万葉集 第十九巻:一覧と配置

第十八巻 万葉集
第十九巻
第二十巻

 
 万葉集第十九巻、その一覧と配置(歌の内容はリンク先を参照)。
 ここでは個別の歌の検討というより、全体の配置に示される万葉の構造を見る。
 

第十九巻 目次と配置(4139~4292:154首)
                4139
4140
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4181
4182
4183
4184
留女之女郎
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4188
4189
4190
4191
4192
4193
4194
4195
4196
4197
4198
4199
4200
内蔵縄麻呂
 
 
4201
久米廣縄
4202
久米継麻呂
4203
久米廣縄
4204
恵行
4205
4206
4207
4208
4209
久米廣縄
4210
久米廣縄
4211
4212
4213
4214
4215
4216
4217
4218
4219
4220
大伴坂上郎女
4221
大伴坂上郎女
4222
久米廣縄
4223
4224
光明皇后
4225
4226
4227
三形沙弥
4228
三形沙弥
4229
4230
4231
久米廣縄
4232
遊行女婦蒲生
4233
内蔵縄麻呂
4234
4235
縣犬養三千代
4236
遊行女婦蒲生
4237
遊行女婦蒲生
4238
4239
4240
光明皇后
4241
藤原清河
4242
藤原仲麻呂
4243
丹比土作
4244
藤原清河
4245
高安種麻呂伝
4246
高安種麻呂伝
4247
阿倍老人母
4248
4249
4250
4251
4252
久米廣縄
4253
4254
4255
4256
4257
船王伝誦
4258
中臣清麻呂伝
4259
4260
4261
年紀
4262
丹比鷹主
4263
伝誦
4264
孝謙◇
4265
孝謙◇
4266
4267
4268
孝謙◇
4269
聖武◇
4270
橘諸兄
4271
藤原八束
4272
4273
巨勢朝臣
4274
石川年足
4275
文屋真人
4276
藤原八束
4277
藤原永手
4278
4279
船王
4280
大伴黒麻呂
4281
4282
石上宅嗣
4283
茨田王
4284
道祖王
4285
4286
4287
4288
4289
4290
4291
4292
               
 

第十九巻

   
   19/4139
題詞 天平勝寶二年三月一日之暮眺矚春苑桃李花<作>二首
題訓 天平勝宝てむひやうしようはう二年ふたとせといふとし三月やよひの一日つきたちのひの暮ゆふへに、春の苑の桃李ももすももの花を眺矚みて作よめる歌二首ふたつ
原文 春苑 紅尓保布 桃花 下<照>道尓 出立D嬬
訓読 春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子
仮名 はるのその くれなゐにほふ もものはな したでるみちに いでたつをとめ
左注 なし
校異 作歌→作 [元][文][紀] / 昭→照 [元][類][紀]
事項 天平勝宝2年3月1日 年紀 作者:大伴家持 植物 絵画 高岡 富山
訓異 したでるみちに;したてるみちに, いでたつをとめ;いてたてるいも,
   
  19/4140
題詞 (天平勝寶二年三月一日之暮眺矚春苑桃李花<作>二首)
原文 吾園之 李花可 庭尓落 波太礼能未 遺在可母
訓読 吾が園の李の花か庭に散るはだれのいまだ残りたるかも
仮名 わがそのの すもものはなか にはにちる はだれのいまだ のこりたるかも
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月1日 年紀 作者:大伴家持 植物 高岡 富山
訓異 わがそのの;わかそのの, はだれのいまだ;はたれのいまた,
   
  19/4141
題詞 見飜翔鴫作歌一首
題訓 翻とび翔かける鴫しぎを見てよめる歌一首ひとつ
原文 春儲而 <物>悲尓 三更而 羽振鳴志藝 誰田尓加須牟
訓読 春まけてもの悲しきにさ夜更けて羽振き鳴く鴫誰が田にか住む
仮名 はるまけて ものがなしきに さよふけて はぶきなくしぎ たがたにかすむ
左注 なし
校異 <>→物 [西(右書)][元][類][紀]
事項 天平勝宝2年3月1日 年紀 作者:大伴家持 動物 望郷 高岡 富山
訓異 ものがなしきに;ものかなしきに, はぶきなくしぎ;はふりなくしき, たがたにかすむ;たかたにかすむ,
   
  19/4142
題詞 二日攀柳黛思京師歌一首
題訓 二日ふつかのひ、柳黛やなぎを攀ぢて京師みやこを思しぬふ歌一首
原文 春日尓 張流柳乎 取持而 見者京之 大路所<念>
訓読 春の日に張れる柳を取り持ちて見れば都の大道し思ほゆ
仮名 はるのひに はれるやなぎを とりもちて みればみやこの おほちしおもほゆ
左注 なし
校異 思→念 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月2日 年紀 作者:大伴家持 望郷 植物 高岡 富山
訓異 はれるやなぎを;はれるやなきを, みればみやこの;みれはみやこの, おほちしおもほゆ;おほちおもほゆ,
   
  19/4143
題詞 攀折堅香子草花歌一首
題訓 堅香子草かたかごの花を攀折をる歌一首
原文 物部<乃> 八<十>D嬬等之 挹乱 寺井之於乃 堅香子之花
訓読 もののふの八十娘子らが汲み乱ふ寺井の上の堅香子の花
仮名 もののふの やそをとめらが くみまがふ てらゐのうへの かたかごのはな
左注 なし
校異 能→乃 [元][類][古] / 十乃→十 [元][古]
事項 天平勝宝2年3月2日 年紀 作者:大伴家持 植物 高岡 富山 枕詞
訓異 やそをとめらが;やそのいもらか, くみまがふ;くみまかふ, かたかごのはな;かたかこのはな,
   
  19/4144
題詞 見歸鴈歌二首
題訓 帰る雁を見る歌二首
原文 燕来 時尓成奴等 鴈之鳴者 本郷思都追 雲隠喧
訓読 燕来る時になりぬと雁がねは国偲ひつつ雲隠り鳴く
仮名 つばめくる ときになりぬと かりがねは くにしのひつつ くもがくりなく
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月2日 年紀 作者:大伴家持 動物 高岡 富山
訓異 つばめくる;つはめくる, かりがねは;かりかねは, くにしのひつつ;ふるさとおもひつつ, くもがくりなく;くもかくれなく,
   
  19/4145
題詞 (見歸鴈歌二首)
原文 春設而 如此歸等母 秋風尓 黄葉山乎 不<超>来有米也 [一云 春去者 歸此鴈]
訓読 春まけてかく帰るとも秋風にもみたむ山を越え来ざらめや [一云 春されば帰るこの雁]
仮名 はるまけて かくかへるとも あきかぜに もみたむやまを こえこざらめや [はるされば かへるこのかり]
左注 なし
校異 越→超 [元][類][文][紀]
事項 天平勝宝2年3月2日 年紀 作者:大伴家持 推敲 帰雁 高岡 富山
訓異 あきかぜに;あきかせに, もみたむやまを;もみちのやまを, こえこざらめや;こえこさらめや, [はるされば;はるされは,
   
  19/4146
題詞 夜裏聞千鳥<喧>歌二首
題訓 夜裏よる千鳥の鳴くを聞く歌二首
原文 夜具多知尓 寐覺而居者 河瀬尋 情<毛>之<努>尓 鳴知等理賀毛
訓読 夜ぐたちに寝覚めて居れば川瀬尋め心もしのに鳴く千鳥かも
仮名 よぐたちに ねざめてをれば かはせとめ こころもしのに なくちどりかも
左注 なし
校異 鳴→喧 [元][類] / 母→毛 [元][類][文][紀] / 奴→努 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月2日 年紀 作者:大伴家持 動物 懐古 望郷 高岡 富山
訓異 よぐたちに;よくたちに, ねざめてをれば;ねさめてをれは, こころもしのに;こころもののに, なくちどりかも;なくちとりかも,
   
  19/4147
題詞 (夜裏聞千鳥<喧>歌二首)
原文 夜降而 鳴河波知登里 宇倍之許曽 昔人母 之<努>比来尓家礼
訓読 夜くたちて鳴く川千鳥うべしこそ昔の人も偲ひ来にけれ
仮名 よくたちて なくかはちどり うべしこそ むかしのひとも しのひきにけれ
左注 なし
校異 奴→努 [元]
事項 天平勝宝2年3月2日 年紀 作者:大伴家持 動物 懐古 高岡 富山
訓異 なくかはちどり;なくかはちとり, うべしこそ;うへしこそ,
   
  19/4148
題詞 聞暁鳴雉歌二首
題訓 暁あかときに鳴く雉きぎしを聞く歌二首
原文 椙野尓 左乎騰流雉 灼然 啼尓之毛将哭 己母利豆麻可母
訓読 杉の野にさ躍る雉いちしろく音にしも泣かむ隠り妻かも
仮名 すぎののに さをどるきぎし いちしろく ねにしもなかむ こもりづまかも
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月2日 年紀 作者:大伴家持 動物 恋情
訓異 すぎののに;すきののに, さをどるきぎし;さをとるききす, こもりづまかも;こもりつまかも,
   
  19/4149
題詞 (聞暁鳴雉歌二首)
原文 足引之 八峯之雉 鳴響 朝開之霞 見者可奈之母
訓読 あしひきの八つ峰の雉鳴き響む朝明の霞見れば悲しも
仮名 あしひきの やつをのきぎし なきとよむ あさけのかすみ みればかなしも
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月2日 年紀 作者:大伴家持 動物 叙景 枕詞
訓異 やつをのきぎし;やつをのききす, みればかなしも;みれはかなしも,
   
  19/4150
題詞 遥聞泝江船人之唱歌一首
題訓 江かはを泝のぼる船人ふなひとの唄を遥はろばろ聞く歌一首
原文 朝床尓 聞者遥之 射水河 朝己藝思都追 唱船人
訓読 朝床に聞けば遥けし射水川朝漕ぎしつつ唄ふ舟人
仮名 あさとこに きけばはるけし いみづかは あさこぎしつつ うたふふなびと
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月2日 年紀 作者:大伴家持 叙景 地名 高岡 富山
訓異 きけばはるけし;きけははるけし, いみづかは;いみつかは, あさこぎしつつ;あさこきしつつ, うたふふなびと;うたふふなひと,
   
  19/4151
題詞 三日守大伴宿祢家持之舘宴歌三首
題訓 三日みかのひ、守かみ大伴宿禰家持が館たちにて宴する歌三首みつ
原文 今日之為等 思標之 足引乃 峯上之櫻 如此開尓家里
訓読 今日のためと思ひて標しあしひきの峰の上の桜かく咲きにけり
仮名 けふのためと おもひてしめし あしひきの をのへのさくら かくさきにけり
左注 なし
校異 思標 [元][類] 標
事項 天平勝宝2年3月3日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 植物 宴席 高岡 富山 上巳
訓異 -
   
  19/4152
題詞 (三日守大伴宿祢家持之舘宴歌三首)
原文 奥山之 八峯乃海石榴 都婆良可尓 今日者久良佐祢 大夫之徒
訓読 奥山の八つ峰の椿つばらかに今日は暮らさね大夫の伴
仮名 おくやまの やつをのつばき つばらかに けふはくらさね ますらをのとも
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月3日 年紀 作者:大伴家持 植物 宴席 上巳 序詞 高岡 富山
訓異 やつをのつばき;やつをのつはき, つばらかに;つはらかに,
   
  19/4153
題詞 (三日守大伴宿祢家持之舘宴歌三首)
原文 漢人毛 筏浮而 遊云 今日曽和我勢故 花縵世奈
訓読 漢人も筏浮かべて遊ぶといふ今日ぞ我が背子花かづらせな
仮名 からひとも いかだうかべて あそぶといふ けふぞわがせこ はなかづらせな
左注 なし
校異 奈 [細] 余
事項 天平勝宝2年3月3日 年紀 作者:大伴家持 宴席 上巳 曲水宴 植物 富山 高岡
訓異 いかだうかべて;ふねをうかへて, あそぶといふ;あそふてふ, けふぞわがせこ;けふそわかせこ, はなかづらせな;はなかつらせよ,
   
  19/4154
題詞 八日詠白<大>鷹歌一首[并短歌]
題訓 八日やかのひ、白大鷹ましらふのたかを詠める歌一首、また短歌みじかうた
原文 安志比奇<乃> 山坂<超>而 去更 年緒奈我久 科坂在 故志尓之須米婆 大王之 敷座國者 京師乎母 此間毛於夜自等 心尓波 念毛能可良 語左氣 見左久流人眼 乏等 於毛比志繁 曽己由恵尓 情奈具也等 秋附婆 芽子開尓保布 石瀬野尓 馬太伎由吉氐 乎知許知尓 鳥布美立 白塗之 小鈴毛由良尓 安波勢也<理> 布里左氣見都追 伊伎騰保流 許己呂能宇知乎 思延 宇礼之備奈我良 枕附 都麻屋之内尓 鳥座由比 須恵弖曽我飼 真白部乃多可
訓読 あしひきの 山坂越えて 行きかはる 年の緒長く しなざかる 越にし住めば 大君の 敷きます国は 都をも ここも同じと 心には 思ふものから 語り放け 見放くる人目 乏しみと 思ひし繁し そこゆゑに 心なぐやと 秋づけば 萩咲きにほふ 石瀬野に 馬だき行きて をちこちに 鳥踏み立て 白塗りの 小鈴もゆらに あはせ遣り 振り放け見つつ いきどほる 心のうちを 思ひ延べ 嬉しびながら 枕付く 妻屋のうちに 鳥座結ひ 据えてぞ我が飼ふ 真白斑の鷹
仮名 あしひきの やまさかこえて ゆきかはる としのをながく しなざかる こしにしすめば おほきみの しきますくには みやこをも ここもおやじと こころには おもふものから かたりさけ みさくるひとめ ともしみと おもひししげし そこゆゑに こころなぐやと あきづけば はぎさきにほふ いはせのに うまだきゆきて をちこちに とりふみたて しらぬりの をすずもゆらに あはせやり ふりさけみつつ いきどほる こころのうちを おもひのべ うれしびながら まくらづく つまやのうちに とぐらゆひ すゑてぞわがかふ ましらふのたか
左注 なし
校異 太→大 [元][類] / 能→乃 [元][類] / 越→超 [元][類][紀] / 里→理 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月8日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 動物 植物 地名 富山 狩猟 鷹狩り
訓異 ゆきかはる;ゆきかへる, としのをながく;としのをなかく, しなざかる;しなさかる, こしにしすめば;こしにしすめは, ここもおやじと;ここもおやしと, かたりさけ;ことはさけ, おもひししげし;おもひししけし, こころなぐやと;こころなくやと, あきづけば;あきつけは, はぎさきにほふ;はきさきにほふ, うまだきゆきて;うまたきゆきて, とりふみたて;とりふみたてて, をすずもゆらに;こすすもゆらに, いきどほる;いきとほる, おもひのべ;おもひのへ, うれしびながら;うれしひなから, まくらづく;まくらつく, とぐらゆひ;とくらゆひ, すゑてぞわがかふ;すゑてそわかふ,
   
  19/4155
題詞 (八日詠白<大>鷹歌一首[并短歌])
題訓 反かへし歌
原文 矢形尾乃 麻之路能鷹乎 屋戸尓須恵 可伎奈泥見都追 飼久之余志毛
訓読 矢形尾の真白の鷹を宿に据ゑ掻き撫で見つつ飼はくしよしも
仮名 やかたをの ましろのたかを やどにすゑ かきなでみつつ かはくしよしも
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月8日 年紀 作者:大伴家持 動物 富山 高岡
訓異 やどにすゑ;やとにすゑ, かきなでみつつ;かきなてみつつ,
   
  19/4156
題詞 潜鵜歌一首[并短歌]
題訓 鵜潜うつかふ歌一首、また短歌
原文 荒玉能 年徃更 春去者 花耳尓保布 安之比奇能 山下響 墜多藝知 流辟田乃 河瀬尓 年魚兒狭走 嶋津鳥 鵜養等母奈倍 可我理左之 奈頭佐比由氣<婆> 吾妹子我 可多見我氐良等 紅之 八塩尓染而 於己勢多流 服之襴毛 等寳利氐濃礼奴
訓読 あらたまの 年行きかはり 春されば 花のみにほふ あしひきの 山下響み 落ち激ち 流る辟田の 川の瀬に 鮎子さ走る 島つ鳥 鵜養伴なへ 篝さし なづさひ行けば 我妹子が 形見がてらと 紅の 八しほに染めて おこせたる 衣の裾も 通りて濡れぬ
仮名 あらたまの としゆきかはり はるされば はなのみにほふ あしひきの やましたとよみ おちたぎち ながるさきたの かはのせに あゆこさばしる しまつとり うかひともなへ かがりさし なづさひゆけば わぎもこが かたみがてらと くれなゐの やしほにそめて おこせたる ころものすそも とほりてぬれぬ
左注 なし
校異 歌 [西][細] 謌 / 波→婆 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月8日 年紀 作者:大伴家持 動物 地名 能登 富山 鵜飼媿
訓異 としゆきかはり;としゆきかへり, はるされば;はるされは, やましたとよみ;やましたひひき, おちたぎち;おちたきち, ながるさきたの;なかるさきたの, あゆこさばしる;あゆこさはしり, かがりさし;かかりさし, なづさひゆけば;なつさひゆけは, わぎもこが;わきもこか, かたみがてらと;かたみかてらと,
   
  19/4157
題詞 (潜鵜歌一首[并短歌])
題訓 反し歌
原文 紅<乃> 衣尓保波之 辟田河 絶己等奈久 吾等眷牟
訓読 紅の衣にほはし辟田川絶ゆることなく我れかへり見む
仮名 くれなゐの ころもにほはし さきたかは たゆることなく われかへりみむ
左注 なし
校異 <>→乃 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月8日 年紀 作者:大伴家持 地名 能登 富山 鵜飼媿 土地讃美 動物
訓異 くれなゐの;くれない, われかへりみむ[寛]
   
  19/4158
題詞 (潜鵜歌一首[并短歌])
原文 毎年尓 鮎之走婆 左伎多河 鵜八頭可頭氣氐 河瀬多頭祢牟
訓読 年のはに鮎し走らば辟田川鵜八つ潜けて川瀬尋ねむ
仮名 としのはに あゆしはしらば さきたかは うやつかづけて かはせたづねむ
左注 なし
校異 歌 [西][細] 謌
事項 天平勝宝2年3月8日 年紀 作者:大伴家持 鵜飼媿 地名 能登 富山 鵜飼媿
訓異 あゆしはしらば;あゆしはしれは, うやつかづけて;うやつかつきて, かはせたづねむ;かはせたつねむ,
   
  19/4159
題詞 季春三月九日擬出擧之政行於舊江村道上属目物花之詠并興中所作之歌 / 過澁谿埼見巌上樹歌一首 [樹名都萬麻]
題訓 季春三月やよひの九日ここのかのひ、出挙すいこの政に擬よりて舊江ふるえの村に行き、道の上ほとりに目を物花に属つくる詠うた、また興の中によめる歌
澁谿しぶたにの埼を過ぎて、巌いその上への樹を見る歌一首 樹名つまま
原文 礒上之 都萬麻乎見者 根乎延而 年深有之 神<左>備尓家里
訓読 礒の上のつままを見れば根を延へて年深からし神さびにけり
仮名 いそのうへの つままをみれば ねをはへて としふかからし かむさびにけり
左注 なし
校異 佐→左 [元][類][古]
事項 天平勝宝2年3月9日 年紀 作者:大伴家持 植物 土地讃美 氷見 富山 寿歌 出挙 部内巡行
訓異 つままをみれば;つままをみれは, かむさびにけり;かみさひにけり,
   
