竹取物語~今は昔

原文全文 竹取物語
今は昔
夜這い
  竹取物語
(國民文庫)
竹とりの翁物語
(群書類從)
1  今は昔  今はむかし。
2 竹取の翁といふものありけり。 竹とりの翁といふものありけり。
3 野山にまじりて、竹をとりつゝ、
萬の事につかひけり。
野にまじりて竹をとりつゝ
萬の事につかひけり。
4 名をば讃岐造麿と
なんいひける。
名をばさぬ(るイ)きの宮つこと
なむいひける。
 
5 その竹の中に、
本光る竹ひとすぢありけり。
其竹の中に
本光る竹なむ一すぢ有けり。
6 怪しがりて寄りて見るに、 あやしがりて寄て見るに。
7 筒の中ひかりたり。 つゝの中ひかりたり。
 
8 それを見れば、
三寸ばかりなる人いと美しうて居たり。
それを見れば
三寸ばかりなる人いとうつくしうてゐたり。
9 翁いふやう、 翁云やう。
10 われ朝ごと夕ごとに見る、
竹の中におはするにて知りぬ、
我朝每夕每にみる
竹の中におはするにてしりぬ。
11 子になり給ふべき人なンめり。とて、 子になりたまふべき人なめりとて。
12 手にうち入れて家にもてきぬ。 手に打入て家に(へイ)もちて來ぬ。
 
13 妻の嫗にあづけて養はす。 めの女にあづけてやしなはす。
14 美しきこと限なし。 うつくしき事限なし。
15 いと幼ければ
籠に入れて養ふ。
いとおさなければ
こ(はこイ、籠)に入てやしなふ。
 
16 竹取の翁 竹とりの・(翁イ)竹をとるに。
17 この子を見つけて後に、竹をとるに、 此子を見つけて後に竹とるに。
18 よ毎に、金ある竹を見つくること重りぬ。 よごとにこがねある竹を見つくる事かさなりぬ。
19 かくて翁やう\/豐になりゆく。 かくておきなやうやうゆかたになり行。
 
20 この兒養ふほどに、
すく\/と大になりまさる。
この兒やしなふほどに
すくすくとおほきになり增る。
21 三月ばかりになる程に、
よきほどなる人になりぬれば、
三月計の內に
よきほどなる人になりぬれば。
22 髪上などさだして、 かみあげなどさう(たイ)じて。
23 髪上せさせ裳着(もぎ)す。 かみあげさせも(裳)きす。
 
24 帳(ちやう)の内よりも出さず、 ちやうのうちよりもいださず。
25 いつきかしづき養ふほどに、 いつきかしづきやしなふ。
26 この兒のかたち
清(けう)らなること世になく、
此兒のかたちの
けさう(けうらイ)なる事よになく。
27 家の内は暗き處なく光滿ちたり。 屋のうちは闇き所なく光滿たり。
 
28 翁心地あしく苦しき時も、 翁心あしく候へし時も。
29 この子を見れば苦しき事も止みぬ。 此子をみればくるしき事もやみぬ。
30 腹だたしきことも慰みけり。 腹だたしくあることもなぐさみけり。
31 翁竹をとること久しくなりぬ。 翁竹をとる事久敷成ぬ。
32 勢猛の者になりにけり。 いきほひまう(猛)の物に成にけり。
 
33 この子いと大になりぬれば、 此子いと大きに成ぬれば。
34 名をば
三室戸齋部秋田を呼びてつけさす。
なを
みむろどいむべのあきたを喚てつけさす。
35 秋田なよ竹のかぐや姫とつけつ。 あきたなよ竹のかくや姫とつけつれ。
36 このほど三日うちあげ遊ぶ。 此ほど三日打あげあそぶ。
37 萬の遊をぞしける。 萬のあそびをぞしける。
38 男女(をとこをうな)きらはず呼び集へて、
いとかしこくあそぶ。
男はうけきらはずよびつどへて
かしこくあそぶ。
原文全文 竹取物語
今は昔
夜這い

原文対訳

 

