枕草子221段 行幸にならぶものはなににかはあらむ

賀茂の 枕草子
中巻下
221段
行幸に
祭のかへさ

(旧)大系:221段
新大系:205段-4、新編全集:206段-4
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後最も索引性に優れる三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:203段-4, 213段(行幸はめでたきもの)。中段部分ナシ
 


 
 行幸にならぶものはなににかはあらむ。御輿に奉るを見奉るには、あけくれ御前に候ひつかうまつるともおぼえず、神々しく、いつくしう、いみじう、つねはなにともみえぬなにつかさ、姫まうちぎみさへぞ、やむごとなくめづらしくおぼゆるや。
 御綱の助の中、少将、いとをかし。近衛の大将、ものよりことにめでたし。近衛司こそなほいとをかしけれ。
 

 五月こそ世に知らずなまめかしきものなりけれ。されど、この世に絶えにたることなめれば、いとくちをし。昔語に人のいふを聞き、思ひあはするに、いかなりけむ。ただその日は菖蒲うち葺き、世の常のありさまだにめでたきをも、殿のありさま、所々の御桟敷どもに、菖蒲葺きわたし、よろづの日とども菖蒲鬘して、あやめの蔵人、かたちよきかぎり選りていだされて、薬玉賜はすれば、拝して腰につけなどしけむほど、いかなりけむ。
 ゑいのすいゑうつりよきもなどうちけむこそ、をこにもをかしうもおぼゆれ。かへらせ給ふ御輿のさきに、獅子、狛犬など舞ひ、あはれさることのあらむ、ほととぎすうち鳴き、ころのほどさへ似るものなかりけむかし。
 

 行幸はめでたきものの、君達、車などのこのましう乗りこぼれて、上下走らせなどするがなきぞくちをしき。さらうなる車のおしわけて立ちなどするこそ、心ときめきはすれ。
 
 

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