  19/4160
題詞 悲世間無常歌一首[并短歌]
題訓 世間よのなかの常無きを悲しむ歌一首、また短歌
原文 天地之 遠始欲 俗中波 常無毛能等 語續 奈我良倍伎多礼 天原 振左氣見婆 照月毛 盈<ち>之家里 安之比奇能 山之木末毛 春去婆 花開尓保比 秋都氣婆 露霜負而 風交 毛美知落家利 宇都勢美母 如是能未奈良之 紅能 伊呂母宇都呂比 奴婆多麻能 黒髪變 朝之咲 暮加波良比 吹風能 見要奴我其登久 逝水能 登麻良奴其等久 常毛奈久 宇都呂布見者 尓波多豆美 流渧 等騰米可祢都母
訓読 天地の 遠き初めよ 世間は 常なきものと 語り継ぎ 流らへ来たれ 天の原 振り放け見れば 照る月も 満ち欠けしけり あしひきの 山の木末も 春されば 花咲きにほひ 秋づけば 露霜負ひて 風交り もみち散りけり うつせみも かくのみならし 紅の 色もうつろひ ぬばたまの 黒髪変り 朝の笑み 夕変らひ 吹く風の 見えぬがごとく 行く水の 止まらぬごとく 常もなく うつろふ見れば にはたづみ 流るる涙 留めかねつも
仮名 あめつちの とほきはじめよ よのなかは つねなきものと かたりつぎ ながらへきたれ あまのはら ふりさけみれば てるつきも みちかけしけり あしひきの やまのこぬれも はるされば はなさきにほひ あきづけば つゆしもおひて かぜまじり もみちちりけり うつせみも かくのみならし くれなゐの いろもうつろひ ぬばたまの くろかみかはり あさのゑみ ゆふへかはらひ ふくかぜの みえぬがごとく ゆくみづの とまらぬごとく つねもなく うつろふみれば にはたづみ ながるるなみた とどめかねつも
左注 なし
校異 興→ち [西(左貼紙訂正)][文][紀]
事項 天平勝宝2年3月 年紀 作者:大伴家持 無常 憶良 富山 高岡
訓異 とほきはじめよ;とほきはしめよ, かたりつぎ;かたりつき, ながらへきたれ;なからへきたれ, ふりさけみれば;ふりさけみれは, はるされば;はるされは, あきづけば;あきつけは, かぜまじり;かせましり, ぬばたまの;ぬはたまの, ふくかぜの;ふくかせの, みえぬがごとく;みえぬかことく, ゆくみづの;ゆくみつの, とまらぬごとく;とまらぬことく, うつろふみれば;うつろふみれは, にはたづみ;にはたつみ, ながるるなみた;なかるるなみた, とどめかねつも;ととめかねつも,
   
  19/4161
題詞 (悲世間無常歌一首[并短歌])
題訓 反し歌
原文 言等波奴 木尚春開 秋都氣婆 毛美知遅良久波 常乎奈美許曽 [一云 常<无>牟等曽]
訓読 言とはぬ木すら春咲き秋づけばもみち散らくは常をなみこそ [一云 常なけむとぞ]
仮名 こととはぬ きすらはるさき あきづけば もみちぢらくは つねをなみこそ [つねなけむとぞ]
左注 なし
校異 無→无 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月 年紀 作者:大伴家持 植物 無常 憶良 富山 高岡 推敲
訓異 あきづけば;あきつけは, もみちぢらくは;もみちちらくは, [つねなけむとぞ];つねなけむとそ,
   
  19/4162
題詞 (悲世間無常歌一首[并短歌])
原文 宇都世美能 常<无>見者 世間尓 情都氣受弖 念日曽於保伎 [一云 嘆日曽於保吉]
訓読 うつせみの常なき見れば世の中に心つけずて思ふ日ぞ多き [一云 嘆く日ぞ多き]
仮名 うつせみの つねなきみれば よのなかに こころつけずて おもふひぞおほき [なげくひぞおほき]
左注 なし
校異 無→无 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月 年紀 作者:大伴家持 無常 推敲 悲嘆 憶良 富山 高岡
訓異 つねなきみれば;つねなきみれは, こころつけずて;こころつきすて, おもふひぞおほき;おもふひそおほき, [なげくひぞおほき];なけくひそおほき,
   
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題詞 豫作七夕歌一首
題訓 予あらかじめよめる七夕なぬかのよの歌一首
原文 妹之袖 和礼枕可牟 河湍尓 霧多知和多礼 左欲布氣奴刀尓
訓読 妹が袖我れ枕かむ川の瀬に霧立ちわたれさ夜更けぬとに
仮名 いもがそで われまくらかむ かはのせに きりたちわたれ さよふけぬとに
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月 年紀 作者:大伴家持 予作 七夕 儲作 富山 高岡
訓異 いもがそで;いもかそて, われまくらかむ;われまくらせむ,
   
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題詞 慕振勇士之名歌一首[并短歌]
題訓 勇士ますらをの名を振ふるふを慕ふ歌一首、また短歌
原文 知智乃實乃 父能美許等 波播蘇葉乃 母能美己等 於保呂可尓 情盡而 念良牟 其子奈礼夜母 大夫夜 <无>奈之久可在 梓弓 須恵布理於許之 投矢毛知 千尋射和多之 劔刀 許思尓等理波伎 安之比奇能 八峯布美越 左之麻久流 情不障 後代乃 可多利都具倍久 名乎多都倍志母
訓読 ちちの実の 父の命 ははそ葉の 母の命 おほろかに 心尽して 思ふらむ その子なれやも 大夫や 空しくあるべき 梓弓 末振り起し 投矢持ち 千尋射わたし 剣大刀 腰に取り佩き あしひきの 八つ峰踏み越え さしまくる 心障らず 後の世の 語り継ぐべく 名を立つべしも
仮名 ちちのみの ちちのみこと ははそばの ははのみこと おほろかに こころつくして おもふらむ そのこなれやも ますらをや むなしくあるべき あづさゆみ すゑふりおこし なげやもち ちひろいわたし つるぎたち こしにとりはき あしひきの やつをふみこえ さしまくる こころさやらず のちのよの かたりつぐべく なをたつべしも
左注 (右二首追和山上憶良臣作歌)
校異 無→无 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月 年紀 作者:大伴家持 憶良 追和 枕詞 植物 儒教 高岡 富山
訓異 ははそばの;ははそはの, むなしくあるべき;むなしくあるへき, あづさゆみ;あつさゆみ, なげやもち;なくやもち, つるぎたち;つるきたち, こころさやらず;こころさはらす, かたりつぐべく;かたりつくへく, なをたつべしも;なをたつへしも,
   
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題詞 (慕振勇士之名歌一首[并短歌])
題訓 反し歌
原文 大夫者 名乎之立倍之 後代尓 聞継人毛 可多里都具我祢
訓読 大夫は名をし立つべし後の世に聞き継ぐ人も語り継ぐがね
仮名 ますらをは なをしたつべし のちのよに ききつぐひとも かたりつぐがね
左注 右二首追和山上憶良臣作歌
左注訓 右の二首は、山上憶良臣が作める歌に追ひて和なぞらふ。
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月 年紀 作者:大伴家持 憶良 追和 儒教 高岡 富山
訓異 なをしたつべし;なをしたつへし, ききつぐひとも;ききつくひとも, かたりつぐがね;かたりつくかね,
   
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題詞 詠霍公鳥并時花歌一首[并短歌]
題訓 霍公鳥ほととぎすまた時の花を詠める歌一首、また短歌
原文 毎時尓 伊夜目都良之久 八千種尓 草木花左伎 喧鳥乃 音毛更布 耳尓聞 眼尓視其等尓 宇知嘆 之奈要宇良夫礼 之努比都追 有争波之尓 許能久礼<能> 四月之立者 欲其母理尓 鳴霍公鳥 従古昔 可多<里>都藝都流 鴬之 宇都之真子可母 菖蒲 花橘乎 D嬬良我 珠貫麻泥尓 赤根刺 晝波之賣良尓 安之比奇乃 八丘飛超 夜干玉<乃> 夜者須我良尓 暁 月尓向而 徃還 喧等余牟礼杼 何如将飽足
訓読 時ごとに いやめづらしく 八千種に 草木花咲き 鳴く鳥の 声も変らふ 耳に聞き 目に見るごとに うち嘆き 萎えうらぶれ 偲ひつつ 争ふはしに 木の暗の 四月し立てば 夜隠りに 鳴く霍公鳥 いにしへゆ 語り継ぎつる 鴬の 現し真子かも あやめぐさ 花橘を 娘子らが 玉貫くまでに あかねさす 昼はしめらに あしひきの 八つ峰飛び越え ぬばたまの 夜はすがらに 暁の 月に向ひて 行き帰り 鳴き響むれど なにか飽き足らむ
仮名 ときごとに いやめづらしく やちくさに くさきはなさき なくとりの こゑもかはらふ みみにきき めにみるごとに うちなげき しなえうらぶれ しのひつつ あらそふはしに このくれの うづきしたてば よごもりに なくほととぎす いにしへゆ かたりつぎつる うぐひすの うつしまこかも あやめぐさ はなたちばなを をとめらが たまぬくまでに あかねさす ひるはしめらに あしひきの やつをとびこえ ぬばたまの よるはすがらに あかときの つきにむかひて ゆきがへり なきとよむれど なにかあきだらむ
左注 (右廿日雖未及時依興預作也)
校異 罷→能 [万葉集略解] / 理→里 [元][類] / 之→乃 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月20日 年紀 作者:大伴家持 動物 依興 予作 預作 植物 高岡 富山
訓異 ときごとに;ときことに, いやめづらしく;いやめつらしく, めにみるごとに;めにみることに, うちなげき;うちなけき, しなえうらぶれ;しなゆうらふれ, このくれの;このくれやみ, うづきしたてば;うつきしたては, よごもりに;よこもりに, なくほととぎす;なくほとときす, いにしへゆ;むかしより, かたりつぎつる;かたりつきつる, うぐひすの;うくひすの, あやめぐさ;あやめくさ, はなたちばなを;はなたちはなを, をとめらが;をとめらか, たまぬくまでに;たまぬくまてに, やつをとびこえ;やつをとひこえ, ぬばたまの;ぬはたまの, よるはすがらに;よるはすからに, あかときの;あかつきの, ゆきがへり;ゆきかへり, なきとよむれど;なきとよむれと, なにかあきだらむ;いかかあきたらむ,
   
  19/4167
題詞 (詠霍公鳥并時花歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 毎時 弥米頭良之久 咲花乎 折毛不折毛 見良久之余志<母>
訓読 時ごとにいやめづらしく咲く花を折りも折らずも見らくしよしも
仮名 ときごとに いやめづらしく さくはなを をりもをらずも みらくしよしも
左注 (右廿日雖未及時依興預作也)
校異 毛→母 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月20日 年紀 作者:大伴家持 依興 予作 預作 植物 高岡 富山
訓異 ときごとに;ときことに, いやめづらしく;いやめつらしく, をりもをらずも;をりもをらすも,
   
  19/4168
題詞 (詠霍公鳥并時花歌一首[并短歌](反歌二首))
原文 毎年尓 来喧毛能由恵 霍公鳥 聞婆之努波久 不相日乎於保美 [毎年謂之等之乃波]
訓読 毎年に来鳴くものゆゑ霍公鳥聞けば偲はく逢はぬ日を多み [毎年謂之等之乃波]
仮名 としのはに きなくものゆゑ ほととぎす きけばしのはく あはぬひをおほみ
左注 右廿日雖未及時依興預作也
左注訓 右、二十日はつかのひ、未だ時及ばずと雖も、興ことに依つけて預あらかじめよめる。
校異 也 [元] 之
事項 天平勝宝2年3月20日 年紀 作者:大伴家持 依興 予作 預作 動物 高岡 富山
訓異 ほととぎす;ほとときす, きけばしのはく;きけはしのはく,
   
  19/4169
題詞 為家婦贈在京尊母所誂作歌一首[并短歌]
題訓 家婦めが京みやこに在います尊母ははのみことに贈らむ為に、誂あつらへらえてよめる歌一首、また短歌
原文 霍公鳥 来喧五月尓 咲尓保布 花橘乃 香吉 於夜能御言 朝暮尓 不聞日麻祢久 安麻射可流 夷尓之居者 安之比奇乃 山乃多乎里尓 立雲乎 余曽能未見都追 嘆蘇良 夜須<家>奈久尓 念蘇良 苦伎毛能乎 奈呉乃海部之 潜取云 真珠乃 見我保之御面 多太向 将見時麻泥波 松栢乃 佐賀延伊麻佐祢 尊安我吉美 [御面謂之美於毛和]
訓読 霍公鳥 来鳴く五月に 咲きにほふ 花橘の かぐはしき 親の御言 朝夕に 聞かぬ日まねく 天離る 鄙にし居れば あしひきの 山のたをりに 立つ雲を よそのみ見つつ 嘆くそら 安けなくに 思ふそら 苦しきものを 奈呉の海人の 潜き取るといふ 白玉の 見が欲し御面 直向ひ 見む時までは 松柏の 栄えいまさね 貴き我が君 [御面謂之美於毛和]
仮名 ほととぎす きなくさつきに さきにほふ はなたちばなの かぐはしき おやのみこと あさよひに きかぬひまねく あまざかる ひなにしをれば あしひきの やまのたをりに たつくもを よそのみみつつ なげくそら やすけなくに おもふそら くるしきものを なごのあまの かづきとるといふ しらたまの みがほしみおもわ ただむかひ みむときまでは まつかへの さかえいまさね たふときあがきみ
左注 なし
校異 家久→家 [元]
事項 天平勝宝2年3月 年紀 作者:大伴家持 動物 植物 枕詞 贈答 代作 坂上郎女 坂上大嬢 寿歌 恋情 高岡 富山
訓異 ほととぎす;ほとときす, はなたちばなの;はなたちはなの, かぐはしき;かをよしみ, おやのみこと;おやのみことの, あさよひに;あさゆふに, きかぬひまねく;きかぬひまなく, あまざかる;あまさかる, ひなにしをれば;ひなにしをれは, なげくそら;なけくそら, やすけなくに;やすけくなくに, なごのあまの;なこのあまの, かづきとるといふ;かつきとるてふ, みがほしみおもわ;みかほしみおもわ, ただむかひ;たたむかひ, みむときまでは;みむときまては, たふときあがきみ;たうときあかきみ,
   
  19/4170
題詞 (為家婦贈在京尊母所誂作歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 白玉之 見我保之君乎 不見久尓 夷尓之乎礼婆 伊家流等毛奈之
訓読 白玉の見が欲し君を見ず久に鄙にし居れば生けるともなし
仮名 しらたまの みがほしきみを みずひさに ひなにしをれば いけるともなし
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月 年紀 作者:大伴家持 贈答 代作 坂上郎女 坂上大嬢 恋情 高岡 富山
訓異 しらたまの;しらたまの, みがほしきみを;みかほしきみを, みずひさに;みすひさに, ひなにしをれば;ひなにしをれは,
   
  19/4171
題詞 廿四日應立夏四月節也 因此廿三日之暮忽思霍公鳥暁喧聲作歌二首
題訓 二十四日はつかまりよかのひ、立夏四月節うつきたつひのときに応あたれり。此に因りて二十三日はつかまりみかのひの暮ゆふへ、忽ち霍公鳥ほととぎすの暁あかときに喧かむ声を思しぬひてよめる歌二首
原文 常人毛 起都追聞曽 霍公鳥 此暁尓 来喧始音
訓読 常人も起きつつ聞くぞ霍公鳥この暁に来鳴く初声
仮名 つねひとも おきつつきくぞ ほととぎす このあかときに きなくはつこゑ
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月23日 年紀 作者:大伴家持 動物 季節 高岡 富山 立夏
訓異 おきつつきくぞ;おきつつきくそ, ほととぎす;ほとときす, このあかときに;このあかつきに,
   
  19/4172
題詞 (廿四日應立夏四月節也 因此廿三日之暮忽思霍公鳥暁喧聲作歌二首)
原文 霍公鳥 来<喧>響者 草等良牟 花橘乎 屋戸尓波不殖而
訓読 霍公鳥来鳴き響めば草取らむ花橘を宿には植ゑずて
仮名 ほととぎす きなきとよめば くさとらむ はなたちばなを やどにはうゑずて
左注 なし
校異 鳴→喧 [元][類]
事項 天平勝宝2年3月23日 年紀 作者:大伴家持 動物 植物 高岡 富山 立夏
訓異 ほととぎす;ほとときす, きなきとよめば;きなきとよまは, はなたちばなを;はなたちはなを, やどにはうゑずて;やとにはうえすて,
   
  19/4173
題詞 贈京丹比家歌一首
題訓 京みやこの丹比たぢひが家に贈れる歌一首
原文 妹乎不見 越國敝尓 經年婆 吾情度乃 奈具流日毛無
訓読 妹を見ず越の国辺に年経れば我が心どのなぐる日もなし
仮名 いもをみず こしのくにへに としふれば あがこころどの なぐるひもなし
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年3月 年紀 作者:大伴家持 悲嘆 別離 贈答 丹比氏 代作 坂上大嬢 高岡 富山
訓異 いもをみず;いもをみす, としふれば;としふれは, あがこころどの;わかこころとの, なぐるひもなし;なくるひもなし,
   
  19/4174
題詞 追和筑紫<大>宰之時春<苑>梅歌一首
題訓 筑紫の太宰おほみこともちの時の春の苑の梅を追ひてよめる歌一首
原文 春裏之 樂終者 梅花 手折乎伎都追 遊尓可有
訓読 春のうちの楽しき終は梅の花手折り招きつつ遊ぶにあるべし
仮名 はるのうちの たのしきをへは うめのはな たをりをきつつ あそぶにあるべし
左注 右一首廿七日依興作之
左注訓 右の一首は、二十七日はつかまりなぬかのひ、興ことに依つけてよめる。
校異 太→大 [元][文][紀][矢] / 花→苑 [万葉集略解]
事項 天平勝宝2年3月27日 年紀 作者:大伴家持 追和 太宰府 梅花宴 宴席 依興 高岡 富山
訓異 たをりをきつつ;たおりおきつつ, あそぶにあるべし;あそふにかあらむ,
   
  19/4175
題詞 詠霍公鳥二首
題訓 霍公鳥を詠める二首
原文 霍公鳥 今来喧曽<无> 菖蒲 可都良久麻泥尓 加流々日安良米也 [毛能波三箇辞闕之]
訓読 霍公鳥今来鳴きそむあやめぐさかづらくまでに離るる日あらめや [毛能波三箇辞闕之]
仮名 ほととぎす いまきなきそむ あやめぐさ かづらくまでに かるるひあらめや
左注 なし
校異 無→无 [元][類]
事項 天平勝宝2年 年紀 作者:大伴家持 動物 植物 高岡 富山 恋情
訓異 ほととぎす;ほとときす, あやめぐさ;あやめくさ, かづらくまでに;かつらくまてに,
   
  19/4176
題詞 (詠霍公鳥二首)
原文 我門従 喧過度 霍公鳥 伊夜奈都可之久 雖聞飽不足 [毛能波氐尓乎六箇辞闕之]
訓読 我が門ゆ鳴き過ぎ渡る霍公鳥いやなつかしく聞けど飽き足らず [毛能波C尓乎六箇辞闕之]
仮名 わがかどゆ なきすぎわたる ほととぎす いやなつかしく きけどあきたらず
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2 年紀 作者:大伴家持 恋情 動物 高岡 富山
訓異 わがかどゆ;わかかとゆ, なきすぎわたる;なきすきわたる, ほととぎす;ほとときす, きけどあきたらず;きけとあきたらす,
   