原文 現代語訳 解説
 今は昔 今はもう昔 「今は昔」は物語一般の導入とされるが、宇治拾遺・今昔物語でそれをいうならともかく、物語の始祖とされる竹取以前の一般的用法はあるのだろうか。
竹取の翁といふもの
ありけり
竹取の翁というものが
いた
竹取翁は万葉16巻の長歌物語の人物。車持・石上も万葉にある名。素養ある人にはわかる名だが相当深いレベルの知識。そういう背景が全くないと関係あるのか分からない。通な人がちょっと楽しめる類の呼称。古典を参照してオリジナル化するのが古典の基本。基本=本に基づく。本とは、本歌取りの本の類で、誰でも知る参照するに足る本(古典)。
けりは過去。伝聞と分類されるがその必然がない。この物語は創作で、なり・たり・けりは同類の言い切り形。それを伝聞とは「き・けり」を説明しようとする学者都合の分類。萬の遊びというのに管弦一択という位、人心を無視したドグマ(後述)。古文には多くこの種のドグマがはびこっている。そしてそれは一番最初の肝心な部分の解釈ほどそうなる。
野山にまじりて竹をとりつゝ
萬の事につかひけり
野山にまじって竹をとりつつ
色んなことに使っていた
「まじって」はそのままで通じるだろう。著者なりのドワーフ的な土民の文学的表現。悪い意味ではない(天人の発言)。
分け入ってとすると山と一体化してない。
名をば
讃岐造麿
(さぬ(る)きの宮つこ)と
なんいひける
名を、
さぬきのみやつこと
いった
さぬきは表現がぶれるが、素直に地名と見る。「三室戸(齋部秋田)」と並ぶ讃岐。
みやつこ=古代の氏族。
自称は造麿(さぬきみやつこまろ≒ウルトラマンタロウ→下の名はマンタロウかタロウ。これは裳着+す、裳+着すと同じ構図)。
     
その竹の中に
本光る竹ひとすぢありけり
その竹の中に
根本が光る竹が一本あった。
 
怪しがりて
寄りて見るに
怪訝に思って
寄ってみると、
一般に「不思議に思って」とされるが、字義を重んじ極力「怪」を入れる。「怪し」で十分通るのに安易に置き換えない。自分が知る山で発光体を見たら不安にならないか。不思議・奇妙というのはかなり抜けている。第一に普遍の字義を重んじる。語義には字義によるコア概念があり、出口が異なったからといって古今異義というのは違う。コアが異なれば異義。
寄ってみる(してみる)or寄って*見る。
筒の中ひかりたり 筒の中が光っていた。 古事記のかぐや姫の姓は大筒木。大筒木を解釈すると竹になる。
     
それを見れば、
三寸ばかりなる人
いと美しうて居たり
それを見ると、
9cmほどの人が
たいそう可愛らしくしていた

別に美しいでも問題ない。愛と美は密接不可分。少なくとも完全に別々ではないし、可愛くないとおかしいという文脈でもない。かぐやは清らな美女なのであり、そういう美人は小さい時から可愛いというより美人。ここは子ではなく人。天人を地球人の尺度ではからない。
一般に「ゐた」が「座っていた」とされるが、座っている必然も、座るを補う必要もない。人がいるはずがない所にいたのだから、国文大観のように「居た(存在した)」で足りる。「座っている」は文脈無視のドグマ的解釈の象徴的なもの。

翁いふやう 翁が言う様には、  
われ朝ごと夕ごとに見る
竹の中におはするにて
知りぬ
わしが朝ごと夕ごとに見る
竹の中にいらっしゃるので
分かった。
一般は「毎朝毎晩」とするが、置き換える必要性がないというか、夕と晩は異義のような気がするのだが。
それに毎晩なら、後述の「よごと」は夜毎でも全然いい。無理に節を当てる必然がない。ここでの知るは、理解。知るの意味? あ~知ってる知ってる(完全に理解)。
子になり給ふべき人
なンめり
わが子になりなさるべき人
のようだ!
なめり=なる(断定)+めり(推定・婉曲)。
ここは超展開(論理の飛躍)を笑う所。練られていないとかじゃなくネタ。
とて
手にうち入れて
家にもてきぬ
といって、
手にうち(さっと・ひょいと)入れて、
家に持ってかえって来た。
ウチ(内×家)掛かり。手に入れる(しまう×ゲットする)掛かり。
     
