宇治拾遺物語:樵夫、歌の事

虎の鰐取りたる 宇治拾遺物語
巻第三
3-8 (40)
樵夫、歌の事たる
伯の母

 
 今は昔、木こりの、山守に斧を取られて、わびし、心うしと思ひて、つら杖うちつきてをりける。山守見て、「さるべきことを申せ。とらせん」と言ひければ、
 

♪3
 あしきだに なきはわりなき 世の中に
 よきをとられて 我いかにせむ

 
 と詠みたりければ、山守、返しせんと思ひて、「うう、うう」とうめきけれど、えせざりけり。
 さて、斧返しとらせてければ、うれしと思ひけりとぞ。
 人はただ、歌をかまへてよむべしと見えたり。
 
 

虎の鰐取りたる 宇治拾遺物語
巻第三
3-8 (40)
樵夫、歌の事たる
伯の母