都追牟許等奈久 波也可敝里麻勢
訓読 大船を荒海に出だしいます君障むことなく早帰りませ
仮名 おほぶねを あるみにいだし いますきみ つつむことなく はやかへりませ
左注 (右十一首贈答)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 女歌 羈旅 出発 悲別 餞別 恋愛 難波 大阪
訓異 おほぶねを;おほふねを, あるみにいだし;あるみにいたし,
   
  15/3583
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 真幸而 伊毛我伊波伴伐 於伎都奈美 知敝尓多都等母 佐波里安良米也母
訓読 ま幸くて妹が斎はば沖つ波千重に立つとも障りあらめやも
仮名 まさきくて いもがいははば おきつなみ ちへにたつとも さはりあらめやも
左注 (右十一首贈答)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 羈旅 出発 悲別 恋愛 難波 大阪
訓異 いもがいははば;いもかいははは,
   
  15/3584
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 和可礼奈波 宇良我奈之家武 安我許呂母 之多尓乎伎麻勢 多太尓安布麻弖尓
訓読 別れなばうら悲しけむ我が衣下にを着ませ直に逢ふまでに
仮名 わかれなば うらがなしけむ あがころも したにをきませ ただにあふまでに
左注 (右十一首贈答)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 羈旅 女歌 恋情 出発 悲別 難波 大阪
訓異 わかれなば;わかれなは, うらがなしけむ;うらかなしけむ, あがころも;あかころも, ただにあふまでに;たたにあふまてに,
   
  15/3585
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 和伎母故我 之多尓毛伎余等 於久理多流 許呂母能比毛乎 安礼等可米也母
訓読 我妹子が下にも着よと贈りたる衣の紐を我れ解かめやも
仮名 わぎもこが したにもきよと おくりたる ころものひもを あれとかめやも
左注 (右十一首贈答)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 羈旅 恋情 出発 難波 大阪
訓異 わぎもこが;わきもこか,
   
  15/3586
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 和我由恵尓 於毛比奈夜勢曽 秋風能 布可武曽能都奇 安波牟母能由恵
訓読 我がゆゑに思ひな痩せそ秋風の吹かむその月逢はむものゆゑ
仮名 わがゆゑに おもひなやせそ あきかぜの ふかむそのつき あはむものゆゑ
左注 (右十一首贈答)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 出発 悲別 餞別 羈旅 恋情 難波 大阪
訓異 わがゆゑに;わかゆゑに, あきかぜの;あきかせの,
   
  15/3587
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 多久夫須麻 新羅邊伊麻須 伎美我目乎 家布可安須可登 伊波比弖麻多牟
訓読 栲衾新羅へいます君が目を今日か明日かと斎ひて待たむ
仮名 たくぶすま しらきへいます きみがめを けふかあすかと いはひてまたむ
左注 (右十一首贈答)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 地名 韓国 枕詞 悲別 羈旅 餞別 女歌 難波 大阪
訓異 たくぶすま;たくふすま, きみがめを;きみかめを,
   
  15/3588
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 波呂波呂尓 於<毛>保由流可母 之可礼杼毛 異情乎 安我毛波奈久尓
訓読 はろはろに思ほゆるかもしかれども異しき心を我が思はなくに
仮名 はろはろに おもほゆるかも しかれども けしきこころを あがもはなくに
左注 右十一首贈答
左注訓 右の十一首とをまりひとつは、贈答おくりこたへのうた。
校異 母→毛 [類][紀]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 贈答 羈旅 悲別 出発 恋愛 難波 大阪
訓異 しかれども;しかれとも, けしきこころを;あたしこころを, あがもはなくに;あかもはなくに,
   
  15/3589
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 由布佐礼婆 比具良之伎奈久 伊故麻山 古延弖曽安我久流 伊毛我目乎保里
訓読 夕さればひぐらし来鳴く生駒山越えてぞ我が来る妹が目を欲り
仮名 ゆふされば ひぐらしきなく いこまやま こえてぞあがくる いもがめをほり
左注 右一首秦間満
左注訓 右の一首ひとうたは、秦間滿はたのはしまろ。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 作者:秦間満 地名 奈良 難波 大阪 出発 羈旅 恋情
訓異 ゆふされば;ゆふされは, ひぐらしきなく;ひくらしきなく, こえてぞあがくる;こえてそあかくる, いもがめをほり;いもかめをほり,
   
  15/3590
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 伊毛尓安波受 安良婆須敝奈美 伊波祢布牟 伊故麻乃山乎 故延弖曽安我久流
訓読 妹に逢はずあらばすべなみ岩根踏む生駒の山を越えてぞ我が来る
仮名 いもにあはず あらばすべなみ いはねふむ いこまのやまを こえてぞあがくる
左注 右一首蹔還私家陳思
左注訓 右の一首は、竊ひそかに私家いへに還りて思ひを陳のぶ。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 奈良 難波 大阪 出発 恋情 羈旅
訓異 いもにあはず;いもにあはす, あらばすべなみ;あらはすへなみ, こえてぞあがくる;こえてそあかくる,
   
  15/3591
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 妹等安里之 時者安礼杼毛 和可礼弖波 許呂母弖佐牟伎 母能尓曽安里家流
訓読 妹とありし時はあれども別れては衣手寒きものにぞありける
仮名 いもとありし ときはあれども わかれては ころもでさむき ものにぞありける
左注 (右三首臨發之時作歌)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 悲別 羈旅 恋情 出発 難波 大阪
訓異 ときはあれども;ときはあれとも, ころもでさむき;ころもてさむき, ものにぞありける;ものにそありける,
   
  15/3592
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 海原尓 宇伎祢世武夜者 於伎都風 伊多久奈布吉曽 妹毛安良奈久尓
訓読 海原に浮寝せむ夜は沖つ風いたくな吹きそ妹もあらなくに
仮名 うなはらに うきねせむよは おきつかぜ いたくなふきそ いももあらなくに
左注 (右三首臨發之時作歌)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 悲別 出発 難波 大阪 恋情
訓異 おきつかぜ;おきつかせ,
   
  15/3593
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 大伴能 美津尓布奈能里 許藝出而者 伊都礼乃思麻尓 伊保里世武和礼
訓読 大伴の御津に船乗り漕ぎ出てはいづれの島に廬りせむ我れ
仮名 おほともの みつにふなのり こぎでては いづれのしまに いほりせむわれ
左注 右三首臨發之時作歌
左注訓 右の三首みうたは、発たむとする時よめる歌。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 出発 難波 大阪 地名
訓異 こぎでては;こきいてては, いづれのしまに;いつれのしまに,
   
  15/3594
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 之保麻都等 安里家流布祢乎 思良受之弖 久夜之久妹乎 和可礼伎尓家利
訓読 潮待つとありける船を知らずして悔しく妹を別れ来にけり
仮名 しほまつと ありけるふねを しらずして くやしくいもを わかれきにけり
左注 (右八首乗船入海路上作歌)
校異 之 [類][細] 志
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 悲別 恋情 難波 大阪
訓異 しらずして;しらすして,
   
  15/3595
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 安佐妣良伎 許藝弖天久礼婆 牟故能宇良能 之保非能可多尓 多豆我許恵須毛
訓読 朝開き漕ぎ出て来れば武庫の浦の潮干の潟に鶴が声すも
仮名 あさびらき こぎでてくれば むこのうらの しほひのかたに たづがこゑすも
左注 (右八首乗船入海路上作歌)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 兵庫県 武庫川 動物 出発 羈旅 叙景 難波 大阪
訓異 あさびらき;あさひらき, こぎでてくれば;こきててくれは, たづがこゑすも;たつかこゑすも,
   
  15/3596
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 和伎母故我 可多美尓見牟乎 印南都麻 之良奈美多加弥 与曽尓可母美牟
訓読 我妹子が形見に見むを印南都麻白波高み外にかも見む
仮名 わぎもこが かたみにみむを いなみつま しらなみたかみ よそにかもみむ
左注 (右八首乗船入海路上作歌)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 悲別 望郷 地名 加古川 兵庫
訓異 わぎもこが;わきもこか,
   
  15/3597
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 和多都美能 於伎津之良奈美 多知久良思 安麻乎等女等母 思麻我久<流>見由
訓読 わたつみの沖つ白波立ち来らし海人娘子ども島隠る見ゆ
仮名 わたつみの おきつしらなみ たちくらし あまをとめども しまがくるみゆ
左注 (右八首乗船入海路上作歌)
校異 礼→流 [紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 叙景 兵庫
訓異 あまをとめども;あまをとめらも, しまがくるみゆ;しまかくるみゆ,
   
  15/3598
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 奴波多麻能 欲波安氣奴良之 多麻能宇良尓 安佐里須流多豆 奈伎和多流奈里
訓読 ぬばたまの夜は明けぬらし玉の浦にあさりする鶴鳴き渡るなり
仮名 ぬばたまの よはあけぬらし たまのうらに あさりするたづ なきわたるなり
左注 (右八首乗船入海路上作歌)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 枕詞 地名 岡山県 倉敷市 動物 叙景 羈旅
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, あさりするたづ;あさりするたつ,
   
  15/3599
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 月余美能 比可里乎伎欲美 神嶋乃 伊素<未>乃宇良由 船出須和礼波
訓読 月読の光りを清み神島の礒廻の浦ゆ船出す我れは
仮名 つくよみの ひかりをきよみ かみしまの いそみのうらゆ ふなですわれは
左注 (右八首乗船入海路上作歌)
校異 末→未 [細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 広島 福山市 羈旅
訓異 つくよみの;つきよみの, いそみのうらゆ;いそまのうらゆ, ふなですわれは;ふなてすわれは,
   
  15/3600
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 波奈礼蘇尓 多弖流牟漏能木 宇多我多毛 比左之伎時乎 須疑尓家流香母
訓読 離れ礒に立てるむろの木うたがたも久しき時を過ぎにけるかも
仮名 はなれそに たてるむろのき うたがたも ひさしきときを すぎにけるかも
左注 (右八首乗船入海路上作歌)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 福山 広島
訓異 うたがたも;うたかたも, すぎにけるかも;すきにけるかも,
   
  15/3601
題詞 (遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
原文 之麻思久母 比等利安里宇流 毛能尓安礼也 之麻能牟漏能木 波奈礼弖安流良武
訓読 しましくもひとりありうるものにあれや島のむろの木離れてあるらむ
仮名 しましくも ひとりありうる ものにあれや しまのむろのき はなれてあるらむ
左注 右八首乗船入海路上作歌
左注訓 右の八首やうたは、船乗りして海つ路に入いづる時よめる歌。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 福山 広島
訓異 -
   
  15/3602
題詞 當所誦詠古歌
題訓 所につきて誦詠うたへる古き歌
原文 安乎尓余志 奈良能美夜古尓 多奈妣家流 安麻能之良久毛 見礼杼安可奴加毛
訓読 あをによし奈良の都にたなびける天の白雲見れど飽かぬかも
仮名 あをによし ならのみやこに たなびける あまのしらくも みれどあかぬかも
左注 右一首詠雲
左注訓 右の一首は、雲を詠める。
校異 歌 [西] 謌 [紀][温] 哥
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 枕詞 望郷 羈旅 転用
訓異 たなびける;たなひける, みれどあかぬかも;みれとあかぬかも,
   
  15/3603
題詞 (當所誦詠古歌)
原文 安乎<楊>疑能 延太伎里於呂之 湯種蒔 忌忌伎美尓 故非和多流香母
訓読 青楊の枝伐り下ろしゆ種蒔きゆゆしき君に恋ひわたるかも
仮名 あをやぎの えだきりおろし ゆだねまき ゆゆしききみに こひわたるかも
左注 (右三首戀歌)
校異 揚→楊 [類][紀][温]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 転用 望郷 恋情 植物 羈旅
訓異 あをやぎの;あをやきの, えだきりおろし;えたきりおろし, ゆだねまき;ゆたねまき,
   
  15/3604
題詞 (當所誦詠古歌)
原文 妹我素弖 和可礼弖比左尓 奈里奴礼杼 比登比母伊毛乎 和須礼弖於毛倍也
訓読 妹が袖別れて久になりぬれど一日も妹を忘れて思へや
仮名 いもがそで わかれてひさに なりぬれど ひとひもいもを わすれておもへや
左注 (右三首戀歌)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 恋情 望郷 羈旅 転用
訓異 いもがそで;いもかそて, なりぬれど;なりぬれと,
   
  15/3605
題詞 (當所誦詠古歌)
原文 和多都美乃 宇美尓伊弖多流 思可麻河<泊> 多延無日尓許曽 安我故非夜麻米
訓読 わたつみの海に出でたる飾磨川絶えむ日にこそ我が恋やまめ
仮名 わたつみの うみにいでたる しかまがは たえむひにこそ あがこひやまめ
左注 右三首戀歌
左注訓 右の三首は、恋の歌。
校異 伯→泊 [古][細][温]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 枕詞 恋情 望郷 兵庫 姫路 船場川 転用 羈旅
訓異 うみにいでたる;うみにいてたる, しかまがは;しかまかは, あがこひやまめ;あかこひやまめ,
   
  15/3606
題詞 (當所誦詠古歌)
原文 多麻藻可流 乎等女乎須疑弖 奈都久佐能 野嶋我左吉尓 伊保里須和礼波
訓読 玉藻刈る処女を過ぎて夏草の野島が崎に廬りす我れは
仮名 たまもかる をとめをすぎて なつくさの のしまがさきに いほりすわれは
左注 柿本朝臣人麻呂歌曰 敏馬乎須疑弖 又曰 布祢知可豆伎奴
左注訓 柿本朝臣人麿ガ歌ニ曰ク、敏馬を過ぎて。又曰ク、船近づきぬ。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 柿本人麻呂 枕詞 地名 兵庫 淡路 異伝 道行翮 羈旅 転用
訓異 をとめをすぎて;をとめをすきて, のしまがさきに;のしまかさきに,
   
  15/3606S
題詞 (當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
題訓 柿本朝臣人麿ガ歌ニ曰ク、敏馬を過ぎて。又曰ク、船近づきぬ。
原文 敏馬乎須疑弖 布祢知可豆伎奴
訓読 敏馬を過ぎて 船近づきぬ
仮名 みぬめをすぎて ふねちかづきぬ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 作者:柿本人麻呂 地名 兵庫 異伝 道行翮 羈旅 転用
訓異 みぬめをすぎて;みぬめをすきて, ふねちかづきぬ;ふねちかつきぬ,
   
  15/3607
題詞 (當所誦詠古歌)
原文 之路多倍能 藤江能宇良尓 伊<射>里須流 安麻等也見良武 多妣由久和礼乎
訓読 白栲の藤江の浦に漁りする海人とや見らむ旅行く我れを
仮名 しろたへの ふぢえのうらに いざりする あまとやみらむ たびゆくわれを
左注 柿本朝臣人麻呂歌曰 安良多倍乃 又曰 須受吉都流 安麻登香見良武
左注訓 柿本朝臣人麿ガ歌ニ曰ク、荒栲の。又曰ク、鱸すずき釣る海人とか見らむ。
校異 時→射 [西(訂正)][類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 枕詞 地名 兵庫 明石 羈旅 柿本人麻呂 異伝 転用
訓異 ふぢえのうらに;ふちえのうらに, いざりする;いさりする, たびゆくわれを;たひゆくわれを,
   
  15/3607S
題詞 (當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
題訓 柿本朝臣人麿ガ歌ニ曰ク、荒栲の。又曰ク、鱸すずき釣る海人とか見らむ。
原文 安良多倍乃 須受吉都流 安麻登香見良武
訓読 荒栲の 鱸釣る海人とか見らむ
仮名 あらたへの すずきつる あまとかみらむ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 異伝 作者:柿本人麻呂 枕詞 羈旅 転用
訓異 すずきつる;すすきつる,
   
  15/3608
題詞 (當所誦詠古歌)
原文 安麻射可流 比奈乃奈我道乎 孤悲久礼婆 安可思能門欲里 伊敝乃安多里見由
訓読 天離る鄙の長道を恋ひ来れば明石の門より家のあたり見ゆ
仮名 あまざかる ひなのながちを こひくれば あかしのとより いへのあたりみゆ
左注 柿本朝臣人麻呂歌曰 夜麻等思麻見由
左注訓 柿本朝臣人麿ガ歌ニ曰ク、やまと島見ゆ。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 異伝 柿本人麻呂 羈旅 地名 明石 兵庫 望郷 転用
訓異 あまざかる;あまさかる, ひなのながちを;ひなのなかちを, こひくれば;こひくれは,
   
