紫式部集97 世にふるに:原文対訳・逐語分析

96花薄葉 紫式部集
第八部
月影の人

97世にふるに
異本88
98心ゆく
原文
実践女子大本
(定家本系筆頭)
現代語訳
(渋谷栄一)
注釈
【渋谷栄一】
わづらふことあるころなりけり。  病気をしているころのことであった。  
「貝沼の池といふ所なむある」と、 「貝沼の池という所がある」と、 【貝沼の池】-陸奥国にある池。
人のあやしき歌語りするを聞きて、 人の不思議な歌語りをするのを聞いて、 【歌語り】-歌にまつわる話。
「心みに詠まむ」と言ふ。 「試みに歌を詠もう」と言う歌。  
     
世にふるに 世の中に生きているなかでどうして貝沼ではないが、  
なぞ貝沼の   【貝沼】-「貝沼」と「甲斐」の掛詞。
いけらじと 生きる甲斐がないと 【いけらじ】-「池」と「生け」の掛詞。
思ひぞ沈む 思い沈むことだ、  
底は知らねど どこそこと池の底は知らないけれど 【底】-「底」と「其処」の掛詞。