  19/4177
題詞 四月三日贈越前判官大伴宿祢池主霍公鳥歌不勝感舊之意述懐一首[并短歌]
題訓 四月の三日、越前こしのみちのくちの判官まつりごとひと大伴宿禰池主に贈れる霍公鳥の歌、感旧の意おもひに勝たへずて懐おもひを述ぶる一首ひとうた、また短歌
原文 和我勢故等 手携而 暁来者 出立向 暮去者 授放見都追 念<暢> 見奈疑之山尓 八峯尓波 霞多奈婢伎 谿敝尓波 海石榴花咲 宇良悲 春之過者 霍公鳥 伊也之伎喧奴 獨耳 聞婆不怜毛 君与吾 隔而戀流 利波山 飛超去而 明立者 松之狭枝尓 暮去者 向月而 菖蒲 玉貫麻泥尓 鳴等余米 安寐不令宿 君乎奈夜麻勢
訓読 我が背子と 手携はりて 明けくれば 出で立ち向ひ 夕されば 振り放け見つつ 思ひ延べ 見なぎし山に 八つ峰には 霞たなびき 谷辺には 椿花咲き うら悲し 春し過ぐれば 霍公鳥 いやしき鳴きぬ 独りのみ 聞けば寂しも 君と我れと 隔てて恋ふる 砺波山 飛び越え行きて 明け立たば 松のさ枝に 夕さらば 月に向ひて あやめぐさ 玉貫くまでに 鳴き響め 安寐寝しめず 君を悩ませ
仮名 わがせこと てたづさはりて あけくれば いでたちむかひ ゆふされば ふりさけみつつ おもひのべ みなぎしやまに やつをには かすみたなびき たにへには つばきはなさき うらがなし はるしすぐれば ほととぎす いやしきなきぬ ひとりのみ きけばさぶしも きみとあれと へだててこふる となみやま とびこえゆきて あけたたば まつのさえだに ゆふさらば つきにむかひて あやめぐさ たまぬくまでに なきとよめ やすいねしめず きみをなやませ
左注 なし
校異 鴨→暢 [元][類]
事項 天平勝宝2年4月3日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 動物 植物 恋情 戯笑 懐旧 高岡 富山
訓異 わがせこと;わかせこと, てたづさはりて;てたつさはりて, あけくれば;あけくれは, いでたちむかひ;いてたちむかひ, ゆふされば;ゆふされは, おもひのべ;おもふかも, みなぎしやまに;みなきしやまに, かすみたなびき;かすみたなひき, つばきはなさき;つはきはなさき, うらがなし;うらかなし, はるしすぐれば;はるしすくれは, ほととぎす;ほとときす, きけばさぶしも;きけはさひしも, きみとあれと;きみとわれ, へだててこふる;へたててこふる, とびこえゆきて;とひこえゆきて, あけたたば;あけたては, まつのさえだに;まつのさえたに, ゆふさらば;ゆふされは, あやめぐさ;あやめくさ, たまぬくまでに;たまぬくまてに, やすいねしめず;やすいしなさて,
   
  19/4178
題詞 (四月三日贈越前判官大伴宿祢池主霍公鳥歌不勝感舊之意述懐一首[并短歌])
原文 吾耳 聞婆不怜毛 霍公鳥 <丹>生之山邊尓 伊去鳴<尓毛>
訓読 我れのみし聞けば寂しも霍公鳥丹生の山辺にい行き鳴かにも
仮名 われのみし きけばさぶしも ほととぎす にふのやまへに いゆきなかにも
左注 なし
校異 舟→丹 [西(訂正)][元][類][紀] / <>→尓毛 [西(左書)][元][類][紀]
事項 天平勝宝2年4月3日 年紀 作者:大伴家持 動物 恋情 戯笑 大伴池主 贈答 懐旧 高岡 富山
訓異 われのみし;ひとりのみ, きけばさぶしも;きけはさひしも, ほととぎす;ほとときす, いゆきなかにも;いゆきなくにも,
   
  19/4179
題詞 (四月三日贈越前判官大伴宿祢池主霍公鳥歌不勝感舊之意述懐一首[并短歌])
原文 霍公鳥 夜喧乎為管 <和>我世兒乎 安宿勿令寐 由米情在
訓読 霍公鳥夜鳴きをしつつ我が背子を安寐な寝しめゆめ心あれ
仮名 ほととぎす よなきをしつつ わがせこを やすいなねしめ ゆめこころあれ
左注 なし
校異 <>→和 [元][類]
事項 天平勝宝2年4月3日 年紀 作者:大伴家持 戯笑 大伴池主 贈答 恋情 懐旧 高岡 富山
訓異 ほととぎす;ほとときす, わがせこを;わかせこを, やすいなねしめ;やすいしなすて,
   
  19/4180
題詞 不飽感霍公鳥之情述懐作歌一首[并短歌]
題訓 霍公鳥を感めづる心に飽かず、懐を述べてよめる歌一首、また短歌
原文 春過而 夏来向者 足桧木乃 山呼等余米 左夜中尓 鳴霍公鳥 始音乎 聞婆奈都可之 菖蒲 花橘乎 貫交 可頭良久麻<泥>尓 里響 喧渡礼騰母 尚之努波由
訓読 春過ぎて 夏来向へば あしひきの 山呼び響め さ夜中に 鳴く霍公鳥 初声を 聞けばなつかし あやめぐさ 花橘を 貫き交へ かづらくまでに 里響め 鳴き渡れども なほし偲はゆ
仮名 はるすぎて なつきむかへば あしひきの やまよびとよめ さよなかに なくほととぎす はつこゑを きけばなつかし あやめぐさ はなたちばなを ぬきまじへ かづらくまでに さととよめ なきわたれども なほししのはゆ
左注 なし
校異 面→泥 [元][類]
事項 天平勝宝2年4月 年紀 作者:大伴家持 動物 懐旧 恋情 植物 高岡 富山
訓異 はるすぎて;はるすきて, なつきむかへば;なつきむかへは, やまよびとよめ;やまよひとよめ, なくほととぎす;なくほとときす, きけばなつかし;きけはなつかし, あやめぐさ;あやめくさ, はなたちばなを;はなたちはなを, ぬきまじへ;ぬきましへ, かづらくまでに;かつらぬくまてに, さととよめ;さととよみ, なきわたれども;なきわたれとも,
   
  19/4181
題詞 (不飽感霍公鳥之情述懐作歌一首[并短歌])反歌三首
題訓 反し歌三首
原文 左夜深而 暁月尓 影所見而 鳴霍公鳥 聞者夏借
訓読 さ夜更けて暁月に影見えて鳴く霍公鳥聞けばなつかし
仮名 さよふけて あかときつきに かげみえて なくほととぎす きけばなつかし
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月 年紀 作者:大伴家持 動物 懐旧 恋情 高岡 富山
訓異 あかときつきに;あかつきつきに, かげみえて;かけみえて, なくほととぎす;なくほとときす, きけばなつかし;きけはなつかし,
   
  19/4182
題詞 ((不飽感霍公鳥之情述懐作歌一首[并短歌])反歌三首)
原文 霍公鳥 雖聞不足 網取尓 獲而奈都氣奈 可礼受鳴金
訓読 霍公鳥聞けども飽かず網捕りに捕りてなつけな離れず鳴くがね
仮名 ほととぎす きけどもあかず あみとりに とりてなつけな かれずなくがね
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月 年紀 作者:大伴家持 動物 高岡 富山
訓異 ほととぎす;ほとときす, きけどもあかず;きけともあかぬ, かれずなくがね;かれすなくかね,
   
  19/4183
題詞 ((不飽感霍公鳥之情述懐作歌一首[并短歌])反歌三首)
原文 霍公鳥 飼通良婆 今年經而 来向夏<波> 麻豆将喧乎
訓読 霍公鳥飼ひ通せらば今年経て来向ふ夏はまづ鳴きなむを
仮名 ほととぎす かひとほせらば ことしへて きむかふなつは まづなきなむを
左注 なし
校異 婆→波 [元][類][文]
事項 天平勝宝2年4月 年紀 作者:大伴家持 動物 高岡 富山
訓異 ほととぎす;ほとときす, かひとほせらば;かひとほせらは, きむかふなつは;いまこむなつは, まづなきなむを;まつなきなむを,
   
  19/4184
題詞 従京師贈来歌一首
題訓 京師みやこより贈来おこせる歌一首
原文 山吹乃 花執持而 都礼毛奈久 可礼尓之妹乎 之努比都流可毛
訓読 山吹の花取り持ちてつれもなく離れにし妹を偲ひつるかも
仮名 やまぶきの はなとりもちて つれもなく かれにしいもを しのひつるかも
左注 右四月五日従留女之女郎所送也
左注訓 右、四月の五日いつかのひ、郷さとに留れる女郎いらつめより送おこせたるなり。
校異 女之 [類] 京
事項 天平勝宝2年4月5日 年紀 作者:留女女郎 家持妹 大伴家持 贈答 坂上大嬢 恋情 富山 高岡
訓異 やまぶきの;やまふきの,
   
  19/4185
題詞 詠山振花歌一首[并短歌]
題訓 山振やまぶきの花を詠める歌一首、また短歌
原文 宇都世美波 戀乎繁美登 春麻氣氐 念繁波 引攀而 折毛不折毛 毎見 情奈疑牟等 繁山之 谿敝尓生流 山振乎 屋戸尓引殖而 朝露尓 仁保敝流花乎 毎見 念者不止 戀志繁母
訓読 うつせみは 恋を繁みと 春まけて 思ひ繁けば 引き攀ぢて 折りも折らずも 見るごとに 心なぎむと 茂山の 谷辺に生ふる 山吹を 宿に引き植ゑて 朝露に にほへる花を 見るごとに 思ひはやまず 恋し繁しも
仮名 うつせみは こひをしげみと はるまけて おもひしげけば ひきよぢて をりもをらずも みるごとに こころなぎむと しげやまの たにへにおふる やまぶきを やどにひきうゑて あさつゆに にほへるはなを みるごとに おもひはやまず こひししげしも
左注 なし
校異 殖 [元][類][細] 植
事項 天平勝宝2年4月5日 年紀 作者:大伴家持 植物 恋情 高岡 富山
訓異 こひをしげみと;こひをしけみと, おもひしげけば;おもひしけれは, ひきよぢて;ひきよちて, をりもをらずも;をりもをらすも, みるごとに;みることに, こころなぎむと;こころなきむと, しげやまの;しけやまの, やまぶきを;やまふきを, やどにひきうゑて;やとにひきうゑて, みるごとに;みることに, おもひはやまず;おもひはやまて, こひししげしも;こひししけしも,
   
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題詞 (詠山振花歌一首[并短歌])
原文 山吹乎 屋戸尓殖弖波 見其等尓 念者不止 戀己曽益礼
訓読 山吹を宿に植ゑては見るごとに思ひはやまず恋こそまされ
仮名 やまぶきを やどにうゑては みるごとに おもひはやまず こひこそまされ
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月5日 年紀 作者:大伴家持 植物 恋情 高岡 富山
訓異 やまぶきを;やまふきを, やどにうゑては;やとにうゑては, みるごとに;みることに, おもひはやまず;おもひはやます,
   
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題詞 六日遊覧布勢水海作歌一首[并短歌]
題訓 六日むかのひ、布勢ふせの水海みづうみに遊覧あそびてよめる歌一首、また短歌
原文 念度知 大夫能 許<乃>久礼<能> 繁思乎 見明良米 情也良牟等 布勢乃海尓 小船都良奈米 真可伊可氣 伊許藝米具礼婆 乎布能浦尓 霞多奈妣伎 垂姫尓 藤浪咲而 濱浄久 白波左和伎 及々尓 戀波末佐礼杼 今日耳 飽足米夜母 如是己曽 祢年<乃>波尓 春花之 繁盛尓 秋葉能 黄色時尓 安里我欲比 見都追思努波米 此布勢能海乎
訓読 思ふどち ますらをのこの 木の暗の 繁き思ひを 見明らめ 心遣らむと 布勢の海に 小舟つら並め ま櫂掛け い漕ぎ廻れば 乎布の浦に 霞たなびき 垂姫に 藤波咲て 浜清く 白波騒き しくしくに 恋はまされど 今日のみに 飽き足らめやも かくしこそ いや年のはに 春花の 茂き盛りに 秋の葉の もみたむ時に あり通ひ 見つつ偲はめ この布勢の海を
仮名 おもふどち ますらをのこの このくれの しげきおもひを みあきらめ こころやらむと ふせのうみに をぶねつらなめ まかいかけ いこぎめぐれば をふのうらに かすみたなびき たるひめに ふぢなみさきて はまきよく しらなみさわき しくしくに こひはまされど けふのみに あきだらめやも かくしこそ いやとしのはに はるはなの しげきさかりに あきのはの もみたむときに ありがよひ みつつしのはめ このふせのうみを
左注 なし
校異 能→乃 [元][類] / <>→能 [万葉考] / 能→乃 [元][類]
事項 天平勝宝2年4月6日 年紀 作者:大伴家持 地名 氷見 富山 遊覧 国見表現 植物 土地讃美
訓異 おもふどち;おもふとち, このくれの;このくれに, しげきおもひを;しけきおもひを, をぶねつらなめ;をふねつらなめ, いこぎめぐれば;いこきめくれは, かすみたなびき;かすみたなひき, ふぢなみさきて;ふちなみさきて, こひはまされど;こひはまされと, あきだらめやも;あきたらめやも, しげきさかりに;しけきさかりに, もみたむときに;もみつるときに, ありがよひ;ありかよひ,
   
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題詞 (六日遊覧布勢水海作歌一首[并短歌])
題訓 反し歌
原文 藤奈美能 花盛尓 如此許曽 浦己藝廻都追 年尓之努波米
訓読 藤波の花の盛りにかくしこそ浦漕ぎ廻つつ年に偲はめ
仮名 ふぢなみの はなのさかりに かくしこそ うらこぎみつつ としにしのはめ
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月6日 年紀 作者:大伴家持 氷見 富山 遊覧 土地讃美 植物
訓異 ふぢなみの;ふちなみの, うらこぎみつつ;うらこきへつつ,
   
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題詞 贈水烏越前判官大伴宿祢池主歌一首[并短歌]
題訓 水烏うを越前判官大伴宿禰池主に贈れる歌一首、また短歌
原文 天離 夷等之在者 彼所此間毛 同許己呂曽 離家 等之乃經去者 宇都勢美波 物念之氣思 曽許由恵尓 情奈具左尓 霍公鳥 喧始音乎 橘 珠尓安倍貫 可頭良伎氐 遊波之母 麻須良乎々 等毛奈倍立而 叔羅河 奈頭左比泝 平瀬尓波 左泥刺渡 早湍尓 水烏乎潜都追 月尓日尓 之可志安蘇婆祢 波之伎和我勢故
訓読 天離る 鄙としあれば そこここも 同じ心ぞ 家離り 年の経ゆけば うつせみは 物思ひ繁し そこゆゑに 心なぐさに 霍公鳥 鳴く初声を 橘の 玉にあへ貫き かづらきて 遊ばむはしも 大夫を 伴なへ立てて 叔羅川 なづさひ上り 平瀬には 小網さし渡し 早き瀬に 鵜を潜けつつ 月に日に しかし遊ばね 愛しき我が背子
仮名 あまざかる ひなとしあれば そこここも おやじこころぞ いへざかり としのへゆけば うつせみは ものもひしげし そこゆゑに こころなぐさに ほととぎす なくはつこゑを たちばなの たまにあへぬき かづらきて あそばむはしも ますらをを ともなへたてて しくらがは なづさひのぼり ひらせには さでさしわたし はやきせに うをかづけつつ つきにひに しかしあそばね はしきわがせこ
左注 (右九日附使贈之)
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月9日 年紀 作者:大伴家持 動物 贈答 大伴池主 恋情 地名 高岡 富山 福井 武生
訓異 あまざかる;あまさかる, ひなとしあれば;ひなとしあれは, おやじこころぞ;おなしこころそ, いへざかり;いへさかり, としのへゆけば;としのへゆけは, ものもひしげし;ものおもひしけし, こころなぐさに;こころなくさに, ほととぎす;ほとときす, たちばなの;たちはなの, かづらきて;かつらきて, あそばむはしも;たはるれはしも, ともなへたてて;とももなへたてて, しくらがは;しくらかは, なづさひのぼり;なつさひのほり, さでさしわたし;さてさしわたし, はやきせに;はやせには, うをかづけつつ;うをしつめつつ, しかしあそばね;しかしあそはね, はしきわがせこ;はしきわかせこ,
   
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題詞 (贈水烏越前判官大伴宿祢池主歌一首[并短歌])
原文 叔羅河 湍乎尋都追 和我勢故波 宇可波多々佐祢 情奈具左尓
訓読 叔羅川瀬を尋ねつつ我が背子は鵜川立たさね心なぐさに
仮名 しくらがは せをたづねつつ わがせこは うかはたたさね こころなぐさに
左注 (右九日附使贈之)
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月9日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 地名 福井 武生 高岡 富山
訓異 しくらがは;しくらかは, せをたづねつつ;せをたつねつつ, わがせこは;わかせこは, こころなぐさに;こころなくさに,
   
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題詞 (贈水烏越前判官大伴宿祢池主歌一首[并短歌])
原文 鵜河立 取左牟安由能 之我波多波 吾等尓可伎<无>氣 念之念婆
訓読 鵜川立ち取らさむ鮎のしがはたは我れにかき向け思ひし思はば
仮名 うかはたち とらさむあゆの しがはたは われにかきむけ おもひしおもはば
左注 右九日附使贈之
左注訓 右、九日ここのかのひ、使に附けて贈れる。
校異 無→无 [元][類]
事項 天平勝宝2年4月9日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 戯笑 高岡 富山
訓異 しがはたは;しかはたは, おもひしおもはば;おもひしおもはは,
   
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題詞 詠霍公鳥并藤花一首[并短歌]
題訓 霍公鳥また藤の花を詠める歌一首、また短歌
原文 桃花 紅色尓 々保比多流 面輪<乃>宇知尓 青柳乃 細眉根乎 咲麻我理 朝影見都追 D嬬良我 手尓取持有 真鏡 盖上山尓 許能久礼乃 繁谿邊乎 呼等<余米> 旦飛渡 暮月夜 可蘇氣伎野邊 遥々尓 喧霍公鳥 立久久等 羽觸尓知良須 藤浪乃 花奈都可之美 引攀而 袖尓古伎礼都 染婆染等母
訓読 桃の花 紅色に にほひたる 面輪のうちに 青柳の 細き眉根を 笑み曲がり 朝影見つつ 娘子らが 手に取り持てる まそ鏡 二上山に 木の暗の 茂き谷辺を 呼び響め 朝飛び渡り 夕月夜 かそけき野辺に はろはろに 鳴く霍公鳥 立ち潜くと 羽触れに散らす 藤波の 花なつかしみ 引き攀ぢて 袖に扱入れつ 染まば染むとも
仮名 もものはな くれなゐいろに にほひたる おもわのうちに あをやぎの ほそきまよねを ゑみまがり あさかげみつつ をとめらが てにとりもてる まそかがみ ふたがみやまに このくれの しげきたにへを よびとよめ あさとびわたり ゆふづくよ かそけきのへに はろはろに なくほととぎす たちくくと はぶれにちらす ふぢなみの はななつかしみ ひきよぢて そでにこきれつ しまばしむとも
左注 (同九日作之)
校異 能→乃 [元][類] / 米尓→余米 [代匠記精撰本]
事項 天平勝宝2年4月9日 年紀 作者:大伴家持 高岡 富山 動物 植物
訓異 あをやぎの;あをやきの, ほそきまよねを;ほそきまゆねを, ゑみまがり;ゑみまかり, あさかげみつつ;あさかけみつつ, をとめらが;をとめらか, てにとりもてる;てにとりもたる, まそかがみ;まそかかみ, ふたがみやまに;ふたかみやまに, しげきたにへを;しけきたにへを, よびとよめ;めすらめに, あさとびわたり;あさとひわたり, ゆふづくよ;ゆふつきよ, はろはろに;はるはるに, なくほととぎす;なくほとときす, はぶれにちらす;はふれにちらす, ふぢなみの;ふちなみの, ひきよぢて;ひきよちて, そでにこきれつ;そてにこきれつ, しまばしむとも;そまはそむとも,
   
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題詞 (詠霍公鳥并藤花一首[并短歌])
題訓 反し歌
原文 霍公鳥 鳴羽觸尓毛 落尓家利 盛過良志 藤奈美能花 [一云 落奴倍美 袖尓古伎納都 藤浪乃花也]
訓読 霍公鳥鳴く羽触れにも散りにけり盛り過ぐらし藤波の花 [一云 散りぬべみ袖に扱入れつ藤波の花]
仮名 ほととぎす なくはぶれにも ちりにけり さかりすぐらし ふぢなみのはな [ちりぬべみ そでにこきれつ ふぢなみのはな]
左注 同九日作之
左注訓 同じ九日よめる。
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月9日 年紀 作者:大伴家持 動物 植物 高岡 富山 推敲
訓異 ほととぎす;ほとときす, なくはぶれにも;なくはふれにも, さかりすぐらし;さかりすくらし, ふぢなみのはな;ふちなみのはな, [ちりぬべみ;ちりぬへみ, そでにこきれつ;そてにこきれつ, ふぢなみのはな];ふちなみのはな,
   