  15/3608S
題詞 (當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰
題訓 柿本朝臣人麿ガ歌ニ曰ク、
原文 夜麻等思麻見由
訓読 大和島見ゆ
仮名 やまとしまみゆ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 異伝 作者:柿本人麻呂 大和 奈良 地名 明石 羈旅 望郷 転用
訓異 -
   
  15/3609
題詞 (當所誦詠古歌)
原文 武庫能宇美能 尓波余久安良之 伊射里須流 安麻能都里船 奈美能宇倍由見由
訓読 武庫の海の庭よくあらし漁りする海人の釣舟波の上ゆ見ゆ
仮名 むこのうみの にはよくあらし いざりする あまのつりぶね なみのうへゆみゆ
左注 柿本朝臣人麻呂歌曰 氣比乃宇美能 又曰 可里許毛能 美<太>礼弖出見由 安麻能都里船
左注訓 柿本朝臣人麿ガ歌ニ曰ク、けひの海の。又曰ク、刈薦かりこもの 乱れて出づ見ゆ海人の釣船。
校異 多→太 [類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 羈旅 地名 西宮 兵庫 柿本人麻呂 異伝 叙景 土地讃美 転用
訓異 いざりする;いさりする, あまのつりぶね;あまのつりふね,
   
  15/3609S
題詞 (當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
題訓 柿本朝臣人麿ガ歌ニ曰ク、けひの海の。又曰ク、刈薦かりこもの 乱れて出づ見ゆ海人の釣船。
原文 氣比乃宇美能 可里許毛能 美<太>礼弖出見由 安麻能都里船
訓読 笥飯の海の 刈り薦の乱れて出づ見ゆ海人の釣船
仮名 けひのうみの かりこもの みだれていづみゆ あまのつりぶね
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 羈旅 枕詞 異伝 作者:柿本人麻呂 叙景 土地讃美 地名 淡路 兵庫 転用
訓異 みだれていづみゆ;みたれていてみゆ, あまのつりぶね;あまのつりふね,
   
  15/3610
題詞 (當所誦詠古歌)
原文 安胡乃宇良尓 布奈能里須良牟 乎等女良我 安可毛能須素尓 之保美都良武賀
訓読 安胡の浦に舟乗りすらむ娘子らが赤裳の裾に潮満つらむか
仮名 あごのうらに ふなのりすらむ をとめらが あかものすそに しほみつらむか
左注 柿本朝臣人麻呂歌曰 安美能宇良 又曰 多<麻>母能須蘇尓
左注訓 柿本朝臣人麿ガ歌ニ曰ク、あみの浦。又曰ク、玉裳の裾に。
校異 麻能→麻 [西(訂正)][類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 地名 異伝 柿本人麻呂 羈旅 転用
訓異 あごのうらに;あこのうらに, をとめらが;をとめらか,
   
  15/3610S
題詞 (當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
題訓 柿本朝臣人麿ガ歌ニ曰ク、あみの浦。又曰ク、玉裳の裾に。
原文 安美能宇良 多<麻>母能須蘇尓
訓読 嗚呼見の浦 玉裳の裾に
仮名 あみのうら たまものすそに
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 古歌 誦詠 地名 三重県 異伝 作者:柿本人麻呂 転用
訓異 -
   
  15/3611
題詞 七夕歌一首
題訓 〔七夕歌一首〕
原文 於保夫祢尓 麻可治之自奴伎 宇奈波良乎 許藝弖天和多流 月人乎登I
訓読 大船に真楫しじ貫き海原を漕ぎ出て渡る月人壮士
仮名 おほぶねに まかぢしじぬき うなはらを こぎでてわたる つきひとをとこ
左注 右柿本朝臣人麻呂歌
左注訓 右、柿本朝臣人麿の歌。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 作者:柿本人麻呂 転用 古歌 誦詠 七夕 羈旅
訓異 おほぶねに;おほふねに, まかぢしじぬき;まかてししぬき, こぎでてわたる;こきててわたる,
   
  15/3612
題詞 備後國水調郡長井浦舶泊之夜作歌三首
題訓 備後国きびのみちのしりのくに水調郡みつきのこほり長井の浦に船泊てし夜、よめる歌三首
原文 安乎尓与之 奈良能美也故尓 由久比等毛我母 久左麻久良 多妣由久布祢能 登麻利都ん武仁 [旋頭歌也]
訓読 あをによし奈良の都に行く人もがも草枕旅行く船の泊り告げむに [旋頭歌也]
仮名 あをによし ならのみやこに ゆくひともがも くさまくら たびゆくふねの とまりつげむに
左注 右一首大判官
左注訓 右の一首は、大判官おほきまつりごとひと。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 広島 三原 作者:壬生宇太麻呂 枕詞 旋頭歌 羈旅 望郷
訓異 ゆくひともがも;ゆくひともかも, たびゆくふねの;たひゆくふねの, とまりつげむに;とまりつけむに,
   
  15/3613
題詞 (備後國水調郡長井浦舶泊之夜作歌三首)
原文 海原乎 夜蘇之麻我久里 伎奴礼杼母 奈良能美也故波 和須礼可祢都母
訓読 海原を八十島隠り来ぬれども奈良の都は忘れかねつも
仮名 うなはらを やそしまがくり きぬれども ならのみやこは わすれかねつも
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 広島 三原 望郷 羈旅
訓異 やそしまがくり;やそしまかくり, きぬれども;きぬれとも,
   
  15/3614
題詞 (備後國水調郡長井浦舶泊之夜作歌三首)
原文 可敝流散尓 伊母尓見勢武尓 和多都美乃 於伎都白玉 比利比弖由賀奈
訓読 帰るさに妹に見せむにわたつみの沖つ白玉拾ひて行かな
仮名 かへるさに いもにみせむに わたつみの おきつしらたま ひりひてゆかな
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 広島 三原 羈旅 牫侄げ 魂触り
訓異 -
   
  15/3615
題詞 風速浦舶泊之夜作歌二首
題訓 安藝国あぎのくに風速かざはやの浦に舶ふね泊てし夜、よめる歌二首
原文 和我由恵仁 妹奈氣久良之 風早能 宇良能於伎敝尓 奇里多奈妣家利
訓読 我がゆゑに妹嘆くらし風早の浦の沖辺に霧たなびけり
仮名 わがゆゑに いもなげくらし かざはやの うらのおきへに きりたなびけり
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 広島 安芸津町 望郷 羈旅 叙景
訓異 わがゆゑに;わかゆゑに, いもなげくらし;いもなけくらし, かざはやの;かさはやの, きりたなびけり;きりたなひけり,
   
  15/3616
題詞 (風速浦舶泊之夜作歌二首)
原文 於伎都加是 伊多久布伎勢波 和伎毛故我 奈氣伎能奇里尓 安可麻之母能乎
訓読 沖つ風いたく吹きせば我妹子が嘆きの霧に飽かましものを
仮名 おきつかぜ いたくふきせば わぎもこが なげきのきりに あかましものを
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 広島 安芸津町 望郷 羈旅
訓異 おきつかぜ;おきつかせ, いたくふきせば;いたくふきせは, わぎもこが;わきもこか, なげきのきりに;なけきのきりに,
   
  15/3617
題詞 安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首
題訓 長門の島の磯辺に舶泊ててよめる歌五首
原文 伊波婆之流 多伎毛登杼呂尓 鳴蝉乃 許恵乎之伎氣婆 京師之於毛保由
訓読 石走る瀧もとどろに鳴く蝉の声をし聞けば都し思ほゆ
仮名 いはばしる たきもとどろに なくせみの こゑをしきけば みやこしおもほゆ
左注 右一首大石蓑麻呂
左注訓 右の一首は、大石蓑麿おほいそのにのまろ。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 望郷 広島 倉橋島 作者:大石蓑麻呂
訓異 いはばしる;いははしる, たきもとどろに;たきもととろに, こゑをしきけば;こゑをしきけは,
   
  15/3618
題詞 (安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
原文 夜麻河<泊>能 伎欲吉可波世尓 安蘇倍杼母 奈良能美夜故波 和須礼可祢都母
訓読 山川の清き川瀬に遊べども奈良の都は忘れかねつも
仮名 やまがはの きよきかはせに あそべども ならのみやこは わすれかねつも
左注 なし
校異 伯→泊 [類][細][温]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 広島 倉橋島 望郷 羈旅 宴席
訓異 やまがはの;やまかはの, あそべども;あそへとも,
   
  15/3619
題詞 (安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
原文 伊蘇乃麻由 多藝都山河 多延受安良婆 麻多母安比見牟 秋加多麻氣弖
訓読 礒の間ゆたぎつ山川絶えずあらばまたも相見む秋かたまけて
仮名 いそのまゆ たぎつやまがは たえずあらば またもあひみむ あきかたまけて
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 広島 倉橋島 望郷 羈旅
訓異 たぎつやまがは;たきつやまかは, たえずあらば;たえすあらは,
   
  15/3620
題詞 (安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
原文 故悲思氣美 奈具左米可祢弖 比具良之能 奈久之麻可氣尓 伊保利須流可母
訓読 恋繁み慰めかねてひぐらしの鳴く島蔭に廬りするかも
仮名 こひしげみ なぐさめかねて ひぐらしの なくしまかげに いほりするかも
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 広島 倉橋島 望郷 羈旅
訓異 こひしげみ;こひしけみ, なぐさめかねて;なくさめかねて, ひぐらしの;ひくらしの, なくしまかげに;なくしまかけに,
   
  15/3621
題詞 (安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
原文 和我伊能知乎 奈我刀能之麻能 小松原 伊久与乎倍弖加 可武佐備和多流
訓読 我が命を長門の島の小松原幾代を経てか神さびわたる
仮名 わがいのちを ながとのしまの こまつばら いくよをへてか かむさびわたる
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 広島 倉橋島 土地讃美 羈旅
訓異 わがいのちを;わかいのちを, ながとのしまの;なかとのしまの, こまつばら;こまつはら, かむさびわたる;かむさひわたる,
   
  15/3622
題詞 従長門浦舶<出>之夜仰觀月光作歌三首
題訓 長門の浦より舶出ふなでせし夜、月光つきを仰観みてよめる歌三首
原文 月余美乃 比可里乎伎欲美 由布奈藝尓 加古能己恵欲妣 宇良<未>許具可聞
訓読 月読みの光りを清み夕なぎに水手の声呼び浦廻漕ぐかも
仮名 つくよみの ひかりをきよみ ゆふなぎに かこのこゑよび うらみこぐかも
左注 なし
校異 出 [西(上書訂正)][紀][細] / 末→未 [万葉集古義]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 船出 出発 広島 倉橋島
訓異 つくよみの;つきよみの, ゆふなぎに;ゆふなきに, かこのこゑよび;かこのこゑよひ, うらみこぐかも;うらみこくかも,
   
  15/3623
題詞 (従長門浦舶<出>之夜仰觀月光作歌三首)
原文 山乃波尓 月可多夫氣婆 伊射里須流 安麻能等毛之備 於伎尓奈都佐布
訓読 山の端に月傾けば漁りする海人の燈火沖になづさふ
仮名 やまのはに つきかたぶけば いざりする あまのともしび おきになづさふ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 出発 広島 倉橋島 叙景 船出
訓異 つきかたぶけば;つきかたふけは, いざりする;いさりする, あまのともしび;あまのともしひ, おきになづさふ;おきになつさふ,
   
  15/3624
題詞 (従長門浦舶<出>之夜仰觀月光作歌三首)
原文 和礼乃未夜 欲布祢波許具登 於毛敝礼婆 於伎敝能可多尓 可治能於等須奈里
訓読 我れのみや夜船は漕ぐと思へれば沖辺の方に楫の音すなり
仮名 われのみや よふねはこぐと おもへれば おきへのかたに かぢのおとすなり
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 広島 倉橋島 出発 羈旅 船出 叙景
訓異 よふねはこぐと;よふねはこくと, おもへれば;おもへれは, かぢのおとすなり;かちのおとすなり,
   
  15/3625
題詞 古挽歌一首[并短歌]
題訓 古き挽歌かなしみうた一首、また短歌みじかうた
原文 由布左礼婆 安之敝尓佐和伎 安氣久礼婆 於伎尓奈都佐布 可母須良母 都麻等多具比弖 和我尾尓波 之毛奈布里曽等 之<路>多倍乃 波祢左之可倍弖 宇知波良比 左宿等布毛能乎 由久美都能 可敝良奴其等久 布久可是能 美延奴我其登久 安刀毛奈吉 与能比登尓之弖 和可礼尓之 伊毛我伎世弖思 奈礼其呂母 蘇弖加多思吉弖 比登里可母祢牟
訓読 夕されば 葦辺に騒き 明け来れば 沖になづさふ 鴨すらも 妻とたぐひて 我が尾には 霜な降りそと 白栲の 羽さし交へて うち掃ひ さ寝とふものを 行く水の 帰らぬごとく 吹く風の 見えぬがごとく 跡もなき 世の人にして 別れにし 妹が着せてし なれ衣 袖片敷きて ひとりかも寝む
仮名 ゆふされば あしへにさわき あけくれば おきになづさふ かもすらも つまとたぐひて わがをには しもなふりそと しろたへの はねさしかへて うちはらひ さぬとふものを ゆくみづの かへらぬごとく ふくかぜの みえぬがごとく あともなき よのひとにして わかれにし いもがきせてし なれごろも そでかたしきて ひとりかもねむ
左注 (右丹比大夫悽愴亡妻歌)
校異 歌 [西] 謌 / 露→路 [類][紀]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 挽歌 転用 古歌 作者:丹比大夫 笠麻呂 羈旅 悲別 望郷 広島 倉橋島
訓異 ゆふされば;ゆふされは, あけくれば;あけくれは, おきになづさふ;おきになつさふ, つまとたぐひて;つまとたくひて, わがをには;わかみには, さぬとふものを;さ*とふものを
  ゆくみづの;ゆくみつの, かへらぬごとく;かへらぬことく, ふくかぜの;ふくかせの, みえぬがごとく;みえぬかことく, いもがきせてし;いもかきせてし, なれごろも;なれころも, そでかたしきて;そてかたしきて,
   
  15/3626
題詞 (古挽歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反かへし歌一首
原文 多都我奈伎 安之<敝>乎左之弖 等妣和多類 安奈多頭多頭志 比等里佐奴礼婆
訓読 鶴が鳴き葦辺をさして飛び渡るあなたづたづしひとりさ寝れば
仮名 たづがなき あしへをさして とびわたる あなたづたづし ひとりさぬれば
左注 右丹比大夫悽愴亡妻歌
左注訓 右、丹比大夫たぢひのまへつきみが亡みまかれる妻めを悽愴かなしめる歌。
校異 倍→敝 [紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 挽歌 転用 古歌 作者:丹比大夫 笠麻呂 羈旅 悲別 望郷 広島 倉橋島
訓異 たづがなき;たつかなき, とびわたる;とひわたる, あなたづたづし;あなたつたつし, ひとりさぬれば;ひとりさぬれは,
   
