紫式部集30 四方の海に:原文対訳・逐語分析

29湖の 紫式部集
第三部
言い寄る夫

30四方の海に
31紅の
原文
(実践女子大本)
現代語訳
(渋谷栄一)
注釈
【渋谷栄一】
歌絵に  歌絵に  
海人の塩焼くかたを描きて、 海人が塩を焼いている絵を描いて、  
樵り積みたる 木を切って積み上げた  
投げ木のもとに書きて、 薪の側に書いて、 【投げ木】-薪のこと。「投げ木」は「嘆き」を響かす。
返しやる。 返歌をやる。  
     
四方の海に あちこちの海で 【四方の海に塩焼く】-あちこちの海岸で藻塩を焼く、宣孝をあちこちの女性に言い寄っては恋の嘆きをしているという。
塩焼く海人の 塩を焼く海人のように  
心から 自分から  
焼くとはかかる 焦がれているとはこのような  
投げ木をや積む 嘆きを重ねているのでしょうか 【投げ木をや積む】-「投げ木」は「嘆き」を掛ける。係助詞「や」疑問の意。「積む」の主語はあなた。
     

参考異本=後世の二次資料

「歌絵に、あまのしほやくところにこりつみたる木の本にかきて、人のもとにつかはしける
よもの海のひほくむ海士の心からやくとはかかるなげきをやつむ」(吉田兼右筆本「続千載集」雑中 一八六四)