枕草子98段 くちをしきもの

あさましき 枕草子
上巻下
98段
くちをしき
五月の御精進

(旧)大系:98段
新大系:94段、新編全集:94段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:103段
 

新大系段冒頭:口惜くちをしきもの


 
 くちをしきもの 五節、御仏名に雪降らで、雨のかきくらし降りたる。節会などに、さるべき御物忌のありたる。いとなみ、いつしかと待つことの、さはりあり、にはかにとまりぬる。あそび、もしは見すべきことありて、呼びにやりたる人の来ぬ、いとくちをし。
 

 男も女も法師も、宮仕所などより、おなじやうなる人、もろともに寺へもまうで、ものへも行くに、このましうこぼれ出で、用意、よくいはば、けしからず、あまり見苦しとも見つくべくぞあるに、さるべき人の、馬にても車にても行きあひ、見ずなりぬる、いとくちをし。わびては、すきずきしき下衆などの、人などに語りつべからむをがなと思ふも、いとけしからず。