  15/3627
題詞 属物發思歌一首[并短歌]
題訓 物に属つきて思ひを発のぶる歌一首、また短歌
原文 安佐散礼婆 伊毛我手尓麻久 可我美奈須 美津能波麻備尓 於保夫祢尓 真可治之自奴伎 可良久尓々 和多理由加武等 多太牟可布 美奴面乎左指天 之保麻知弖 美乎妣伎由氣婆 於伎敝尓波 之良奈美多可美 宇良<未>欲理 許藝弖和多礼婆 和伎毛故尓 安波治乃之麻波 由布左礼婆 久毛為可久里奴 左欲布氣弖 由久敝乎之良尓 安我己許呂 安可志能宇良尓 布祢等米弖 宇伎祢乎詞都追 和多都美能 於<枳>敝乎見礼婆 伊射理須流 安麻能乎等女波 小船乗 都良々尓宇家里 安香等吉能 之保美知久礼婆 安之辨尓波 多豆奈伎和多流 安左奈藝尓 布奈弖乎世牟等 船人毛 鹿子毛許恵欲妣 柔保等里能 奈豆左比由氣婆 伊敝之麻婆 久毛為尓美延奴 安我毛敝流 許己呂奈具也等 波夜久伎弖 美牟等於毛比弖 於保夫祢乎 許藝和我由氣婆 於伎都奈美 多可久多知伎奴 与曽能<未>尓 見都追須疑由伎 多麻能宇良尓 布祢乎等杼米弖 波麻備欲里 宇良伊蘇乎見都追 奈久古奈須 祢能未之奈可由 和多都美能 多麻伎能多麻乎 伊敝都刀尓 伊毛尓也良牟等 比里比登里 素弖尓波伊礼弖 可敝之也流 都可比奈家礼婆 毛弖礼杼毛 之留思乎奈美等 麻多於伎都流可毛
訓読 朝されば 妹が手にまく 鏡なす 御津の浜びに 大船に 真楫しじ貫き 韓国に 渡り行かむと 直向ふ 敏馬をさして 潮待ちて 水脈引き行けば 沖辺には 白波高み 浦廻より 漕ぎて渡れば 我妹子に 淡路の島は 夕されば 雲居隠りぬ さ夜更けて ゆくへを知らに 我が心 明石の浦に 船泊めて 浮寝をしつつ わたつみの 沖辺を見れば 漁りする 海人の娘子は 小舟乗り つららに浮けり 暁の 潮満ち来れば 葦辺には 鶴鳴き渡る 朝なぎに 船出をせむと 船人も 水手も声呼び にほ鳥の なづさひ行けば 家島は 雲居に見えぬ 我が思へる 心なぐやと 早く来て 見むと思ひて 大船を 漕ぎ我が行けば 沖つ波 高く立ち来ぬ 外のみに 見つつ過ぎ行き 玉の浦に 船を留めて 浜びより 浦礒を見つつ 泣く子なす 音のみし泣かゆ わたつみの 手巻の玉を 家づとに 妹に遣らむと 拾ひ取り 袖には入れて 帰し遣る 使なければ 持てれども 験をなみと また置きつるかも
仮名 あさされば いもがてにまく かがみなす みつのはまびに おほぶねに まかぢしじぬき からくにに わたりゆかむと ただむかふ みぬめをさして しほまちて みをひきゆけば おきへには しらなみたかみ うらみより こぎてわたれば わぎもこに あはぢのしまは ゆふされば くもゐかくりぬ さよふけて ゆくへをしらに あがこころ あかしのうらに ふねとめて うきねをしつつ わたつみの おきへをみれば いざりする あまのをとめは をぶねのり つららにうけり あかときの しほみちくれば あしべには たづなきわたる あさなぎに ふなでをせむと ふなびとも かこもこゑよび にほどりの なづさひゆけば いへしまは くもゐにみえぬ あがもへる こころなぐやと はやくきて みむとおもひて おほぶねを こぎわがゆけば おきつなみ たかくたちきぬ よそのみに みつつすぎゆき たまのうらに ふねをとどめて はまびより うらいそをみつつ なくこなす ねのみしなかゆ わたつみの たまきのたまを いへづとに いもにやらむと ひりひとり そでにはいれて かへしやる つかひなければ もてれども しるしをなみと またおきつるかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 末→未 [万葉集古義] / 枳 [西(上書訂正)][紀][細][温] / 末→未 [西(訂正)][細][紀][温]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 道行翮 羈旅 大阪 兵庫 岡山 広島 倉橋島 序詞 枕詞 望郷 孤独
訓異 あさされば;あさされは, いもがてにまく;いもかてにまく, かがみなす;かかみなす, みつのはまびに;みつのはまひに, おほぶねに;おほふねに, まかぢしじぬき;まかちししぬき, ただむかふ;たたむかふ, みをひきゆけば;みをひきゆけは, こぎてわたれば;こきてわたれは, わぎもこに;わきもこに, あはぢのしまは;あはちのしまは, ゆふされば;ゆふされは, あがこころ;あかこころ, うきねをしつつ;
  おきへをみれば;おきへをみれは, いざりする;いさりする, をぶねのり;をふねのり, しほみちくれば;しほみちくれは, あしべには;あしへには, たづなきわたる;たつなきわたる, あさなぎに;あさなきに, ふなでをせむと;ふなてをせむと, ふなびとも;ふなひとも, かこもこゑよび;かこもこゑよひ, にほどりの;にほとりの, なづさひゆけば;なつさひゆけは, あがもへる;あかもへる, こころなぐやと;こころなくやと, おほぶねを;おほふねを, こぎわがゆけば;わきわかゆけは, みつつすぎゆき;みつつすきゆき, たまのうらに;たまのをらに, ふねをとどめて;ふねをととめて, はまびより;はまひより, いへづとに;いへつとに, そでにはいれて;そてにはいれて, つかひなければ;つかひなけれは, もてれども;もてれとも,
   
  15/3628
題詞 (属物發思歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 多麻能宇良能 於伎都之良多麻 比利敝礼杼 麻多曽於伎都流 見流比等乎奈美
訓読 玉の浦の沖つ白玉拾へれどまたぞ置きつる見る人をなみ
仮名 たまのうらの おきつしらたま ひりへれど またぞおきつる みるひとをなみ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 望郷 地名 岡山 倉敷 広島 倉橋島 孤独
訓異 ひりへれど;ひりへれと, またぞおきつる;またそおきつる,
   
  15/3629
題詞 ((属物發思歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 安伎左良婆 和<我>布祢波弖牟 和須礼我比 与世伎弖於家礼 於伎都之良奈美
訓読 秋さらば我が船泊てむ忘れ貝寄せ来て置けれ沖つ白波
仮名 あきさらば わがふねはてむ わすれがひ よせきておけれ おきつしらなみ
左注 なし
校異 <>→我 [西(左書)][紀][細][温]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 望郷 広島 倉橋島 孤独
訓異 あきさらば;あきさらは, わがふねはてむ;わかふねはてむ, わすれがひ;わすれかひ,
   
  15/3630
題詞 周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首
題訓 周防国すはうのくに玖河郡くがのこほり麻里布まりふの浦に行く時、よめる歌八首やつ
原文 真可治奴伎 布祢之由加受波 見礼杼安可奴 麻里布能宇良尓 也杼里世麻之乎
訓読 真楫貫き船し行かずは見れど飽かぬ麻里布の浦に宿りせましを
仮名 まかぢぬき ふねしゆかずは みれどあかぬ まりふのうらに やどりせましを
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 土地讃美 山口 岩国 地名
訓異 まかぢぬき;まかちぬき, ふねしゆかずは;ふねしゆかすは, みれどあかぬ;みれとあかぬ, やどりせましを;やとりせましを,
   
  15/3631
題詞 (周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
原文 伊都之可母 見牟等於毛比師 安波之麻乎 与曽尓也故非無 由久与思<乎>奈美
訓読 いつしかも見むと思ひし粟島を外にや恋ひむ行くよしをなみ
仮名 いつしかも みむとおもひし あはしまを よそにやこひむ ゆくよしをなみ
左注 なし
校異 於→乎 [類][紀]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 山口 岩国 土地讃美 恋情 羈旅
訓異 -
   
  15/3632
題詞 (周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
原文 大船尓 可之布里多弖天 波麻藝欲伎 麻里布能宇良尓 也杼里可世麻之
訓読 大船にかし振り立てて浜清き麻里布の浦に宿りかせまし
仮名 おほぶねに かしふりたてて はまぎよき まりふのうらに やどりかせまし
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 山口 岩国 地名 土地讃美
訓異 おほぶねに;おほふねに, はまぎよき;はまきよき, やどりかせまし;やとりかせまし,
   
  15/3633
題詞 (周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
原文 安波思麻能 安波自等於毛布 伊毛尓安礼也 夜須伊毛祢受弖 安我故非和多流
訓読 粟島の逢はじと思ふ妹にあれや安寐も寝ずて我が恋ひわたる
仮名 あはしまの あはじとおもふ いもにあれや やすいもねずて あがこひわたる
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 岩国 山口 望郷 恋情 羈旅
訓異 あはじとおもふ;あはしとおもふ, やすいもねずて;やすいもねすて, あがこひわたる;あかこひわたる,
   
  15/3634
題詞 (周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
原文 筑紫道能 可太能於保之麻 思末志久母 見祢婆古非思吉 伊毛乎於伎弖伎奴
訓読 筑紫道の可太の大島しましくも見ねば恋しき妹を置きて来ぬ
仮名 つくしぢの かだのおほしま しましくも みねばこひしき いもをおきてきぬ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 地名 岡山 山口 岩国 望郷 恋情
訓異 つくしぢの;つくしちの, かだのおほしま;かたのおほしま, みねばこひしき;みねはこひしき,
   
  15/3635
題詞 (周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
原文 伊毛我伊敝治 知可久安里世婆 見礼杼安可奴 麻里布能宇良乎 見世麻思毛能乎
訓読 妹が家路近くありせば見れど飽かぬ麻里布の浦を見せましものを
仮名 いもがいへぢ ちかくありせば みれどあかぬ まりふのうらを みせましものを
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 地名 山口 岩国 望郷 恋情 土地讃美
訓異 いもがいへぢ;いもかいへち, ちかくありせば;ちかくありせは, みれどあかぬ;みれとあかぬ,
   
  15/3636
題詞 (周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
原文 伊敝妣等波 可敝里波也許等 伊波比之麻 伊波比麻都良牟 多妣由久和礼乎
訓読 家人は帰り早来と伊波比島斎ひ待つらむ旅行く我れを
仮名 いへびとは かへりはやこと いはひしま いはひまつらむ たびゆくわれを
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 地名 山口 上関町 望郷 掛詞
訓異 いへびとは;いへひとは, たびゆくわれを;たひゆくわれを,
   
  15/3637
題詞 (周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
原文 久左麻久良 多妣由久比等乎 伊波比之麻 伊久与布流末弖 伊波比伎尓家牟
訓読 草枕旅行く人を伊波比島幾代経るまで斎ひ来にけむ
仮名 くさまくら たびゆくひとを いはひしま いくよふるまで いはひきにけむ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 枕詞 羈旅 地名 山口 上関町 土地讃美 掛詞
訓異 たびゆくひとを;たひゆくひとを, いくよふるまで;いくよふるまて,
   
  15/3638
題詞 過大嶋鳴門而經再宿之後追作歌二首
題訓 大島の鳴門を過ぎて再宿ふたよ経し後、追ひてよめる歌二首
原文 巨礼也己能 名尓於布奈流門能 宇頭之保尓 多麻毛可流登布 安麻乎等女杼毛
訓読 これやこの名に負ふ鳴門のうづ潮に玉藻刈るとふ海人娘子ども
仮名 これやこの なにおふなるとの うづしほに たまもかるとふ あまをとめども
左注 右一首田邊秋庭
左注訓 右の一首は、田邊秋庭たのべのあきには。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 土地讃美 山口 大畠瀬戸 叙景 追想
訓異 うづしほに;うつしほに, あまをとめども;あまをとめとも,
   
  15/3639
題詞 (過大嶋鳴門而經再宿之後追作歌二首)
原文 奈美能宇倍尓 宇伎祢世之欲比 安杼毛倍香 許己呂我奈之久 伊米尓美要都流
訓読 波の上に浮き寝せし宵あど思へか心悲しく夢に見えつる
仮名 なみのうへに うきねせしよひ あどもへか こころがなしく いめにみえつる
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 山口 大畠瀬戸 追想 望郷
訓異 あどもへか;あともへか, こころがなしく;こころかなしく,
   
  15/3640
題詞 熊毛浦舶泊之夜作歌四首
題訓 熊毛の浦に船泊てし夜、よめる歌四首
原文 美夜故邊尓 由可牟船毛我 可里許母能 美太礼弖於毛布 許登都ん夜良牟
訓読 都辺に行かむ船もが刈り薦の乱れて思ふ言告げやらむ
仮名 みやこへに ゆかむふねもが かりこもの みだれておもふ ことつげやらむ
左注 右一首羽栗
左注訓 右の一首は、羽栗はくり。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羽栗 枕詞 山口 上関町 望郷 羈旅
訓異 ゆかむふねもが;ゆかむふねもか, かりこもの;かりももの, みだれておもふ;みたれておもふ, ことつげやらむ;ことつけやらむ,
   
  15/3641
題詞 (熊毛浦舶泊之夜作歌四首)
原文 安可等伎能 伊敝胡悲之伎尓 宇良<未>欲理 可治乃於等須流波 安麻乎等女可母
訓読 暁の家恋しきに浦廻より楫の音するは海人娘子かも
仮名 あかときの いへごひしきに うらみより かぢのおとするは あまをとめかも
左注 なし
校異 末→未 [万葉集古義]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 山口 上関町 望郷 叙景
訓異 いへごひしきに;いへこひしきに, うらみより;うらまより, かぢのおとするは;かちそおとするは,
   
  15/3642
題詞 (熊毛浦舶泊之夜作歌四首)
原文 於枳敝欲理 之保美知久良之 可良能宇良尓 安佐里須流多豆 奈伎弖佐和伎奴
訓読 沖辺より潮満ち来らし可良の浦にあさりする鶴鳴きて騒きぬ
仮名 おきへより しほみちくらし からのうらに あさりするたづ なきてさわきぬ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 山口 上関町 叙景
訓異 あさりするたづ;あさりするたつ,
   
  15/3643
題詞 (熊毛浦舶泊之夜作歌四首)
原文 於吉敝欲里 布奈妣等能煩流 与妣与勢弖 伊射都氣也良牟 多婢能也登里乎
訓読 沖辺より船人上る呼び寄せていざ告げ遣らむ旅の宿りを
仮名 おきへより ふなびとのぼる よびよせて いざつげやらむ たびのやどりを
左注 一云 多妣能夜杼里乎 伊射都氣夜良奈
左注訓 一ニ云ク、旅の宿りをいざ告げやらな。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 山口 上関町 望郷 異伝
訓異 ふなびとのぼる;ふなひとのほる, よびよせて;よひよせて, いざつげやらむ;いさつけやらむ, たびのやどりを;たひのやとりを,
   
  15/3643S
題詞 (熊毛浦舶泊之夜作歌四首)一云
題訓 一ニ云ク、
原文 多妣能夜杼里乎 伊射都氣夜良奈
訓読 旅の宿りをいざ告げ遣らな
仮名 たびのやどりを いざつげやらな
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 異伝 羈旅 山口 上関町 望郷
訓異 たびのやどりを;たひのやとりを, いざつげやらな;いさつけやらむ,
   
  15/3644
題詞 佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首
題訓 佐婆さばの海にて、忽ち逆風あらきかぜ漲浪たかきなみに遭ひて、漂流ただよひ宿ひとよ経て、のち順風おひてを得、豊前国とよくにのみちのくち下毛郡しもつみけのこほり分間わくまの浦に到着つきぬ。ここに艱難いたづきを追ひ怛いたみて、よめる歌八首
原文 於保伎美能 美許等可之故美 於保<夫>祢能 由伎能麻尓末<尓> 夜杼里須流可母
訓読 大君の命畏み大船の行きのまにまに宿りするかも
仮名 おほきみの みことかしこみ おほぶねの ゆきのまにまに やどりするかも
左注 右一首雪宅麻呂
左注訓 右の一首は、雪宅麻呂ゆきのやかまろ。
校異 布→夫 [類][紀][細] / <>→尓 [西(右書)][類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 大分 中津市 作者:雪宅麻呂 不安
訓異 おほぶねの;おほふねの, やどりするかも;やとりするかも,
   
  15/3645
題詞 (佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
原文 和伎毛故波 伴也母許奴可登 麻都良牟乎 於伎尓也須麻牟 伊敝都可受之弖
訓読 我妹子は早も来ぬかと待つらむを沖にや住まむ家つかずして
仮名 わぎもこは はやもこぬかと まつらむを おきにやすまむ いへつかずして
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 大分 中津市 望郷 不安
訓異 わぎもこは;わきもこは, いへつかずして;いへつかすして,
   
  15/3646
題詞 (佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
原文 宇良<未>欲里 許藝許之布祢乎 風波夜美 於伎都美宇良尓 夜杼里須流可毛
訓読 浦廻より漕ぎ来し船を風早み沖つみ浦に宿りするかも
仮名 うらみより こぎこしふねを かぜはやみ おきつみうらに やどりするかも
左注 なし
校異 末→未 [万葉集古義]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 大分 中津市 不安
訓異 うらみより;うらまより, こぎこしふねを;こきこしふねを, かぜはやみ;かせはやみ, やどりするかも;やとりするかも,
   
  15/3647
題詞 (佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
原文 和伎毛故我 伊可尓於毛倍可 奴婆多末能 比登欲毛於知受 伊米尓之美由流
訓読 我妹子がいかに思へかぬばたまの一夜もおちず夢にし見ゆる
仮名 わぎもこが いかにおもへか ぬばたまの ひとよもおちず いめにしみゆる
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 大分 中津市 望郷 枕詞 不安
訓異 わぎもこが;わちもこか, ぬばたまの;ぬはたまの, ひとよもおちず;ひとよもおちす,
   
