古事記 大猪子と大根の歌~原文対訳

あをによし 古事記
下巻①
16代 仁徳天皇
イワヒメ皇后の嫉妬
8 大猪子と大根
紅色と口姫
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)

いけいけ鳥山(猪を食い止めよ。無理)

     
天皇。聞
看其大后。
自山代上幸而。
 天皇、
その大后は
山代より上り幸でましぬと
聞こしめして
天皇は
皇后樣が山城を通つて
上つておいでになつたと
お聞き遊ばされて、
     
使舍人。
名謂鳥山人。
舍人名は
鳥山といふ人を使はして
トリヤマという舍人とねりを
お遣りになつて
送御歌曰。 御歌を送りたまひしく、 歌をお送りなさいました。
その御歌は、
     
夜麻斯呂邇 山代に 山城やましろに
伊斯祁登理夜麻 いしけ鳥山、 追おい附つけ、トリヤマよ。
伊斯祁伊斯祁 いしけいしけ 追い附け、追い附け。
阿賀波斯豆麻邇 吾あが愛はし妻づまに 最愛の我が妻に
伊斯岐阿波牟加母 いしき遇はむかも。 追い附いて逢えるだろう。
     

大猪子(太い腹・石姫・毛深い)

     
又續遣
丸邇臣
口子而。
 また續ぎて
丸邇わにの臣
口子くちこを遣して
 續つづいて
丸邇わにの臣おみ
クチコを遣して、
歌曰。 歌よみしたまひしく、 御歌をお送りになりました。
     
美母呂能 御諸みもろの ミモロ山の
曾能多迦紀那流 その高城たかきなる 高臺たかだいにある
意富韋古賀波良 大猪子おほゐこが原。 オホヰコの原。
意富韋古賀 大猪子が  その名のような大豚おおぶたの
波良邇阿流 腹にある、 腹にある
岐毛牟加布 肝向ふ 向き合つている臟腑きも、
許許呂袁陀邇迦 心をだにか せめて心だけなりと
阿比淤母波受阿良牟 相思おもはずあらむ。 思わないで居られようか。
     

大根白い(太い足・黒姫・ツルツル)

     
又歌曰。  また歌よみしたまひしく、  またお歌い遊ばされました御歌、
     
都藝泥布 つぎねふ 山やままた山やまの
夜麻志呂賣能 山代女の 山城の女が
許久波母知 木钁こくは持ち 木の柄のついた鍬くわで
宇知斯淤富泥 打ちし大根、 掘つた大根、
泥士漏能 根白 その眞白まつしろな
斯漏多陀牟岐 白腕しろただむき、 白い腕を
麻迦受祁婆許曾 纏まかずけばこそ 交かわさずに來たなら、
斯良受登母伊波米 知らずとも言はめ。 知らないとも云えようが。
あをによし 古事記
下巻①
16代 仁徳天皇
イワヒメ皇后の嫉妬
8 大猪子と大根
紅色と口姫