枕草子186段 位こそなほめでたき物はあれ

したり顔 枕草子
中巻中
186段
位こそ
かしこき

(旧)大系:186段
新大系:179段、新編全集:179段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:184段
 


 
 位こそなほめでたき物はあれ。おなじ人ながら、大夫の君、侍従の君など聞こゆる折は、いとあなづりやすきものを、中納言、大納言、大臣などになり給ひては、むげにせくかたもなく、やむごとなうおぼえ給ふことのこよなさよ。ほどほどにつけては、受領などもみなさこそはあめれ。あまたくににいき、大弍や四位、三位などになりぬれば、上達部などもやむごとながり給ふめり。
 

 女こそなほわろけれ。内裏わたりに、御乳母は内侍のすけ、三位などになりぬればおもしろけれど、さりとてほどより過ぎ、なにばかりのことかはある。
 また、おほくやはある。受領の北の方にて国へくださるをこそは、よろしき人のさいはひの際と思ひてめでうらやむめれ。ただ人の上達部の北の方になり、上達部の御むすめ后にゐ給ふこそは、めでたきものなめれ。
 

 されど、男はなほわかき身のなりいづるぞいとめでたしかし。法師などのなにがしなどいひてありくは、なにとかは見ゆる。経たふとくよみ、みめきよげなるにつけても、女房にあなづられてなりかかりこそすめれ。僧都、僧正になりぬれば、仏のあらはれ給へるやうに、おぢまどひかしこまるさまは、なににか似たる。
 
 

したり顔 枕草子
中巻中
186段
位こそ
かしこき