  15/3648
題詞 (佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
原文 宇奈波良能 於伎敝尓等毛之 伊射流火波 安可之弖登母世 夜麻登思麻見無
訓読 海原の沖辺に灯し漁る火は明かして灯せ大和島見む
仮名 うなはらの おきへにともし いざるひは あかしてともせ やまとしまみむ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 大分 中津市 望郷
訓異 いざるひは;いさるひは, やまとしまみむ[寛]
   
  15/3649
題詞 (佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
原文 可母自毛能 宇伎祢乎須礼婆 美奈能和多 可具呂伎可美尓 都由曽於伎尓家類
訓読 鴨じもの浮寝をすれば蜷の腸か黒き髪に露ぞ置きにける
仮名 かもじもの うきねをすれば みなのわた かぐろきかみに つゆぞおきにける
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 大分 中津市 漂泊 不安
訓異 かもじもの;かもしもの, うきねをすれば;うきねをすれは, かぐろきかみに;かくろきかみに, つゆぞおきにける;つゆそおきにける,
   
  15/3650
題詞 (佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
原文 比左可多能 安麻弖流月波 見都礼杼母 安我母布伊毛尓 安波奴許呂可毛
訓読 ひさかたの天照る月は見つれども我が思ふ妹に逢はぬころかも
仮名 ひさかたの あまてるつきは みつれども あがもふいもに あはぬころかも
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 枕詞 大分 中津市 望郷 恋情
訓異 みつれども;みつれとも, あがもふいもに;あかもふいもに,
   
  15/3651
題詞 (佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
原文 奴波多麻能 欲和多流月者 波夜毛伊弖奴香文 宇奈波良能 夜蘇之麻能宇倍由 伊毛我安多里見牟 [旋頭歌也]
訓読 ぬばたまの夜渡る月は早も出でぬかも海原の八十島の上ゆ妹があたり見む [旋頭歌也]
仮名 ぬばたまの よわたるつきは はやもいでぬかも うなはらの やそしまのうへゆ いもがあたりみむ
左注 なし
左注訓 旋頭歌なり。
校異 歌 [西] 謌
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 旋頭歌 枕詞 大分 中津市 望郷
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, はやもいでぬかも;はやもいてぬかも, いもがあたりみむ;いもかあたりみむ,
   
  15/3652
題詞 至筑紫舘遥望本郷悽愴作歌四首
題訓 筑紫の館たちに至り、本つ郷くにのかたを遥望みさけ、悽愴かなしみてよめる歌四首
原文 之賀能安麻能 一日毛於知受 也久之保能 可良伎孤悲乎母 安礼波須流香母
訓読 志賀の海人の一日もおちず焼く塩のからき恋をも我れはするかも
仮名 しかのあまの ひとひもおちず やくしほの からきこひをも あれはするかも
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 福岡 志賀島 恋情 羈旅 序詞 望郷
訓異 ひとひもおちず;ひとひもおちす,
   
  15/3653
題詞 (至筑紫舘遥望本郷悽愴作歌四首)
原文 思可能宇良尓 伊射里須流安麻 伊敝<妣>等能 麻知古布良牟尓 安可思都流宇乎
訓読 志賀の浦に漁りする海人家人の待ち恋ふらむに明かし釣る魚
仮名 しかのうらに いざりするあま いへびとの まちこふらむに あかしつるうを
左注 なし
校異 比→妣 [類][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 福岡 志賀島 叙景 羈旅 望郷
訓異 いへびとの;いへひとの,
   
  15/3654
題詞 (至筑紫舘遥望本郷悽愴作歌四首)
原文 可之布江尓 多豆奈吉和多流 之可能宇良尓 於枳都之良奈美 多知之久良思母
訓読 可之布江に鶴鳴き渡る志賀の浦に沖つ白波立ちし来らしも
仮名 かしふえに たづなきわたる しかのうらに おきつしらなみ たちしくらしも
左注 一云 美知之伎奴良思
左注訓 一ニ云ク、満ちし来ぬらし。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 地名 福岡 志賀島 叙景 異伝
訓異 たづなきわたる;たつなきわたる,
   
  15/3654S
題詞 (至筑紫舘遥望本郷悽愴作歌四首)一云
題訓 一ニ云ク、
原文 美知之伎奴良思
訓読 満ちし来ぬらし
仮名 みちしきぬらし
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 異伝 羈旅 福岡 志賀島 叙景
訓異 -
   
  15/3655
題詞 (至筑紫舘遥望本郷悽愴作歌四首)
原文 伊麻欲理波 安伎豆吉奴良之 安思比奇能 夜麻末都可氣尓 日具良之奈伎奴
訓読 今よりは秋づきぬらしあしひきの山松蔭にひぐらし鳴きぬ
仮名 いまよりは あきづきぬらし あしひきの やままつかげに ひぐらしなきぬ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 福岡 枕詞 恋情 叙景
訓異 あきづきぬらし;あきつきぬらし, やままつかげに;やままつかけに, ひぐらしなきぬ;ひくらしなきぬ,
   
  15/3656
題詞 七夕仰觀天漢各陳所思作歌三首
題訓 七夕なぬかのよ天漢あまのがはを仰観みさけ、各おのもおのも思ひを陳べてよめる歌三首
原文 安伎波疑尓 々保敝流和我母 奴礼奴等母 伎美我美布祢能 都奈之等理弖婆
訓読 秋萩ににほへる我が裳濡れぬとも君が御船の綱し取りてば
仮名 あきはぎに にほへるわがも ぬれぬとも きみがみふねの つなしとりてば
左注 右一首大使
左注訓 右の一首は、大使つかひのかみ。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 作者:阿倍継麻呂 羈旅 七夕 織女 女歌 宴席 福岡
訓異 あきはぎに;あきはきに, にほへるわがも;にほへるわかも, きみがみふねの;きみかみふねの, つなしとりてば;つなしとりては,
   
  15/3657
題詞 (七夕仰觀天漢各陳所思作歌三首)
原文 等之尓安里弖 比等欲伊母尓安布 比故保思母 和礼尓麻佐里弖 於毛布良米也母
訓読 年にありて一夜妹に逢ふ彦星も我れにまさりて思ふらめやも
仮名 としにありて ひとよいもにあふ ひこほしも われにまさりて おもふらめやも
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 七夕 宴席 望郷 恋情 福岡
訓異 -
   
  15/3658
題詞 (七夕仰觀天漢各陳所思作歌三首)
原文 由布豆久欲 可氣多知与里安比 安麻能我波 許具布奈妣等乎 見流我等母之佐
訓読 夕月夜影立ち寄り合ひ天の川漕ぐ船人を見るが羨しさ
仮名 ゆふづくよ かげたちよりあひ あまのがは こぐふなびとを みるがともしさ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 七夕 宴席 望郷 恋情 福岡
訓異 ゆふづくよ;ゆふつくよ, かげたちよりあひ;かけたちよりあひ, あまのがは;あまのかは, こぐふなびとを;こくふなひとを, みるがともしさ;みるかともしさ,
   
  15/3659
題詞 海邊望月作九首
題訓 海辺にて月を望みてよめる歌九首
原文 安伎可是波 比尓家尓布伎奴 和伎毛故波 伊都登<加>和礼乎 伊波比麻都良牟
訓読 秋風は日に異に吹きぬ我妹子はいつとか我れを斎ひ待つらむ
仮名 あきかぜは ひにけにふきぬ わぎもこは いつとかわれを いはひまつらむ
左注 大使之第二男
左注訓 大使の第二男おとむすこ。
校異 可→加 [類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 作者:阿倍継麻呂次男 羈旅 望郷 恋情 福岡
訓異 あきかぜは;あきかせは, わぎもこは;わきもこは,
   
  15/3660
題詞 (海邊望月作九首)
原文 可牟佐夫流 安良都能左伎尓 与須流奈美 麻奈久也伊毛尓 故非和多里奈牟
訓読 神さぶる荒津の崎に寄する波間なくや妹に恋ひわたりなむ
仮名 かむさぶる あらつのさきに よするなみ まなくやいもに こひわたりなむ
左注 右一首土師<稲>足
左注訓 右の一首は、土師稲足はにしのいなたり。
校異 楯→稲 [西(訂正右書)][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 福岡 羈旅 望郷 枕詞 作者:土師稲足 恋情
訓異 かむさぶる;かむさふる,
   
  15/3661
題詞 (海邊望月作九首)
原文 可是能牟多 与世久流奈美尓 伊射里須流 安麻乎等女良我 毛能須素奴礼奴
訓読 風の共寄せ来る波に漁りする海人娘子らが裳の裾濡れぬ
仮名 かぜのむた よせくるなみに いざりする あまをとめらが ものすそぬれぬ
左注 一云 安麻乃乎等賣我 毛能須蘇奴礼<濃>
左注訓 一ニ云ク、海人のをとめが裳の裾濡れぬ。
校異 奴→濃 [類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 福岡 叙景 羈旅 異伝
訓異 かぜのむた;かせのむた, いざりする;いさりする, あまをとめらが;あまをとめらか,
   
  15/3661S
題詞 (海邊望月作九首)一云
題訓 一ニ云ク、
原文 安麻乃乎等賣我 毛能須蘇奴礼<濃>
訓読 海人の娘子が裳の裾濡れぬ
仮名 あまのをとめが ものすそぬれぬ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 福岡 叙景 異伝
訓異 あまのをとめが;あまのをとめか,
   
  15/3662
題詞 (海邊望月作九首)
原文 安麻能波良 布里佐氣見礼婆 欲曽布氣尓家流 与之恵也之 比<等>里奴流欲波 安氣婆安氣奴等母
訓読 天の原振り放け見れば夜ぞ更けにけるよしゑやしひとり寝る夜は明けば明けぬとも
仮名 あまのはら ふりさけみれば よぞふけにける よしゑやし ひとりぬるよは あけばあけぬとも
左注 右一首旋頭歌也
左注訓 右ノ一首ハ、旋頭歌ナリ。
校異 等 [西(上書訂正)][紀][細][温]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 旋頭歌 孤独 恋情 望郷 福岡
訓異 ふりさけみれば;ふりさけみれは, よぞふけにける;よそふけにける, あけばあけぬとも;あけはあけぬとも,
   
  15/3663
題詞 (海邊望月作九首)
原文 和多都美能 於伎都奈波能里 久流等伎登 伊毛我麻都良牟 月者倍尓都追
訓読 わたつみの沖つ縄海苔来る時と妹が待つらむ月は経につつ
仮名 わたつみの おきつなはのり くるときと いもがまつらむ つきはへにつつ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 植物 羈旅 福岡 望郷 漂泊
訓異 いもがまつらむ;いもかまつらむ,
   
  15/3664
題詞 (海邊望月作九首)
原文 之可能宇良尓 伊射里須流安麻 安氣久礼婆 宇良未許具良之 可治能於等伎許由
訓読 志賀の浦に漁りする海人明け来れば浦廻漕ぐらし楫の音聞こゆ
仮名 しかのうらに いざりするあま あけくれば うらみこぐらし かぢのおときこゆ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 地名 志賀島 叙景 福岡
訓異 いざりするあま;いさりするあま, あけくれば;あけくれは, うらみこぐらし;うらまこくらし, かぢのおときこゆ;かちのおときこゆ,
   
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題詞 (海邊望月作九首)
原文 伊母乎於毛比 伊能祢良延奴尓 安可等吉能 安左宜理其問理 可里我祢曽奈久
訓読 妹を思ひ寐の寝らえぬに暁の朝霧隠り雁がねぞ鳴く
仮名 いもをおもひ いのねらえぬに あかときの あさぎりごもり かりがねぞなく
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 望郷 動物 福岡
訓異 あさぎりごもり;あさきりこもり, かりがねぞなく;かりかねそなく,
   
  15/3666
題詞 (海邊望月作九首)
原文 由布佐礼婆 安伎可是左牟思 和伎母故我 等伎安良比其呂母 由伎弖波也伎牟
訓読 夕されば秋風寒し我妹子が解き洗ひ衣行きて早着む
仮名 ゆふされば あきかぜさむし わぎもこが ときあらひごろも ゆきてはやきむ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 福岡 望郷 漂泊
訓異 ゆふされば;ゆふされは, あきかぜさむし;あきかせさむし, わぎもこが;わきもこか, ときあらひごろも;ときあらひころも,
   
  15/3667
題詞 (海邊望月作九首)
原文 和我多妣波 比左思久安良思 許能安我家流 伊毛我許呂母能 阿可都久見礼婆
訓読 我が旅は久しくあらしこの我が着る妹が衣の垢つく見れば
仮名 わがたびは ひさしくあらし このあがける いもがころもの あかつくみれば
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 福岡 望郷 漂泊
訓異 わがたびは;わかたひは, このあがける;このあかける, いもがころもの;いもかころもの, あかつくみれば;あかつくみれは,
   
  15/3668
題詞 到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首
題訓 筑前国つくしのみちのくちのくに志麻郡の韓亭からとまりに舶ふね泊てて三日みか経ぬ。時に夜月つきの光、皎々流照てりわたれり。奄たちまち此の華けはひに対よりて、旅の情こころを悽噎かなしみ、各おのもおのも心緒おもひを陳のべてよめる歌六首むつ
原文 於保伎美能 等保能美可度登 於毛敝礼杼 氣奈我久之安礼婆 古非尓家流可母
訓読 大君の遠の朝廷と思へれど日長くしあれば恋ひにけるかも
仮名 おほきみの とほのみかどと おもへれど けながくしあれば こひにけるかも
左注 右一首大使
左注訓 右の一首は、大使つかひのかみ。
校異 花([西(訂正左書)]美→華 [紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 作者:阿倍継麻呂 羈旅 恋情 望郷 福岡 韓亭
訓異 とほのみかどと;とほのみかとと, おもへれど;おもへれと, けながくしあれば;けなかくしあれは,
   
  15/3669
題詞 (到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)
原文 多妣尓安礼杼 欲流波火等毛之 乎流和礼乎 也未尓也伊毛我 古非都追安流良牟
訓読 旅にあれど夜は火灯し居る我れを闇にや妹が恋ひつつあるらむ
仮名 たびにあれど よるはひともし をるわれを やみにやいもが こひつつあるらむ
左注 右一首大判官
左注訓 右の一首は、大判官おほきまつりごとひと。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 作者:壬生宇太麻呂 羈旅 望郷 恋情 福岡 韓亭
訓異 たびにあれど;たひにあれと, よるはひともし;よすはひともし, やみにやいもが;やみにやいもか,
   
  15/3670
題詞 (到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)
原文 可良等麻里 能<許>乃宇良奈美 多々奴日者 安礼杼母伊敝尓 古非奴日者奈之
訓読 韓亭能許の浦波立たぬ日はあれども家に恋ひぬ日はなし
仮名 からとまり のこのうらなみ たたぬひは あれどもいへに こひぬひはなし
左注 なし
校異 許 [西(上書訂正)][類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 福岡 韓亭 地名 能許島 恋情 望郷 羈旅
訓異 あれどもいへに;あれともいへに,
   
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題詞 (到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)
原文 奴婆多麻乃 欲和多流月尓 安良麻世婆 伊敝奈流伊毛尓 安比弖許麻之乎
訓読 ぬばたまの夜渡る月にあらませば家なる妹に逢ひて来ましを
仮名 ぬばたまの よわたるつきに あらませば いへなるいもに あひてこましを
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 福岡 韓亭 羈旅 望郷 枕詞
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, あらませば;あらませは,
   
  15/3672
題詞 (到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)
原文 比左可多能 月者弖利多里 伊刀麻奈久 安麻能伊射里波 等毛之安敝里見由
訓読 ひさかたの月は照りたり暇なく海人の漁りは灯し合へり見ゆ
仮名 ひさかたの つきはてりたり いとまなく あまのいざりは ともしあへりみゆ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 枕詞 羈旅 福岡 韓亭 叙景
訓異 あまのいざりは;あまのいさりは,
   
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題詞 (到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)
原文 可是布氣婆 於吉都思良奈美 可之故美等 能許能等麻里尓 安麻多欲曽奴流
訓読 風吹けば沖つ白波畏みと能許の亭にあまた夜ぞ寝る
仮名 かぜふけば おきつしらなみ かしこみと のこのとまりに あまたよぞぬる
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 福岡 韓亭 地名 能許島 漂泊 波待ち
訓異 かぜふけば;かせふけは, あまたよぞぬる;あまたよそぬる,
   