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題詞 更怨霍公鳥哢晩歌三首
題訓 また霍公鳥の喧なくこと晩きを怨む歌三首
原文 霍公鳥 喧渡奴等 告礼騰毛 吾聞都我受 花波須疑都追
訓読 霍公鳥鳴き渡りぬと告ぐれども我れ聞き継がず花は過ぎつつ
仮名 ほととぎす なきわたりぬと つぐれども われききつがず はなはすぎつつ
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月 年紀 作者:大伴家持 動物 恋情 怨恨 高岡 富山
訓異 ほととぎす;ほとときす, つぐれども;つくれとも, われききつがず;われききつかす, はなはすぎつつ;はなはすきつつ,
   
  19/4195
題詞 (更怨霍公鳥哢晩歌三首)
原文 吾幾許 斯<努>波久不知尓 霍公鳥 伊頭敝能山乎 鳴可将超
訓読 我がここだ偲はく知らに霍公鳥いづへの山を鳴きか越ゆらむ
仮名 わがここだ しのはくしらに ほととぎす いづへのやまを なきかこゆらむ
左注 なし
校異 奴→努 [元][類]
事項 天平勝宝2年4月 年紀 作者:大伴家持 動物 怨恨 高岡 富山
訓異 わがここだ;わかここた, ほととぎす;ほとときす, いづへのやまを;いつへのやまを, なきかこゆらむ;なきかゆこらむ,
   
  19/4196
題詞 (更怨霍公鳥哢晩歌三首)
原文 月立之 日欲里乎伎都追 敲自努比 麻泥騰伎奈可奴 霍公鳥可母
訓読 月立ちし日より招きつつうち偲ひ待てど来鳴かぬ霍公鳥かも
仮名 つきたちし ひよりをきつつ うちしのひ まてどきなかぬ ほととぎすかも
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月 年紀 作者:大伴家持 動物 怨恨 高岡 富山
訓異 まてどきなかぬ;まてときなかぬ, ほととぎすかも;ほとときすかも,
   
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題詞 贈京人歌二首
題訓 京人みやこひとに贈れる歌二首
原文 妹尓似 草等見之欲里 吾標之 野邊之山吹 誰可手乎里之
訓読 妹に似る草と見しより我が標し野辺の山吹誰れか手折りし
仮名 いもににる くさとみしより わがしめし のへのやまぶき たれかたをりし
左注 (右為贈留女之女郎所誂家婦作也 [女郎者即大伴家持之妹])
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月 年紀 作者:大伴家持 植物 留女女郎 家持妹 坂上大嬢 代作 高岡 富山
訓異 わがしめし;わかしめし, のへのやまぶき;のへのやまふき,
   
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題詞 (贈京人歌二首)
原文 都礼母奈久 可礼尓之毛能登 人者雖云 不相日麻祢美 念曽吾為流
訓読 つれもなく離れにしものと人は言へど逢はぬ日まねみ思ひぞ我がする
仮名 つれもなく かれにしものと ひとはいへど あはぬひまねみ おもひぞわがする
左注 右為贈留女之女郎所誂家婦作也 [女郎者即大伴家持之妹]
左注訓 右、郷さとに留れる女郎の為に、家婦めに誂あつらへらえてよめる。
女郎は、即ち大伴家持が妹いろもなり。
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月 年紀 作者:大伴家持 留女女郎 家持妹 坂上大嬢 代作 恋情 悲別 高岡 富山
訓異 ひとはいへど;ひとはいへと, おもひぞわがする;おもひそわかする,
   
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題詞 十二日遊覧布勢水海船泊於多<I>灣望<見>藤花各述懐作歌四首
題訓 十二日とをかまりふつかのひ、布勢の水海に遊覧あそび、多古たこの湾うらに船泊とどめ、藤の花を望見みて、各ひとびと懐おもひを述べてよめる歌四首よつ
原文 藤奈美<乃> 影成海之 底清美 之都久石乎毛 珠等曽吾見流
訓読 藤波の影なす海の底清み沈く石をも玉とぞ我が見る
仮名 ふぢなみの かげなすうみの そこきよみ しづくいしをも たまとぞわがみる
左注 守大伴宿祢家持
左注訓 守大伴宿禰家持。
校異 祐→I [元][文][紀][温] / 月→見 [西(訂正右書)][元][文][紀] / 能→乃 [元][類]
事項 天平勝宝2年4月12日 年紀 作者:大伴家持 遊覧 氷見 富山 植物 土地讃美
訓異 ふぢなみの;ふちなみの, かげなすうみの;かけなるうみの, しづくいしをも;しつくいしをも, たまとぞわがみる;たまとそわかみる,
   
  19/4200
題詞 (十二日遊覧布勢水海船泊於多<I>灣望<見>藤花各述懐作歌四首)
原文 多I乃浦能 底左倍尓保布 藤奈美乎 加射之氐将去 不見人之為
訓読 多胡の浦の底さへにほふ藤波をかざして行かむ見ぬ人のため
仮名 たこのうらの そこさへにほふ ふぢなみを かざしてゆかむ みぬひとのため
左注 次官内蔵忌寸縄麻呂
左注訓 次官すけ内藏うちのくら忌寸のいみき繩麻呂なはまろ。
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月12日 年紀 作者:内蔵縄麻呂 遊覧 氷見 富山 植物 地名
訓異 ふぢなみを;ふちなみを, かざしてゆかむ;かさしてゆかむ,
   
  19/4201
題詞 (十二日遊覧布勢水海船泊於多<I>灣望<見>藤花各述懐作歌四首)
原文 伊佐左可尓 念而来之乎 多I乃浦尓 開流藤見而 一夜可經
訓読 いささかに思ひて来しを多胡の浦に咲ける藤見て一夜経ぬべし
仮名 いささかに おもひてこしを たこのうらに さけるふぢみて ひとよへぬべし
左注 判官久米朝臣廣縄
左注訓 判官まつりごとひと久米朝臣廣繩。
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月12日 年紀 作者:久米広縄 地名 氷見 富山 遊覧 土地讃美
訓異 さけるふぢみて;さけるふちみて, ひとよへぬべし;ひとよへぬへし,
   
  19/4202
題詞 (十二日遊覧布勢水海船泊於多<I>灣望<見>藤花各述懐作歌四首)
原文 藤奈美乎 借廬尓造 灣廻為流 人等波不知尓 海部等可見良牟
訓読 藤波を仮廬に作り浦廻する人とは知らに海人とか見らむ
仮名 ふぢなみを かりいほにつくり うらみする ひととはしらに あまとかみらむ
左注 久米朝臣継麻呂
左注訓 久米朝臣繼麻呂つぐまろ。
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月12日 年紀 作者:久米継麻呂 植物 遊覧 氷見 富山
訓異 ふぢなみを;ふちなみを, かりいほにつくり;かりほにつくり, うらみする;あさりする,
   
  19/4203
題詞 恨霍公鳥不喧歌一首
題訓 霍公鳥の喧かぬを恨む歌一首
原文 家尓去而 奈尓乎将語 安之比奇能 山霍公鳥 一音毛奈家
訓読 家に行きて何を語らむあしひきの山霍公鳥一声も鳴け
仮名 いへにゆきて なにをかたらむ あしひきの やまほととぎす ひとこゑもなけ
左注 判官久米朝臣廣縄
左注訓 判官まつりごとひと久米朝臣廣繩。
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月12日 年紀 作者:久米広縄 動物 枕詞 氷見 富山 牫侄げ 遊覧
訓異 やまほととぎす;やまほとときす,
   
  19/4204
題詞 見攀折保寶葉歌二首
題訓 攀折をれる保宝葉ほほがしはを見る歌二首
原文 吾勢故我 捧而持流 保寶我之婆 安多可毛似加 青盖
訓読 我が背子が捧げて持てるほほがしはあたかも似るか青き蓋
仮名 わがせこが ささげてもてる ほほがしは あたかもにるか あをききぬがさ
左注 講師僧恵行
左注訓 講師かうし僧ほうし恵行ゑぎやう。
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月12日 年紀 作者:恵行 植物 氷見 富山 遊覧
訓異 わがせこが;わかせこか, ささげてもてる;ささけてもたる, ほほがしは;ほほかしは, あをききぬがさ;あをききぬかさ,
   
  19/4205
題詞 (見攀折保寶葉歌二首)
原文 皇神祖之 遠御代三世波 射布折 酒飲等伊布曽 此保寶我之波
訓読 皇祖の遠御代御代はい重き折り酒飲みきといふぞこのほほがしは
仮名 すめろきの とほみよみよは いしきをり きのみきといふぞ このほほがしは
左注 守大伴宿祢家持
左注訓 守大伴宿禰家持。
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月12日 年紀 作者:大伴家持 植物 遊覧 氷見 富山
訓異 とほみよみよは;とほきみよみよは, いしきをり;いひきをり, きのみきといふぞ;さけのむといふそ, このほほがしは;このほほかしは,
   
  19/4206
題詞 還時濱上仰見月光歌一首
題訓 還る時に、浜の上へにて月光つきを仰見みる歌一首
原文 之夫多尓乎 指而吾行 此濱尓 月夜安伎氐牟 馬之末時停息
訓読 渋谿をさして我が行くこの浜に月夜飽きてむ馬しまし止め
仮名 しぶたにを さしてわがゆく このはまに つくよあきてむ うましましとめ
左注 守大伴宿祢家持
左注訓 守大伴宿禰家持。
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月12日 年紀 作者:大伴家持 地名 氷見 富山 道行翮 遊覧
訓異 しぶたにを;しふたにを, さしてわがゆく;さしてわかゆく, つくよあきてむ;つきよあきてむ, うましましとめ;うましましとめよ,
   
  19/4207
題詞 廿二日贈判官久米朝臣廣縄霍公鳥怨恨歌一首[并短歌]
題訓 二十二日はつかまりふつかのひ、判官久米朝臣廣繩に贈れる、霍公鳥の怨恨うらみの歌一首、また短歌
原文 此間尓之氐 曽我比尓所見 和我勢故我 垣都能谿尓 安氣左礼婆 榛之狭枝尓 暮左礼婆 藤之繁美尓 遥々尓 鳴霍公鳥 吾屋戸能 殖木橘 花尓知流 時乎麻<太>之美 伎奈加奈久 曽許波不怨 之可礼杼毛 谷可多頭伎氐 家居有 君之聞都々 追氣奈久毛宇之
訓読 ここにして そがひに見ゆる 我が背子が 垣内の谷に 明けされば 榛のさ枝に 夕されば 藤の繁みに はろはろに 鳴く霍公鳥 我が宿の 植木橘 花に散る 時をまだしみ 来鳴かなく そこは恨みず しかれども 谷片付きて 家居れる 君が聞きつつ 告げなくも憂し
仮名 ここにして そがひにみゆる わがせこが かきつのたにに あけされば はりのさえだに ゆふされば ふぢのしげみに はろはろに なくほととぎす わがやどの うゑきたちばな はなにちる ときをまだしみ きなかなく そこはうらみず しかれども たにかたづきて いへをれる きみがききつつ つげなくもうし
左注 なし
校異 短歌 [西] 短哥 / 多→太 [類]
事項 天平勝宝2年4月22日 年紀 作者:大伴家持 贈答 動物 植物 久米広縄 恋情
訓異 そがひにみゆる;そかひにみゆる, わがせこが;わかせこか, あけされば;あけされは, はりのさえだに;ならのさえたに, ゆふされば;ゆふされは, ふぢのしげみに;ふちのしけみに, はろはろに;よりよりに, なくほととぎす;なくほとときす, わがやどの;わかやとの, うゑきたちばな;うえきたちはな, ときをまだしみ;ときをまたしみ, そこはうらみず;そこはうらみす, しかれども;しかれとも, たにかたづきて;たにかたつきて, いへをれる;いへゐせる, きみがききつつ;きみかききつつ, つげなくもうし;つけなくもうし,
   
  19/4208
題詞 (廿二日贈判官久米朝臣廣縄霍公鳥怨恨歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌
原文 吾幾許 麻氐騰来不鳴 霍公鳥 比等里聞都追 不告君可母
訓読 我がここだ待てど来鳴かぬ霍公鳥ひとり聞きつつ告げぬ君かも
仮名 わがここだ まてどきなかぬ ほととぎす ひとりききつつ つげぬきみかも
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月22日 年紀 作者:大伴家持 贈答 動物 久米広縄 怨恨 恋情
訓異 わがここだ;わかここた, まてどきなかぬ;まてときなかぬ, ほととぎす;ほとときす, つげぬきみかも;つかぬきみかも,
   
  19/4209
題詞 詠霍公鳥歌一首[并短歌]
題訓 霍公鳥を詠める歌一首、また短歌
原文 多尓知可久 伊敝波乎礼騰母 許太加久氐 佐刀波安礼騰母 保登等藝須 伊麻太伎奈加受 奈久許恵乎 伎可麻久保理登 安志多尓波 可度尓伊氐多知 由布敝尓波 多尓乎美和多之 古布礼騰毛 比等己恵太尓母 伊麻太伎己要受
訓読 谷近く 家は居れども 木高くて 里はあれども 霍公鳥 いまだ来鳴かず 鳴く声を 聞かまく欲りと 朝には 門に出で立ち 夕には 谷を見渡し 恋ふれども 一声だにも いまだ聞こえず
仮名 たにちかく いへはをれども こだかくて さとはあれども ほととぎす いまだきなかず なくこゑを きかまくほりと あしたには かどにいでたち ゆふへには たにをみわたし こふれども ひとこゑだにも いまだきこえず
左注 (右廿三日<掾>久米朝臣廣縄和)
校異 なし
事項 天平勝宝2年4月23日 年紀 作者:久米広縄 和歌 大伴家持 贈答 動物
訓異 いへはをれども;いへはをれとも, こだかくて;こたかくて, さとはあれども;さとはあれとも, ほととぎす;ほとときす, いまだきなかず;いまたきなかす, かどにいでたち;かとにいてたち, こふれども;こふれとも, ひとこゑだにも;ひとこゑたにも, いまだきこえず;いまたきこえす,
   
  19/4210
題詞 (詠霍公鳥歌一首[并短歌])
題訓 反し歌
原文 敷治奈美乃 志氣里波須疑奴 安志比紀乃 夜麻保登等藝須 奈騰可伎奈賀奴
訓読 藤波の茂りは過ぎぬあしひきの山霍公鳥などか来鳴かぬ
仮名 ふぢなみの しげりはすぎぬ あしひきの やまほととぎす などかきなかぬ
左注 右廿三日<掾>久米朝臣廣縄和
左注訓 右、二十三日、掾まつりごとひと久米朝臣廣繩が和こたふ。
校異 様→掾 [西(訂正右書)][元][文][紀]
事項 天平勝宝2年4月23日 年紀 作者:久米広縄 贈答 和歌 大伴家持 枕詞 動物 植物
訓異 ふぢなみの;ふちなみの, しげりはすぎぬ;しけりはすきぬ, やまほととぎす;やまほとときす, などかきなかぬ;なとかきなかぬ,
   
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題詞 追同處女墓歌一首[并短歌]
題訓 処女をとめ墓の歌に追ひて和なぞらふる一首ひとうた、また短歌
原文 古尓 有家流和射乃 久須婆之伎 事跡言継 知努乎登古 宇奈比<壮>子乃 宇都勢美能 名乎競争<登> 玉剋 壽毛須底弖 相争尓 嬬問為家留 D嬬等之 聞者悲左 春花乃 尓太要盛而 秋葉之 尓保比尓照有 惜 身之壮尚 大夫之 語勞美 父母尓 啓別而 離家 海邊尓出立 朝暮尓 満来潮之 八隔浪尓 靡珠藻乃 節間毛 惜命乎 露霜之 過麻之尓家礼 奥墓乎 此間定而 後代之 聞継人毛 伊也遠尓 思努比尓勢餘等 黄楊小櫛 之賀左志家良之 生而靡有
訓読 古に ありけるわざの くすばしき 事と言ひ継ぐ 智渟壮士 菟原壮士の うつせみの 名を争ふと たまきはる 命も捨てて 争ひに 妻問ひしける 処女らが 聞けば悲しさ 春花の にほえ栄えて 秋の葉の にほひに照れる 惜しき 身の盛りすら 大夫の 言いたはしみ 父母に 申し別れて 家離り 海辺に出で立ち 朝夕に 満ち来る潮の 八重波に 靡く玉藻の 節の間も 惜しき命を 露霜の 過ぎましにけれ 奥城を ここと定めて 後の世の 聞き継ぐ人も いや遠に 偲ひにせよと 黄楊小櫛 しか刺しけらし 生ひて靡けり
仮名 いにしへに ありけるわざの くすばしき ことといひつぐ ちぬをとこ うなひをとこの うつせみの なをあらそふと たまきはる いのちもすてて あらそひに つまどひしける をとめらが きけばかなしさ はるはなの にほえさかえて あきのはの にほひにてれる あたらしき みのさかりすら ますらをの こといたはしみ ちちははに まをしわかれて いへざかり うみへにいでたち あさよひに みちくるしほの やへなみに なびくたまもの ふしのまも をしきいのちを つゆしもの すぎましにけれ おくつきを こことさだめて のちのよの ききつぐひとも いやとほに しのひにせよと つげをぐし しかさしけらし おひてなびけり
左注 (右五月六日依興大伴宿祢家持作之)
校異 牡→壮 [元][類][文][紀] / 等→登 [元][類][文][紀]
事項 天平勝宝2年5月6日 年紀 作者:大伴家持 追同 田辺福麻呂 高橋虫麻呂 依興 物語 兎原娘子 高岡 富山 兵庫 神戸
訓異 ありけるわざの;ありけるわさの, くすばしき;くすはしき, ことといひつぐ;ことといひつき, うなひをとこの;うなひたけをの, あらそひに;あらそふに, つまどひしける;つまとひしける, をとめらが;をとめらか, きけばかなしさ;きけはかなしさ, あたらしき;をしきみの, みのさかりすら;みのさかりなる, まをしわかれて;まうしわかれて, いへざかり;いへさかり, うみへにいでたち;へたにいてたち, あさよひに;あさゆふに, なびくたまもの;なひくたまもの, ふしのまも;つかのまも, すぎましにけれ;すきましにける, こことさだめて;ここまさためて, ききつぐひとも;ききつくひとも, つげをぐし;つけをくし, しかさしけらし;しかさしならし, おひてなびけり;おひてなひけり,
   
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題詞 (追同處女墓歌一首[并短歌])
題訓 反し歌
原文 乎等女等之 後<乃>表跡 黄楊小櫛 生更生而 靡家良思母
訓読 娘子らが後の標と黄楊小櫛生ひ変り生ひて靡きけらしも
仮名 をとめらが のちのしるしと つげをぐし おひかはりおひて なびきけらしも
左注 右五月六日依興大伴宿祢家持作之
左注訓 右、五月の六日、興ことに依つけて大伴宿禰家持がよめる。
校異 能→乃 [元][類][古]
事項 天平勝宝2年5月6日 年紀 作者:大伴家持 植物 物語 追同 田辺福麻呂 高橋虫麻呂 依興 兎原娘子 物語
訓異 をとめらが;をとめらか, つげをぐし;つけをくし, なびきけらしも;なひきけらしも,
   
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題詞 なし
原文 安由乎疾 奈呉<乃>浦廻尓 与須流浪 伊夜千重之伎尓 戀<度>可母
訓読 東風をいたみ奈呉の浦廻に寄する波いや千重しきに恋ひわたるかも
仮名 あゆをいたみ なごのうらみに よするなみ いやちへしきに こひわたるかも
左注 右一首贈京丹比家
左注訓 右の一首は、京の丹比たぢひが家に贈る。
校異 能→乃 [元][類][古] / 渡→度 [元][類]
事項 天平勝宝2年5月 年紀 作者:大伴家持 地名 高岡 富山 序詞 望郷 贈答 丹比家
訓異 なごのうらみに;なこのうらわに,
   
