枕草子275段 大蔵卿ばかり

成信の中将 枕草子
下巻中
275段
大蔵卿

硯きたなげ

(旧)大系:275段
新大系:256段、新編全集:257段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後は最も索引性に優れ三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:218段
 


 
 大蔵卿ばかり耳とき人はなし。まことに、蚊のまつげの落つるをも聞きつけ給ひつべうこそありしか。
 

 職の御曹司の西面に住みしころ、大殿の新中将宿直にて、ものなど言ひしに、そばにある人の、「この中将に、扇の絵のこと言へ」とささめけば、「いま、かの君の立ち給ひなむにを」といとみそかに言ひ入るるを、その人だにえ聞きつけで、「何とか、何とか」と耳をかたぶけ来るに、遠くゐて、「にくし。さ宣はば、今日は立たじ」と宣ひしこそ、いかで聞きつけ給ふらむとあさましかりしか。
 
 

成信の中将 枕草子
下巻中
275段
大蔵卿
うれしき