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題詞 引津亭舶泊之作歌七首
題訓 引津ひきづの亭とまりに舶泊てし時よめる歌七首
原文 久左麻久良 多婢乎久流之美 故非乎礼婆 可也能山邊尓 草乎思香奈久毛
訓読 草枕旅を苦しみ恋ひ居れば可也の山辺にさを鹿鳴くも
仮名 くさまくら たびをくるしみ こひをれば かやのやまへに さをしかなくも
左注 (右二首大判官)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 地名 福岡 可也山 引津亭 動物 望郷 漂泊 作者:壬生宇太麻呂
訓異 たびをくるしみ;たひをくるしみ, こひをれば;こひをれは,
   
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題詞 (引津亭舶泊之作歌七首)
原文 於吉都奈美 多可久多都日尓 安敝利伎等 美夜古能比等波 伎吉弖家牟可母
訓読 沖つ波高く立つ日にあへりきと都の人は聞きてけむかも
仮名 おきつなみ たかくたつひに あへりきと みやこのひとは ききてけむかも
左注 右二首大判官
左注訓 右の二首は、大判官。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 作者:壬生宇太麻呂 羈旅 望郷 福岡 可也山 引津亭
訓異  
   
  15/3676
題詞 (引津亭舶泊之作歌七首)
原文 安麻等夫也 可里乎都可比尓 衣弖之可母 奈良能弥夜故尓 許登都ん夜良武
訓読 天飛ぶや雁を使に得てしかも奈良の都に言告げ遣らむ
仮名 あまとぶや かりをつかひに えてしかも ならのみやこに ことつげやらむ
左注 なし
校異 ん [類] 氣
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 動物 望郷 枕詞 福岡 引津亭
訓異 あまとぶや;あまとふや, ことつげやらむ;こなつけやらむ,
   
  15/3677
題詞 (引津亭舶泊之作歌七首)
原文 秋野乎 尓保波須波疑波 佐家礼杼母 見流之留思奈之 多婢尓師安礼婆
訓読 秋の野をにほはす萩は咲けれども見る験なし旅にしあれば
仮名 あきののを にほはすはぎは さけれども みるしるしなし たびにしあれば
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 植物 漂泊 旅情 望郷 福岡 引津亭
訓異 にほはすはぎは;にほはすはきは, さけれども;さけれとも, たびにしあれば;たひにしあれは,
   
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題詞 (引津亭舶泊之作歌七首)
原文 伊毛乎於毛比 伊能祢良延奴尓 安伎乃野尓 草乎思香奈伎都 追麻於毛比可祢弖
訓読 妹を思ひ寐の寝らえぬに秋の野にさを鹿鳴きつ妻思ひかねて
仮名 いもをおもひ いのねらえぬに あきののに さをしかなきつ つまおもひかねて
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 動物 望郷 羈旅 福岡 引津亭
訓異 -
   
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題詞 (引津亭舶泊之作歌七首)
原文 於保夫祢尓 真可治之自奴伎 等吉麻都等 和礼波於毛倍杼 月曽倍尓家流
訓読 大船に真楫しじ貫き時待つと我れは思へど月ぞ経にける
仮名 おほぶねに まかぢしじぬき ときまつと われはおもへど つきぞへにける
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 福岡 引津亭
訓異 おほぶねに;おほふねに, まかぢしじぬき;まかちししぬき, われはおもへど;われはおもへと, つきぞへにける;つきそへにける,
   
  15/3680
題詞 (引津亭舶泊之作歌七首)
原文 欲乎奈我美 伊能年良延奴尓 安之比奇能 山妣故等余米 佐乎思賀奈君母
訓読 夜を長み寐の寝らえぬにあしひきの山彦響めさを鹿鳴くも
仮名 よをながみ いのねらえぬに あしひきの やまびことよめ さをしかなくも
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 福岡 引津亭 羈旅 動物 枕詞 望郷
訓異 よをながみ;よをなかみ, やまびことよめ;やまひことよめ,
   
  15/3681
題詞 肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首
題訓 肥前国ひのみちのくちのくに松浦郡まつらのこほり狛島の亭とまりに舶泊てし夜、海浪うなはらを遥望みさけ、各おのもおのも旅の心を慟かなしみてよめる歌七首
原文 可敝里伎弖 見牟等於毛比之 和我夜度能 安伎波疑須々伎 知里尓家武可聞
訓読 帰り来て見むと思ひし我が宿の秋萩すすき散りにけむかも
仮名 かへりきて みむとおもひし わがやどの あきはぎすすき ちりにけむかも
左注 右一首秦田麻呂
左注訓 右の一首は、秦田滿はたのたまろ。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 佐賀県 唐津市 神集島 植物 望郷 作者:秦田麻呂
訓異 わがやどの;わかやとの, あきはぎすすき;あきはきすすき,
   
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題詞 (肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
原文 安米都知能 可未乎許比都々 安礼麻多武 波夜伎万世伎美 麻多婆久流思母
訓読 天地の神を祈ひつつ我れ待たむ早来ませ君待たば苦しも
仮名 あめつちの かみをこひつつ あれまたむ はやきませきみ またばくるしも
左注 右一首娘子
左注訓 右の一首は、娘子をとめ。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 佐賀県 唐津市 神集島 遊行女婦 宴席 女歌 作者:娘子
訓異 またばくるしも;またはくるしも,
   
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題詞 (肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
原文 伎美乎於毛比 安我古非万久波 安良多麻乃 多都追奇其等尓 与久流日毛安良自
訓読 君を思ひ我が恋ひまくはあらたまの立つ月ごとに避くる日もあらじ
仮名 きみをおもひ あがこひまくは あらたまの たつつきごとに よくるひもあらじ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 佐賀県 唐津市 神集島 女歌 恋情
訓異 あがこひまくは;あかこひまくは, たつつきごとに;たつつきことに, よくるひもあらじ;よくるひもあらし,
   
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題詞 (肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
原文 秋夜乎 奈我美尓可安良武 奈曽許々波 伊能祢良要奴毛 比等里奴礼婆可
訓読 秋の夜を長みにかあらむなぞここば寐の寝らえぬもひとり寝ればか
仮名 あきのよを ながみにかあらむ なぞここば いのねらえぬも ひとりぬればか
左注 なし
校異 々 [類][細] 己
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 佐賀県 唐津市 神集島 孤独 恋情
訓異 ながみにかあらむ;なかみにかあらむ, なぞここば;なそここは, ひとりぬればか;ひとりぬれはか,
   
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題詞 (肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
原文 多良思比賣 御舶波弖家牟 松浦乃宇美 伊母我麻都<倍>伎 月者倍尓都々
訓読 足日女御船泊てけむ松浦の海妹が待つべき月は経につつ
仮名 たらしひめ みふねはてけむ まつらのうみ いもがまつべき つきはへにつつ
左注 なし
校異 敝→倍 [類]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 佐賀県 唐津市 神集島 伝説 神功皇后 望郷 地名
訓異 いもがまつべき;いもかまつへき,
   
  15/3686
題詞 (肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
原文 多婢奈礼婆 於毛比多要弖毛 安里都礼杼 伊敝尓安流伊毛之 於母比我奈思母
訓読 旅なれば思ひ絶えてもありつれど家にある妹し思ひ悲しも
仮名 たびなれば おもひたえても ありつれど いへにあるいもし おもひがなしも
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 佐賀県 唐津市 神集島 望郷
訓異 たびなれば;たひなれは, ありつれど;ありつれと, おもひがなしも;おもひかなしも,
   
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題詞 (肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
原文 安思必奇能 山等妣古<由>留 可里我祢波 美也故尓由加波 伊毛尓安比弖許祢
訓読 あしひきの山飛び越ゆる鴈がねは都に行かば妹に逢ひて来ね
仮名 あしひきの やまとびこゆる かりがねは みやこにゆかば いもにあひてこね
左注 なし
校異 田→由 [類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 佐賀県 唐津市 神集島 枕詞 動物 望郷
訓異 やまとびこゆる;やまとひこゆる, かりがねは;かりかねは, みやこにゆかば;みやこにゆかは,
   
  15/3688
題詞 到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌]
題訓 壹岐ゆきの島に到りて、雪連宅滿ゆきのむらじやかまろが、忽ち鬼病えやみにて死去みまかれる時よめる歌〔一首、また短歌〕
原文 須賣呂伎能 等保能朝庭等 可良國尓 和多流和我世波 伊敝妣等能 伊波比麻多祢可 多太<未>可母 安夜麻知之家牟 安吉佐良婆 可敝里麻左牟等 多良知祢能 波々尓麻乎之弖 等伎毛須疑 都奇母倍奴礼婆 今日可許牟 明日可蒙許武登 伊敝<妣>等波 麻知故布良牟尓 等保能久尓 伊麻太毛都可受 也麻等乎毛 登保久左可里弖 伊波我祢乃 安良伎之麻祢尓 夜杼理須流君
訓読 天皇の 遠の朝廷と 韓国に 渡る我が背は 家人の 斎ひ待たねか 正身かも 過ちしけむ 秋去らば 帰りまさむと たらちねの 母に申して 時も過ぎ 月も経ぬれば 今日か来む 明日かも来むと 家人は 待ち恋ふらむに 遠の国 いまだも着かず 大和をも 遠く離りて 岩が根の 荒き島根に 宿りする君
仮名 すめろきの とほのみかどと からくにに わたるわがせは いへびとの いはひまたねか ただみかも あやまちしけむ あきさらば かへりまさむと たらちねの ははにまをして ときもすぎ つきもへぬれば けふかこむ あすかもこむと いへびとは まちこふらむに とほのくに いまだもつかず やまとをも とほくさかりて いはがねの あらきしまねに やどりするきみ
左注 (右三首挽歌)
校異 短歌 [西] 短謌 / 末→未 [万葉集略解] / 乎 [古][細] 于 / 比→妣 [類][古]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 壱岐 挽歌 雪宅麻呂 枕詞 行路死人 長崎
訓異 とほのみかどと;とほのみかとと, わたるわがせは;わたるわかせは, いへびとの;いへひとの, ただみかも;たたまかも, あきさらば;あきさらは, ときもすぎ;ときもすき, つきもへぬれば;つきもへぬれは, いへびとは;いへひとは, とほのくに;とをのくに, いまだもつかず;いまたもつかす, いはがねの;いはかねの, やどりするきみ;やとりするきみ,
   
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題詞 (到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 伊波多野尓 夜杼里須流伎美 伊敝妣等乃 伊豆良等和礼乎 等<波婆>伊可尓伊波牟
訓読 岩田野に宿りする君家人のいづらと我れを問はばいかに言はむ
仮名 いはたのに やどりするきみ いへびとの いづらとわれを とはばいかにいはむ
左注 (右三首挽歌)
校異 婆波→波婆 [代匠記初稿本]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 挽歌 羈旅 壱岐 雪宅麻呂 地名 行路死人 長崎
訓異 やどりするきみ;やとりするきみ, いへびとの;いへひとの, いづらとわれを;いつらとわれを, とはばいかにいはむ;とははいかにいはむ,
   
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題詞 ((到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 与能奈可波 都祢可久能未等 和可礼奴流 君尓也毛登奈 安我孤悲由加牟
訓読 世間は常かくのみと別れぬる君にやもとな我が恋ひ行かむ
仮名 よのなかは つねかくのみと わかれぬる きみにやもとな あがこひゆかむ
左注 右三首挽歌
左注訓 右三首は、姓名がよめる挽歌かなしみうた。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 挽歌 羈旅 壱岐 雪宅麻呂 恋情 長崎
訓異 あがこひゆかむ;あかこひゆかむ,
   
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題詞 なし
原文 天地等 登毛尓母我毛等 於毛比都々 安里家牟毛能乎 波之家也思 伊敝乎波奈礼弖 奈美能宇倍由 奈豆佐比伎尓弖 安良多麻能 月日毛伎倍奴 可里我祢母 都藝弖伎奈氣婆 多良知祢能 波々母都末良母 安<佐>都由尓 毛能須蘇比都知 由布疑里尓 己呂毛弖奴礼弖 左伎久之毛 安流良牟其登久 伊R見都追 麻都良牟母能乎 世間能 比登<乃>奈氣伎<波> 安比於毛波奴 君尓安礼也母 安伎波疑能 知良敝流野邊乃 波都乎花 可里保尓布<伎>弖 久毛婆奈礼 等保伎久尓敝能 都由之毛能 佐武伎山邊尓 夜杼里世流良牟
訓読 天地と ともにもがもと 思ひつつ ありけむものを はしけやし 家を離れて 波の上ゆ なづさひ来にて あらたまの 月日も来経ぬ 雁がねも 継ぎて来鳴けば たらちねの 母も妻らも 朝露に 裳の裾ひづち 夕霧に 衣手濡れて 幸くしも あるらむごとく 出で見つつ 待つらむものを 世間の 人の嘆きは 相思はぬ 君にあれやも 秋萩の 散らへる野辺の 初尾花 仮廬に葺きて 雲離れ 遠き国辺の 露霜の 寒き山辺に 宿りせるらむ
仮名 あめつちと ともにもがもと おもひつつ ありけむものを はしけやし いへをはなれて なみのうへゆ なづさひきにて あらたまの つきひもきへぬ かりがねも つぎてきなけば たらちねの ははもつまらも あさつゆに ものすそひづち ゆふぎりに ころもでぬれて さきくしも あるらむごとく いでみつつ まつらむものを よのなかの ひとのなげきは あひおもはぬ きみにあれやも あきはぎの ちらへるのへの はつをばな かりほにふきて くもばなれ とほきくにへの つゆしもの さむきやまへに やどりせるらむ
左注 (右三首葛井連子老作挽歌)
校異 左→佐 [類][紀] / 能→乃 [類][紀][細] / 婆→波 [類][紀] / 疑→伎 [類][古][紀]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 挽歌 雪宅麻呂 作者:葛井子老 枕詞 哀悼 壱岐 長崎
訓異 ともにもがもと;ともにもかもと, なづさひきにて;なつさひきにて, かりがねも;かりかねも, つぎてきなけば;つきてちなけは, ものすそひづち;ものすそひつち, ゆふぎりに;ゆふきりに, ころもでぬれて;ころもてぬれて, あるらむごとく;あるらむことく, いでみつつ;いてみつつ, ひとのなげきは;ひとのなけきは, あきはぎの;あきはきの, はつをばな;はつをはな, くもばなれ;くもはなれ, やどりせるらむ;やとりせるらむ,
   
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題詞 反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 波之家也思 都麻毛古杼毛母 多可多加尓 麻都良牟伎美也 之麻我久礼奴流
訓読 はしけやし妻も子どもも高々に待つらむ君や島隠れぬる
仮名 はしけやし つまもこどもも たかたかに まつらむきみや しまがくれぬる
左注 (右三首葛井連子老作挽歌)
校異 之 (塙) 々
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 挽歌 雪宅麻呂 作者:葛井子老 哀悼 壱岐 長崎
訓異 つまもこどもも;つまもこともも, しまがくれぬる;しまかくれぬる,
   
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題詞 (反歌二首)
原文 毛美知葉能 知里奈牟山尓 夜杼里奴流 君乎麻都良牟 比等之可奈之母
訓読 黄葉の散りなむ山に宿りぬる君を待つらむ人し悲しも
仮名 もみちばの ちりなむやまに やどりぬる きみをまつらむ ひとしかなしも
左注 右三首葛井連子老作挽歌
左注訓 右の三首は、葛井連子老ふぢゐのむらじこおゆがよめる挽歌。
校異 之 [類][細] 思
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 挽歌 雪宅麻呂 作者:葛井子老 枕詞 哀悼 壱岐 長崎
訓異 もみちばの;もみちはの, やどりぬる;やとりぬる, ひとしかなしも;ひとのかなしも,
   
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題詞 なし
原文 和多都美能 <可>之故伎美知乎 也須家口母 奈久奈夜美伎弖 伊麻太尓母 毛奈久由可牟登 由吉能安末能 保都手乃宇良敝乎 可多夜伎弖 由加武<等>須流尓 伊米能其等 美知能蘇良治尓 和可礼須流伎美
訓読 わたつみの 畏き道を 安けくも なく悩み来て 今だにも 喪なく行かむと 壱岐の海人の ほつての占部を 肩焼きて 行かむとするに 夢のごと 道の空路に 別れする君
仮名 わたつみの かしこきみちを やすけくも なくなやみきて いまだにも もなくゆかむと ゆきのあまの ほつてのうらへを かたやきて ゆかむとするに いめのごと みちのそらぢに わかれするきみ
左注 (右三首六鯖作挽歌)
校異 下→可 [類][古][紀] / 土→等 [岩波大系](塙)(楓)
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 挽歌 作者:六人部鯖麻呂 哀悼 雪宅麻呂 地名 壱岐 長崎
訓異 いまだにも;いまたにも, いめのごと;いめのこと, みちのそらぢに;みちのそらちに,
   