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題詞 挽歌一首[并短歌]
題訓 挽歌かなしみうた一首、また短歌
原文 天地之 初時従 宇都曽美能 八十伴男者 大王尓 麻都呂布物跡 定有 官尓之在者 天皇之 命恐 夷放 國乎治等 足日木 山河阻 風雲尓 言者雖通 正不遇 日之累者 思戀 氣衝居尓 玉桙之 道来人之 傳言尓 吾尓語良久 波之伎餘之 君者比来 宇良佐備弖 嘆息伊麻須 世間之 猒家口都良家苦 開花毛 時尓宇都呂布 宇都勢美毛 <无>常阿里家利 足千根之 御母之命 何如可毛 時之波将有乎 真鏡 見礼杼母不飽 珠緒之 惜盛尓 立霧之 失去如久 置露之 消去之如 玉藻成 靡許伊臥 逝水之 留不得常 枉言哉 人之云都流 逆言乎 人之告都流 梓<弓> <弦>爪夜音之 遠音尓毛 聞者悲弥 庭多豆水 流涕 留可祢都母
訓読 天地の 初めの時ゆ うつそみの 八十伴の男は 大君に まつろふものと 定まれる 官にしあれば 大君の 命畏み 鄙離る 国を治むと あしひきの 山川へだて 風雲に 言は通へど 直に逢はず 日の重なれば 思ひ恋ひ 息づき居るに 玉桙の 道来る人の 伝て言に 我れに語らく はしきよし 君はこのころ うらさびて 嘆かひいます 世間の 憂けく辛けく 咲く花も 時にうつろふ うつせみも 常なくありけり たらちねの 御母の命 何しかも 時しはあらむを まそ鏡 見れども飽かず 玉の緒の 惜しき盛りに 立つ霧の 失せぬるごとく 置く露の 消ぬるがごとく 玉藻なす 靡き臥い伏し 行く水の 留めかねつと たはことか 人の言ひつる およづれか 人の告げつる 梓弓 爪引く夜音の 遠音にも 聞けば悲しみ にはたづみ 流るる涙 留めかねつも
仮名 あめつちの はじめのときゆ うつそみの やそとものをは おほきみに まつろふものと さだまれる つかさにしあれば おほきみの みことかしこみ ひなざかる くにををさむと あしひきの やまかはへだて かぜくもに ことはかよへど ただにあはず ひのかさなれば おもひこひ いきづきをるに たまほこの みちくるひとの つてことに われにかたらく はしきよし きみはこのころ うらさびて なげかひいます よのなかの うけくつらけく さくはなも ときにうつろふ うつせみも つねなくありけり たらちねの みははのみこと なにしかも ときしはあらむを まそかがみ みれどもあかず たまのをの をしきさかりに たつきりの うせぬるごとく おくつゆの けぬるがごとく たまもなす なびきこいふし ゆくみづの とどめかねつと たはことか ひとのいひつる およづれか ひとのつげつる あづさゆみ つまびくよおとの とほおとにも きけばかなしみ にはたづみ ながるるなみた とどめかねつも
左注 (右大伴宿祢家持弔聟南右大臣家藤原二郎之喪慈母患也 五月廿七日)
校異 無→无 [元][類] / 弧→弓弦 [西(訂正頭書)]
事項 天平勝宝2年5月27日 年紀 作者:大伴家持 挽歌 枕詞 悲別 哀悼 藤原久須麻呂母 贈答 高岡 富山
訓異 はじめのときゆ;はしめのときに, さだまれる;さためたる, つかさにしあれば;つかさにしあれは, おほきみの;すめろきの, ひなざかる;ひなさかる, くにををさむと;くにをおさむと, やまかはへだて;やまかはへたて, かぜくもに;かせくもに, ことはかよへど;ことはかよへと, ただにあはず;たたにあはす, ひのかさなれば;ひのかさなれは, いきづきをるに;いきつきをるに, みちくるひとの;みちゆきひとの, うらさびて;うらさひて, なげかひいます;なけきそいます, みははのみこと;おものみことの, まそかがみ;まそかかみ, みれどもあかず;みれともあかす, うせぬるごとく;うせゆくことく, けぬるがごとく;きえゆくかこと, なびきこいふし;なひきこいふし, ゆくみづの;ゆくみつの, とどめかねつと;ととめもえすと, たはことか;まかことや, およづれか;さかことを, ひとのつげつる;ひとのつけつる, あづさゆみ;あつさゆみ, つまびくよおとの;つまよるおとの, きけばかなしみ;きけはかなしみ, にはたづみ;にはたつみ, ながるるなみた;なかるるなみた, とどめかねつも;ととめかねつも,
   
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題詞 (挽歌一首[并短歌])反歌二首
題訓 反し歌二首
原文 遠音毛 君之痛念跡 聞都礼婆 哭耳所泣 相念吾者
訓読 遠音にも君が嘆くと聞きつれば哭のみし泣かゆ相思ふ我れは
仮名 とほとにも きみがなげくと ききつれば ねのみしなかゆ あひおもふわれは
左注 (右大伴宿祢家持弔聟南右大臣家藤原二郎之喪慈母患也 五月廿七日)
校異 なし
事項 天平勝宝2年5月27日 年紀 作者:大伴家持 挽歌 悲別 哀悼 藤原久須麻呂母 贈答 高岡 富山
訓異 とほとにも;とほおとにも, きみがなげくと;きみかなけくと, ききつれば;ききつれは, ねのみしなかゆ;ねにのみとかる,
   
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題詞 ((挽歌一首[并短歌])反歌二首)
原文 世間之 <无>常事者 知良牟乎 情盡莫 大夫尓之氐
訓読 世間の常なきことは知るらむを心尽くすな大夫にして
仮名 よのなかの つねなきことは しるらむを こころつくすな ますらをにして
左注 右大伴宿祢家持弔聟南右大臣家藤原二郎之喪慈母患也 五月廿七日
左注訓 右、大伴宿禰家持が、聟南の右大臣みぎのおほまへつきみの家  藤原の二郎なかちこの喪慈母患ははのも弔とぶらへる。五月二十七日。
校異 無→无 [元][類]
事項 天平勝宝2年5月27日 年紀 作者:大伴家持 挽歌 悲別 哀悼 藤原久須麻呂母 贈答 高岡 富山
訓異 -
   
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題詞 霖雨へ日作歌一首
題訓 霖雨ながめ晴るる日、よめる歌一首
原文 宇能花乎 令腐霖雨之 始水<邇> 縁木積成 将因兒毛我母
訓読 卯の花を腐す長雨の始水に寄る木屑なす寄らむ子もがも
仮名 うのはなを くたすながめの みづはなに よるこつみなす よらむこもがも
左注 (右二首五月)
校異 逝→邇 [代匠記初稿本]
事項 天平勝宝2年5月 年紀 作者:大伴家持 植物 序詞 恋情 鬱屈 高岡 富山
訓異 くたすながめの;くたすなかめの, みづはなに;みつはなに, よるこつみなす;よるこつみなし, よらむこもがも;よらむこもかも,
   
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題詞 見漁夫火光歌一首
題訓 漁夫あまの火光いざりひを見る歌一首
原文 鮪衝等 海人之燭有 伊射里火之 保尓可将出 吾之下念乎
訓読 鮪突くと海人の灯せる漁り火の秀にか出ださむ我が下思ひを
仮名 しびつくと あまのともせる いざりひの ほにかいださむ わがしたもひを
左注 右二首五月
左注訓 右の二首は、五月。
校異 なし
事項 天平勝宝2年5月 年紀 作者:大伴家持 恋情 序詞 高岡 富山
訓異 しびつくと;しひつくと, いざりひの;いさりひの, ほにかいださむ;ほにかいてなむ, わがしたもひを;わかしたおもひを,
   
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題詞 なし
原文 吾屋戸之 芽子開尓家理 秋風之 将吹乎待者 伊等遠弥可母
訓読 我が宿の萩咲きにけり秋風の吹かむを待たばいと遠みかも
仮名 わがやどの はぎさきにけり あきかぜの ふかむをまたば いととほみかも
左注 右一首六月十五日見芽子早花作之
左注訓 右の一首は、六月みなつき十五日とをかまりいつかのひ、芽子早花わさはぎを見てよめる
校異 なし
事項 天平勝宝2年6月15日 年紀 作者:大伴家持 植物 高岡 富山
訓異 わがやどの;わかやとの, はぎさきにけり;はきさきにけり, あきかぜの;あきかせの, ふかむをまたば;ふかむをまたは,
   
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題詞 従京師来贈歌一首[并短歌]
題訓 京師みやこより来贈おこせる歌一首、また短歌
原文 和多都民能 可味能美許等乃 美久之宜尓 多久波比於伎氐 伊都久等布 多麻尓末佐里氐 於毛敝里之 安我故尓波安礼騰 宇都世美乃 与能許等和利等 麻須良乎能 比伎能麻尓麻仁 之奈謝可流 古之地乎左之氐 波布都多能 和可礼尓之欲理 於吉都奈美 等乎牟麻欲妣伎 於保夫祢能 由久良々々々耳 於毛可宜尓 毛得奈民延都々 可久古非婆 意伊豆久安我未 氣太志安倍牟可母
訓読 海神の 神の命の み櫛笥に 貯ひ置きて 斎くとふ 玉にまさりて 思へりし 我が子にはあれど うつせみの 世の理と 大夫の 引きのまにまに しなざかる 越道をさして 延ふ蔦の 別れにしより 沖つ波 とをむ眉引き 大船の ゆくらゆくらに 面影に もとな見えつつ かく恋ひば 老いづく我が身 けだし堪へむかも
仮名 わたつみの かみのみことの みくしげに たくはひおきて いつくとふ たまにまさりて おもへりし あがこにはあれど うつせみの よのことわりと ますらをの ひきのまにまに しなざかる こしぢをさして はふつたの わかれにしより おきつなみ とをむまよびき おほぶねの ゆくらゆくらに おもかげに もとなみえつつ かくこひば おいづくあがみ けだしあへむかも
左注 (右二首大伴氏坂上郎女賜女子大嬢也)
校異 なし
事項 天平勝宝2年 年紀 作者:坂上郎女 贈答 坂上大嬢 枕詞 恋情
訓異 みくしげに;みくしけに, あがこにはあれど;あかこにはあれと, しなざかる;しなさかる, こしぢをさして;こしちをさして, とをむまよびき;とをむまよひき, おほぶねの;おほふねの, おもかげに;おもかけに, かくこひば;かくこひは, おいづくあがみ;おいつくあかみ, けだしあへむかも;けたしあへむかも,
   
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題詞 (従京師来贈歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 可久婆可里 古<非>之久志安良婆 末蘇可我美 弥奴比等吉奈久 安良麻之母能乎
訓読 かくばかり恋しくしあらばまそ鏡見ぬ日時なくあらましものを
仮名 かくばかり こひしくしあらば まそかがみ みぬひときなく あらましものを
左注 右二首大伴氏坂上郎女賜女子大嬢也
左注訓 右の二首は、大伴氏坂上郎女が、女子むすめの大嬢おほいらつめに賜ふ。
校異 悲→非 [元][類][紀]
事項 天平勝宝2年 年紀 作者:坂上郎女 贈答 坂上大嬢 枕詞 恋情
訓異 かくばかり;かくはかり, こひしくしあらば;こひしくしあらは, まそかがみ;まそかかみ,
   
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題詞 九月三日宴歌二首
題訓 九月ながつきの三日、宴の歌二首
原文 許能之具礼 伊多久奈布里曽 和藝毛故尓 美勢牟我多米尓 母美知等里氐牟
訓読 このしぐれいたくな降りそ我妹子に見せむがために黄葉取りてむ
仮名 このしぐれ いたくなふりそ わぎもこに みせむがために もみちとりてむ
左注 右一首<掾>久米朝臣廣縄作之
左注訓 右の一首は、掾久米朝臣廣繩がよめる。
校異 様→掾 [西(訂正右書)][元][文][紀]
事項 天平勝宝2年9月3日 年紀 作者:久米広縄 宴席 高岡 富山
訓異 このしぐれ;このしくれ, わぎもこに;わきもこに, みせむがために;みせむかために,
   
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題詞 (九月三日宴歌二首)
原文 安乎尓与之 奈良比等美牟登 和我世故我 之米家牟毛美知 都知尓於知米也毛
訓読 あをによし奈良人見むと我が背子が標けむ黄葉地に落ちめやも
仮名 あをによし ならひとみむと わがせこが しめけむもみち つちにおちめやも
左注 右一首守大伴宿祢家持作之
左注訓 右の一首は、守大伴宿禰家持がよめる。
校異 なし
事項 天平勝宝2年9月3日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 高岡 富山
訓異 わがせこが;わかせこか,
   
  19/4224
題詞 なし
原文 朝霧之 多奈引田為尓 鳴鴈乎 留得哉 吾屋戸能波義
訓読 朝霧のたなびく田居に鳴く雁を留め得むかも我が宿の萩
仮名 あさぎりの たなびくたゐに なくかりを とどめえむかも わがやどのはぎ
左注 右一首歌者幸於芳野宮之時藤原皇后御作 但年月未審詳 十月五日河邊朝臣東人傳誦云尓
左注訓 右の一首歌ひとうたは、吉野の宮に幸いでましし時、藤原の皇后おほきさきの 御作よみませるなり。但し年月審詳さだかならず。十月の五日、河邊かはへの 朝臣東人(あそみ あづまひと)が伝へ誦めり。
校異 后 [西(右書)] 后宮
事項 天平勝宝2年10月5日 年紀 作者:光明皇后 伝承 誦詠 河辺東人 吉野 動物 植物 古歌 高岡 富山
訓異 あさぎりの;あさきりの, たなびくたゐに;たなひくたゐに, とどめえむかも;ととめえてむや, わがやどのはぎ;わかやとのはき,
   
  19/4225
題詞 なし
原文 足日木之 山黄葉尓 四頭久相而 将落山道乎 公之超麻久
訓読 あしひきの山の黄葉にしづくあひて散らむ山道を君が越えまく
仮名 あしひきの やまのもみちに しづくあひて ちらむやまぢを きみがこえまく
左注 右一首同月十六日餞之朝集使少目秦伊美吉石竹時守大伴宿祢家持作之
左注訓 右の一首は、同じ月の十六日とをかまりむかのひ、朝集使まゐうごなはるつかひ少目すなきふみひと  秦忌寸石竹はたのいみきいはたけを餞うまのはなむけする時、守大伴宿禰家持がよめる
校異 なし
事項 天平勝宝2年10月16日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 植物 餞別 旅立ち 出発 秦石竹 高岡 富山
訓異 しづくあひて;しつくあひて, ちらむやまぢを;ちらむやまちを, きみがこえまく;きみかこえまく,
   
  19/4226
題詞 雪日作歌一首
題訓 雪ふる日、よめる歌一首
原文 此雪之 消遺時尓 去来歸奈 山橘之 實光毛将見
訓読 この雪の消残る時にいざ行かな山橘の実の照るも見む
仮名 このゆきの けのこるときに いざゆかな やまたちばなの みのてるもみむ
左注 右一首十二月大伴宿祢家持作之
左注訓 右の一首は、十二月しはす、大伴宿禰家持がよめる。
校異 なし
事項 天平勝宝2年12月 年紀 作者:大伴家持 植物 高岡 富山
訓異 いざゆかな;いさゆかな, やまたちばなの;やまたちはなの,
   
  19/4227
題詞 なし
題訓 雪の歌一首、また短歌
原文 大殿之 此廻之 雪莫踏祢 數毛 不零雪曽 山耳尓 零之雪曽 由米縁勿 人哉莫履祢 雪者
訓読 大殿の この廻りの 雪な踏みそね しばしばも 降らぬ雪ぞ 山のみに 降りし雪ぞ ゆめ寄るな 人やな踏みそね 雪は
仮名 おほとのの このもとほりの ゆきなふみそね しばしばも ふらぬゆきぞ やまのみに ふりしゆきぞ ゆめよるな ひとやなふみそね ゆきは
左注 (右二首歌者三形沙弥承贈左大臣藤原北卿之語作誦之也 聞之傳者笠朝臣子君 復後傳讀者越中國<掾>久米朝臣廣縄是也)
校異 なし
事項 天平勝宝2年 年紀 作者:三形沙弥 藤原房前 笠子君 久米広縄 伝誦 予祝 寿歌 宮廷 高岡 富山 古歌
訓異 しばしばも;しはしはも, ふらぬゆきぞ;ふらさるゆきそ, ふりしゆきぞ;ふらししゆきそ,
   
  19/4228
題詞 反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 有都々毛 御見多麻波牟曽 大殿乃 此母等保里能 雪奈布美曽祢
訓読 ありつつも見したまはむぞ大殿のこの廻りの雪な踏みそね
仮名 ありつつも めしたまはむぞ おほとのの このもとほりの ゆきなふみそね
左注 右二首歌者三形沙弥承贈左大臣藤原北卿之語作誦之也 聞之傳者笠朝臣子君 復後傳讀者越中國<掾>久米朝臣廣縄是也
左注訓 右の二首歌ふたうたは、三形沙彌みかたのさみが、贈左大臣おひてたまへるひだりのおほまへつきみ 藤原の北の卿まへつきみの語ことを承けて、作誦よめり。聞き伝 ふるは、笠朝臣子君かさのあそみこきみなり。また後に伝へ読む者ひとは、 越中国こしのみちのなかのくにの掾まつりごとひと久米朝臣廣繩なり。
校異 作 [元] 依 / 様→掾 [元][文][紀]
事項 天平勝宝2年 年紀 作者:三形沙弥 藤原房前 笠子君 久米広縄 伝誦 予祝 寿歌 宮廷 高岡 富山 古歌
訓異 めしたまはむぞ;めしたまはむそ,
   
  19/4229
題詞 天平勝寶三年
題訓 天平勝宝三年みとせ
原文 新 年之初者 弥年尓 雪踏平之 常如此尓毛我
訓読 新しき年の初めはいや年に雪踏み平し常かくにもが
仮名 あらたしき としのはじめは いやとしに ゆきふみならし つねかくにもが
左注 右一首歌者 正月二日守舘集宴 於時零雪殊多積有四尺焉 即主人大伴宿祢家持作此歌也
左注訓 右の一首歌は、正月むつきの二日、守の館にて集宴うたげせり。 その時零雪殊多ゆきふりつむこと、積尺ひとさか有まり四寸よきなりき。即ち主人あろじ 大伴宿禰家持此の歌を作める。
校異 我 [元] 義
事項 天平勝宝3年1月2日 年紀 作者:大伴家持 寿歌 予祝 宴席 高岡 富山
訓異 としのはじめは;としのはしめは, つねかくにもが;つねかくにもか,
   
  19/4230
題詞 なし
原文 落雪乎 腰尓奈都美弖 参来之 印毛有香 年之初尓
訓読 降る雪を腰になづみて参ゐて来し験もあるか年の初めに
仮名 ふるゆきを こしになづみて まゐてこし しるしもあるか としのはじめに
左注 右一首三日會集介内蔵忌寸縄麻呂之舘宴樂時大伴宿祢家持作之
左注訓 右の一首は、三日、介内藏忌寸繩麻呂が館に会集つどひ て宴楽うたげせる時、大伴宿禰家持が作める。
校異 なし
事項 天平勝宝3年1月3日 年紀 作者:大伴家持 寿歌 予祝 宴席 内蔵縄麻呂 高岡 富山
訓異 こしになづみて;こしになつみて, まゐてこし;まゐりこし, としのはじめに;としのはしめに,
   
  19/4231
題詞 于時積雪彫成重巌之起奇巧綵發草樹之花 属此<掾>久米朝臣廣縄作歌一首
題訓 その時、積もれる雪重なる巌いはほの趣を彫ゑり成し、奇巧たくみに草樹の花を綵いろどり発ひらく。此に属つきて掾まつりごとひと久米朝臣廣繩がよめる歌一首
原文 奈泥之故波 秋咲物乎 君宅之 雪巌尓 左家理家流可母
訓読 なでしこは秋咲くものを君が家の雪の巌に咲けりけるかも
仮名 なでしこは あきさくものを きみがいへの ゆきのいはほに さけりけるかも
左注 なし
校異 様→掾 [元][文][紀]
事項 天平勝宝3年1月3日 年紀 作者:久米広縄 植物 宴席 見立賸 内蔵縄麻呂 高岡 富山
訓異 なでしこは;なてしこは, きみがいへの;きみかいへの, ゆきのいはほに;ゆきはいはほに,
   
  19/4232
題詞 遊行女婦蒲生娘子歌一首
題訓 遊行女婦うかれめ蒲生娘子かまふのいらつめが歌一首
原文 雪嶋 巌尓殖有 奈泥之故波 千世尓開奴可 君之挿頭尓
訓読 雪の嶋巌に植ゑたるなでしこは千代に咲かぬか君がかざしに
仮名 ゆきのしま いはほにうゑたる なでしこは ちよにさかぬか きみがかざしに
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝3年1月3日 年紀 作者:遊行女婦蒲生 宴席 寿歌 植物 見立賸 内蔵縄麻呂 高岡 富山
訓異 ゆきのしま;ゆきしまの, いはほにうゑたる;いはほにおふる, なでしこは;なてしこは, ちよにさかぬか;ちよにさきぬか, きみがかざしに;きみかかさしに,
   
