古事記~根の国③スセリ姫 原文対訳

根の国② 古事記
上巻 第三部
大国主の物語
根の国③
スセリ姫
根の国④
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是其妻
須世理毘賣者。
 ここにその妻みめ
須世理毘賣すせりびめは、
 かくてお妃きさきの
スセリ姫ひめは
持喪具而。 喪はふりつ具ものを持ちて 葬式の道具を持つて
哭來。 哭きつつ來まし、 泣きながらおいでになり、
其父大神者。 その父の大神は、 その父の大神は
思已死訖。 すでに死うせぬと思ほして、 もう死んだとお思いになつて
出立其野。 その野に出でたたしき。 その野においでになると、
爾持其矢以
奉之時。
ここにその矢を持ちて
奉りし時に、
大國主の命はその矢を持つて
奉りましたので、
率入家而。 家に率て入りて、 家に連れて行つて
喚入八田間大室而。 八田間やたまの大室に喚び入れて、 大きな室に呼び入れて、
令取
其頭之虱。
その頭かしらの虱しらみを
取らしめたまひき。
頭の虱しらみを
取らせました。
     
故爾見其頭者。 かれその頭を見れば、 そこでその頭を見ると
呉公多在。 呉公むかで多さはにあり。 呉公むかでがいつぱいおります。
於是其妻。 ここにその妻、 この時にお妃が
以牟久木實與
赤土。
椋むくの木の實と
赤土はにとを取りて、
椋むくの木の實と
赤土とを
授其夫。 その夫に授けつ。 夫君に與えましたから、
故咋破其木實。 かれその木の實を咋ひ破り、 その木の實を咋くい破やぶり
含赤土。 赤土はにを含ふくみて 赤土を口に含んで
唾出者。 唾つばき出だしたまへば、 吐き出されると、
其大神。 その大神、 その大神は
以爲咋破呉公。 呉公むかでを咋ひ破りて 呉公を咋くい破つて
唾出而。 唾き出だすとおもほして、 吐き出すとお思いになつて、
於心思愛
而寢。
心に愛はしとおもほして
寢みねしたまひき。
御心に感心にお思いになつて
寢ておしまいになりました。
根の国② 古事記
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根の国③
スセリ姫
根の国④

解説

 
 
 ここで突然スセリ姫が妻になっているが、これはもとより一心同体という意味。
 スサノオ内部にある女性性がスセリ。そして大国主はスサノオの分身(根の国参照)。その身内の問題を知るために天照(御祖命)に言われ来たのである。
 
 続く段で、多くの武器で大勢の神を追い伏せ、娘を妻に迎え、大国の主となれといっているのは、女性的優しさとともにあれ、というスサノオなりの発言。
 ただ、神を追い伏せというのは違う。原因はそちらにはなく、子どものような危うさがそうさせる。
 武力に頼り、それを誇る精神的子どもが主になったら、その国自体が災いの種になる。そしてそれが自分達のことだとは思わない。だからそうなり続ける。