紫式部集28 春なれど:原文対訳・逐語分析

27ふるさとに 紫式部集
第二部
近江・越前

28春なれど
29湖の
原文
(実践女子大本)
現代語訳
(渋谷栄一)
注釈
【渋谷栄一】
年かへりて、  新年となって、 【年かへりて】-長徳三年(九九七)正月。
「唐人見に行かむ」 「唐人を見に行こう」 【唐人】-長徳元年(九九五)九月に宋人七十余人が交易を求めて若狭国に漂着し越前国に移されていた(『日本紀略』長徳元年九月六日条)。作者の父藤原為時は長徳二年に越前国司に任命され、その人らと漢詩文を交換しあい交渉にあたった。
と言ひける人の、 と言っていた人が、

【見に行かむと言ひける人】-のち作者の夫となる藤原宣孝とされる。京都から越前国へ唐人を見にいこう、の意。

〈しかし歌の前後の対応から、以降の夫が言い寄る歌とではなく27ふるさとにの歌と対をなしているので、夫の歌と解する根拠はない〉

「春はとく来るものと、 「春は早く来るものと、 【とく来る】-「とくる」とする伝本もある。それによれば、「春は解くるもの」となる。「雪解け」と「心解く」の掛詞となる。
いかで知らせたてまつらむ」 何とかしてお知らせ申そう」  
と言ひたるに、 と言ったので、  
     
春なれど 春とはなりましたが、  
白根の深雪 白山の深雪は 【白根の深雪】-越前国の加賀の白山。標高約二千七百米。歌枕。
いや積もり ますます降り積もって  
解くべきほどの いつ雪解けとなるかは 【解くべきほど】-「雪解け」と「心解く〈打ち解く〉」の掛詞。宣孝の求婚を受け入れる、意。
いつとなきかな 分かりませんわ