  19/4233
題詞 于是諸人酒酣更深鶏鳴 因此主人内蔵伊美吉縄麻呂作歌一首
題訓 ここに、諸人もろひと酒酣たけなはにして、更深よふけ鶏とり鳴く。此に因りて主人内藏伊美吉繩麻呂がよめる歌一首
原文 打羽振 鶏者鳴等母 如此許 零敷雪尓 君伊麻左米也母
訓読 うち羽振き鶏は鳴くともかくばかり降り敷く雪に君いまさめやも
仮名 うちはぶき とりはなくとも かくばかり ふりしくゆきに きみいまさめやも
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝3年1月3日 年紀 作者:内蔵縄麻呂 動物 宴席 挨拶 引翮留姤 後朝 高岡 富山
訓異 うちはぶき;うちはふり, かくばかり;かくはかり,
   
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題詞 守大伴宿祢家持和歌一首
題訓 守大伴宿禰家持が和こたふる歌一首
原文 鳴鶏者 弥及鳴杼 落雪之 千重尓積許曽 吾等立可氐祢
訓読 鳴く鶏はいやしき鳴けど降る雪の千重に積めこそ我が立ちかてね
仮名 なくとりは いやしきなけど ふるゆきの ちへにつめこそ わがたちかてね
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝3年1月3日 年紀 作者:大伴家持 宴席 内蔵縄麻呂 高岡 富山
訓異 いやしきなけど;いやしきなけと, ちへにつめこそ;ちへにつむこそ,
   
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題詞 太政大臣藤原家之縣犬養命婦奉天皇歌一首
題訓 太政大臣おほきまつりごとのおほまへつきみ藤原の家の縣犬養あがたのいぬかひの命婦ひめとねが、天皇すめらみことに奉れる歌一首
原文 天雲乎 富呂尓布美安太之 鳴神毛 今日尓益而 可之古家米也母
訓読 天雲をほろに踏みあだし鳴る神も今日にまさりて畏けめやも
仮名 あまくもを ほろにふみあだし なるかみも けふにまさりて かしこけめやも
左注 右一首傳誦<掾>久米朝臣廣縄也
左注訓 右の一首、伝へ誦よめるは掾久米朝臣廣繩。
校異 様→掾 [元][文][紀]
事項 天平勝宝3年1月3日 年紀 作者:縣犬養三千代 古歌 伝誦 久米広縄 聖武天皇 高岡 富山
訓異 ほろにふみあだし;ほろにふみあたし,
   
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題詞 悲傷死妻歌一首[并短歌] [作主未詳]
題訓 死みまかれる妻めを悲傷かなしむ歌一首、また短歌 作主未詳
原文 天地之 神者<无>可礼也 愛 吾妻離流 光神 鳴波多D嬬 携手 共将有等 念之尓 情違奴 将言為便 将作為便不知尓 木綿手次 肩尓取<挂> 倭<文>幣乎 手尓取持氐 勿令離等 和礼波雖祷 巻而寐之 妹之手本者 雲尓多奈妣久
訓読 天地の 神はなかれや 愛しき 我が妻離る 光る神 鳴りはた娘子 携はり ともにあらむと 思ひしに 心違ひぬ 言はむすべ 為むすべ知らに 木綿たすき 肩に取り懸け 倭文幣を 手に取り持ちて な放けそと 我れは祈れど 枕きて寝し 妹が手本は 雲にたなびく
仮名 あめつちの かみはなかれや うつくしき わがつまさかる ひかるかみ なりはたをとめ たづさはり ともにあらむと おもひしに こころたがひぬ いはむすべ せむすべしらに ゆふたすき かたにとりかけ しつぬさを てにとりもちて なさけそと われはいのれど まきてねし いもがたもとは くもにたなびく
左注 (右二首傳誦遊行女婦蒲生是也)
校異 無→无 [元][類] / 掛→挂 [元][類][文][紀] / 父→文 [元][類]
事項 天平勝宝3年1月3日 年紀 挽歌 悲別 亡妻挽歌 伝誦 古歌 遊行女婦蒲生 宴席 高岡 富山
訓異 わがつまさかる;わかつまはなる, なりはたをとめ;なるはたをとめ, たづさはり;たつさひて, こころたがひぬ;こころたかひぬ, いはむすべ;いはむすへ, せむすべしらに;せむすへしらに, われはいのれど;われはいのれと, いもがたもとは;いもかたもとは, くもにたなびく;くもにたなひく,
   
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題詞 (悲傷死妻歌一首[并短歌] [作主未詳])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 寤尓等 念氐之可毛 夢耳尓 手本巻<寐>等 見者須便奈之
訓読 うつつにと思ひてしかも夢のみに手本巻き寝と見ればすべなし
仮名 うつつにと おもひてしかも いめのみに たもとまきぬと みればすべなし
左注 右二首傳誦遊行女婦蒲生是也
左注訓 右の二首、伝へ誦めるは遊行女婦蒲生なり。
校異 寤→寐 [元][文][古]
事項 天平勝宝3年1月3日 年紀 挽歌 悲別 亡妻挽歌 伝誦 古歌 遊行女婦蒲生 宴席 高岡 富山
訓異 うつつにと;うつつにも, いめのみに;ゆめのみに, みればすべなし;みれはすへなし,
   
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題詞 二月二日會集于守舘宴作歌一首
題訓 二月きさらきの三日、守の館に会集つどひて宴して、よめる歌一首
原文 君之徃 若久尓有婆 梅柳 誰与共可 吾縵可牟
訓読 君が行きもし久にあらば梅柳誰れとともにか我がかづらかむ
仮名 きみがゆき もしひさにあらば うめやなぎ たれとともにか わがかづらかむ
左注 右判官久米朝臣廣縄以正税帳應入京師 仍守大伴宿祢家持作此歌也 但越中風土梅花柳絮三月初咲耳
左注訓 右、判官まつりごとひと久米朝臣廣繩、正税帳を以ちて、 京師みやこに入のぼらむとす。仍かれ守大伴宿禰家持、此の 歌を作よめり。但越中こしのみちのなかの風土くにざま、梅花うめ柳絮やなぎ、 三月やよひ咲き初む。
校異 なし
事項 天平勝宝3年2月2日 年紀 作者:大伴家持 宴席 植物 餞別 旅立ち 出発 久米広縄 高岡 富山
訓異 きみがゆき;きみかゆき, もしひさにあらば;もしひさにあらは, うめやなぎ;うめやなき, わがかづらかむ;わかかつらせむ,
   
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題詞 詠霍公鳥歌一首
題訓 霍公鳥を詠める歌一首
原文 二上之 峯於乃繁尓 許毛<里>尓之 <彼>霍公鳥 待<騰>来奈賀受
訓読 二上の峰の上の茂に隠りにしその霍公鳥待てど来鳴かず
仮名 ふたがみの をのうへのしげに こもりにし そのほととぎす まてどきなかず
左注 右四月十六日大伴宿祢家持作之
左注訓 右、四月の十六日とをかまりむかのひ、大伴宿禰家持がよめる。
校異 <>→里 [万葉集略解] / 波→彼 [元] / 騰末→騰 [元][類]
事項 天平勝宝3年4月16日 年紀 作者:大伴家持 動物 怨恨 地名 高岡 富山
訓異 ふたがみの;ふたかみの, をのうへのしげに;をのへのししに, こもりにし;こもにしは, そのほととぎす;ほとときすまてと, まてどきなかず;いまたきなかす,
   
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題詞 春日祭神之日藤原太后御作歌一首 / 即賜入唐大使藤原朝臣清河 参議従四位下遣唐使
題訓 春日かすがにて祭神之日かみまつりせるほど、藤原の太后おほきさきのよみませる御歌一首。即ち入唐大使もろこしにつかはすつかひのかみ藤原朝臣清河きよかはに賜ふ
原文 大船尓 真梶繁貫 此吾子乎 韓國邊遣 伊波敝神多智
訓読 大船に真楫しじ貫きこの我子を唐国へ遣る斎へ神たち
仮名 おほぶねに まかぢしじぬき このあこを からくにへやる いはへかみたち
左注 (右件歌者傳誦之人越中大目高安倉人種麻呂是也 但年月次者随聞之時載於此焉)
校異 なし
事項 天平5年 年紀 作者:光明皇后 藤原清河 遣唐使 伝誦 古歌 春日野 高安種麻呂 出発 神祭り 餞別 羈旅 天平勝宝3年 高岡 富山
訓異 おほぶねに;おほふねに, まかぢしじぬき;まかちししぬき,
   
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題詞 大使藤原朝臣清河歌一首
題訓 大使つかひのかみ藤原朝臣清河が歌一首
原文 春日野尓 伊都久三諸乃 梅花 榮而在待 還来麻泥
訓読 春日野に斎く三諸の梅の花栄えてあり待て帰りくるまで
仮名 かすがのに いつくみもろの うめのはな さかえてありまて かへりくるまで
左注 (右件歌者傳誦之人越中大目高安倉人種麻呂是也 但年月次者随聞之時載於此焉)
校異 なし
事項 天平5年 年紀 作者:藤原清河 遣唐使 餞別 出発 神祭り 羈旅 春日野 伝誦 高安種麻呂 天平勝宝3年 高岡 富山
訓異 かすがのに;かすかのに, さかえてありまて;さきてありまて, かへりくるまで;かへりくるまて,
   
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題詞 大納言藤原家餞之入唐使等宴日歌一首 [即主人卿作之]
題訓 大納言おほきものまをすつかさ藤原の卿まへつきみの家にて、入唐使もろこしにつかはすつかひ等を餞うまのはなむけする宴日ひの歌一首 即チ主人卿ヨメリ
原文 天雲乃 去還奈牟 毛能由恵尓 念曽吾為流 別悲美
訓読 天雲の行き帰りなむものゆゑに思ひぞ我がする別れ悲しみ
仮名 あまくもの ゆきかへりなむ ものゆゑに おもひぞわがする わかれかなしみ
左注 (右件歌者傳誦之人越中大目高安倉人種麻呂是也 但年月次者随聞之時載於此焉)
校異 なし
事項 天平5年 年紀 作者:藤原仲麻呂 宴席 餞別 出発 羈旅 遣唐使 悲別 伝誦 高安種麻呂 高岡 富山 天平勝宝3年
訓異 おもひぞわがする;おもひそわかする,
   
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題詞 民部少輔多治<比>真人土作歌一首
題訓 民部少輔たみのつかさのすなきすけ丹治比たぢひ真人まひと土作はにしがよめる歌一首
原文 住吉尓 伊都久祝之 神言等 行得毛来等毛 舶波早家<无>
訓読 住吉に斎く祝が神言と行くとも来とも船は早けむ
仮名 すみのえに いつくはふりが かむごとと ゆくともくとも ふねははやけむ
左注 (右件歌者傳誦之人越中大目高安倉人種麻呂是也 但年月次者随聞之時載於此焉)
校異 <>→比 [代匠記精撰本] / 無→无 [元][類]
事項 天平5年 年紀 作者:丹比土作 伝誦 遣唐使 高安種麻呂 餞別 宴席 高岡 富山 天平勝宝3年
訓異 いつくはふりが;いつくはふりか, かむごとと;かみことと,
   
  19/4244
題詞 大使藤原朝臣清河歌一首
題訓 大使藤原朝臣清河が歌一首
原文 荒玉之 年緒長 吾念有 兒等尓可戀 月近附奴
訓読 あらたまの年の緒長く我が思へる子らに恋ふべき月近づきぬ
仮名 あらたまの としのをながく あがもへる こらにこふべき つきちかづきぬ
左注 (右件歌者傳誦之人越中大目高安倉人種麻呂是也 但年月次者随聞之時載於此焉)
校異 なし
事項 天平5年 年紀 作者:藤原清河 遣唐使 餞別 宴席 出発 羈旅 枕詞 悲別 恋情 伝誦 高安種麻呂 高岡 富山 天平勝宝3年
訓異 としのをながく;としのをなかく, あがもへる;わかおもへる, こらにこふべき;こらにこふへき, つきちかづきぬ;つきちかつきぬ,
   
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題詞 天平五年贈入唐使歌一首[并短歌] [作主未詳]
題訓 天平五年いつとせといふとし、入唐使に贈れる歌一首、また短歌 作主未詳
原文 虚見都 山跡乃國 青<丹>与之 平城京師由 忍照 難波尓久太里 住吉乃 三津尓<舶>能利 直渡 日入國尓 所遣 和我勢能君乎 懸麻久乃 由々志恐伎 墨吉乃 吾大御神 舶乃倍尓 宇之波伎座 船騰毛尓 御立座而 佐之与良牟 礒乃埼々 許藝波底牟 泊々尓 荒風 浪尓安波世受 平久 率而可敝理麻世 毛等能國家尓
訓読 そらみつ 大和の国 あをによし 奈良の都ゆ おしてる 難波に下り 住吉の 御津に船乗り 直渡り 日の入る国に 任けらゆる 我が背の君を かけまくの ゆゆし畏き 住吉の 我が大御神 船の舳に 領きいまし 船艫に み立たしまして さし寄らむ 礒の崎々 漕ぎ泊てむ 泊り泊りに 荒き風 波にあはせず 平けく 率て帰りませ もとの朝廷に
仮名 そらみつ やまとのくに あをによし ならのみやこゆ おしてる なにはにくだり すみのえの みつにふなのり ただわたり ひのいるくにに まけらゆる わがせのきみを かけまくの ゆゆしかしこき すみのえの わがおほみかみ ふなのへに うしはきいまし ふなともに みたたしまして さしよらむ いそのさきざき こぎはてむ とまりとまりに あらきかぜ なみにあはせず たひらけく ゐてかへりませ もとのみかどに
左注 (右件歌者傳誦之人越中大目高安倉人種麻呂是也 但年月次者随聞之時載於此焉)
校異 舟→丹 [西(訂正)][元][文][紀] / 船→舶 [元][文][紀]
事項 天平5年 年紀 遣唐使 枕詞 地名 大阪 儀礼歌 道行翮 祈願 餞別 出発 羈旅 伝誦 高安種麻呂 天平勝宝3年
訓異 なにはにくだり;なにはにくたり, ただわたり;たたわたり, まけらゆる;つかはされ, わがせのきみを;わかせのきみを, わがおほみかみ;わかおほみかみ, みたたしまして;みたていまして, いそのさきざき;いそのさきさき, こぎはてむ;こきはてむ, あらきかぜ;あらきかせ, なみにあはせず;なみにあはせす, もとのみかどに;もとのみかとに,
   
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題詞 (天平五年贈入唐使歌一首[并短歌] [作主未詳])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 奥浪 邊波莫越 君之舶 許藝可敝里来而 津尓泊麻泥
訓読 沖つ波辺波な越しそ君が船漕ぎ帰り来て津に泊つるまで
仮名 おきつなみ へなみなこしそ きみがふね こぎかへりきて つにはつるまで
左注 (右件歌者傳誦之人越中大目高安倉人種麻呂是也 但年月次者随聞之時載於此焉)
校異 様→掾 [元][文][紀]
事項 天平5年 年紀 遣唐使 餞別 出発 羈旅 伝誦 高安種麻呂 天平勝宝3年 高岡 富山
訓異 きみがふね;きみかふね, つにはつるまで;つにはつるまて,
   
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題詞 阿倍朝臣老人遣唐時奉母悲別歌一首
題訓 阿倍朝臣老人おいひとが、唐もろこしに遣はさるる時、母に奉れる悲別かなしみの歌一首
原文 天雲能 曽伎敝能伎波美 吾念有 伎美尓将別 日近成奴
訓読 天雲のそきへの極み我が思へる君に別れむ日近くなりぬ
仮名 あまくもの そきへのきはみ あがもへる きみにわかれむ ひちかくなりぬ
左注 右件歌者傳誦之人越中大目高安倉人種麻呂是也 但年月次者随聞之時載於此焉
左注訓 右の件くだりの八首歌やうたは、伝へ誦める人、越中の大目おほきふみひと 高安倉人種麻呂なり。但し年月の次なみは、聞ける時の 随まにま、載あげたり。
校異 なし
事項 天平5年 年紀 作者:阿倍老人母 遣唐使 餞別 出発 羈旅 悲別 高安種麻呂 天平勝宝3年 伝誦 高岡 富山
訓異 あがもへる;わかおもへる, ひちかくなりぬ;ひはちかつきぬ,
   
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題詞 以七月十七日遷任少納言 仍作悲別之歌贈貽朝集使<掾>久米朝臣廣縄之館二首 /既満六載之期忽値遷替之運 於是別舊之悽心中欝結 拭渧之袖何以能旱 因作悲歌二首式遺莫忘之志 其詞曰
題訓 七月ふみつきの十七日とをかまりなぬかのひ、少納言すなきものまをすつかさに遷任うつされて、悲別かなしみの歌を作みて、朝集使まゐうごなはるつかひ掾久米朝臣廣繩が館に贈貽おくれる二首ふたうた
既に六載の期に満ち、忽ち遷替の運に値ふ。是に旧ふりにしひとに別るる悽かなしみ、心中に欝結むすぼほれ、涕の袖を拭のごふ。いかにか能く旱かはかむ。因かれ悲しみの歌二首を作みて、莫忘の志を遺せり。其の詞うたに曰く
原文 荒玉乃 年緒長久 相見氐之 彼心引 将忘也毛
訓読 あらたまの年の緒長く相見てしその心引き忘らえめやも
仮名 あらたまの としのをながく あひみてし そのこころひき わすらえめやも
左注 (右八月四日贈之)
校異 なし
事項 天平勝宝3年8月4日 年紀 作者:大伴家持 宴席 餞別 悲別 羈旅 出発 久米広縄 高岡 富山 枕詞
訓異 としのをながく;としのをなかく, そのこころひき;かのこころひき, わすらえめやも;わすられぬやも,
   
  19/4249
題詞 (以七月十七日遷任少納言 仍作悲別之歌贈貽朝集使<掾>久米朝臣廣縄之館二首 /既満六載之期忽値遷替之運 於是別舊之悽心中欝結 拭渧之袖何以能旱 因作悲歌二首式遺莫忘之志 其詞曰)
原文 伊波世野尓 秋芽子之努藝 馬並 始鷹猟太尓 不為哉将別
訓読 石瀬野に秋萩しのぎ馬並めて初鷹猟だにせずや別れむ
仮名 いはせのに あきはぎしのぎ うまなめて はつとがりだに せずやわかれむ
左注 右八月四日贈之
左注訓 右、八月はつきの四日よかのひ贈れりき。
校異 なし
事項 天平勝宝3年8月4日 年紀 作者:大伴家持 地名 富山 鷹狩り 宴席 餞別 悲別 出発 久米広縄 高岡 富山
訓異 あきはぎしのぎ;あきはきしのき, うまなめて;むまなめて, はつとがりだに;はつとかりたに, せずやわかれむ;せてやわかれむ,
   
  19/4250
題詞 便附大帳使取八月五日應入京師 因此以四日設國厨之饌於介内蔵伊美吉縄麻呂舘餞之 于時大伴宿祢家持作歌一首
題訓 便ち大帳使を附さづけ、八月の五日に、京師に入のぼらむとす。此に因りて四日、国の厨くりやの饌ものを介内藏伊美吉繩麻呂が館に設まけて、餞うまのはなむけす。その時大伴宿禰家持がよめる歌一首
原文 之奈謝可流 越尓五箇年 住々而 立別麻久 惜初夜可<毛>
訓読 しなざかる越に五年住み住みて立ち別れまく惜しき宵かも
仮名 しなざかる こしにいつとせ すみすみて たちわかれまく をしきよひかも
左注 なし
校異 作歌 [元] 作 / 母→毛 [元][類][文]
事項 天平勝宝3年8月5日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 餞別 悲別 宴席 内蔵縄麻呂 出発 羈旅 高岡 富山
訓異 しなざかる;しなさかる,
   
