古今和歌集 巻十二 恋二:歌の配置・コメント付

巻十一
恋一
古今和歌集
巻十二
恋歌二
巻十三
恋三
目次
  552
小町
553
小町
554
小町
555
素性
556
清行
557
小町
558
敏行
559
敏行
560
美材
561
友則
562
友則
563
友則
564
友則
565
友則
566
忠岑
567
興風
568
興風
569
興風
570
不知
571
不知
572
貫之
573
貫之
574
貫之
575
素性
576
忠房
577
千里
578
敏行
579
貫之
580
躬恒
581
深養
582
不知
583
貫之
584
躬恒
585
深養
586
忠岑
587
貫之
588
貫之
589
貫之
590
是則
591
大頼
592
忠岑
593
友則
594
友則
595
友則
596
友則
597
貫之
598
貫之
599
貫之
600
躬恒
601
忠岑
602
忠岑
603
深養
604
貫之
605
貫之
606
貫之
607
友則
608
躬恒
609
忠岑
610
列樹
611
躬恒
612
躬恒
613
深養
614
躬恒
615
友則
 
 
※先頭三連続はこの小町のみ。仮名序とも合わせ、とりわけ重視している。
 数は関係ない。レベルが違う。そういう配置。
 この時代の女性で一人だけ、役職と無関係に姓名で呼ばれる。女性を象徴する女性。
 他に先頭連続は、秋下の文屋、物名の敏行のみ。
 古今で最も厚い秋と恋とで対をなしている配置。つまり二人は一緒の存在。縫殿で。
 つまり小町針という男達を徹底拒絶するエピソード。それが竹取の素材。だから帝の女事情などを女側の目線で描いている。縫殿が後宮の女所だから。つまり文屋の作。
 加えて、業平は続く恋三で敏行により連続が崩される(業平・敏行・業平)。つまり貫之は業平を認めていない。つまり伊勢は文屋の作。それが貫之が配置で示した意志(古今4・8・9の配置。二条の后・文屋・貫之)。それが文屋に唯一完全オリジナルの二条の后の詞書を二つも与えている意味。二条の后は歌で有名なのではない。伊勢で有名なのである。でなければ一首のみの彼女が先頭行に配置されない。したがって伊勢は文屋の完全オリジナル。業平の歌の引用ではない。それが貫之による配置の意志。
 伊勢竹取の大元、だから仮名序でもそれを称え、ここまであからさまな配置を作っている。といっても誰もその意義を見なかった。
 配置は視野の広さがないと見れない。表面的理解ではない古の網羅的理解。それが古典本来の理解。通説の与えた答をひたすら覚え続けることは理解ではない。それはただ覚えたというだけ。根本的に自分で考えてはいない。つまり普通。古典の著者は、普通の多数の感性ではない。突出している。流行(多数の説)には流されない、かつ確実な理解がある。それが時を超えて残る理由。
 だから古典を残した貫之は撰者でも別格。同列ではない。レベルが違う。そのレベル(古の理解力)は古典の位置づけと影響力そのもの。だから伊勢竹取は別格。その絶対の実力・実績を認められないのはひとえにその人の認識による。

 
 

巻十二:恋二

   
   0552
詞書 題しらす
作者 小野小町
原文 思ひつつ ぬれはや人の 見えつらむ
 夢としりせは さめさらましを
かな おもひつつ ぬれはやひとの みえつらむ
 ゆめとしりせは さめさらましを
   
  0553
詞書 題しらす
作者 小野小町
原文 うたたねに 恋しきひとを 見てしより
 夢てふ物は 思みそめてき
かな うたたねに こひしきひとを みてしより
 ゆめてふものは たのみそめてき
   
  0554
詞書 題しらす
作者 小野小町
原文 いとせめて こひしき時は むは玉の
 よるの衣を 返してそきる
かな いとせめて こひしきときは うはたまの
 よるのころもを かへしてそきる
   
  0555
詞書 題しらす
作者 素性法師
原文 秋風の 身にさむけれは つれもなき
 人をそたのむ くるる夜ことに
かな あきかせの みにさむけれは つれもなき
 ひとをそたのむ くるるよことに
   
  0556
詞書 しもついつもてらに人のわさしける日、
真せい法しの
たうしにていへりける事を歌によみて
をののこまちかもとにつかはしける
作者 あへのきよゆきの朝臣(安倍清行)
原文 つつめとも 袖にたまらぬ 白玉は
 人を見ぬめの 涙なりけり
かな つつめとも そてにたまらぬ しらたまは
 ひとをみぬめの なみたなりけり
   