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題詞 反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 牟可之欲里 伊比<祁>流許等乃 可良久尓能 可良久毛己許尓 和可礼須留可聞
訓読 昔より言ひけることの韓国のからくもここに別れするかも
仮名 むかしより いひけることの からくにの からくもここに わかれするかも
左注 (右三首六鯖作挽歌)
校異 都→祁 [類][紀]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 挽歌 作者:六人部鯖麻呂 哀悼 雪宅麻呂 地名 序詞 壱岐 長崎
訓異 -
   
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題詞 (反歌二首)
原文 新羅奇敝可 伊敝尓可加反流 由吉能之麻 由加牟多登伎毛 於毛比可祢都母
訓読 新羅へか家にか帰る壱岐の島行かむたどきも思ひかねつも
仮名 しらきへか いへにかかへる ゆきのしま ゆかむたどきも おもひかねつも
左注 右三首六鯖作挽歌
左注訓 右の三首は、六鯖むさばがよめる挽歌。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 挽歌 作者:六人部鯖麻呂 哀悼 雪宅麻呂 地名 壱岐 長崎
訓異 ゆかむたどきも;ゆかむたときも,
   
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題詞 到對馬嶋淺茅浦舶泊之時不得順風經停五箇日於是瞻望物華各陳慟心作歌三首
題訓 對馬島つしまの淺茅の浦に舶泊てし時、順風おひてを得ず、停とどまりて五箇日いつかを経き。ここに物華を瞻望みやりて、各おのもおのも慟心おもひを陳べてよめる歌三首
原文 毛母布祢乃 波都流對馬能 安佐治山 志具礼能安米尓 毛美多比尓家里
訓読 百船の泊つる対馬の浅茅山しぐれの雨にもみたひにけり
仮名 ももふねの はつるつしまの あさぢやま しぐれのあめに もみたひにけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 長崎 対馬 叙景 羈旅 地名
訓異 あさぢやま;あさちやま, しぐれのあめに;しくれのあめに,
   
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題詞 (到對馬嶋淺茅浦舶泊之時不得順風經停五箇日於是瞻望物華各陳慟心作歌三首)
原文 安麻射可流 比奈尓毛月波 弖礼々杼母 伊毛曽等保久波 和可礼伎尓家流
訓読 天離る鄙にも月は照れれども妹ぞ遠くは別れ来にける
仮名 あまざかる ひなにもつきは てれれども いもぞとほくは わかれきにける
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 長崎 対馬 望郷 枕詞
訓異 てれれども;てれれとも, いもぞとほくは;いもそとほくは,
   
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題詞 (到對馬嶋淺茅浦舶泊之時不得順風經停五箇日於是瞻望物華各陳慟心作歌三首)
原文 安伎左礼婆 於久都由之毛尓 安倍受之弖 京師乃山波 伊呂豆伎奴良牟
訓読 秋去れば置く露霜にあへずして都の山は色づきぬらむ
仮名 あきされば おくつゆしもに あへずして みやこのやまは いろづきぬらむ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 長崎 対馬 望郷
訓異 あきされば;あきされは, あへずして;あへすして, いろづきぬらむ;いろつきぬらむ,
   
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題詞 竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首
題訓 竹敷たかしきの浦に舶泊てし時、各心緒おもひを陳べてよめる歌十八首とをまりやつ
原文 安之比奇能 山下比可流 毛美知葉能 知里能麻河比波 計布仁聞安流香母
訓読 あしひきの山下光る黄葉の散りの乱ひは今日にもあるかも
仮名 あしひきの やましたひかる もみちばの ちりのまがひは けふにもあるかも
左注 右一首大使
左注訓 右の一首は、大使。
校異 <>→各 [類][細] / 流 [類][細](塙) 留
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 長崎 対馬 叙景 作者:阿倍継麻呂
訓異 もみちばの;もみちはの, ちりのまがひは;ちりのまかひは,
   
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題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 多可之伎能 母美知乎見礼婆 和藝毛故我 麻多牟等伊比之 等伎曽伎尓家流
訓読 竹敷の黄葉を見れば我妹子が待たむと言ひし時ぞ来にける
仮名 たかしきの もみちをみれば わぎもこが またむといひし ときぞきにける
左注 右一首副使
左注訓 右の一首は、副使つかひのすけ。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 長崎 対馬 地名 望郷 作者:大伴三中
訓異 もみちをみれば;もみちをみれは, わぎもこが;わきもこか, ときぞきにける;ときそきにける,
   
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題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 多可思吉能 宇良<未>能毛美知 <和>礼由伎弖 可敝里久流末R 知里許須奈由米
訓読 竹敷の浦廻の黄葉我れ行きて帰り来るまで散りこすなゆめ
仮名 たかしきの うらみのもみち われゆきて かへりくるまで ちりこすなゆめ
左注 右一首大判官
左注訓 右の一首は、大判官おほきまつりごとひと。
校異 末→未 [万葉集古義] / <>→和 [西(左書)][類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 長崎 対馬 地名 叙景 作者:壬生宇太麻呂
訓異 うらみのもみち;うらまのもみち, かへりくるまで;かへりくるまて,
   
  15/3703
題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 多可思吉能 宇敝可多山者 久礼奈為能 也之保能伊呂尓 奈里尓家流香聞
訓読 竹敷の宇敝可多山は紅の八しほの色になりにけるかも
仮名 たかしきの うへかたやまは くれなゐの やしほのいろに なりにけるかも
左注 右一首小判官
左注訓 右の一首は、小判官すなきまつりごとひと。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 長崎 対馬 地名 叙景 作者:大蔵麻呂
訓異 -
   
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題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 毛美知婆能 知良布山邊由 許具布祢能 尓保比尓米R弖 伊R弖伎尓家里
訓読 黄葉の散らふ山辺ゆ漕ぐ船のにほひにめでて出でて来にけり
仮名 もみちばの ちらふやまへゆ こぐふねの にほひにめでて いでてきにけり
左注 (右二首對馬娘子名玉槻)
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 長崎 対馬 遊行女婦 作者:玉槻 女歌
訓異 もみちばの;もみちはの, こぐふねの;こくふねの, にほひにめでて;にほひにめてて, いでてきにけり;いててきにけり,
   
  15/3705
題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 多可思吉能 多麻毛奈<婢>可之 己<藝>R奈牟 君我美布祢乎 伊都等可麻多牟
訓読 竹敷の玉藻靡かし漕ぎ出なむ君がみ船をいつとか待たむ
仮名 たかしきの たまもなびかし こぎでなむ きみがみふねを いつとかまたむ
左注 右二首對馬娘子名玉槻
左注訓 右の二首は、對馬娘子、名は玉槻たまつき。
校異 比→婢 [類][紀][細] / 伎→藝 [類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 長崎 対馬 地名 遊行女婦 作者:玉槻 女歌
訓異 たまもなびかし;たまもなひかし, こぎでなむ;こきてなむ, きみがみふねを;きみかみふねを,
   
  15/3706
題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 多麻之家流 伎欲吉奈藝佐乎 之保美弖婆 安可受和礼由久 可反流左尓見牟
訓読 玉敷ける清き渚を潮満てば飽かず我れ行く帰るさに見む
仮名 たましける きよきなぎさを しほみてば あかずわれゆく かへるさにみむ
左注 右一首大使
左注訓 右の一首は、大使。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 土地讃美 長崎 対馬 作者:阿倍継麻呂
訓異 きよきなぎさを;きよきなきさを, しほみてば;しほみては, あかずわれゆく;あかすわれゆく,
   
  15/3707
題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 安伎也麻能 毛美知乎可射之 和我乎礼婆 宇良之保美知久 伊麻太安可奈久尓
訓読 秋山の黄葉をかざし我が居れば浦潮満ち来いまだ飽かなくに
仮名 あきやまの もみちをかざし わがをれば うらしほみちく いまだあかなくに
左注 右一首副使
左注訓 右の一首は、副使。
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 土地讃美 長崎 対馬 作者:壬生宇太麻呂
訓異 もみちをかざし;もみちをかさし, わがをれば;わかをれは, いまだあかなくに;いまたあかなくに,
   
  15/3708
題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 毛能毛布等 比等尓波美要<緇> 之多婢毛能 思多由故布流尓 都<奇>曽倍尓家流
訓読 物思ふと人には見えじ下紐の下ゆ恋ふるに月ぞ経にける
仮名 ものもふと ひとにはみえじ したびもの したゆこふるに つきぞへにける
左注 右一首大使
左注訓 右の一首は、大使。
校異 ア→緇 [紀][温] / 哥→奇 [西(訂正)][類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 望郷 長崎 対馬 作者:阿倍継麻呂
訓異 ひとにはみえじ;ひとにはみえし, したびもの;したひもの, つきぞへにける;つきそへにける,
   
  15/3709
題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 伊敝豆刀尓 可比乎比里布等 於伎敝欲里 与世久流奈美尓 許呂毛弖奴礼奴
訓読 家づとに貝を拾ふと沖辺より寄せ来る波に衣手濡れぬ
仮名 いへづとに かひをひりふと おきへより よせくるなみに ころもでぬれぬ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 長崎 対馬 望郷 牫侄げ
訓異 いへづとに;いへつとに, ころもでぬれぬ;ころもてぬれぬ,
   
  15/3710
題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 之保非奈<婆> 麻多母和礼許牟 伊射遊賀武 於伎都志保佐為 多可久多知伎奴
訓読 潮干なばまたも我れ来むいざ行かむ沖つ潮騒高く立ち来ぬ
仮名 しほひなば またもわれこむ いざゆかむ おきつしほさゐ たかくたちきぬ
左注 なし
校異 波→婆 [類]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 対馬 長崎
訓異 しほひなば;しほひなは, いざゆかむ;いさゆかむ,
   
  15/3711
題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 和我袖波 多毛登等保里弖 奴礼奴等母 故非和須礼我比 等良受波由可自
訓読 我が袖は手本通りて濡れぬとも恋忘れ貝取らずは行かじ
仮名 わがそでは たもととほりて ぬれぬとも こひわすれがひ とらずはゆかじ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 対馬 長崎 望郷
訓異 わがそでは;わかそては, こひわすれがひ;こひわすれかひ, とらずはゆかじ;とらすはゆかし,
   
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題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 奴<婆>多麻能 伊毛我保須倍久 安良奈久尓 和我許呂母弖乎 奴礼弖伊可尓勢牟
訓読 ぬばたまの妹が干すべくあらなくに我が衣手を濡れていかにせむ
仮名 ぬばたまの いもがほすべく あらなくに わがころもでを ぬれていかにせむ
左注 なし
校異 波→婆 [類][古]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 枕詞 羈旅 対馬 長崎 望郷
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, いもがほすべく;いもかほすへく, わがころもでを;わかころもてを,
   
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題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 毛美知婆波 伊麻波宇都呂布 和伎毛故我 麻多牟等伊比之 等伎能倍由氣婆
訓読 黄葉は今はうつろふ我妹子が待たむと言ひし時の経ゆけば
仮名 もみちばは いまはうつろふ わぎもこが またむといひし ときのへゆけば
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 望郷 対馬 長崎
訓異 もみちばは;
  わぎもこが;わきもこか, ときのへゆけば;ときのへゆけは,
   
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題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 安<伎>佐礼婆 故非之美伊母乎 伊米尓太尓 比左之久見牟乎 安氣尓家流香聞
訓読 秋されば恋しみ妹を夢にだに久しく見むを明けにけるかも
仮名 あきされば こひしみいもを いめにだに ひさしくみむを あけにけるかも
左注 なし
校異 藝→伎 [紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 恋情 羈旅 望郷 対馬 長崎
訓異 あきされば;あきされは, いめにだに;いめにたに,
   
  15/3715
題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 比等里能未 伎奴流許呂毛能 比毛等加婆 多礼可毛由波牟 伊敝杼保久之弖
訓読 ひとりのみ着寝る衣の紐解かば誰れかも結はむ家遠くして
仮名 ひとりのみ きぬるころもの ひもとかば たれかもゆはむ いへどほくして
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 望郷 恋情 孤独 対馬 長崎
訓異 ひもとかば;ひもとかは, いへどほくして;いへとほくして,
   
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題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 安麻久毛能 多由多比久礼婆 九月能 毛未知能山毛 宇都呂比尓家里
訓読 天雲のたゆたひ来れば九月の黄葉の山もうつろひにけり
仮名 あまくもの たゆたひくれば ながつきの もみちのやまも うつろひにけり
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 叙景 羈旅 対馬 長崎
訓異 たゆたひくれば;たゆたひくれは, ながつきの;なかつきの,
   
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題詞 (竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
原文 多婢尓弖<毛> <母>奈久波也許<登> 和伎毛故我 牟須妣思比毛波 奈礼尓家流香聞
訓読 旅にても喪なく早来と我妹子が結びし紐はなれにけるかも
仮名 たびにても もなくはやこと わぎもこが むすびしひもは なれにけるかも
左注 なし
校異 母→毛 [類] / 毛→母 [類] / 等→登 [類][古][紀]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 望郷 対馬 長崎
訓異 たびにても;たひにても, わぎもこが;わきもこか, むすびしひもは;むすひしひもは,
   
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題詞 廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首
題訓 筑紫の海つ路に回かへり来て、京みやこに入まゐらむと播磨国家島に到れる時よめる歌五首
原文 伊敝之麻波 奈尓許曽安里家礼 宇奈波良乎 安我古非伎都流 伊毛母安良奈久尓
訓読 家島は名にこそありけれ海原を我が恋ひ来つる妹もあらなくに
仮名 いへしまは なにこそありけれ うなはらを あがこひきつる いももあらなくに
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 姫路 兵庫 羈旅 孤独 望郷 帰途
訓異 あがこひきつる;あかこひきつる,
   
  15/3719
題詞 (廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首)
原文 久左麻久良 多婢尓比左之久 安良米也等 伊毛尓伊比之乎 等之能倍奴良久
訓読 草枕旅に久しくあらめやと妹に言ひしを年の経ぬらく
仮名 くさまくら たびにひさしく あらめやと いもにいひしを としのへぬらく
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 枕詞 羈旅 望郷 帰途 姫路 兵庫
訓異 たびにひさしく;たひにやさしく,
   
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題詞 (廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首)
原文 和伎毛故乎 由伎弖波也美武 安波治之麻 久毛為尓見延奴 伊敝都久良之母
訓読 我妹子を行きて早見む淡路島雲居に見えぬ家つくらしも
仮名 わぎもこを ゆきてはやみむ あはぢしま くもゐにみえぬ いへづくらしも
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 地名 淡路 兵庫 姫路 望郷 帰途 羈旅
訓異 わぎもこを;わきもこを, あはぢしま;あはちしま, いへづくらしも;いへつくらしも,
   
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題詞 (廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首)
原文 奴婆多麻能 欲安可之母布<祢>波 許藝由可奈 美都能波麻末都 麻知故非奴良武
訓読 ぬばたまの夜明かしも船は漕ぎ行かな御津の浜松待ち恋ひぬらむ
仮名 ぬばたまの よあかしもふねは こぎゆかな みつのはままつ まちこひぬらむ
左注 なし
校異 弥→祢 [類][紀][細]
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 枕詞 地名 大阪 難波 兵庫 姫路 帰途
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, こぎゆかな;こきゆかな,
   
  15/3722
題詞 (廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首)
原文 大伴乃 美津能等麻里尓 布祢波弖々 多都多能山乎 伊都可故延伊加武
訓読 大伴の御津の泊りに船泊てて龍田の山をいつか越え行かむ
仮名 おほともの みつのとまりに ふねはてて たつたのやまを いつかこえいかむ
左注 なし
校異 なし
事項 遣新羅使 天平8年 年紀 羈旅 地名 兵庫 姫路 大阪 難波 奈良 帰途
訓異 -
   