  19/4251
題詞 五日平旦上道 仍國司次官已下諸僚皆共視送 於時射水郡大領安努君廣嶋 門前之林中預設<餞饌>之宴 于<此>大帳使大伴宿祢家持和内蔵伊美吉縄麻呂捧盞之歌一首
題訓 五日いつかのひ、平旦つとめて上道みちだちす。仍かれ国司くにのつかさ次官すけより、諸の僚つかさづかさまで、皆共みな視送りす。その時射水いみづの郡こほりの大領おほきみやつこ安努君廣島あぬのきみひろしまが門の前の林の中うちに、預め饌餞うまのはなむけの宴まけを設なす。時に大帳使大伴宿禰家持が、内藏伊美吉繩麻呂が盞さかづきを捧ぐる歌に和ふる一首ひとうた
原文 玉桙之 道尓出立 徃吾者 公之事跡乎 負而之将去
訓読 玉桙の道に出で立ち行く我れは君が事跡を負ひてし行かむ
仮名 たまほこの みちにいでたち ゆくわれは きみがこととを おひてしゆかむ
左注 なし
校異 饌餞→餞饌 [元][類] / 時→此 [元][類]
事項 天平勝宝3年8月5日 年紀 作者:大伴家持 餞別 出発 羈旅 悲別 枕詞 内蔵縄麻呂 高岡 富山
訓異 みちにいでたち;みちにへいてたち, きみがこととを;きみかこととを,
   
  19/4252
題詞 正税帳使掾久米朝臣廣縄事畢退任 適遇於越前國掾大伴宿祢池主之舘 仍共飲樂也 于時久米朝臣廣縄矚芽子花作歌一首
題訓 正税帳使掾まつりごとひと久米朝臣廣繩、事畢りて退任まけところにかへれり。越前国こしのみちのくちのくにの掾大伴宿禰池主が館に適ゆき遇ひて、共に飲楽うたげす。その時久米朝臣廣繩が、芽子はぎの花を矚みてよめる歌一首
原文 君之家尓 殖有芽子之 始花乎 折而挿頭奈 客別度知
訓読 君が家に植ゑたる萩の初花を折りてかざさな旅別るどち
仮名 きみがいへに うゑたるはぎの はつはなを をりてかざさな たびわかるどち
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝3年8月5日 年紀 作者:久米広縄 大伴池主 大伴家持 福井 武生 羈旅 植物 悲別
訓異 きみがいへに;きみかいへに, うゑたるはぎの;うゑたるはきの, をりてかざさな;をりてかささな, たびわかるどち;たひわかるとち,
   
  19/4253
題詞 大伴宿祢家持和歌一首
題訓 大伴宿禰家持が和ふる歌一首
原文 立而居而 待登待可祢 伊泥氐来之 君尓於是相 挿頭都流波疑
訓読 立ちて居て待てど待ちかね出でて来し君にここに逢ひかざしつる萩
仮名 たちてゐて まてどまちかね いでてこし きみにここにあひ かざしつるはぎ
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝3年8月5日 年紀 作者:大伴家持 植物 大伴池主 久米広縄 福井 武生 羈旅 悲別 離別
訓異 まてどまちかね;まてとまちかね, いでてこし;いててこし, かざしつるはぎ;かさしつるはき,
   
  19/4254
題詞 向京路上依興預作侍宴應詔歌一首[并短歌]
題訓 京みやこに向まゐのぼる路にて、興ことに依つけ預め作める、宴とよのあかりに侍りて詔を応うけたまはる歌一首、また短歌
原文 蜻嶋 山跡國乎 天雲尓 磐船浮 等母尓倍尓 真可伊繁貫 伊許藝都追 國看之勢志氐 安母里麻之 掃平 千代累 弥嗣継尓 所知来流 天之日継等 神奈我良 吾皇乃 天下 治賜者 物乃布能 八十友之雄乎 撫賜 等登能倍賜 食國毛 四方之人乎母 安<夫>左波受 ヌ賜者 従古昔 無利之瑞 多婢<末>祢久 申多麻比奴 手拱而 事無御代等 天地 日月等登聞仁 万世尓 記續牟曽 八隅知之 吾大皇 秋花 之我色々尓 見賜 明米多麻比 酒見附 榮流今日之 安夜尓貴左
訓読 蜻蛉島 大和の国を 天雲に 磐舟浮べ 艫に舳に 真櫂しじ貫き い漕ぎつつ 国見しせして 天降りまし 払ひ平げ 千代重ね いや継ぎ継ぎに 知らし来る 天の日継と 神ながら 我が大君の 天の下 治めたまへば もののふの 八十伴の男を 撫でたまひ 整へたまひ 食す国も 四方の人をも あぶさはず 恵みたまへば いにしへゆ なかりし瑞 度まねく 申したまひぬ 手抱きて 事なき御代と 天地 日月とともに 万代に 記し継がむぞ やすみしし 我が大君 秋の花 しが色々に 見したまひ 明らめたまひ 酒みづき 栄ゆる今日の あやに貴さ
仮名 あきづしま やまとのくにを あまくもに いはふねうかべ ともにへに まかいしじぬき いこぎつつ くにみしせして あもりまし はらひたひらげ ちよかさね いやつぎつぎに しらしくる あまのひつぎと かむながら わがおほきみの あめのした をさめたまへば もののふの やそとものをを なでたまひ ととのへたまひ をすくにも よものひとをも あぶさはず めぐみたまへば いにしへゆ なかりししるし たびまねく まをしたまひぬ たむだきて ことなきみよと あめつち ひつきとともに よろづよに しるしつがむぞ やすみしし わがおほきみ あきのはな しがいろいろに めしたまひ あきらめたまひ さかみづき さかゆるけふの あやにたふとさ
左注 なし
校異 之 [元] 乃 / 毛 [紀][細] 之 / 天→夫 [万葉集略解] / 未→末 [代匠記精撰本] / 等 [元] 尓
事項 天平勝宝3年8月5日 年紀 作者:大伴家持 依興 予作 儀礼歌 応詔 宴席 枕詞 架空 羈旅 寿歌
訓異 あきづしま;あきつしま, いはふねうかべ;いはふねうけて, まかいしじぬき;まかいししぬき, いこぎつつ;いこきつつ, はらひたひらげ;はらひたひらけ, いやつぎつぎに;いやつきつきに, あまのひつぎと;あまのひつきと, かむながら;かみなから, わがおほきみの;わかおほきみの, あめのした;あまのした, をさめたまへば;おさめたまへは, なでたまひ;なてたまひ, をすくにも;をしくにの, あぶさはず;あてさはす, めぐみたまへば;めくみたまへは, いにしへゆ;むかしより, なかりししるし;なかりしみつも, たびまねく;たひまねく, まをしたまひぬ;まうしたまひぬ, たむだきて;こまめきて, あめつち;あめつちの, よろづよに;よろつよに, しるしつがむぞ;しるしつかむそ, わがおほきみ;わかおほきみは, あきのはな;あきはなの, しがいろいろに;しかいろいろに, めしたまひ;みえたまひ, さかみづき;さかみつき,
   
  19/4255
題詞 (向京路上依興預作侍宴應詔歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 秋時花 種尓有等 色別尓 見之明良牟流 今日之貴左
訓読 秋の花種にあれど色ごとに見し明らむる今日の貴さ
仮名 あきのはな くさぐさにあれど いろごとに めしあきらむる けふのたふとさ
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝3年8月5日 年紀 作者:大伴家持 依興 予作 応詔 儀礼歌 宴席 架空 植物 寿歌 羈旅
訓異 くさぐさにあれど;くさくさにあれと, いろごとに;いろことに, めしあきらむる;みしあきらむる,
   
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題詞 為壽左大臣橘卿預作歌一首
題訓 左大臣ひだりのおほまへつきみ橘の卿を寿ことほかむと、預めよめる歌一首
原文 古昔尓 君之三代經 仕家利 吾大主波 七世申祢
訓読 いにしへに君が三代経て仕へけり我が大主は七代申さね
仮名 いにしへに きみがみよへて つかへけり あがおほぬしは ななよまをさね
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝3年8月5日 年紀 作者:大伴家持 予作 橘諸兄 寿歌
訓異 きみがみよへて;きみかみよへて, あがおほぬしは;わかおほきみは, ななよまをさね;ななよまうさね,
   
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題詞 十月廿二日於左大辨紀飯麻呂朝臣家宴歌三首
題訓 十月かみなつきの二十二日はつかまりふつかのひ、左大弁ひだりのおほきおほともひ紀飯麻呂きのいひまろの朝臣が家にて宴する歌三首
原文 手束弓 手尓取持而 朝猟尓 君者立<之>奴 多奈久良能野尓
訓読 手束弓手に取り持ちて朝狩りに君は立たしぬ棚倉の野に
仮名 たつかゆみ てにとりもちて あさがりに きみはたたしぬ たなくらののに
左注 右一首治部卿船王傳誦之 久邇京都時歌 [未詳作<主>也]
左注訓 右の一首は、治部卿をさむるつかさのかみ船王ふねのおほきみの伝へ誦める、 久邇くにの京都みやこの時の歌なり。作主よみひとしらず。
校異 去→之 [元][類] / 至→主 [元][文][紀]
事項 天平勝宝3年10月22日 年紀 宴席 古歌 伝誦 船王 狩猟 大君 久邇京 天平13年
訓異 あさがりに;あさかりに, きみはたたしぬ;きみはたちいぬ,
   
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題詞 (十月廿二日於左大辨紀飯麻呂朝臣家宴歌三首)
原文 明日香河 々戸乎清美 後居而 戀者京 弥遠曽伎奴
訓読 明日香川川門を清み後れ居て恋ふれば都いや遠そきぬ
仮名 あすかがは かはとをきよみ おくれゐて こふればみやこ いやとほそきぬ
左注 右一首左中辨中臣朝臣清麻呂傳誦 古京時歌也
左注訓 右の一首は、左中弁ひだりのなかのおほともひ中臣朝臣清麻呂が伝へ 誦める、古き京の時の歌なり。
校異 なし
事項 天平勝宝3年10月22日 年紀 地名 明日香 奈良 中臣清麻呂 伝誦 古歌 恋情 宴席
訓異 あすかがは;あすかかは, こふればみやこ;こふれはみやこ,
   
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題詞 (十月廿二日於左大辨紀飯麻呂朝臣家宴歌三首)
原文 十月 之具礼能常可 吾世古河 屋戸乃黄葉 可落所見
訓読 十月時雨の常か我が背子が宿の黄葉散りぬべく見ゆ
仮名 かむなづき しぐれのつねか わがせこが やどのもみちば ちりぬべくみゆ
左注 右一首少納言大伴宿祢家持當時矚梨黄葉作此歌也
左注訓 右の一首は、少納言大伴宿禰家持が、当時梨の黄葉もみちを 矚みて、此の歌を作めり。
校異 なし
事項 天平勝宝3年10月22日 年紀 作者:大伴家持 植物 属目 宴席
訓異 かむなづき;かみなつき, しぐれのつねか;しくれのつねか, わがせこが;わかせこか, やどのもみちば;やとのもみちは, ちりぬべくみゆ;ちりぬへくみゆ,
   
  19/4260
題詞 壬申年之乱平定以後歌二首
題訓 〔天平勝宝〕四年
壬申みづのえさるの年の乱みだれ、平定たひらぎし以後のちの歌二首
原文 皇者 神尓之座者 赤駒之 腹婆布田為乎 京師跡奈之都
訓読 大君は神にしませば赤駒の腹這ふ田居を都と成しつ
仮名 おほきみは かみにしませば あかごまの はらばふたゐを みやことなしつ
左注 右一首大将軍贈右大臣大伴卿作 (右件二首天平勝寶四年二月二日聞之 即載於茲也)
左注訓 右の一首は、大将軍おほきいくさのきみ贈右大臣おひてたまへるみぎのおほまへつきみ 大伴の卿の作みたまふ。
校異 なし
事項 天平勝宝4年2月2日 年紀 作者:大伴御行 古歌 伝誦 天武朝 大君讃美
訓異 かみにしませば;かみにしませは, あかごまの;あかこまの, はらばふたゐを;はらはふたゐを,
   
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題詞 (壬申年之乱平定以後歌二首)
原文 大王者 神尓之座者 水鳥乃 須太久水奴麻乎 皇都常成通 
訓読 大君は神にしませば水鳥のすだく水沼を都と成しつ 
仮名 おほきみは かみにしませば みづとりの すだくみぬまを みやことなしつ
左注 右件二首天平勝寶四年二月二日聞之 即載於茲也
左注訓 右の件の二首は、〔天平勝宝四年〕二月の二日に聞きて、茲ここに載あぐ。
校異 不→未 [元][類][文]
事項 天平勝宝4年2月2日 年紀 伝誦 古歌 天武朝 大君讃美
訓異 かみにしませば;かみにしませは, みづとりの;みつとりの, すだくみぬまを;すたくみぬまを,
   
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題詞 閏三月於衛門督大伴古慈悲宿祢家餞之入唐副使同胡麻呂宿祢等歌二首
題訓 閏三月のちのやよひ、衛門督ゆけひのかみ大伴古慈悲こじひの宿禰が家にて、入唐副使もろこしにつかはすつかひのすけ同おやじ胡麿の宿禰等を餞うまのはなむけする歌二首
原文 韓國尓 由伎多良波之氐 可敝里許牟 麻須良多家乎尓 美伎多弖麻都流
訓読 唐国に行き足らはして帰り来むますら健男に御酒奉る
仮名 からくにに ゆきたらはして かへりこむ ますらたけをに みきたてまつる
左注 右一首多治比真人鷹主壽副使大伴胡麻呂宿祢也 (右件歌傳誦大伴宿祢村上同清継等是也)
左注訓 右の一首は、多治比真人鷹主が、副使つかひのすけ大伴胡麻呂の宿禰を寿ことほく。
校異 なし
事項 天平勝宝4年閏3月 年紀 作者:丹比鷹主 遣唐使 大伴古麻呂 出発 餞別 宴席 羈旅 大伴古慈悲 伝誦 古歌 大伴村上 寿歌
訓異 -
   
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題詞 (閏三月於衛門督大伴古慈悲宿祢家餞之入唐副使同胡麻呂宿祢等歌二首)
原文 梳毛見自 屋中毛波可自 久左麻久良 多婢由久伎美乎 伊波布等毛比氐 [作<者>未詳]
訓読 櫛も見じ屋内も掃かじ草枕旅行く君を斎ふと思ひて
仮名 くしもみじ やぬちもはかじ くさまくら たびゆくきみを いはふともひて [作<者>未詳]
左注 右件歌傳誦大伴宿祢村上同清継等是也
左注訓 右の件の二首歌ふたうた伝へ誦めるは、大伴宿禰村上、 同じ清繼等なり。
校異 主→者 [元][類]
事項 天平勝宝4年閏3月 年紀 古歌 伝誦 遣唐使 大伴古慈悲 大伴古麻呂 大伴村上 枕詞 出発 餞別 羈旅 悲別 神祭り 寿歌
訓異 くしもみじ;くしもみし, やぬちもはかじ;やなかもはかし, たびゆくきみを;たひゆくきみを,
   
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題詞 勅従四位上高麗朝臣福信遣於難波賜酒肴入唐使藤原朝臣清河等御歌一首[并短歌]
題訓 従四位上ひろきよつのくらゐのかみつしな高麗朝臣福信こまのあそみふくしむに勅みことのりして、難波に遣はし、酒おほみき肴さかなを入唐使もろこしにつかはすつかひ藤原朝臣清河等に賜へる御歌おほみうた一首、また短歌
原文 虚見都 山跡乃國波 水上波 地徃如久 船上波 床座如 大神乃 鎮在國曽 四舶 々能倍奈良倍 平安 早渡来而 還事 奏日尓 相飲酒曽 <斯>豊御酒者
訓読 そらみつ 大和の国は 水の上は 地行くごとく 船の上は 床に居るごと 大神の 斎へる国ぞ 四つの船 船の舳並べ 平けく 早渡り来て 返り言 奏さむ日に 相飲まむ酒ぞ この豊御酒は
仮名 そらみつ やまとのくには みづのうへは つちゆくごとく ふねのうへは とこにをるごと おほかみの いはへるくにぞ よつのふね ふなのへならべ たひらけく はやわたりきて かへりこと まをさむひに あひのまむきぞ このとよみきは
左注 (右發遣 勅使并賜酒樂宴之日月未得詳審也)
校異 船 [元] 舶 / 期→斯 [元][細]
事項 天平勝宝4年閏3月 年紀 作者:孝謙天皇 古歌 伝誦 藤原清河 遣唐使 高麗福信 餞別 出発 羈旅 枕詞
訓異 みづのうへは;みつのうへは, つちゆくごとく;つちゆくことく, とこにをるごと;とこにますこと, いはへるくにぞ;しつむるくにそ, ふなのへならべ;ふなのへならへ, まをさむひに;まうさむひに, あひのまむきぞ;あひのまむさけそ,
   
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題詞 (勅従四位上高麗朝臣福信遣於難波賜酒肴入唐使藤原朝臣清河等御歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 四舶 早還来等 白香著 朕裳裙尓 鎮而将待
訓読 四つの船早帰り来としらか付け我が裳の裾に斎ひて待たむ
仮名 よつのふね はやかへりこと しらかつけ わがものすそに いはひてまたむ
左注 右發遣 勅使并賜酒樂宴之日月未得詳審也
左注訓 右、勅使ヲ発遣シ、マタ酒ヲ賜フ楽宴ウタゲノ日月、未ダ詳審ツマビラカニスルコトヲ得ズ。
校異 なし
事項 天平勝宝4年閏3月 年紀 作者:孝謙天皇 古歌 伝誦 藤原清河 遣唐使 高麗福信 餞別 出発 羈旅 寿歌 神祭り
訓異 しらかつけ;しらかつき, わがものすそに;わかものこしに, いはひてまたむ;してつつまたむ,
   
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題詞 為應詔儲作歌一首[并短歌]
題訓 詔を応うけたまはらむが為に、儲あらかじめよめる歌一首、また短歌
原文 安之比奇能 八峯能宇倍能 都我能木能 伊也継々尓 松根能 絶事奈久 青丹余志 奈良能京師尓 万代尓 國所知等 安美知之 吾大皇乃 神奈我良 於母保之賣志弖 豊宴 見為今日者 毛能乃布能 八十伴雄能 嶋山尓 安可流橘 宇受尓指 紐解放而 千年保伎 <保>吉等餘毛之 恵良々々尓 仕奉乎 見之貴者
訓読 あしひきの 八つ峰の上の 栂の木の いや継ぎ継ぎに 松が根の 絶ゆることなく あをによし 奈良の都に 万代に 国知らさむと やすみしし 我が大君の 神ながら 思ほしめして 豊の宴 見す今日の日は もののふの 八十伴の男の 島山に 赤る橘 うずに刺し 紐解き放けて 千年寿き 寿き響もし ゑらゑらに 仕へまつるを 見るが貴さ
仮名 あしひきの やつをのうへの つがのきの いやつぎつぎに まつがねの たゆることなく あをによし ならのみやこに よろづよに くにしらさむと やすみしし わがおほきみの かむながら おもほしめして とよのあかり めすけふのひは もののふの やそとものをの しまやまに あかるたちばな うずにさし ひもときさけて ちとせほき ほきとよもし ゑらゑらに つかへまつるを みるがたふとさ
左注 (右二首大伴宿祢家持作之)
校異 保伎→保 [元]
事項 天平勝宝4年 年紀 作者:大伴家持 儲作 予作 応詔 儀礼歌 枕詞 地名 大君讃美 寿歌
訓異 つがのきの;とかのきの, いやつぎつぎに;いやつきつきに, まつがねの;まつかねの, よろづよに;よろつよに, くにしらさむと;くにしらしむと, わがおほきみの;わかおほきみの, かむながら;かみなから, めすけふのひは;みせますけふは, あかるたちばな;あかるたちはな, うずにさし;うすにさし, ほきとよもし;ほききとよもし, みるがたふとさ;みるかたふとさ,
   
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題詞 (為應詔儲作歌一首[并短歌])反歌一首
題訓 反し歌一首
原文 須賣呂伎能 御代万代尓 如是許曽 見為安伎良目<米> 立年之葉尓
訓読 天皇の御代万代にかくしこそ見し明きらめめ立つ年の端に
仮名 すめろきの みよよろづよに かくしこそ めしあきらめめ たつとしのはに
左注 右二首大伴宿祢家持作之
左注訓 右の二首は、大伴宿禰家持がよめる。
校異 <>→米 [西(右書)][類][古][紀]
事項 天平勝宝4年 年紀 作者:大伴家持 儲作 予作 応詔 儀礼歌 大君讃美 寿歌
訓異 みよよろづよに;みよよろつよに, めしあきらめめ;みせあきらめめ,
   