妻の嫗(めの女)にあづけて
養はす
めの女(め)に預けて
養わせる。
原文を比べると妻か不明。最後に翁とセットで泣いているが、妻として独立した描写はなく意図的に避けたと見れる。つまり著者はこういう関係を妻と言いたくない。この物語のテーマの一つは一応男女関係(結婚したらどうなるか)。「みんなしてる」幻滅は著者は嫌い。
美しきこと限なし 可愛らしいこと限りない。 美しいでも間違いじゃない。可愛いはあくまで個人的情緒で、表面は美し。
いと幼ければ
籠(こ・はこ・かご)に入れて養ふ
とても幼いので、
ハコに入れて養う。
箱入り娘の象徴表現。読みは色々ぶれる。
コという読みと子との掛かりを強調するのもあるが、自分の子と思ったのは竹取のカゴ(コ)に入るから、とかいうのは論理が逆。箱の読みと子が掛かるのではなく、箱入り娘の暗示と見る所。何より娘をコとよむ渋い用法がある(あの娘がほしい)。
     
竹取の翁
(竹をとるに)
竹取の翁なので
竹をとるが
ここは表現がブレるが(つまり難儀)、「に」が前後で異なり、逆接と順説になると見る。
この子を見つけて後に、
竹をとるに、
この子を見つけた後で
竹をとると
 
(節を隔てて) 時節を隔てて ここは国文大観・群書類従共にないが、教科書では流布している信頼度低めの表現。
一般は「節」を竹の節と解するが、後の「やうやう」から左のように解する。
よ毎(よごと)に 夜ごとに 一般は「よ」に節を当て、筒の中の空間とみるが、「朝ごと夕ごと」からこう見る。
節=ヨという当ては無理だろう。それが無理だから「節を隔てて」が補われたのかもしれない。つまりこの部分の解釈は難儀であった。
金ある竹を見つくること
重りぬ
こがねある竹を見つけることが
重なった
 
かくて翁
やう\/豐になりゆく
こうして翁は
だんだん豊かになっていく。
竹の節ごとに金が見つかるなら、やうやうとはならない。
     
この兒養ふほどに、
すく\/と大になりまさる
この子は、養ううちに、
すくすく(すぐ)大きく成長した。
やうやう・すくすくで対をなす。なりまさる=ますます…になる。すくすく、のくりかえし記号の省略ですぐ。原文の表記を見られたい。
三月ばかりになる程に、
よきほどなる人になりぬれば
三か月くらいになる頃に、
良い頃合いの人になったので、
三が古文でよく用いられるのではなく、数字を象徴的に用いているだけ。ちょっと(一寸)ではなくそこそことい。胸(先)三寸。三月三日のひなまつり。
髪上など
さだして(さうして)
髪上げなどに良い頃合いを
定めて(相を見て、
あれこれ手配して)
髪上=今の成人式で女子がすることと同じ。髪型が固定化すると見るのは不自然。さだしては、教科書ではさうして(=相して)に固定されるが、他の表現にもブレる微妙な表現。
髪上せさせ
裳着(もぎ)す
髪上げをさせて
裳着をする。
「裳着す」は、儀式(裳着+す)と行為(裳+着す。着せる)の掛詞的用法。髪上の用法がそうなっている。
「裳」は袴の上に着るひだ上の腰当て。しかし袴が今でいう袴ではないので、裳は今でいう袴といえる。今の女子が成人式で着る袴は、かつての袴と裳が一体化して簡素化したものと見る。
     