  15/3723
題詞 中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌
題訓 中臣朝臣宅守やかもりが蔵部くらべの女めに娶あひて、狹野茅上娘子さぬのちかみをとめを娉よばへる時、勅みことのりして流す罪に断さだめて、越前国こしのみちのくちのくにに配はなちたまへり。ここに夫婦めを別れ易く会ひ難きを嘆き、各おのもおのも慟かなしみの情を陳べて、贈り答ふる歌、六十三首むそちまりみつ
原文 安之比奇能 夜麻治古延牟等 須流君乎 許々呂尓毛知弖 夜須家久母奈之
訓読 あしひきの山道越えむとする君を心に持ちて安けくもなし
仮名 あしひきの やまぢこえむと するきみを こころにもちて やすけくもなし
左注 (右四首娘子臨別作歌)
校異 弟 [細] 茅
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 枕詞 悲別 恋情 女歌 中臣宅守
訓異 やまぢこえむと;やまちこえむと,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 君我由久 道乃奈我弖乎 久里多々祢 也伎保呂煩散牟 安米能火毛我母
訓読 君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも
仮名 きみがゆく みちのながてを くりたたね やきほろぼさむ あめのひもがも
左注 (右四首娘子臨別作歌)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 悲別 恋情 女歌 中臣宅守
訓異 きみがゆく;きみかゆく, みちのながてを;みちのなかてを, やきほろぼさむ;やきほろほさむ, あめのひもがも;あめのひもかも,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 和我世故之 氣太之麻可良<婆> 思漏多倍乃 蘇R乎布良左祢 見都追志努波牟
訓読 我が背子しけだし罷らば白栲の袖を振らさね見つつ偲はむ
仮名 わがせこし けだしまからば しろたへの そでをふらさね みつつしのはむ
左注 (右四首娘子臨別作歌)
校異 波→婆 [類][紀][細]
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 悲別 恋情 女歌 中臣宅守
訓異 わがせこし;わかせこか, けだしまからば;けたしまからは, そでをふらさね;そてをふらさね,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 己能許呂波 古非都追母安良牟 多麻久之氣 安氣弖乎知欲利 須辨奈可流倍思
訓読 このころは恋ひつつもあらむ玉櫛笥明けてをちよりすべなかるべし
仮名 このころは こひつつもあらむ たまくしげ あけてをちより すべなかるべし
左注 右四首娘子臨別作歌
左注訓 右の四首は、別れむとして娘子をとめが悲しみよめる歌。
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 枕詞 悲別 恋情 女歌 中臣宅守
訓異 たまくしげ;たまくしけ, すべなかるべし;すへなかるへし,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 知里比治能 可受尓母安良奴 和礼由恵尓 於毛比和夫良牟 伊母我可奈思佐
訓読 塵泥の数にもあらぬ我れゆゑに思ひわぶらむ妹がかなしさ
仮名 ちりひぢの かずにもあらぬ われゆゑに おもひわぶらむ いもがかなしさ
左注 (右四首中臣朝臣宅守上道作歌)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 悲別 恋情 羈旅 配流 狭野弟上娘子
訓異 ちりひぢの;ちりひちの, かずにもあらぬ;かすにもあらぬ, おもひわぶらむ;おもひわふらむ, いもがかなしさ;いもかかなしさ,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 安乎尓与之 奈良能於保知波 由<吉>余家杼 許能山道波 由伎安之可里家利
訓読 あをによし奈良の大道は行きよけどこの山道は行き悪しかりけり
仮名 あをによし ならのおほぢは ゆきよけど このやまみちは ゆきあしかりけり
左注 (右四首中臣朝臣宅守上道作歌)
校異 伎→吉 [天][類][紀][細]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 羈旅 贈答 配流 狭野弟上娘子
訓異 ならのおほぢは;ならのおほちは, ゆきよけど;ゆきよけと,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 宇流波之等 安我毛布伊毛乎 於毛比都追 由氣婆可母等奈 由伎安思可流良武
訓読 愛しと我が思ふ妹を思ひつつ行けばかもとな行き悪しかるらむ
仮名 うるはしと あがもふいもを おもひつつ ゆけばかもとな ゆきあしかるらむ
左注 (右四首中臣朝臣宅守上道作歌)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 羈旅 贈答 配流 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 あがもふいもを;あかもふいもを, ゆけばかもとな;ゆけはかもとな,
   
  15/3730
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 加思故美等 能良受安里思乎 美故之治能 多武氣尓多知弖 伊毛我名能里都
訓読 畏みと告らずありしをみ越道の手向けに立ちて妹が名告りつ
仮名 かしこみと のらずありしを みこしぢの たむけにたちて いもがなのりつ
左注 右四首中臣朝臣宅守上道作歌
左注訓 右の四首は、中臣朝臣宅守が上道みちだちしてよめる歌。
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 配流 恋情 羈旅 手向醎 悲別 狭野弟上娘子
訓異 のらずありしを;のらすありしを, みこしぢの;みこしちの, いもがなのりつ;いもかなのりつ,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 於毛布恵尓 安布毛能奈良婆 之末思久毛 伊母我目可礼弖 安礼乎良米也母
訓読 思ふゑに逢ふものならばしましくも妹が目離れて我れ居らめやも
仮名 おもふゑに あふものならば しましくも いもがめかれて あれをらめやも
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 配流 恋情 羈旅 悲別 狭野弟上娘子
訓異 あふものならば;あふものならは, いもがめかれて;いもかめかれて,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 安可祢佐須 比流波毛能母比 奴婆多麻乃 欲流波須我良尓 祢能<未>之奈加由
訓読 あかねさす昼は物思ひぬばたまの夜はすがらに音のみし泣かゆ
仮名 あかねさす ひるはものもひ ぬばたまの よるはすがらに ねのみしなかゆ
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 美→未 [天][紀][細]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 恋情 枕詞 恋情 羈旅 配流 悲別 狭野弟上娘子
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, よるはすがらに;よるはすからに,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 和伎毛故我 可多美能許呂母 奈可里世婆 奈尓毛能母弖加 伊能知都我麻之
訓読 我妹子が形見の衣なかりせば何物もてか命継がまし
仮名 わぎもこが かたみのころも なかりせば なにものもてか いのちつがまし
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 恋情 配流 羈旅 孤独 悲別 狭野弟上娘子
訓異 わぎもこが;わきもこか, なかりせば;なかりせは, いのちつがまし;いのちつかまし,
   
  15/3734
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 等保伎山 世伎毛故要伎奴 伊麻左良尓 安布倍伎与之能 奈伎我佐夫之佐 [一云 左必之佐]
訓読 遠き山関も越え来ぬ今さらに逢ふべきよしのなきが寂しさ [一云 さびしさ]
仮名 とほきやま せきもこえきぬ いまさらに あふべきよしの なきがさぶしさ [さびしさ]
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
左注訓 一ニ云ク、さびしさ
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 羈旅 配流 恋情 異伝 贈答 悲別 狭野弟上娘子
訓異 あふべきよしの;あふへきよしの, なきがさぶしさ;なきかさふしさ, [さびしさ];さひしさ,
   
  15/3735
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 於毛波受母 麻許等安里衣牟也 左奴流欲能 伊米尓毛伊母我 美延射良奈久尓
訓読 思はずもまことあり得むやさ寝る夜の夢にも妹が見えざらなくに
仮名 おもはずも まことありえむや さぬるよの いめにもいもが みえざらなくに
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 おもはずも;おもはすも, いめにもいもが;いめにもいもか, みえざらなくに;みえさらなくに,
   
  15/3736
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 等保久安礼婆 一日一夜毛 於<母>波受弖 安流良牟母能等 於毛保之賣須奈
訓読 遠くあれば一日一夜も思はずてあるらむものと思ほしめすな
仮名 とほくあれば ひとひひとよも おもはずて あるらむものと おもほしめすな
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 毛→母 [天][類][紀][細]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 とほくあれば;とほくあれは, おもはずて;おもはすて,
   
  15/3737
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 比等余里波 伊毛曽母安之伎 故非毛奈久 安良末<思>毛能乎 於毛波之米都追
訓読 人よりは妹ぞも悪しき恋もなくあらましものを思はしめつつ
仮名 ひとよりは いもぞもあしき こひもなく あらましものを おもはしめつつ
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 之→思 [天][類][紀][細]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 羈旅 配流 贈答 恋情 悲別 怨恨 狭野弟上娘子
訓異 いもぞもあしき;いもそもあしき,
   
  15/3738
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 於毛比都追 奴礼婆可毛<等>奈 奴婆多麻能 比等欲毛意知受 伊米尓之見由流
訓読 思ひつつ寝ればかもとなぬばたまの一夜もおちず夢にし見ゆる
仮名 おもひつつ ぬればかもとな ぬばたまの ひとよもおちず いめにしみゆる
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 登→等 [天][紀]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲別 枕詞 狭野弟上娘子
訓異 ぬればかもとな;ぬれはかもとな, ぬばたまの;ぬはたまの, ひとよもおちず;ひとよもおちす,
   
  15/3739
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 可久婆可里 古非牟等可祢弖 之良末世婆 伊毛乎婆美受曽 安流倍久安里家留
訓読 かくばかり恋ひむとかねて知らませば妹をば見ずぞあるべくありける
仮名 かくばかり こひむとかねて しらませば いもをばみずぞ あるべくありける
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲別 後悔 狭野弟上娘子
訓異 かくばかり;かくはかり, しらませば;しらませは, いもをばみずぞ;いもをはみすそ, あるべくありける;あるへくありける,
   
  15/3740
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 安米都知能 可未奈伎毛能尓 安良婆許曽 安我毛布伊毛尓 安波受思仁世米
訓読 天地の神なきものにあらばこそ我が思ふ妹に逢はず死にせめ
仮名 あめつちの かみなきものに あらばこそ あがもふいもに あはずしにせめ
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 狭野弟上娘子
訓異 あらばこそ;あらはこそ, あがもふいもに;あかもふいもに, あはずしにせめ;あはすしにせめ,
   
  15/3741
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 伊能知乎之 麻多久之安良婆 安里伎奴能 安里弖能知尓毛 安波射良米也母 [一云 安里弖能乃知毛]
訓読 命をし全くしあらばあり衣のありて後にも逢はざらめやも [一云 ありての後も]
仮名 いのちをし またくしあらば ありきぬの ありてのちにも あはざらめやも [ありてののちも]
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
左注訓 一ニ云ク、ありての後も
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 枕詞 異伝 狭野弟上娘子
訓異 またくしあらば;またくしあらは, あはざらめやも;あはさらめやも,
   
  15/3742
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 安波牟日乎 其日等之良受 等許也未尓 伊豆礼能日麻弖 安礼古非乎良牟
訓読 逢はむ日をその日と知らず常闇にいづれの日まで我れ恋ひ居らむ
仮名 あはむひを そのひとしらず とこやみに いづれのひまで あれこひをらむ
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 そのひとしらず;そのひとしらす, いづれのひまで;いつれのひまて,
   
  15/3743
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 多婢等伊倍婆 許等尓曽夜須伎 須久奈久毛 伊母尓戀都々 須敝奈家奈久尓
訓読 旅といへば言にぞやすきすくなくも妹に恋ひつつすべなけなくに
仮名 たびといへば ことにぞやすき すくなくも いもにこひつつ すべなけなくに
左注 (右十四首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 たびといへば;たひといへは, ことにぞやすき;ことにそやすき, すべなけなくに;すへなけなくに,
   
  15/3744
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 和伎毛故尓 古布流尓安礼波 多麻吉波流 美自可伎伊能知毛 乎之家久母奈思
訓読 我妹子に恋ふるに我れはたまきはる短き命も惜しけくもなし
仮名 わぎもこに こふるにあれは たまきはる みじかきいのちも をしけくもなし
左注 右十四首中臣朝臣宅守
左注訓 右の十四首とをまりようたは、配所はなたえしところに至りて中臣朝臣宅守がよめる歌。
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 枕詞 恋情 狭野弟上娘子
訓異 わぎもこに;わきもこに, みじかきいのちも;みしかきいのちも,
   
  15/3745
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 伊能知安良婆 安布許登母安良牟 和我由恵尓 波太奈於毛比曽 伊能知多尓敝波
訓読 命あらば逢ふこともあらむ我がゆゑにはだな思ひそ命だに経ば
仮名 いのちあらば あふこともあらむ わがゆゑに はだなおもひそ いのちだにへば
左注 (右九首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 悲別 慰撫 恋情 中臣宅守
訓異 いのちあらば;いのちあらは, わがゆゑに;わかゆゑに, はだなおもひそ;はたなおもひそ, いのちだにへば;いのちたにへは,
   
  15/3746
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 <比>等能宇々流 田者宇恵麻佐受 伊麻佐良尓 久尓和可礼之弖 安礼波伊可尓勢武
訓読 人の植うる田は植ゑまさず今さらに国別れして我れはいかにせむ
仮名 ひとのううる たはうゑまさず いまさらに くにわかれして あれはいかにせむ
左注 (右九首娘子)
校異 此→比 [類][紀][細]
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 恋情 悲別 女歌 中臣宅守
訓異 たはうゑまさず;たはうゑまさす,
   
  15/3747
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 和我屋度能 麻都能葉見都々 安礼麻多無 波夜可反里麻世 古非之奈奴刀尓
訓読 我が宿の松の葉見つつ我れ待たむ早帰りませ恋ひ死なぬとに
仮名 わがやどの まつのはみつつ あれまたむ はやかへりませ こひしなぬとに
左注 (右九首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 恋情 悲別 女歌 中臣宅守
訓異 わがやどの;わかやとの,
   
  15/3748
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 比等久尓波 須美安之等曽伊布 須牟也氣久 波也可反里万世 古非之奈奴刀尓
訓読 他国は住み悪しとぞ言ふ速けく早帰りませ恋ひ死なぬとに
仮名 ひとくには すみあしとぞいふ すむやけく はやかへりませ こひしなぬとに
左注 (右九首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 恋情 悲別 女歌 中臣宅守
訓異 すみあしとぞいふ;すみあしとそいふ, こひしなぬとに;こひのなぬとに,
   
  15/3749
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 比等久尓々 伎美乎伊麻勢弖 伊<都><麻>弖可 安我故非乎良牟 等伎乃之良奈久
訓読 他国に君をいませていつまでか我が恋ひ居らむ時の知らなく
仮名 ひとくにに きみをいませて いつまでか あがこひをらむ ときのしらなく
左注 (右九首娘子)
校異 豆→都 [類][紀][細] / 摩→麻 [類][紀][温][細]
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 恋情 悲別 女歌 中臣宅守
訓異 いつまでか;いつまてか, あがこひをらむ;あかこひをらむ,
   
  15/3750
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 安米都知乃 曽許比能宇良尓 安我其等久 伎美尓故布良牟 比等波左祢安良自
訓読 天地の底ひのうらに我がごとく君に恋ふらむ人はさねあらじ
仮名 あめつちの そこひのうらに あがごとく きみにこふらむ ひとはさねあらじ
左注 (右九首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 恋情 悲別 女歌 中臣宅守
訓異 あがごとく;あかことく, ひとはさねあらじ;ひとはさねあらし,
   
  15/3751
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 之呂多倍能 安我之多其呂母 宇思奈波受 毛弖礼和我世故 多太尓安布麻弖尓
訓読 白栲の我が下衣失はず持てれ我が背子直に逢ふまでに
仮名 しろたへの あがしたごろも うしなはず もてれわがせこ ただにあふまでに
左注 (右九首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 恋情 悲別 女歌 枕詞 中臣宅守
訓異 あがしたごろも;あかしたころも, うしなはず;うしなはす, もてれわがせこ;もてれわかせこ, ただにあふまでに;たたにあうまてに,
   
  15/3752
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 波流乃日能 宇良我奈之伎尓 於久礼為弖 君尓古非都々 宇都之家米也母
訓読 春の日のうら悲しきに後れ居て君に恋ひつつうつしけめやも
仮名 はるのひの うらがなしきに おくれゐて きみにこひつつ うつしけめやも
左注 (右九首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 恋情 悲別 女歌 中臣宅守
訓異 うらがなしきに;うらかなしきに,
   
  15/3753
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 安波牟日能 可多美尓世与等 多和也女能 於毛比美太礼弖 奴敝流許呂母曽
訓読 逢はむ日の形見にせよとたわや女の思ひ乱れて縫へる衣ぞ
仮名 あはむひの かたみにせよと たわやめの おもひみだれて ぬへるころもぞ
左注 右九首娘子
左注訓 右の九首ここのうたは、娘子が京みやこに留まり、悲傷かなしみてよめる歌。
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 贈答 恋情 悲別 女歌 中臣宅守
訓異 おもひみだれて;おもひみたれて, ぬへるころもぞ;ぬへるころもそ,
   
