奥の細道 松島:原文対照

塩竃 奥の細道
松島
瑞巌寺


『おくのほそ道』
素龍清書原本 校訂
『新釈奥の細道』
   そもそも、ことふりにたれど、 抑事ふりにたれど
  松島は扶桑第一の好風にして、 松島は扶桑第一の好風にして
  およそ洞庭、西湖を恥ぢず。 凡洞庭西湖をはぢず
  東南より海を入れて、 東南より海入てにヲ落セシナラン
  江のうち三里、浙江の潮をたたふ。 江の中三里浙江の潮をたゝゆ
     
  島々の数をつくして、 島々の數を盡して
  そばだつものは天を指さし、 欹ものは天を指
  伏すものは波にはらばふ。 ふすものは波に圃匍ノ誤リナリ
  あるは二重に重なり、三重にたたみて、 あるは二重にかさなり三重にたゝみて
  左にわかれ右に連なる。 左にわかれ右に連る
  負へるあり、抱けるあり、児孫愛すがごとし。 負るあり抱あり兒孫を愛するがごとし
     
  松の緑こまやかに、枝葉潮風に吹きたわめて、 松のみどり濃に枝葉汐風に吹たはめて
  屈曲おのづから矯めたるがごとし。 屈曲をのづからためたるがごとし
  その気色、窅然として美人の顔を粧ふ。 其けしき窅然として美人の顏を粧
     
  ちはやぶる神の昔、 ちはやぶる神の昔
  大山つみのなせるわざにや。 大やまずみのなせるわざにや
  造化の天工 造化の天工
  いづれの人か筆をふるひ、ことばを尽くさむ。 いづれの人か筆を揮ひ詞をつくさん
     
   雄島が磯は、地続きて海に出でたる島なり。 雄島がいそは地づつきて海に出たる島也
  雲居禅師の別室の跡、座禅石などあり。 雲居禪師の別室の跡坐禪の石など有り
  はた、松の木陰に世をいとふ人も はた松の木陰に世をいとふ人も
  まれまれ見え侍りて、 まれ〳〵見へ侍りて
  落ち穂・松かさなどうちけぶりたる草の庵、 落穗松笠などうち烟たる艸の庵
  静かに住みなし、 しづかにすみなし
  いかなる人とは知られずながら、 いかなる人とも一本はトアリしられずなから
  まづなつかしく立ち寄るほどに、 先懷敷立寄るほどに
  月、海に映りて、昼のながめ、またあらたむ。 月海にうつりて晝のなかめ又改む
  江上に帰りて宿を求むれば、 江上にかへりて宿を求れば
  窓を開き二階を作りて、 窓をひらき二階をつくりて
  風雲の中に旅寝するこそ、 風雲の中に旅寢するこそ
  あやしきまで、妙なる心地はせらるれ。 あやしき迄妙なる心地はせらるれ
     

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 松島や 鶴に身を借れ ほととぎす  曾良  松島や 露に身をかれ 時鳥  曾良
     
   予は口を閉ぢて眠らんとして寝ねられず。 予は口を閉て眠らんとしてねられず
  旧庵を別るるとき、素堂、松島の詩あり。 舊庵をわかるゝ時素堂松島の詩有
  原安適、松が浦島の和歌を贈らる。 原安適松がうら島の和歌を送らる
  袋を解きて、こよひの友とす。 袋をといてこよひの友とす
  かつ、杉風、濁子が発句あり。 且杉風濁子が發句あり
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松島
瑞巌寺