帳の内よりも出さず 帳の内からも出さず、 帳=カーテンのついたパーテーション。「帳の内」は「家の内」(本によっては屋の内)とパラレル。
この意味での帳ではなく帳台(帳で四方を囲った座敷兼寝床)とする説明が多いが、「いつき」を重視するとそれなりに妥当な解釈だが、本来の帳ではないと断言する根拠はない。竹取と伊勢はどちらにも見れる表現が、大きな特徴の1つ。
いつきかしづき
養ふ(ほどに)
神を祀るようにかしづき
養う(うちに)
 
この兒のかたち
清(けう)らなること
世になく
この子の姿形は
清らかで美しいこと
この世にまたとなく
かたちは容貌とされるが、可能な限り、形を入れる。原文を重んじよう。
家の内は暗き處なく
光滿ちたり
家の中は、暗い所がなく
光で満ちていた。
竹筒が光っていたのは、この子の光とここで確定する。文脈をバラバラに見ない。
     
翁心地あしく
苦しき時も、
翁がは気分が悪く
苦しい時も、
 
この子を見れば
苦しき事も止みぬ
この子を見ると、
苦しいことも止んだ。
 
腹だたしきことも慰みけり 腹立たしいことも慰められた。  
     
翁竹をとること久しくなりぬ 翁は竹をとることが長くなった。  
勢(いきほひ)
猛(まう)の者になりにけり
勢い(自然の成行きで)
猛の者(タケダケしい成金)になった。
勢猛(国文)・いきほひまう(群書)。周知の通り、権勢や威勢の富豪や長者と解されるが、では猛とは何か? 「造麿まうでこ。といふに、猛く思ひつる造麿も、物に醉ひたる心ちしてうつぶしに伏せり」これが著者の公式見解で、猛々しい(調子にのって騒々しい)こと。徒然1段の「勢ひ猛にののしりたる」も同旨。そこでは明らかに竹取を意識している(竹の園生)。現状の通説解釈は、竹取徒然の文脈、やかましい目ざわりな要素を完全に無視している。徒然では「うらやましからぬ」。つまり兼好は学者達の「勢猛」解釈に対抗した。端的は反論は受け入れられないので、他の文脈を利用して反論した(が結局無視)。徒然は猛にフォーカスしているが、「勢ひ」は自然の成行きと、パワーを掛けていると見る。
     
この子
いと大になりぬれば、
この子が、
とても大きくなったので
 
名をば
三室戸齋部秋田
を呼びてつけさす。
その名を
みむろどいんべのあきた
を呼んでつけさせる。
三室戸=地名
齋部=神儀を司る氏族。いつく(齋く)に掛かる。
秋田=地名のような氏姓
秋田
なよ竹の
かぐや姫
とつけつ。
秋田は
なよ竹の
かぐや姫
とつけた。
秋田→小町(仮名序:衣通姫のりう=光を放つ古事記の姫)
なよ竹=なよなよした若い竹(仮名序:あはれなるやうにてつよからず)
かぐや姫は古事記の妃の一人の名前(伊勢神宮創祀の頃)。
     
このほど
三日うちあげ
遊ぶ。
この時、
三日(三日三晩)
打ち上げ(ド派手に)
遊ぶ
遊びはパーティー。管弦ではない。どんな演奏会なのか。
萬の
遊をぞしける。
ありとあらゆる
遊びをした。
平安貴族の遊びは通常管弦というが、「萬」なのに管弦? ケマリは? 貝合わせは?
何より翁は貴族ではない。著者が貴族という根拠もない。これが古文解釈典型の根拠のない思い込み。著者は貴族皇族帝を全員こきおろしている。よってその序列の中にはいない。
直後の男がわらわら集う文脈、夜這いもあり、管弦ではない。
男女(男)きらはず呼び集へて
いとかしこくあそぶ。
男は誰彼構わず呼び集めて
たいそう盛大に遊ぶ。
一つに女がついているが、直後に「世界の男、貴なるも賤しきもいかでこのかぐや姫を得てしがな、見てしがな」とあるから、女を集めた文脈ではない。集めても男ありきの文脈。遊びもこういう系のパーティー。