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題詞 天皇太后共幸於大納言藤原家之日黄葉澤蘭一株拔取令持内侍佐々貴山君遣賜大納言藤原卿并陪従大夫等御歌一首 命婦誦曰
題訓 天皇すめらみことと太后おほきさきと、共に大納言おほきものまをすつかさ藤原の家に幸いでましし日、黄葉もみちせる沢蘭さはあらき一株ひともとを抜き取りて、内侍佐佐貴山君ささきやまのきみに持たしめ、大納言藤原の卿また陪従みともの大夫等まへつきみたちに遣賜たまへる御歌おほみうた一首
命婦ひめとねが誦となへて曰いへらく
原文 此里者 継而霜哉置 夏野尓 吾見之草波 毛美知多里家利
訓読 この里は継ぎて霜や置く夏の野に我が見し草はもみちたりけり
仮名 このさとは つぎてしもやおく なつののに わがみしくさは もみちたりけり
左注 なし
校異 太 [類] 大
事項 天平勝宝4年 年紀 作者:孝謙天皇 佐々貴山君 誦詠 行幸 光明皇后 藤原仲麻呂 植物 贈答
訓異 つぎてしもやおく;つきてしもやをく, わがみしくさは;わかみしくさは,
   
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題詞 十一月八日在於左大臣橘朝臣宅肆宴歌四首
題訓 十一月しもつきの八日やかのひ、太上天皇おほきすめらみこと、左大臣橘朝臣の宅いへに在いまして、肆宴とよのあかりきこしめす歌四首
原文 余曽能未尓 見者有之乎 今日見者 年尓不忘 所念可母
訓読 よそのみに見ればありしを今日見ては年に忘れず思ほえむかも
仮名 よそのみに みればありしを けふみては としにわすれず おもほえむかも
左注 右一首太上天皇御歌
左注訓 右の一首は、太上天皇の御製おほみうた。
校異 なし
事項 天平勝宝4年11月8日 年紀 作者:聖武天皇 橘諸兄 肆宴 宴席 主人讃美
訓異 みればありしを;みれはありしを, けふみては;けふみれは, としにわすれず;としにわすれす, おもほえむかも;おもほゆるかも,
   
  19/4270
題詞 (十一月八日在於左大臣橘朝臣宅肆宴歌四首)
原文 牟具良波布 伊也之伎屋戸母 大皇之 座牟等知者 玉之可麻思乎
訓読 葎延ふ賎しき宿も大君の座さむと知らば玉敷かましを
仮名 むぐらはふ いやしきやども おほきみの まさむとしらば たましかましを
左注 右一首左大臣橘卿
左注訓 右の一首は、左大臣橘卿。
校異 なし
事項 天平勝宝4年11月8日 年紀 作者:橘諸兄 聖武天皇 宴席 肆宴 挨拶 植物
訓異 むぐらはふ;むくらはふ, いやしきやども;いやしきやとも, まさむとしらば;まさむとしらは,
   
  19/4271
題詞 (十一月八日在於左大臣橘朝臣宅肆宴歌四首)
原文 松影乃 清濱邊尓 玉敷者 君伎麻佐牟可 清濱邊尓
訓読 松蔭の清き浜辺に玉敷かば君来まさむか清き浜辺に
仮名 まつかげの きよきはまへに たましかば きみきまさむか きよきはまへに
左注 右一首右大辨藤原八束朝臣
左注訓 右の一首は、右大弁藤原八束朝臣。
校異 なし
事項 天平勝宝4年11月8日 年紀 作者:藤原八束 宴席 肆宴 聖武天皇 見立賸 橘諸兄
訓異 まつかげの;まつかけの, たましかば;たましかは,
   
  19/4272
題詞 (十一月八日在於左大臣橘朝臣宅肆宴歌四首)
原文 天地尓 足之照而 吾大皇 之伎座婆可母 樂伎小里
訓読 天地に足らはし照りて我が大君敷きませばかも楽しき小里
仮名 あめつちに たらはしてりて わがおほきみ しきませばかも たのしきをさと
左注 右一首少納言大伴宿祢家持 [未奏]
左注訓 右の一首は、少納言大伴宿禰家持。 未奏。
校異 なし
事項 天平勝宝4年11月8日 年紀 作者:大伴家持 未奏 橘諸兄 宴席 肆宴 大君讃美
訓異 たらはしてりて;たらしてらして, わがおほきみ;わかきみの, しきませばかも;きいまさはかも, たのしきをさと;うれしみきをり,
   
  19/4273
題詞 廿五日新甞會肆宴應詔歌六首
題訓 二十五日はつかまりいつかのひ、新嘗会にひなへまつりの肆宴とよのあかりに、詔を応うけたまはる歌六首
原文 天地与 相左可延牟等 大宮乎 都可倍麻都礼婆 貴久宇礼之伎
訓読 天地と相栄えむと大宮を仕へまつれば貴く嬉しき
仮名 あめつちと あひさかえむと おほみやを つかへまつれば たふとくうれしき
左注 右一首大納言巨勢朝臣
左注訓 右の一首は、大納言巨勢朝臣。
校異 なし
事項 天平勝宝4年11月25日 年紀 作者:巨勢奈弖麻呂 肆宴 宴席 応詔 大君讃美 寿歌 新嘗祭
訓異 つかへまつれば;つかへまつれは, たふとくうれしき;たうとくうれしき,
   
  19/4274
題詞 (廿五日新甞會肆宴應詔歌六首)
原文 天尓波母 五百都綱波布 万代尓 國所知牟等 五百都々奈波布[似古歌而未詳]
訓読 天にはも五百つ綱延ふ万代に国知らさむと五百つ綱延ふ[似古歌而未詳]
仮名 あめにはも いほつつなはふ よろづよに くにしらさむと いほつつなはふ
左注 右一首式部卿石川年足朝臣
左注訓 右の一首は、式部卿のりのつかさのかみ石川年足としたり朝臣。
校異 なし
事項 天平勝宝4年11月25日 年紀 作者:石川年足 肆宴 宴席 応詔 大君讃美 寿歌 新嘗祭
訓異 よろづよに;よろつよに, くにしらさむと;くにしらしむと,
   
  19/4275
題詞 (廿五日新甞會肆宴應詔歌六首)
原文 天地与 久万弖尓 万代尓 都可倍麻都良牟 黒酒白酒乎
訓読 天地と久しきまでに万代に仕へまつらむ黒酒白酒を
仮名 あめつちと ひさしきまでに よろづよに つかへまつらむ くろきしろきを
左注 右一首従三位文屋<智><努>真人
左注訓 右の一首は、従三位ひろきみつのくらゐ文屋ふむやの智努麻呂ちぬまろの真人まひと
校異 知→智 [元][文][紀][細] / 奴麿→努 [元][古]
事項 天平勝宝4年11月25日 年紀 作者:文屋真人 肆宴 宴席 応詔 大君讃美 寿歌 新嘗祭
訓異 ひさしきまでに;ひさしきまてに, よろづよに;よろつよに,
   
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題詞 (廿五日新甞會肆宴應詔歌六首)
原文 嶋山尓 照在橘 宇受尓左之 仕奉者 卿大夫等
訓読 島山に照れる橘うずに刺し仕へまつるは卿大夫たち
仮名 しまやまに てれるたちばな うずにさし つかへまつるは まへつきみたち
左注 右一首右大辨藤原八束朝臣
左注訓 右の一首は、右大弁藤原八束朝臣。
校異 なし
事項 天平勝宝4年11月25日 年紀 作者:藤原八束 肆宴 宴席 応詔 大君讃美 寿歌 新嘗祭 植物
訓異 てれるたちばな;てれるたちはな, うずにさし;うすにさし, まへつきみたち;まうちきみたち,
   
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題詞 (廿五日新甞會肆宴應詔歌六首)
原文 袖垂而 伊射吾苑尓 鴬乃 木傳令落 梅花見尓
訓読 袖垂れていざ我が園に鴬の木伝ひ散らす梅の花見に
仮名 そでたれて いざわがそのに うぐひすの こづたひちらす うめのはなみに
左注 右一首大和國守藤原永<手>朝臣
左注訓 右の一首は、大和国守おほやまとのくにのかみ藤原永手ながて朝臣。
校異 平→手 [西(訂正右書)][元][文][紀]
事項 天平勝宝4年11月25日 年紀 作者:藤原永手 肆宴 宴席 応詔 大君讃美 寿歌 新嘗祭 動物 植物
訓異 そでたれて;そてたれて, いざわがそのに;いさわかそのに, うぐひすの;うくひすの, こづたひちらす;こつたひちらす,
   
  19/4278
題詞 (廿五日新甞會肆宴應詔歌六首)
原文 足日木乃 夜麻之多日影 可豆良家流 宇倍尓也左良尓 梅乎之<努>波牟
訓読 あしひきの山下ひかげかづらける上にやさらに梅をしのはむ
仮名 あしひきの やましたひかげ かづらける うへにやさらに うめをしのはむ
左注 右一首少納言大伴宿祢家持
左注訓 右の一首は、少納言大伴宿禰家持。
校異 奴→努 [元][類]
事項 天平勝宝4年11月25日 年紀 作者:大伴家持 肆宴 宴席 応詔 大君讃美 寿歌 新嘗祭 植物
訓異 やましたひかげ;やましたひかけ, かづらける;かつらける,
   
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題詞 廿七日林王宅餞之但馬按察使橘奈良麻呂朝臣宴歌三首
題訓 二十七日はつかまりなぬかのひ、林王の宅にて、但馬たぢまの按察使あぜちし橘奈良麻呂の朝臣を餞うまのはなむけせる宴歌うた三首
原文 能登河乃 後者相牟 之麻之久母 別等伊倍婆 可奈之久母在香
訓読 能登川の後には逢はむしましくも別るといへば悲しくもあるか
仮名 のとがはの のちにはあはむ しましくも わかるといへば かなしくもあるか
左注 右一首治部卿船王
左注訓 右の一首は、治部卿船王。
校異 なし
事項 天平勝宝4年11月27日 年紀 作者:船王 宴席 橘奈良麻呂 餞別 悲別 出発 羈旅 序詞 地名 奈良
訓異 のとがはの;のとかはの, わかるといへば;わかれといへは,
   
  19/4280
題詞 (廿七日林王宅餞之但馬按察使橘奈良麻呂朝臣宴歌三首)
原文 立別 君我伊麻左婆 之奇嶋能 人者和礼自久 伊波比弖麻多牟
訓読 立ち別れ君がいまさば磯城島の人は我れじく斎ひて待たむ
仮名 たちわかれ きみがいまさば しきしまの ひとはわれじく いはひてまたむ
左注 右一首右京少進大伴宿祢黒麻呂
左注訓 右の一首は、右京少進みぎのみさとつかさのすなきまつりごとひと大伴宿禰黒麻呂。
校異 なし
事項 天平勝宝4年11月27日 年紀 作者:大伴黒麻呂 宴席 橘奈良麻呂 餞別 悲別 出発 羈旅 寿歌
訓異 きみがいまさば;きみかいまさは, ひとはわれじく;ひとはわれしく,
   
  19/4281
題詞 (廿七日林王宅餞之但馬按察使橘奈良麻呂朝臣宴歌三首)
原文 白雪能 布里之久山乎 越由加牟 君乎曽母等奈 伊吉能乎尓念,伊伎能乎尓須流
訓読 白雪の降り敷く山を越え行かむ君をぞもとな息の緒に思ふ,息の緒にする
仮名 しらゆきの ふりしくやまを こえゆかむ きみをぞもとな いきのをにおもふ いきのをにする
左注 左大臣換尾云 伊伎能乎尓須流 然猶喩曰 如前誦之也 / 右一首少納言大伴宿祢家持
左注訓 左大臣尾ヲ換ヘテ云ク、いきのをにする。然レドモ猶喩シテ曰ク、前ノ如ク誦メト。
右の一首は、少納言大伴宿禰家持。
校異 なし
事項 天平勝宝4年11月27日 年紀 作者:大伴家持 宴席 橘奈良麻呂 餞別 悲別 出発 羈旅 橘諸兄 推敲 添削
訓異 きみをぞもとな;きみをそもとな,
   
  19/4282
題詞 五年正月四日於治部少輔石上朝臣宅嗣家宴歌三首
題訓 五年いつとせといふとし正月むつきの四日よかのひ、治部少輔をさむるつかさのすなきすけ石上朝臣宅嗣いそのかみのあそみいへつぐが家にて、宴する歌三首
原文 辞繁 不相問尓 梅花 雪尓之乎礼氐 宇都呂波牟可母
訓読 言繁み相問はなくに梅の花雪にしをれてうつろはむかも
仮名 ことしげみ あひとはなくに うめのはな ゆきにしをれて うつろはむかも
左注 右一首主人石上朝臣宅嗣
左注訓 右の一首は、主人あろじ石上朝臣宅嗣。
校異 なし
事項 天平勝宝5年1月4日 年紀 作者:石上宅嗣 宴席 植物 見立賸 恋愛 譬喩
訓異 ことしげみ;ことしけし, あひとはなくに;あひとはさるに,
   
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題詞 (五年正月四日於治部少輔石上朝臣宅嗣家宴歌三首)
原文 梅花 開有之中尓 布敷賣流波 戀哉許母礼留 雪乎待等可
訓読 梅の花咲けるが中にふふめるは恋か隠れる雪を待つとか
仮名 うめのはな さけるがなかに ふふめるは こひかこもれる ゆきをまつとか
左注 右一首中務大輔茨田王
左注訓 右の一首は、中務大輔なかのまつりごとのつかさのおほきすけ茨田王まむたのおほきみ。
校異 なし
事項 天平勝宝5年1月4日 年紀 作者:茨田王 宴席 植物 恋愛 見立賸 譬喩 石上宅嗣
訓異 さけるがなかに;さけるかなかに, こひかこもれる;こひやこもれる,
   
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題詞 (五年正月四日於治部少輔石上朝臣宅嗣家宴歌三首)
原文 新 年始尓 思共 伊牟礼氐乎礼婆 宇礼之久母安流可
訓読 新しき年の初めに思ふどちい群れて居れば嬉しくもあるか
仮名 あらたしき としのはじめに おもふどち いむれてをれば うれしくもあるか
左注 右一首大膳大夫道祖王
左注訓 右の一首は、大膳大夫おほかしはでのつかさのかみ道祖王みちのやのおほきみ。
校異 なし
事項 天平勝宝5年1月4日 年紀 作者:道祖王 宴席 石上宅嗣
訓異 としのはじめに;としのはしめに, おもふどち;おもふとち, いむれてをれば;いむれてをれは,
   
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題詞 十一日大雪落積尺有二寸 因述拙懐<歌>三首
題訓 十一日とをかまりひとひのひ、大雪落積つもれること、尺有二寸ひとさかまりふたき。因かれ拙懐おもひを述ぶる歌三首
原文 大宮能 内尓毛外尓母 米都良之久 布礼留大雪 莫踏祢乎之
訓読 大宮の内にも外にもめづらしく降れる大雪な踏みそね惜し
仮名 おほみやの うちにもとにも めづらしく ふれるおほゆき なふみそねをし
左注 なし
校異 <>→歌 [元][細]
事項 天平勝宝5年1月11日 年紀 作者:大伴家持 宮廷 寿歌
訓異 うちにもとにも;うちにもともも, めづらしく;めつらしく,
   
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題詞 (十一日大雪落積尺有二寸 因述拙懐<歌>三首)
原文 御苑布能 竹林尓 鴬波 之波奈吉尓之乎 雪波布利都々
訓読 御園生の竹の林に鴬はしば鳴きにしを雪は降りつつ
仮名 みそのふの たけのはやしに うぐひすは しばなきにしを ゆきはふりつつ
左注 なし
校異 波 [元] 伎
事項 天平勝宝5年1月11日 年紀 作者:大伴家持 動物 叙景
訓異 うぐひすは;うくひすは, しばなきにしを;しはなきにしを,
   
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題詞 (十一日大雪落積尺有二寸 因述拙懐<歌>三首)
原文 鴬能 鳴之可伎都尓 <々>保敝理之 梅此雪尓 宇都呂布良牟可
訓読 鴬の鳴きし垣内ににほへりし梅この雪にうつろふらむか
仮名 うぐひすの なきしかきつに にほへりし うめこのゆきに うつろふらむか
左注 なし
校異 尓→々 [元][類][紀]
事項 天平勝宝5年1月11日 年紀 作者:大伴家持 動物 植物
訓異 うぐひすの;うくひすの,
   
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題詞 十二日侍於内裏聞千鳥喧作歌一首
題訓 十二日とをかまりふつかのひ、内裏おほうちに侍さもらひて、千鳥を聞きてよめる歌一首
原文 河渚尓母 雪波布礼々之 <宮>裏 智杼利鳴良之 為牟等己呂奈美
訓読 川洲にも雪は降れれし宮の内に千鳥鳴くらし居む所なみ
仮名 かはすにも ゆきはふれれし みやのうちに ちどりなくらし ゐむところなみ
左注 なし
校異 宮乃→宮 [元][類]
事項 天平勝宝5年1月12日 年紀 作者:大伴家持 宮廷 動物
訓異 ちどりなくらし;ちとりなくらし, ゐむところなみ;すむところなみ,
   
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題詞 二月十九日於左大臣橘家宴見攀折柳條歌一首
題訓 二月きさらきの十九日とをかまりここのかのひ、左大臣橘の家の宴に、攀ぢ折とれる柳の條えだを見る歌一首
原文 青柳乃 保都枝与治等理 可豆良久波 君之屋戸尓之 千年保久等曽
訓読 青柳の上枝攀ぢ取りかづらくは君が宿にし千年寿くとぞ
仮名 あをやぎの ほつえよぢとり かづらくは きみがやどにし ちとせほくとぞ
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝5年2月19日 年紀 作者:大伴家持 宴席 橘諸兄 植物 寿歌
訓異 あをやぎの;あをやきの, ほつえよぢとり;ほつえよちとり, かづらくは;かつらくは, きみがやどにし;きみかやとにし, ちとせほくとぞ;ちとせほくとそ,
   
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題詞 廿三日依興作歌二首
題訓 二十三日はつかまりみかのひ、興ことに依つけてよめる歌二首
原文 春野尓 霞多奈i伎 宇良悲 許能暮影尓 鴬奈久母
訓読 春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影に鴬鳴くも
仮名 はるののに かすみたなびき うらがなし このゆふかげに うぐひすなくも
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝5年2月23日 年紀 作者:大伴家持 動物 春愁 叙景 依興 悲嘆
訓異 かすみたなびき;かすみたなひき, うらがなし;うらかなし, このゆふかげに;このゆふかけに, うぐひすなくも;うくひすなくも,
   
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題詞 (廿三日依興作歌二首)
原文 和我屋度能 伊佐左村竹 布久風能 於等能可蘇氣伎 許能由布敝可母
訓読 我が宿のい笹群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも
仮名 わがやどの いささむらたけ ふくかぜの おとのかそけき このゆふへかも
左注 なし
校異 なし
事項 天平勝宝5年2月23日 年紀 作者:大伴家持 依興 植物
訓異 わがやどの;わかやとの, ふくかぜの;ふくかせの,
   
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題詞 廿五日作歌一首
題訓 二十五日はつかまりいつかのひ、よめる歌一首
原文 宇良々々尓 照流春日尓 比婆理安我里 情悲毛 比<登>里志於母倍婆
訓読 うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独し思へば
仮名 うらうらに てれるはるひに ひばりあがり こころかなしも ひとりしおもへば
左注 春日遅々鶬鶊正啼 悽惆之意非歌難撥耳 仍作此歌式展締緒 但此巻中不稱 作者名字徒録年月所處縁起者 皆大伴宿祢家持裁作歌詞也
校異 等→登 [元][類][文][紀]
事項 天平勝宝5年2月25日 年紀 作者:大伴家持 悲嘆 春愁 動物 孤独
訓異 ひばりあがり;ひはりあかり, ひとりしおもへば;ひとりしおもへは,