  0557
詞書 返し
作者 こまち(小野小町)
原文 おろかなる 涙そそてに 玉はなす
 我はせきあへす たきつせなれは
かな おろかなる なみたそそてに たまはなす
 われはせきあへす たきつせなれは
   
  0558
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 藤原としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 恋ひわひて 打ちぬる中に 行きかよふ
 夢のたたちは うつつならなむ
かな こひわひて うちぬるなかに ゆきかよふ
 ゆめのたたちは うつつならなむ
   
  0559
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 藤原としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 住の江の 岸による浪 よるさへや
 ゆめのかよひち 人めよくらむ
かな すみのえの きしによるなみ よるさへや
 ゆめのかよひち ひとめよくらむ
コメ 百人一首18
すみのえの きしによるなみ よるさへや
 ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ
/住の江の 岸に寄る浪 よるさへや
 夢の通ひ路 人目よくらむ
   
  0560
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 をののよしき
原文 わかこひは み山かくれの 草なれや
 しけさまされと しる人のなき
かな わかこひは みやまかくれの くさなれや
 しけさまされと しるひとのなき
   
  0561
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 紀とものり(紀友則)
原文 よひのまも はかなく見ゆる 夏虫に
 迷ひまされる こひもするかな
かな よひのまも はかなくみゆる なつむしに
 まよひまされる こひもするかな
   
  0562
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 紀とものり(紀友則)
原文 ゆふされは 蛍よりけに もゆれとも
 ひかり見ねはや 人のつれなき
かな ゆふされは ほたるよりけに もゆれとも
 ひかりみねはや ひとのつれなき
   
  0563
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 紀とものり(紀友則)
原文 ささのはに おく霜よりも ひとりぬる
 わか衣手そ さえまさりける
かな ささのはに おくしもよりも ひとりぬる
 わかころもてそ さえまさりける
   
  0564
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 紀とものり(紀友則)
原文 わかやとの 菊のかきねに おくしもの
 きえかへりてそ こひしかりける
かな わかやとの きくのかきねに おくしもの
 きえかへりてそ こひしかりける
   
  0565
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 紀とものり(紀友則)
原文 河のせに なひくたまもの みかくれて
 人にしられぬ こひもするかな
かな かはのせに なひくたまもの みかくれて
 ひとにしられぬ こひもするかな
   
  0566
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 みふのたたみね(壬生忠岑)
原文 かきくらし ふる白雪の したきえに
 きえて物思ふ ころにもあるかな
かな かきくらし ふるしらゆきの したきえに
 きえてものおもふ ころにもあるかな
   
  0567
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 藤原おきかせ(藤原興風)
原文 君こふる 涙のとこに みちぬれは
 みをつくしとそ 我はなりぬる
かな きみこふる なみたのとこに みちぬれは
 みをつくしとそ われはなりぬる
   
  0568
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 藤原おきかせ(藤原興風)
原文 しぬるいのち いきもやすると 心みに
 玉のをはかり あはむといはなむ
かな しぬるいのち いきもやすると こころみに
 たまのをはかり あはむといはなむ
   
  0569
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 藤原おきかせ(藤原興風)
原文 わひぬれは しひてわすれむと 思へとも
 夢といふ物そ 人たのめなる
かな わひぬれは しひてわすれむと おもへとも
 ゆめといふものそ ひとたのめなる
   
  0570
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 よみ人しらす
原文 わりなくも ねてもさめても こひしきか
 心をいつち やらはわすれむ
かな わりなくも ねてもさめても こひしきか
 こころをいつち やらはわすれむ
   
  0571
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 よみ人しらす
原文 恋しきに わひてたましひ 迷ひなはむ
 なしきからの なにやのこらむ
かな こひしきに わひてたましひ まよひなは
 むなしきからの なにやのこらむ
   
  0572
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 紀つらゆき(紀貫之)
原文 君こふる 涙しなくは 唐衣
 むねのあたりは 色もえなまし
かな きみこふる なみたしなくは からころも
 むねのあたりは いろもえなまし
   
  0573
詞書 題しらす
作者 紀つらゆき(紀貫之)
原文 世とともに 流れてそ行く 涙河
 冬もこほらぬ みなわなりけり
かな よとともに なかれてそゆく なみたかは
 ふゆもこほらぬ みなわなりけり
   
  0574
詞書 題しらす
作者 紀つらゆき(紀貫之)
原文 夢ちにも つゆやおくらむ よもすから
 かよへる袖の ひちてかわかぬ
かな ゆめちにも つゆやおくらむ よもすから
 かよへるそての ひちてかわかぬ
   
