宇治拾遺物語:保輔、盗人たる事

青常 宇治拾遺物語
巻第十一
11-2 (125)
青常の事
晴明を試みる僧

 
 今は昔、丹後守保昌の弟に、兵衛尉にて、冠賜りて、保輔といふ者ありけり。盗人の長にてぞありける。
 家は姉が小路の南、高倉の東に居たりけり。家の奥に蔵を造りて、下を深う井のやうに堀りて、太刀、鞍、鎧、兜、絹、布など、万の売る者を呼び入れて、いふままに買ひて、「値を取らせよ」と言ひて、「奥の蔵の方へ具して行け」と言ひければ、「値賜らん」とて行きたるを、蔵の内へ呼び入れつつ、堀たる穴へ突き入れ突き入れして、持て来たる物をば取りけり。この保輔がり物持て入りたる者の、帰り行くなし。
 この事を物売怪しう思へども、埋み殺しぬれば、この事をいふ者なかりけり。
 

 これならず、京中押しありきて、盗みをして過ぎけり。この事おろおろ聞こえたりけれども、いかなりけるにか、捕へからめらるる事もなくてぞ過ぎにける。