  15/3754
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 過所奈之尓 世伎等婢古由流 保等登藝須 多我子尓毛 夜麻受可欲波牟
訓読 過所なしに関飛び越ゆる霍公鳥多我子尓毛止まず通はむ
仮名 くゎそなしに せきとびこゆる ほととぎす ******* やまずかよはむ
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 恋情 悲別 女歌 難訓 動物 狭野弟上娘子
訓異 くゎそなしに;ひまなしに, せきとびこゆる;せきとひこゆる, ほととぎす;ほとときす, *******;あまたかこにも, やまずかよはむ;やますかよはむ,
   
  15/3755
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 宇流波之等 安我毛布伊毛乎 山川乎 奈可尓敝奈里弖 夜須家久毛奈之
訓読 愛しと我が思ふ妹を山川を中にへなりて安けくもなし
仮名 うるはしと あがもふいもを やまかはを なかにへなりて やすけくもなし
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 あがもふいもを;あかもふいもを,
   
  15/3756
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 牟可比為弖 一日毛於知受 見之可杼母 伊等波奴伊毛乎 都奇和多流麻弖
訓読 向ひ居て一日もおちず見しかども厭はぬ妹を月わたるまで
仮名 むかひゐて ひとひもおちず みしかども いとはぬいもを つきわたるまで
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 ひとひもおちず;ひとひもおちす, みしかども;みしかとも, つきわたるまで;つきわたるまて,
   
  15/3757
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 安我<未>許曽 世伎夜麻<故>要弖 許己尓安良米 許己呂波伊毛尓 与里尓之母能乎
訓読 我が身こそ関山越えてここにあらめ心は妹に寄りにしものを
仮名 あがみこそ せきやまこえて ここにあらめ こころはいもに よりにしものを
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 末→未 [類][紀][細] / 許→故 [類][紀][細]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 あがみこそ;あかみこそ,
   
  15/3758
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 佐須太氣能 大宮人者 伊麻毛可母 比等奈夫理能<未> 許能美多流良武 [一云 伊麻左倍也]
訓読 さす竹の大宮人は今もかも人なぶりのみ好みたるらむ [一云 今さへや]
仮名 さすだけの おほみやひとは いまもかも ひとなぶりのみ このみたるらむ [いまさへや]
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
左注訓 一ニ云ク、今さへや
校異 美→未 [類][紀][細]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 枕詞 贈答 羈旅 配流 怨恨 異伝 狭野弟上娘子
訓異 さすだけの;さすたけの, ひとなぶりのみ;ひとなふりのみ,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 多知可敝里 奈氣杼毛安礼波 之流思奈美 於毛比和夫礼弖 奴流欲之曽於保伎
訓読 たちかへり泣けども我れは験なみ思ひわぶれて寝る夜しぞ多き
仮名 たちかへり なけどもあれは しるしなみ おもひわぶれて ぬるよしぞおほき
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 孤独 狭野弟上娘子
訓異 なけどもあれは;なけともあれは, おもひわぶれて;おもひわふれて, ぬるよしぞおほき;ぬるよしそおほき,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 左奴流欲波 於保久安礼杼母 毛能毛波受 夜須久奴流欲波 佐祢奈伎母能乎
訓読 さ寝る夜は多くあれども物思はず安く寝る夜はさねなきものを
仮名 さぬるよは おほくあれども ものもはず やすくぬるよは さねなきものを
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 母毛 [紀][細](塙) 毛母
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲嘆 悲別 狭野弟上娘子
訓異 おほくあれども;おほくあれとも, ものもはず;ものもはす,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 与能奈可能 都年能己等和利 可久左麻尓 奈<里>伎尓家良之 須恵之多祢可良
訓読 世の中の常のことわりかくさまになり来にけらしすゑし種から
仮名 よのなかの つねのことわり かくさまに なりきにけらし すゑしたねから
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 利→里 [類][紀][細]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲嘆 自覚 狭野弟上娘子
訓異 -
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 和伎毛故尓 安布左可山乎 故要弖伎弖 奈伎都々乎礼杼 安布余思毛奈之
訓読 我妹子に逢坂山を越えて来て泣きつつ居れど逢ふよしもなし
仮名 わぎもこに あふさかやまを こえてきて なきつつをれど あふよしもなし
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 枕詞 地名 滋賀県 大津市 悲別 悲嘆 狭野弟上娘子
訓異 わぎもこに;わきもこに, こえてきて;こゑてきて, なきつつをれど;なきつつをれと,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 多婢等伊倍婆 許<登>尓曽夜須伎 須敝毛奈久 々流思伎多婢毛 許等尓麻左米也母
訓読 旅と言へば言にぞやすきすべもなく苦しき旅も言にまさめやも
仮名 たびといへば ことにぞやすき すべもなく くるしきたびも ことにまさめやも
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 等→登 [類][紀][細]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 自覚 悲嘆 狭野弟上娘子
訓異 たびといへば;たひといへは, ことにぞやすき;ことにそやすき, すべもなく;すへもなく, くるしきたびも;くるしきたひも, ことにまさめやも;こらにまさめやも,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 山川乎 奈可尓敝奈里弖 等保久登母 許己呂乎知可久 於毛保世和伎母
訓読 山川を中にへなりて遠くとも心を近く思ほせ我妹
仮名 やまかはを なかにへなりて とほくとも こころをちかく おもほせわぎも
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 おもほせわぎも;おもほせわきも,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 麻蘇可我美 可氣弖之奴敝等 麻都里太須 可多美乃母能乎 比等尓之賣須奈
訓読 まそ鏡懸けて偲へとまつり出す形見のものを人に示すな
仮名 まそかがみ かけてしぬへと まつりだす かたみのものを ひとにしめすな
左注 (右十三首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 枕詞 狭野弟上娘子
訓異 まそかがみ;まそかかみ, かけてしぬへと;かけてしのへと, まつりだす;まつりたす,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 宇流波之等 於毛比之於毛<波婆> 之多婢毛尓 由比都氣毛知弖 夜麻受之努波世
訓読 愛しと思ひし思はば下紐に結ひつけ持ちてやまず偲はせ
仮名 うるはしと おもひしおもはば したびもに ゆひつけもちて やまずしのはせ
左注 右十三首中臣朝臣宅守
校異 婆波→波婆 [代匠記精撰本]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 贈答 羈旅 配流 恋情 狭野弟上娘子
訓異 おもひしおもはば;おもひしおもはは, したびもに;したひもに, やまずしのはせ;やますしのはせ,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 多麻之比波 安之多由布敝尓 多麻布礼杼 安我牟祢伊多之 古非能之氣吉尓
訓読 魂は朝夕にたまふれど我が胸痛し恋の繁きに
仮名 たましひは あしたゆふへに たまふれど あがむねいたし こひのしげきに
左注 (右八首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 恋情 悲別 悲嘆 女歌 中臣宅守
訓異 たまふれど;たまふれと, あがむねいたし;あかむねいたし, こひのしげきに;こひのしけきに,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 己能許呂波 君乎於毛布等 須敝毛奈伎 古非能<未>之都々 <祢>能<未>之曽奈久
訓読 このころは君を思ふとすべもなき恋のみしつつ音のみしぞ泣く
仮名 このころは きみをおもふと すべもなき こひのみしつつ ねのみしぞなく
左注 (右八首娘子)
校異 末→未 [紀][温][矢] / 弥→祢 [紀][細][温] / 末→未 [紀][温][矢]
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 恋情 悲別 悲嘆 女歌 中臣宅守
訓異 すべもなき;すへもなき, ねのみしぞなく;ねのみしそなく,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 奴婆多麻乃 欲流見之君乎 安久流安之多 安波受麻尓之弖 伊麻曽久夜思吉
訓読 ぬばたまの夜見し君を明くる朝逢はずまにして今ぞ悔しき
仮名 ぬばたまの よるみしきみを あくるあした あはずまにして いまぞくやしき
左注 (右八首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 枕詞 後悔 恋情 悲別 女歌 中臣宅守
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, あはずまにして;あはすまにして, いまぞくやしき;いまそくやしき,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 安治麻野尓 屋杼礼流君我 可反里許武 等伎能牟可倍乎 伊都等可麻多武
訓読 味真野に宿れる君が帰り来む時の迎へをいつとか待たむ
仮名 あぢまのに やどれるきみが かへりこむ ときのむかへを いつとかまたむ
左注 (右八首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 地名 福井県 武生市 悲別 恋情 女歌 中臣宅守
訓異 あぢまのに;あちまのに, やどれるきみが;やとれるきみか,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 宮人能 夜須伊毛祢受弖 家布々々等 麻都良武毛能乎 美要奴君可聞
訓読 宮人の安寐も寝ずて今日今日と待つらむものを見えぬ君かも
仮名 みやひとの やすいもねずて けふけふと まつらむものを みえぬきみかも
左注 (右八首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 恋情 悲別 大赦 女歌 中臣宅守
訓異 やすいもねずて;やすいもねすて,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 可敝里家流 比等伎多礼里等 伊比之可婆 保等保登之尓吉 君香登於毛比弖
訓読 帰りける人来れりと言ひしかばほとほと死にき君かと思ひて
仮名 かへりける ひときたれりと いひしかば ほとほとしにき きみかとおもひて
左注 (右八首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 恋情 悲別 大赦 女歌 中臣宅守
訓異 いひしかば;いひしかは,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 君我牟多 由可麻之毛能乎 於奈自許等 於久礼弖乎礼杼 与伎許等毛奈之
訓読 君が共行かましものを同じこと後れて居れどよきこともなし
仮名 きみがむた ゆかましものを おなじこと おくれてをれど よきこともなし
左注 (右八首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 恋情 悲別 大赦 女歌 中臣宅守
訓異 きみがむた;きみかむた, おなじこと;おなしこと, おくれてをれど;おくれてをれと,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 和我世故我 可反里吉麻佐武 等伎能多米 伊能知能己佐牟 和須礼多麻布奈
訓読 我が背子が帰り来まさむ時のため命残さむ忘れたまふな
仮名 わがせこが かへりきまさむ ときのため いのちのこさむ わすれたまふな
左注 右八首娘子
左注訓 右の八首は、娘子が和贈こたふる歌。
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 恋情 悲別 期待 大赦 女歌 中臣宅守
訓異 わがせこが;わかせこか,
   
  15/3775
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 安良多麻能 等之能乎奈我久 安波射礼杼 家之伎己許呂乎 安我毛波奈久尓
訓読 あらたまの年の緒長く逢はざれど異しき心を我が思はなくに
仮名 あらたまの としのをながく あはざれど けしきこころを あがもはなくに
左注 (右二首中臣朝臣宅守)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 恋情 悲別 女歌 心変柜り 狭野弟上娘子
訓異 としのをながく;としのをなかく, あはざれど;あはされと, あがもはなくに;あかもはなくに,
   
  15/3776
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 家布毛可母 美也故奈里世婆 見麻久保里 尓之能御馬屋乃 刀尓多弖良麻之
訓読 今日もかも都なりせば見まく欲り西の御馬屋の外に立てらまし
仮名 けふもかも みやこなりせば みまくほり にしのみまやの とにたてらまし
左注 右二首中臣朝臣宅守
左注訓 右の二首は、中臣朝臣宅守がまた贈れる歌。
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 配流 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 みやこなりせば;みやこなりせは,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 伎能布家布 伎美尓安波受弖 須流須敝能 多度伎乎之良尓 祢能未之曽奈久
訓読 昨日今日君に逢はずてするすべのたどきを知らに音のみしぞ泣く
仮名 きのふけふ きみにあはずて するすべの たどきをしらに ねのみしぞなく
左注 (右二首娘子)
校異 なし
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 配流 恋情 悲別 中臣宅守
訓異 きみにあはずて;きみにあはすて, するすべの;するすへの, たどきをしらに;たときをしらに, ねのみしぞなく;ねのみしそなく,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 之路多<倍>乃 阿我許呂毛弖乎 登里母知弖 伊波敝和我勢古 多太尓安布末R尓
訓読 白栲の我が衣手を取り持ちて斎へ我が背子直に逢ふまでに
仮名 しろたへの あがころもでを とりもちて いはへわがせこ ただにあふまでに
左注 右二首娘子
左注訓 右の二首は、娘子が和贈こたふる歌。
校異 信→倍 [西(訂正)][類][紀][細]
事項 作者:狭野弟上娘子 天平12年 年紀 枕詞 恋情 期待 女歌 中臣宅守
訓異 あがころもでを;あかころもてを, いはへわがせこ;いはへわかせこ, ただにあふまでに;たたにあふまてに,
   
  15/3779
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 和我夜度乃 波奈多知<婆>奈波 伊多都良尓 知利可須具良牟 見流比等奈思尓
訓読 我が宿の花橘はいたづらに散りか過ぐらむ見る人なしに
仮名 わがやどの はなたちばなは いたづらに ちりかすぐらむ みるひとなしに
左注 (右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
校異 波→婆 [類][紀][細]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 植物 譬喩 恋情 悲別 狭野弟上娘子
訓異 わがやどの;わかやとの, はなたちばなは;はなたちはなは, いたづらに;いたつらに, ちりかすぐらむ;ちりかすくらむ,
   
  15/3780
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 古非之奈婆 古非毛之祢等也 保等登藝須 毛能毛布等伎尓 伎奈吉等余牟流
訓読 恋ひ死なば恋ひも死ねとや霍公鳥物思ふ時に来鳴き響むる
仮名 こひしなば こひもしねとや ほととぎす ものもふときに きなきとよむる
左注 (右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 動物 恋情 狭野弟上娘子
訓異 こひしなば;こひしなは, ほととぎす;ほとときす,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 多婢尓之弖 毛能毛布等吉尓 保等登藝須 毛等奈那難吉曽 安我古非麻左流
訓読 旅にして物思ふ時に霍公鳥もとなな鳴きそ我が恋まさる
仮名 たびにして ものもふときに ほととぎす もとなななきそ あがこひまさる
左注 (右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 動物 羈旅 配流 恋情 怨恨 狭野弟上娘子
訓異 たびにして;たひにして, ものもふときに;ものものときに, ほととぎす;ほとときす, あがこひまさる;あかこひまさる,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 安麻其毛理 毛能母布等伎尓 保等登藝須 和我須武佐刀尓 伎奈伎等余母須
訓読 雨隠り物思ふ時に霍公鳥我が住む里に来鳴き響もす
仮名 あまごもり ものもふときに ほととぎす わがすむさとに きなきとよもす
左注 (右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 動物 羈旅 配流 恋情 狭野弟上娘子
訓異 あまごもり;あまこもり, ほととぎす;ほとときす, わがすむさとに;わかすむさとに, きなきとよもす;きなきとよます,
   
  15/3783
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 多婢尓之弖 伊毛尓古布礼婆 保登等伎須 和我須武佐刀尓 許<欲>奈伎和多流
訓読 旅にして妹に恋ふれば霍公鳥我が住む里にこよ鳴き渡る
仮名 たびにして いもにこふれば ほととぎす わがすむさとに こよなきわたる
左注 (右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
校異 余→欲 [類][細]
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 動物 恋情 羈旅 配流 狭野弟上娘子
訓異 たびにして;たひにして, いもにこふれば;いもにこふれは, ほととぎす;ほとときす, わがすむさとに;わかすむさとに,
   
  15/3784
題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 許己呂奈伎 登里尓曽安利家流 保登等藝須 毛能毛布等伎尓 奈久倍吉毛能可
訓読 心なき鳥にぞありける霍公鳥物思ふ時に鳴くべきものか
仮名 こころなき とりにぞありける ほととぎす ものもふときに なくべきものか
左注 (右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 動物 恋情 羈旅 配流 怨恨 狭野弟上娘子
訓異 とりにぞありける;とりにそありける, ほととぎす;ほとときす, なくべきものか;なくへきものか,
   
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題詞 (中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
原文 保登等藝須 安比太之麻思於家 奈我奈氣婆 安我毛布許己呂 伊多母須敝奈之
訓読 霍公鳥間しまし置け汝が鳴けば我が思ふ心いたもすべなし
仮名 ほととぎす あひだしましおけ ながなけば あがもふこころ いたもすべなし
左注 右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌
左注訓 右の七首は、中臣朝臣宅守が花鳥はなとりに寄せて思ひを陳べてよめる歌。
校異 なし
事項 作者:中臣宅守 天平12年 年紀 動物 恋情 羈旅 配流 狭野弟上娘子
訓異 ほととぎす;ほとときす, あひだしましおけ;あひたしましおけ, ながなけば;なかなけは, あがもふこころ;あかもふこころ, いたもすべなし;いたもすへなし,