  0575
詞書 題しらす
作者 そせい法し(素性法師)
原文 はかなくて 夢にも人を 見つる夜は
 朝のとこそ おきうかりける
かな はかなくて ゆめにもひとを みつるよは
 あしたのとこそ おきうかりける
   
  0576
詞書 題しらす
作者 藤原たたふさ(藤原忠房)
原文 いつはりの 涙なりせは 唐衣
 しのひに袖は しほらさらまし
かな いつはりの なみたなりせは からころも
 しのひにそては しほらさらまし
   
  0577
詞書 題しらす
作者 大江千里
原文 ねになきて ひちにしかとも 春さめに
 ぬれにし袖と とははこたへむ
かな ねになきて ひちにしかとも はるさめに
 ぬれにしそてと とははこたへむ
   
  0578
詞書 題しらす
作者 としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 わかことく 物やかなしき 郭公
 時そともなく よたたなくらむ
かな わかことく ものやかなしき ほとときす
 ときそともなく よたたなくらむ
   
  0579
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 さ月山 こすゑをたかみ 郭公
 なくねそらなる こひもするかな
かな さつきやま こすゑをたかみ ほとときす
 なくねそらなる こひもするかな
   
  0580
詞書 題しらす
作者 凡河内みつね(凡河内躬恒)
原文 秋きりの はるる時なき 心には
 たちゐのそらも おもほえなくに
かな あききりの はるるときなき こころには
 たちゐのそらも おもほえなくに
   
  0581
詞書 題しらす
作者 清原ふかやふ(清原深養父)
原文 虫のこと 声にたてては なかねとも
 涙のみこそ したになかるれ
かな むしのこと こゑにたてては なかねとも
 なみたのみこそ したになかるれ
   
  0582
詞書 これさたのみこの家の歌合のうた
作者 よみ人しらす
原文 秋なれは 山とよむまて なくしかに
 我おとらめや ひとりぬるよは
かな あきなれは やまとよむまて なくしかに
 われおとらめや ひとりぬるよは
   
  0583
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 秋ののに みたれてさける 花の色の
 ちくさに物を 思ふころかな
かな あきののに みたれてさける はなのいろの
 ちくさにものを おもふころかな
   
  0584
詞書 題しらす
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 ひとりして 物をおもへは 秋のよの
 いなはのそよと いふ人のなき
かな ひとりして ものをおもへは あきのよの
 いなはのそよと いふひとのなき
   
  0585
詞書 題しらす
作者 ふかやふ(清原深養父)
原文 人を思ふ 心はかりに あらねとも
 くもゐにのみも なきわたるかな
かな ひとをおもふ こころはかりに あらねとも
 くもゐにのみも なきわたるかな
   
  0586
詞書 題しらす
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 秋風に かきなすことの こゑにさへ
 はかなく人の こひしかるらむ
かな あきかせに かきなすことの こゑにさへ
 はかなくひとの こひしかるらむ
   
  0587
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 まこもかる よとのさは水 雨ふれは
 つねよりことに まさるわかこひ
かな まこもかる よとのさはみつ あめふれは
 つねよりことに まさるわかこひ
   
  0588
詞書 やまとに侍りける人につかはしける
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 こえぬまは よしのの山の さくら花
 人つてにのみ ききわたるかな
かな こえぬまは よしののやまの さくらはな
 ひとつてにのみ ききわたるかな
   
  0589
詞書 やよひはかりに
物のたうひける人のもとに
又人まかりつつせうそこす
とききてつかはしける
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 露ならぬ 心を花に おきそめて
 風吹くことに 物思ひそつく
かな つゆならぬ こころをはなに おきそめて
 かせふくことに ものおもひそつく
   
  0590
詞書 題しらす
作者 坂上これのり(坂上是則)
原文 わかこひに くらふの山の さくら花
 まなくちるとも かすはまさらし
かな わかこひに くらふのやまの さくらはな
 まなくちるとも かすはまさらし
   
  0591
詞書 題しらす
作者 むねをかのおほより
原文 冬河の うへはこほれる 我なれや
 したになかれて こひわたるらむ
かな ふゆかはの うへはこほれる われなれや
 したになかれて こひわたるらむ
   
  0592
詞書 題しらす
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 たきつせに ねさしととめぬ うき草の
 うきたるこひも 我はするかな
かな たきつせに ねさしととめぬ うきくさの
 うきたるこひも われはするかな
   
  0593
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 よひよひに ぬきてわかぬる かり衣
 かけておもはぬ 時のまもなし
かな よひよひに ぬきてわかぬる かりころも
 かけておもはぬ ときのまもなし
   
  0594
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 あつまちの さやの中山 なかなかに
 なにしか人を 思ひそめけむ
かな あつまちの さやのなかやま なかなかに
 なにしかひとを おもひそめけむ
   
  0595
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 しきたへの 枕のしたに 海はあれと
 人を見るめは おひすそ有りける
かな しきたへの まくらのしたに うみはあれと
 ひとをみるめは おひすそありける
   
  0596
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 年をへて きえぬおもひは 有りなから
 よるのたもとは 猶こほりけり
かな としをへて きえぬおもひは ありなから
 よるのたもとは なほこほりけり
   
  0597
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 わかこひは しらぬ山ちに あらなくに
 迷ふ心そ わひしかりける
かな わかこひは しらぬやまちに あらなくに
 まよふこころそ わひしかりける
   
  0598
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 紅の ふりいてつつなく 涙には
 たもとのみこそ 色まさりけれ
かな くれなゐの ふりいてつつなく なみたには
 たもとのみこそ いろまさりけれ
   
  0599
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 白玉と 見えし涙も 年ふれは
 から紅に うつろひにけり
かな しらたまと みえしなみたも としふれは
 からくれなゐに うつろひにけり
   
  0600
詞書 題しらす
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 夏虫を なにかいひけむ 心から
 我も思ひに もえぬへらなり
かな なつむしを なにかいひけむ こころから
 われもおもひに もえぬへらなり
   
  0601
詞書 題しらす
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 風ふけは 峰にわかるる 白雲の
 たえてつれなき 君か心か
かな かせふけは みねにわかるる しらくもの
 たえてつれなき きみかこころか
   
  0602
詞書 題しらす
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 月影に わか身を かふる物ならは
 つれなき人も あはれとや見む
かな つきかけに わかみをかふる ものならは
 つれなきひとも あはれとやみむ
   
  0603
詞書 題しらす
作者 ふかやふ(清原深養父)
原文 こひしなは たか名はたたし 世中の
 つねなき物と いひはなすとも
かな こひしなは たかなはたたし よのなかの
 つねなきものと いひはなすとも
   
  0604
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 つのくにの なにはのあしの めもはるに
 しけきわかこひ 人しるらめや
かな つのくにの なにはのあしの めもはるに
 しけきわかこひ ひとしるらめや
   
  0605
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 手もふれて 月日へにける しらま弓
 おきふしよるは いこそねられね
かな てもふれて つきひへにける しらまゆみ
 おきふしよるは いこそねられね
   
  0606
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 人しれぬ 思ひのみこそ わひしけれ
 わか歎をは 我のみそしる
かな ひとしれぬ おもひのみこそ わひしけれ
 わかなけきをは われのみそしる
   
  0607
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 事にいてて いはぬはかりそ みなせ河
 したにかよひて こひしきものを
かな ことにいてて いはぬはかりそ みなせかは
 したにかよひて こひしきものを
   
  0608
詞書 題しらす
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 君をのみ 思ひねにねし 夢なれは
 わか心から 見つるなりけり
かな きみをのみ おもひねにねし ゆめなれは
 わかこころから みつるなりけり
   
  0609
詞書 題しらす
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 いのちにも まさりてをしく ある物は
 見はてぬゆめの さむるなりけり
かな いのちにも まさりてをしく あるものは
 みはてぬゆめの さむるなりけり
   
  0610
詞書 題しらす
作者 はるみちのつらき(春道列樹)
原文 梓弓 ひけは本末 わか方に
 よるこそまされ こひの心は
かな あつさゆみ ひけはもとすゑ わかかたに
 よるこそまされ こひのこころは
   
  0611
詞書 題しらす
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 わかこひは ゆくへもしらす はてもなし
 逢ふを限と 思ふはかりそ
かな わかこひは ゆくへもしらす はてもなし
 あふをかきりと おもふはかりそ
   
  0612
詞書 題しらす
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 我のみそ かなしかりける ひこほしも
 あはてすくせる 年しなけれは
かな われのみそ かなしかりける ひこほしも
 あはてすくせる とししなけれは
   
  0613
詞書 題しらす
作者 ふかやふ(清原深養父)
原文 今ははや こひしなましを あひ見むと
 たのめし夢そ いのちなりける
かな いまははや こひしなましを あひみむと
 たのめしことそ いのちなりける
   
  0614
詞書 題しらす
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 たのめつつ あはて年ふる いつはりに
 こりぬ心を 人はしらなむ
かな たのめつつ あはてとしふる いつはりに
 こりぬこころを ひとはしらなむ
   
  0615
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 いのちやは なにそはつゆの あた物を
 あふにしかへは をしからなくに
かな いのちやは なにそはつゆの あたものを
 あふにしかへは をしからなくに